ろりすかシリーズvol.6

「朝寝坊は散々にょ」


デ・ジ・キャラット(「Di Gi Charat」より)
 10歳 ゲーマーズお手伝い
体型(推定) 身長:148cm 体重:38kg 3サイズ:68-58-70

 デ・ジ・キャラット星のお姫様。
 地球にやってきて、大女優になることを夢みている。
 現在は秋葉原のキャラクターショップ「ゲーマーズ」に住み込みで
お手伝いをしている。通称でじこ。
 髪の色は緑で、鈴のついた白のメイド服が普段着。


「……ゲマ、起きるゲマ」
「……にょ?」
 薄っぺらなせんべい布団に包まって寝ていたでじこは、かすかにゆさゆさと揺られる感覚で目を覚ました。
「早く起きないと遅刻ゲマ」
 目の前には丸っこい変な物体……その名はゲマ。でじこのお目付け役……ゲマにしてみればでじこの面倒を見る献身的な仕事だが、でじこから見たらただのおせっかいである。
「にょ〜、でじこはまだまだ眠いにょ〜」
「遅刻したら店長さんに怒られるゲマ」
「ちゃんと間に合うように起きるにょ。あと5分でいいにょ〜」
 そういって布団をかぶる
「そんなこと言って、この前もずっと寝てたゲマ。でじこには学習という言葉はないでゲマ?」
「……うるさいにょ! 目からビーム!!」
「ゲマ〜〜〜〜!?」
 でじこの目から撃ち出された金色の光条がゲマを直撃する。哀れゲマは丸焦げになって地面にポトリと落ちた。
「……さて、もう一眠りするにょ」
 そう言って、でじこは再び心地よい眠りの中へ旅立っていった。


「……にょ、もう朝かにょ?」
 心ゆくまで寝て、でじこは目を覚ました。やけに明るい光が差し込んでくる。時計を見ると……。
「にょ〜〜!? も、もう開店時間にょ!?」
 すでに日は高く高く上がっていた。当然、でじこが働いているゲーマーズの開店時間はとっくに過ぎていた。
「こらゲマ!! どうして起こさなかったにょ!?」
 そう言って、まだかすかに煙を上げている黒焦げの物体を蹴飛ばす。……当然、返事はなかった。
「い、急がないと遅刻にょ!!」
 急いでも遅刻なのだが、とにかくこうなっては仕方がない。でじこは取るものもとりあえず店へ向かうことになった。

 でじこは店への階段を全力疾走で駆け下り、通用口から店に入り込んだ。
「はぁ、はぁ……て、店長……しゃん……その……遅れて……ごめ……」
「……でじこちゃん、とりあえずこれを」
 そう言って店長はコップ一杯の水をでじこに手渡す。でじこはそれを一秒もかけずに飲み干した。
「……寝坊ですか?」
「ごめんなさいにょ。もう二度としませんにょ」
「……わかりました。今はそれより、早く店に出てください。今日はイベントがあって大忙しなんです」

「にょ〜〜〜!?」
 店に入ったでじこは目を丸くした。
 見渡す限りの人、人、人……。
 身長の低いでじこではグッズが並んでいる棚が見えないほど、店内は人で埋め尽くされていた。
「こら、でじこ! こんな日に遅刻するなんて、あんた人の迷惑ってのを考えたことないの!?」
 そう言ってでじこに食って掛かったのは自称ラ・ビ・アン・ローズ。……本名はうさだヒカルという14歳の少女だ。彼女もスターになるのを夢みて、ここで働いている。……実際は貧乏な家計を助けるためという説もあるが。
「うさだに言われる筋合いはないにょ。……それより、これは何の騒ぎcにょ?」
「聞いてないの? 今日はG.G.Fキャンペーン声優の人たちがこのお店に来るのよ」
「G.G.F? 知らないにょ。そいつらがなんかするのかにょ?」
「新発売のCDの手渡しイベントで、握手会をするの。ほら、みんな持ってるでしょ? あれよ、あれ」
「本当にょ……でも、でじこ様を差し置いてそんな人気があるのはムカツクにょ。目からビームで、CD全部焼いてやろうかにょ」
「いい加減にしなさい!! ほら、でじこもレジ入って!!」
 こんなやり取りの間も、うさだはレジを打ちつづけ、客を順調にさばいていた。……まあ、このくらいはこの店では日常茶飯事である。
「仕方ないにょ〜。それじゃ、可哀想なうさだを手伝ってあげるかにょ」
 あくまでえらそうな態度で、でじこはレジに入った。

