ろりすかシリーズvol.8

「角砂糖の甘い罠」


小津千歳(「バイナリィ・ポット」より)
 16歳 高校1年生(推定)
体型 身長:149cm 3サイズ:69-51-70

 ネットカフェ「バイナリィ・ポット」によく現れる常連客。
 小柄で可愛らしい外見だが、無口で無表情。


「あれ……店長、お砂糖変えたんですか?」
「ああ。ほら……あの子、いつもたくさん入れるから……」
 俺が指差した先には、フリルのついた黒いドレスのような服を着た、どこかのお嬢様のような女の子。今はPCのヘッドセットを身に付け、ネットダイブ中……おそらく、ネットゲーム「ワールド」の住人となっているのだろう。
 すでに半分以上が飲み干された手元のコーヒーカップ。その脇には、パラフィン紙の包み紙が何枚も転がっている。その中身は、コーヒーに入れる角砂糖だったはずだ。
 彼女はここ数日、毎日開店と同時に店に来て、閉店までこうしてネットゲームをして帰っていく。おかげで顔と名前はおろか、かすかな声色から可愛らしい仕草、コーヒーに入れる砂糖の数まで覚えてしまった。

 その小津千歳ちゃんは、いつもコーヒー1杯に対して6個もの角砂糖を入れる。1個5グラムで、コーヒー1杯当たり30グラム。一般に、成人でも一日に取っていい糖質の量は30グラムだから、小柄な彼女には1杯でも多すぎる量なのだ。まして、それを一日に2杯も3杯も飲むんだから……こんな計算をするまでもなく、身体を壊さないかと不安になるだろう。
 もっとも、彼女はお客さんだから、砂糖を入れるなとは言えない。かといって、健康を害するのがわかっていながら止めないのは良心に反する。
 ……と、いうわけで今回、人工甘味料による角砂糖を導入する運びとなった。味は砂糖と変わらず、糖質とカロリーは約10分の1。これなら、彼女の飲み方でも悪影響はないだろう。
 一人のお客さんのためにそこまで、という声が上がるかもしれないが、お得意様のことは第一に考えるべきだと俺は思っている。みんなも理解してくれるだろう。

「…………と、いうわけでさ」
「そうですか……わかりました」
 そう言って、厨房で調理を一手に引き受ける諏訪奈都子……通称なっちゃんがうなずく。物分りが良くて助かるよ。
「……あの、すみません」
「あ……はい、なんでしょう?」
 その千歳ちゃんが、いつの間にかカウンターの前まで来ていた。
「コーヒー……もう一杯お願いします」
「はい……かしこまりました」
 ……どうやら気にいっていただけたようだ。


「……ふぅ」
 店長室でのデスクワークを終えて、店の中に戻ってくる。
 さすが、我が優秀な従業員たち。みんなてきぱきと働いているし、お客さんも……。
 ………………?
 あれ……千歳ちゃんは?
 さっきまでいたはずの席に、彼女の姿がない。PCの画面がそのままってことは、帰ったということはないはずだが……。

 ………あ。
 ………………なんだ、トイレか。
 彼女はトイレの前でもじもじしながら立っていた。中に人が入っていて、出てくるのを待っているのだろう。……まあ、コーヒーにはカフェインが含まれてるから、トイレが近くなるのもわかるが。
 しかし、千歳ちゃんのそわそわした姿ってのも可愛いなぁ。いつも無表情なだけに、そのギャップがまた。
 ……って、こんなセリフ優希に聞かれたらタダじゃすまないな。

  コン、コン……。
 ……ノックしてる。……結構、切羽詰ってるのかな。
 本気で困った表情だ。顔も、どこか青白い。……大丈夫かな?
  コン、コン、コン……。
「あ……あの……早く……っ!!」
「えっ……」
 千歳ちゃんが……おなかを押さえて前かがみになる。
 これって……まさか……。

「お客様、どうかなさいましたか?」
「…………い………いいえ……別に……」
 苦しげな表情を浮かべ、千歳ちゃんが答える。
  ギュルルルルルッ……ゴロッ……。
 近寄って初めてわかった、千歳ちゃんのおなかから発せられる音。
「も、もしかしておなかを……」
 千歳ちゃんはきっと……おなかをこわしてるんだ……。
 ………しかし、どうして……まさか、あの甘味料が何か……?

