ろりすかコレクション vol.11

「First Fall」


小野寺 樺恋(「おねがい☆ツインズ」より)
 16歳 木崎高等学校1年生(予定)
体型(推定) 身長:145cm 3サイズ:70-49-72

 澄んだ青色の瞳を持つ、緑色のロングヘアの女の子。
 体型も性格もつつましいの一言に尽きる。
 おとなしくも健気で献身的な少女。



「それじゃ……」

 おじさま、お世話になりました……。
 わがままを聞いてくださって、ありがとうございます……。
 必ず、手紙お書きしますから……。
 私、今まで育てていただいたご恩、一生忘れません……。
 本当に、ありがとうございました……。


 その言葉は、あふれる涙のせいで口に出せなかった。

 身寄りのない孤児だった樺恋を育ててくれた恩人。
 正式に養子として迎えたいという言葉を断り、自分のわがままでその家を離れる。
 決して許されることではないと思う。

 でも……樺恋には、どうしてもそうしたい、しなければいけない理由があった。
 内気で、些細なことでさえも自分の意志を表に出そうとはしない樺恋を、冒険としか言いようのない行為に駆り立てるだけの理由が。

 ある夏の日の早朝、山奥を走るローカル線の車内。
 延々と山林が続く車窓から視線を落とした彼女の手元には、一枚の写真があった。

 前景には澄んだ水が一杯に満ちた、家庭用のゴムプール。
 中で水遊びに興じているのが、幼稚園に入るか入らないかくらいの年齢の男の子と女の子。その瞳は、二人とも同じ綺麗な青色だ。
 遠くには、プールの水以上に澄んだ透明色をたたえた大きな湖。
 そして、避暑地の別荘もかくやという、白壁の一軒家。

 樺恋が今の家に来る前に持っていた唯一の持ち物が、この写真。
 それはすなわち、彼女の出生の唯一の手がかりとなるものであった。

 しかし……手がかりは手がかりでしかない。
 この写真が、樺恋……写真の中の女の子が樺恋だとして、彼女が生まれた家を示すものだとしても、その場所さえわからない。この写真の光景だけから、どうやってその地域、住所を特定すればいいのか。
 たまたまその光景を目にすることなど、砂粒星粒のような、気の遠くなる確率でしかなかった。


 その気の遠くなるような確率の出来事……もっとわかりやすい言い方をすれば「奇跡」が起こったのは、今から2年前だった。

 長野県木崎湖で起こったUFO騒ぎ。
 湖に沈む巨大な物体を見た、一条の光と共に現れる宇宙人の姿を見た、地球上の生物分類には存在しない謎の小さな生命体を目撃した……。
 いかにもワイドショーが好みそうな証言が、地元の主婦、学生などによって繰り返され、またワイドショーの宿命として、いつの間にか忘れ去られていった。

 だが……樺恋の脳裏には、あの時のニュース映像が焼き付いて離れなかった。

 あの家が……。
 写真でしか知らなかった、あの家が……。
 
 ニュースを伝えるテレビの画面の中に……はっきりと映っていた。

 見間違えるはずもなかった。
 場所は……信州長野県、木崎湖。
 その名を……樺恋は、深く深く心の中に刻み込んだ。

 本当は、すぐにでも飛び出したかった。
 自分が生まれたかもしれない場所。
 そして、まだ見ぬ肉親がいるかもしれない場所。
 その場所を、自分の目で確かめたかった。


 でも、ここまで育ててくれて、今もまた私立の女子校に通わせてくれて、過ぎるほどの愛情を注いでくれる小父さんのことを思うと……どうしてもその決意を言い出すことができなかった。


 そして、中学校を卒業する際……小父さんから正式に養子にしたいとの申し出があった。
 受けるべきだと思った。
 小父さんがそう望んでくれるなら、それがせめてもの恩返しになるのだから。

 そうするのなら……この写真のことは、忘れなければいけない。
 写真をガラスの額から取り出し、小さな手でその両端に力を込める。
 ………。
 ………………破り捨てることは、できなかった。

 涙を流しながら、小父さんに全てを告白した。
 どうしても。
 どうしても、自分の生まれた場所を見たい。
 どうしても、同じ血を分けた肉親に会いたい。
 どうしても……。

 小父さんは何も言わず……ただ樺恋の頭をなでてくれた。


 それが数ヶ月前。

 そして今、樺恋はその場所に向かっている。
 この列車の乗車券だけではない。
 ここに来るまでの特急列車、宿の手配、旅費、旅支度……すべて、その小父さんが用立ててくれたものだ。
 その間、樺恋の暮らしていた家に、何度か不審な電話があった。
 小父さんが経営していた会社に関係することらしかった。樺恋には内容はよくわからなかったが、険悪な雰囲気だけは伝わってきた。
 一度、そのことを尋ねようとしたが……無言で制された。この家の事は何も心配しなくていい、と。
 樺恋には、その言葉に甘えることしかできなかった。