「にょ〜、何で人が全然減らないにょ!?」
「仕方ないでしょ!! お客さんがそれ以上の勢いで増えてるんだから!」
「ますますムカツクにょ。……そうにょ、代わりにでじこのCDを売るにょ。そうすればもっと人は集まるし、でじこはこんな下働きしなくていいにょ」
「バカなこと言ってないで、レジのCDを棚に持ってって! もうなくなりかけてるから!!」
「にょ……いつか絶対でじこのCDを売ってやるにょ……」
 でじこはしぶしぶCDの山を抱えて人波に向かっていった。……その時。

  ギュル〜……。
「にょ!?」
 でじこのおなかが変な音を立てた。
  ギュルルルルルル〜……。
「……にょ〜、朝ごはん食べてないからおなかへったにょ〜。イベントが終ったらボーナスでも要求するにょ〜」
 でじこは軽口を叩きながら、CDを棚に出して行った。
「あ、でじこちゃんだ」
「本当だ〜」
「……にょ、朝っぱらからブキミコンビの顔を見ることになるとはにょ……」
 ブキミと呼ばれているのは武と吉美。ダサい、暗い、キモいの三拍子揃ったオタクである。でじこの超熱烈なファンであり、どんなに冷たくあしらわれてもその態度は変わらない。
「ひどいよでじこちゃん。それに、もう朝じゃなくて昼だよ」
「はいはいそうでしたにょ。ほら、でじこは忙しいにょ」
 そう言って、でじこはCDを並べていく。……昔は、顔を見るたびに目からビームを叩き込んでいたのだから、最近はでじこの方もそのファン精神を認めつつあるのかもしれない。
「にょ〜……ちょっと多くもって来すぎたにょ。並べきらないにょ」
 でじこが持ってきたCDは、一箱分ほど余計だった。
「抱えて戻るのも面倒にょ。どうせまた出すから、床にでも置いとくにょ」
 そう言って、でじこは持ってきた箱を無造作に床に投げ捨てた。
「それじゃ、でじこは戻るにょ」
「じゃあね〜、でじこちゃん」
「がんばってね〜」

 そう言ってブキミに見送られたでじこであったが、しばらくすると、客の対応以外に別のことを頑張らなければいけなくなってしまっていた。
(……おなか痛いにょ〜……)
  ギュルギュルギュル〜……。
 おなかがひっきりなしに鳴るようになり、それとともにおなかが刺すように痛み始め……さらにひどいことに、うんちまでしたくなってきたのだ。
(……まずいにょ。朝からずっとトイレ行ってなかったにょ)
 朝飛び起きてから、トイレでうんちはもちろん、おしっこもしていない。イベントが終わるまでこのまま働きつづけるのは無理そうだった。
「うさだ、でじこ疲れたにょ。ちょっと休むにょ」
 そう言って、レジを後にしようとする。
「ちょっと、何言ってんのよ。あたしが休まず働いてるのに、あんたが休めるわけないでしょ」
「にょ!?」
 うさだが電光石火の勢いで、店の奥に消えるでじこの服を引っつかんだ。
「ほら、ちゃんとレジ打って!!」
「にょ〜、ダメにょ、ムリにょ!!」
「そんなこと言ったってムダ。働きなさい」
 じたばたともがくでじこ。
 そのおなかが、一瞬ギュルッと鳴った。音はそれだけでやんだが……。
「にょ〜!?」
(ど、どうしてこんな急に出そうになるにょ……!?)
 でじこはものすごい便意に襲われていた。さっきまでとは比べ物にならない。こんなところでじたばたしている場合ではない。
「……う、うさだ、お願いにょ。離してほしいにょ。でじこ、ちょっと調子が悪いにょ。すぐ戻ってくるから、少しだけ休ませてほしいにょ」
 いつも大いばりなでじこにしては珍しく、下手に出た態度だった。
 だが……。
「そんなこと言ってずる休みしようとしてもダメ。ほら、レジに戻ってっ!!」
 そう言って、うさだはでじこをレジのほうに投げ飛ばす。
「にょ、にょ〜!?」
 でじこは悲鳴をあげながらもレジに戻った。並んでいたお客はかんかんに怒っている。でじこは仕方なく、震える手でレジを打ち始めた。