「洋一、どうしたの……?」
 俺の幼なじみにして、一番古くからの従業員、羽根井優希が声をかけてくる。
「そ、それが……千歳ちゃんが、おなかこわしてるらしくて……」
「い……いえ………私は…………うぅっ!!」
  ギュルゴロロロロロロッ!!
 おなかを押さえて、千歳ちゃんがうずくまる。
「あんた、なんか変なものでも出したの!?」
「い、いや、コーヒーくらいしか……心当たりがあるのは、新しい甘味料だけなんだが……」
「え……あ、あの厨房においてあったやつ!?」
「ああ。しかし、それくらいで、こんな……」
「バカっ!! あれって、一度に取りすぎると下痢になるのよっ!!」
「え……そ、そうだったのか!?」
 確か……注意書きにそんなことが書いてあった気もしないではない。しかし適当に味見したところ、腹を下すようなことはなかったんだが……。
「そうよ!! それに、女の子のおなかはデリケートなんだからっ!!」
「くっ………うぅ……」
  ゴロゴロゴロ……ギュルルル……。
「だ、大丈夫っ!?」
 再び声をかける優希。しかし……千歳ちゃんはもううなずくことすらできなかった。
「くっ……」
  ドン、ドン!
 ちょっと強めに、トイレのドアをノックしてみる。……中から、かすかなノックの音が返ってきた。
「うぅぅぅ…………くっ……」
 前かがみになって、必死におなかを押さえる千歳ちゃん。もう、見ているだけだもつらそうだ。
「そ、そうだ洋一、奥に入って、従業員用のトイレ使ってもらおう!」
「そうか! よし……千歳ちゃん、歩ける?……じゃなかった、歩けますか?」
「……はい……う……うぁっ……」
 答えた直後、千歳ちゃんの足がガクガクと震えだし、その場にうずくまってしまう。
「だめか……もうちょっとだけ、我慢して!」
 俺はそう声をかけ、千歳ちゃんの小さな身体を抱き上げた。背中と膝の裏で支える、いわゆる「お姫様抱っこ」だ。こんなことやった事もないが、今は緊急事態だ。四の五の悩んでる場合じゃない。
「優希、ドア開けてっ!」
「う、うんっ!」
 そういうと同時に、「Private」と書かれたドアを優希が開け放つ。俺は千歳ちゃんの身体を抱えて立ち上がり、小走りに店の奥へ走っていった。

「うぅっ……痛い……っ……」
  ギュルゴロゴロゴロゴロ……。
「がんばってっ!」
 まだトイレにはたどり着かない。衛生保持の観点から、厨房や客席からはできるだけ遠いところにトイレを作ってあったのだ。普段なら何でもない距離だが、これほどに一刻を争う状態だと、そのわずかな距離が無限にも感じられる。
「うぅぅ……」
 ビクビクという身体の震えが、直に伝わってくる。
「もう少しだから……」
 俺はそう言って、彼女を励ますしかなかった。

「見えたっ!」
 角を曲がって、正面の突き当たりにトイレのドアが見えてくる。
「千歳ちゃん、もうすぐ……」
「んんんっ!!」
  ビクビクッ!!
 抱えている手から落ちそうなほど、千歳ちゃんは激しくその身体を震わせた。
「だ、大丈夫っ!?」
「…………だ……だめ………やぁぁぁっ!!」
 腕の中の千歳ちゃんが、悲鳴をあげる。そして次の瞬間……

  ブビビビビビィィィィッ!!

 彼女のおしりから、水っぽい音が盛大に響いた。
「…………くっ……」
 ………間に合わせてやれなかった。俺は後悔を感じつつも、とにかく一刻も早くトイレに入らせてやろうと、彼女をその扉の前まで連れて行った。
「下ろすよ、大丈夫?」
「………………」
 答えない。……当たり前か。俺はそっと、彼女を足から地面に下ろした。抱える前と同じ、地面にしゃがみこんだ状態……。
「くっ……」
  ブリュリュリュリュリュッ!!
  ブジュルルルルルッ!! ブボボボボボッ!!
 衣服の中からでもはっきりわかる排泄音。ワンピースのスカートを巻き込むようにしゃがみこんでしまったため、排泄物……直には見えないのでわからないが、その音から判断するに相当ゆるくなっているだろう、その流動物は、下着を通り越してスカートにも染みを作っていた。
 その中心には、ぽつぽつと茶色の滴が浮かびあがっている。あまりの水分の多さに、下着でもスカートでも吸収し切れなかった汚物が、繊維の表面からにじみ出てきたのだろう。