 期待、不安、そして……消えない心残りを胸に、樺恋は約束の場所へ向かっていた。



 樺恋が初めて乗ったこのローカル線。名称は大糸線という。
 ワンマン制という、都会に住んでいては縁のない乗車形式になっている。整理券を取って、改札を出る時ではなく車両を降りる時に運賃を精算する。路線バスに近い方式だ。
 それも、停車駅のほとんどが無人駅という事情によるものである。使うのも沿線に住む学生くらいだ。

 家の細かい位置がわからないので、早めに目的地に着こうと始発で宿を出たが、始発が6時台というこの路線では、ちらほらと学生の姿も見られた。
 ただ、樺恋の座るボックス席の残り3つは空席のままだった。

 同じセーラー服を着ている地元の学校の生徒と比べ、足元まであるロングスカートに、いかにも旅行支度という帽子を身につけた樺恋の姿は、学生たちとは一線を画し過ぎている。
 そのせいか、樺恋の前に座ろうとする生徒は一人もいなかった。


「…………」
 車窓と写真を交互に眺めていた青い瞳。
 その視線の行く先に、真下……自分の下腹部が含まれるようになってきた。
 視線の移動の回数も増加している。それに合わせて、彼女の顔色が徐々に青ざめていく。

 落ち着きがない。
 誰が見てもそう思える振舞い。

 原因はごく単純なことであった。

(ど、どうしましょう……おなかが……)
 まだ音こそ漏れていないものの、おなかの奥の方でかすかなうごめきが感じられる。
 そして、徐々に高まってくるおしりの圧迫感。
 紛れもない、おなかをこわした下痢の症状である。

 慣れない数日間の一人旅で、肉体的にも精神的にも負荷がかかった胃腸。
 早い朝食で活発になった腸の動きに、初夏には過ぎるほどの冷房がさらなる加速度をかける。
 もともと丈夫とは言えない樺恋の身体は、すぐに悲鳴をあげ始めたのである。


 ギュルルルルルルッ……。
「ひくっ……」
 腸が不気味な蠕動を繰り返す音が、少しずつ外に聞こえ始める。
 樺恋のあどけない顔には、冷や汗と明らかな苦悶の色が浮かび始めた。
 それだけではない。
 もっと重要な問題……便意が、おしりの穴を襲う明らかな危機感となって、樺恋の意識を蝕み始めたのである。

(お……お手洗いに行かなきゃ…………我慢できません……)
 そう思って、車両内を見渡す。
 ……とはいえ、樺恋の可愛らしい身長では、座ったままでは車両内の表示も満足に確認できない。

(立たないと見えない……でも……恥ずかしいです……)
(もし……お手洗いに行きたいんだって気付かれたら……)
 顔を赤くしながら、周り……今度は車内の文字ではなく、乗客たちの顔色をうかがう。

 ……樺恋の方をうかがう視線が、確かに感じられた。

 もっとも、樺恋の格好の珍しさ、田舎ゆえのよそ者に対する特別視、そんな事情もあるのかもしれない。
 だが、樺恋のか弱い心には、乗客の意識が自分に向いているという事実だけで十分だった。

(ど、どうしよう……)
 その無言の視線だけで、ただ、おろおろと視線をさまよわすだけになってしまう。
 ……何もできないまま、時間が過ぎていく。


  グギュルルルルルル……
  ゴロロロロロロロッ……
「あふ……っ…………」
 ……その結果は明白だった。
 便意のさらなる加速。
 腹痛の一層の激化。

 問題は解決しないどころか、悪化の一途をたどっていた。

(これ以上我慢できないですっ……お手洗いに行かないと……)
 そう心を決めて、目をつぶって立ち上がる。
 そうでないと周りの視線に再びためらってしまいそうだから。

 車両内を見回す。
 ここに来るまでに乗った列車では、特急では車両後ろのデッキに、普通列車でもどこかの車両の一角にトイレの設備があり、何度もその世話になっていた。
 だが……同じ車両には見当たらない。
 普通列車では大抵、「お手洗いは一番後ろの車両です」などという表示があるのだが、どうもその表示が見当たらない。

 少し歩いて、後ろの車両に近づく。
 2両編成の普通列車。
 その2両目……後ろ側の車両にも、整然と座席だけが並んでいる。

 ……トイレらしい部分は、見当たらなかった。

(……ど、どうしましょう……お手洗いがないなんて……)
 よりによってこんな下痢をしている時に……。
 おしりから送られてくる危険信号を解析して、我慢の耐久時間を割り出す。学校でもトイレに行きたいと言い出せずに我慢を繰り返していた樺恋にとっては、慣れているといってもいい処理だった。