 それから数十分後。でじこは必死に便意をこらえながら、レジと格闘していた。片手は常におしりに回し、空いた手ではおなかをさすっている。
「え……えと……トレカが……1て…ん…、CDが……2てん……で……5900円に……なりますにょ…」
「……あの、値段間違ってるんじゃ?」
「え……」
 うつろな目で値段の表示を見る。だが、もうでじこには考える余裕がない。でじこの頭に浮かぶのは……
(おなか痛いにょ……トイレ行きたいにょ……もれちゃうにょ……)
 目前に迫ったおもらしの恐怖だけだった。
「あ、すいません。私代わります」
 そう言って、うさだが助け舟を出してきた。
「でじこ、どうしたの!?」
「にょ……おなか痛いにょ……」
「……本当なの?」
 すっかり小馬鹿にしていたうさだの表情が変わる。
「本当にょ。……それと……その……トイレ行きたいにょ。もれちゃいそうにょ……」
「え……」
 でじこはもう限界だった。トイレに行きたいというのは恥ずかしいけど、でもそんなことをかまってはいられない。もう、今すぐ駆け出しても間に合わないかもしれないところまで来ているのだ。
「お願いにょ……本当にもれそうなんだにょ……」
「……わかったわ。ここは、私が何とかするから」
「……あ、ありがとにょ、うさだ……」
 でじこの目に涙が浮かぶ。それが、うさだの言葉に対する感動の涙なのか、自分の苦しみに対する苦痛の涙なのかはわからない。
  ギュルルルルルルッ!!
「にょ〜!!」
 猛烈に下り始めるおなか。もう一刻の猶予もない。
「早く行ってきなさい!」
「……」
 無言でうなずいて、でじこはレジを飛び出した。

(トイレ、トイレ、トイレ……)
 でじこの頭にはその単語しかなかった。
 だが、この建物の中において、トイレは店の外にしかない。
 すなわち……。
「にょ、にょ〜!?」
 当然、でじこの目の前には人の波。
「にょ、通してにょ、お願いにょ!!」
 小さな身体をいっぱいに動かし、群がる人を必死にかきわけて、でじこは店の外へ向かう。
「あっ!」
 人の波に切れ目が見えた。でじこはそこへ向けて走りだす。
 ……その足元に、小さなダンボール箱があることも気付かずに。
「にょっ!?」
 でじこの足がそのダンボールに当たってもつれる。
 そして……。

「………」
 でじこは、床にうずくまったまま動けなくなっていた。
 まだ、おもらしはしていない。しかし、それは時間の問題だった。おなかの痛みと便意はもう限界を越えており、少しでも動こうものならこのまま……服を着たまますべてをぶちまけてしまうだろう。
 でじこの周りから、いつの間にか人波が消え去っていたが、でじこはもちろん、そんなことに気付く余裕はなかった。
「……でじこ、ここにいたにゅ」
 特徴的な語尾とともに現れたのはプ・チ・キャラット。トラ耳帽子とセーラー服にちょうちんブルマといういでたちの5歳の女の子である。
「でじこちゃ〜ん、イベント終ったから来てみたよ」
「おつかれさまだね」
「…………」
 ブキミの言葉にも、でじこは答えることができない。
「……にゅ、どうかしたのかにゅ?」
「…………もう……」
「にゅ?」
「もう……ダメ……にょ」
 でじこのその言葉と、おしりから爆音が響くのはほぼ同時だった。

  ブボボボボボボボボッ!!