「と、とにかく……」
 早くトイレに入れてあげなくちゃ……。
 俺は、焦りながらトイレのドアを開け、うずくまる千歳ちゃんに声を……。
「んぅぅっ……くぅっ!!」
  ビチビチビチ!! ブボボボボボボボッ!!
  ブリュビシャァァァッ!! ジュブブブブブブッ!!
 ………声をかけることはできなかった。
 苦しげにおなかを押さえて、顔中に冷や汗を浮かべて便意と格闘している千歳ちゃん……。今、彼女に立ってトイレに入れというのは酷過ぎる。幸い、ここなら誰かに見られることはないだろう。……自分はもう見てしまっているので仕方ないが……。
「ふぅぅぅっ……んくっ……」
  ブビビビビビッ!! ジュブボボボッ!!
  ブリュリュリュリュリュッ!! ビィィィィッ!!
  ブジュビチュビチュッ!! ジュブビチビチビチビチィィッ!!

 ……やがて、排泄音が途切れた。
 嗚咽をもらす千歳ちゃんに声をかけると、「……ごめんなさい」 と一言だけ言い、よろよろと目の前のトイレの中に入っていった。後始末を手伝おうか、店の女の子に手伝ってもらおうかと申し出たが、「そんなの……申し訳ありませんから」 と辞退されてしまった。

 トイレに入った千歳ちゃんは、もうまとまった量の排泄をすることはなくなっていた。それもそうだろう、トイレに入る前に、下着からあふれるほど大量にもらしていたのだから……。
 ドア越しにかすかに聞こえる苦痛の声と断続的な排泄音の中、俺の視線は、彼女が立ち上がる時に垂らした汚物に釘付けになっていた……。こぶし大の、水分を大量に含んだゲル状の茶色の物体が、床にべちゃっと広がっていたのだ。


「……今日は……ご迷惑をおかけしました」
 ぺこりとお辞儀をする千歳ちゃん。着ている服は、なっちゃんの予備の制服だ。うちの従業員の中で一番小柄な彼女だが、千歳ちゃんにはそのなっちゃんの服でもやや大きすぎるようだ。強調された胸元に隙間ができ、白い下着がのぞいてしまっている。
「こちらこそ……私の不注意で……申し訳ありません」
「いえ……その、気遣って……いただいたのに……ごめんなさい……」
 我慢し切れなかったことを詫びているのだろうか。そんなの、全然千歳ちゃんのせいじゃないのに……。
「なんとお詫びしたらよいかわかりませんが……今後、一層気をつけますので、なんとか……」
 また店に来てほしい。店の評判がどうこうより、千歳ちゃんに来てもらえなくなることが怖かった。
「いえ……いいんですか? 私……お店も汚しちゃって……」
「そんなの、気にしないでください。千歳ちゃんは何も悪くないんですから」
「……ありがとうございます。……じゃあ、お言葉に甘えて、また……」
「あ……ありがとうございますっ! お待ちしてますっ!」
 ………そうして、千歳ちゃんは帰っていった。

 翌日の午後に顔を見せた千歳ちゃんを店の奥に招き入れ、汚れを洗い落としてクリーニングに出したワンピースを返す。同時に、千歳ちゃんから昨日着て帰ったなっちゃんの服を返してもらった。これで、昨日の出来事は……なかったことにはならないけれど、とりあえずは水に流されたことになった。

 そして、その翌日には、いつもと同じ時間に来てくれた。
「……コーヒーを一杯、お願いします」

 新たに買い直したグラニュー糖の角砂糖を添えて、俺は自ら淹れたコーヒーを彼女のそばに置いた。


あとがき

 お手軽です。しかも、物語構成のマニュアルのような作り方です。まるで原作「バイナリィ・ポット」のテキストのようなお手軽さです(笑)。
 本当にお手本どおりに、起(角砂糖の導入)、承(説明)、転(便意→我慢)、結(おもらし)という感じで。文章の目的のため転以降が長くなるのは仕方ないですが、まあいいでしょう。

 と……これで終わらせれば綺麗なんですけどね。自分にはその後を書かずにいられませんでした。今までおもらしパンツを手に取る描写をやってなかったもので。最後まで純愛ものを期待されてた方、どうかお許しください。
 この作品には他にも、今回ちょっとだけ出た諏訪奈都子、それから元気で真面目な後輩の川中島里美というお気に入りキャラがいますので、また書くこともあるかと思います。


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