 液状の排泄物が空気や布地と擦れ合う猛烈な音が、しゃがみこんだでじこのおしりから巻き起こった。
「うぅ………だめにょ、でちゃだめにょ……」
 でじこのささやかな抵抗も役に立たない。すでに限界まで我慢していたでじこには、一度開いてしまったおしりの穴を閉じる力は残っていなかった。

  ブビュルルルルルッ!! ブビビビビビビビ!!
  ブボッ!! ブバババババッ!!
  ビチチチチチチッ!! ブニュビュルルルルッ!!
  ビュブブブブブッ!! ブビュブビブビブビブビィィ!!

 ……でじこは結局、おなかの中に溜まっていたすべてを、うずくまったまま排泄してしまった。女の子座りでぴったりと床に押し付けられたおしりの下の白い布地は、かなり広い部分に渡って茶色に染まっていた。
 その中では、飾り気のない白いパンツが、これまた茶色にぬりつぶされている。ごくわずかな固体のうんちも、おしりの下で押しつぶされてパンツとの間にこびりついている。
 そして……服の中とはいえ、おなかを下して出したかなりの量の排泄物は、すさまじい臭いを周囲に放ちつつあった。

「……おまえ、おもらししたのかにゅ」
 ぷちこの毒舌が、でじこに事実として突き刺さる。

「で、でじこちゃんが……おもらし……?」
「トイレになんか行かないって信じてたのに……」
 ブキミコンビが驚愕の声をあげる。

「あ……」
 その声に、でじこは我に返る。するとすぐに、鼻をつく臭いと生温かい湿った感触が襲ってくる。
「おもらしするなんて……嘘だよねでじこちゃん」
「本当だったら嫌いになっちゃうよ……」
 ブキミの言葉がさらにでじこを追い詰める。が、おもらしした事実はもう変えようがない。

「……なんだなんだ?」
「……あの店員の娘、おもらししたらしいぜ」
「え? 本当か?」
「しかも大きい方。いくらちっちゃくても、もう赤ちゃんじゃないだろうに」
 店のそこかしこで、騒ぎになりつつある。

「うぅ……ぐすっ……」
 いつもは気丈なでじこといえど、こうなってはもう泣くことしかできなかった。

「おい、早く片付けろよ」
「おもらしして迷惑かけて、泣いてるだけなんて最低だよな……」
 数人の客がでじこを取り囲んで、心無い言葉を浴びせる。……いや、この程度は思っても当然かもしれないが……。

「やめてっ!!」
 ……そう叫んだのはうさだだった。
「誰だって具合の悪い時くらいあるわ。それに、気付いてあげられなかった私にも責任があるし……すぐ片付けますから、これ以上でじこを責めるのはやめてください」
 うさだの一言に、でじこを囲んでいた追及の輪が解けていく。うさだはでじこに駆けより、汚物がこぼれないように立たせ、肩を貸してトイレまで連れて行った。

「…………」
 後始末を終えたでじこが、トイレから出てくる。その前では、うさだが待っていた。
「床はぷちこちゃんが拭いてくれたから、もう大丈夫。店長さんが、今日は帰って休んでなさいって」
「……うさだ、なんで今日だけ……そんな優しいにょ?」
 いつもは顔を見れば口ゲンカ、そんなうさだだけに、今日の親身さは異常とも言えた。
「……別に。困ってる相手とまで、ケンカしたいとは思わないもんね」
「……と……にょ」
「え……」
「……ありがとにょ」

「……どういたしまして」
 でじことうさだの間で、しっかりと握手が交わされた。

 ……翌日の朝も、二人の口ゲンカから始まるかもしれない。
 でも、そのケンカの中でふと、笑顔が混ざる……そんな日が待っているかもしれない。


あとがき

 でじこです。最近は子供向けアニメになっているので、それに準じて……
 ……えーと、「朝はちゃんと早起きしておトイレに行こうね」という教訓でしょうか。
 あとはうさだの態度でしょうか。やっぱり、おもらしした子をいじめるのはいけません。たとえケンカしてる相手でも、助けてあげないと。
 ……うさだがそんなことを理解しているのはなぜか……というのは別の作品の伏線にしておくかもしれません(笑)。


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