 結論。
 ……目的地まではもたない。

 目的地の駅、海ノ口駅まではあと30分以上。
 だが、その頃には彼女の純白の下着が一面茶色に染まってしまっていることだろう。

 だとすれば、残された手段は一つ。
 途中下車するしかない。
 次の駅まではあと数分。そこまでなら、何とか我慢できる。
 目的地に着くのが1時間以上遅れてしまうが、仕方がない。


  ギュルルルルルルッ……!!
「ふぅ……っ……」
 途中下車……着地点を意識したせいだろうか。
 ……彼女が何度目かの身震いをした時、おしりの穴に熱い何かが押し寄せてくるのを感じた。
 もともと内股にしていた足をさらに閉じ、腰を浮かせるような体勢で必死にその出口を閉める。
(今だけ……あと少しだけ、我慢すれば……)
 そのまま1秒……2秒……熱い波が引いていくまで、必死に耐える。

  ギュ……キュゥゥゥゥッ……。
「…………っ……ふ……」
 小さなかわいらしい口から、安堵のため息が漏れる。
 身体中を強張らせた力が、ふっと静かに抜けていく。
 我慢の崩壊……おもらしは、何とか免れた形だ。


 それが最後の試練であったかのように。
 残りの数分間はさしたる便意を感じることもなく。
 列車は、次の停車駅に滑り込んだ。

 プシュ、と音を立てて、ドアが開く。樺恋はすぐトイレに駆け込もうと、運転手に切符を見せてドアの横に立っていた。

 まだ学校の最寄駅には達していないのか、乗り込んでくる学生の数は増えるばかりだ。
 とはいえ、この駅で下車する樺恋には関係のないことのはずだった。
 ……が。
 樺恋は、ドアの横から一歩も動けずにいた。

(どうして……どうして……お手洗いがないんですかっ……?)
 彼女の視界に映るのは、古ぼけた待合室だけ。
 排泄を許可されるはずの密閉された空間は、どこにも見当たらなかった。
 背伸びをして駅の外を見回しても、公衆トイレらしいものはない。
 コンビニはおろか、商店一つもありはしなかった。

「……お嬢さん、降りるの、降りないの?」
 運転手から不快感を込めた一言。
 その言葉の相手……樺恋は、思考回路が焼き切れるほどに迷っていた。

(どうしよう、降りないと、でも降りてトイレが見つからなかったら……)
 目の前にトイレがない以上、ここで降りるのは一種の冒険だ。
 5分程度で着くであろう次の駅まで我慢するほうが現実的ではある。
 ただ、もしそれを選択して、あと5分間が我慢できなかったら……待っているのはこの車内という閉鎖空間での、衆人環視のもとでの下痢おもらしという大惨事である。
 もっとも、降りたところでトイレが見つからなければ、誰が来るかわからない見知らぬ土地での野外排泄という、これまた恥ずかしさの極限ともいえる事態に陥るのだ。

(わたし……どうしたら……)
  プシュ……。
「!!」
 逡巡を続ける彼女の目の前で、ドアがゆっくりと閉じられた。
 彼女の決断を、田舎といえど正確な電車のダイヤは待ってくれなかった。

 ガタッと大きな振動を伴って、電車が動き出す。
 それを待っていたかのように、樺恋の下腹部が悲鳴を上げ始めた。

  グギュルルルルルッ!!
「ふぁ……ぁぁぁっ……」
 反射的に前かがみになり、おなかを抱え込んでしまう。

 ギュル……キュルルッ……。
 少しずつ、強烈な波が後退していく。
「ぇ……あ……」
 少しずつ目を開けると、自分に集まる一面の視線。

「ふ…………にゅ……」
 意識が白くなっていく。
 緊張すると気絶をしてしまう、樺恋の癖である。
(真っ白……これで楽に……)
 心地よい感覚に、本能が身をゆだねようとする。

(楽に……? いま楽になっちゃだめですっ!!)
 ぱちっと目を開く。
 開きかけていたおしりの穴が、蘇った意思の力で閉じられる。
 間一髪……。たっぷりと直腸に充填されていたであろう下痢便は、かろうじてその姿を外界に現さずにすんでいた。

  キュルキュウゥゥゥゥッ……
「ふっ……うぅ…………」
 ため息をつく樺恋。
 排泄という目的を果たされなかった便が、残念そうにおなかの中で情けない音を立てる。
 まだなくならない注目に顔を真っ赤にしながら、元いた席に戻る。
 おなかとおしりに負担をかけないように、慎重に。

「ふぅ………っ……」
 割れやすい卵を扱うかのように、そっと座席に腰を降ろす。
 万が一おしりの穴が何かの拍子で開いて、「中身」が外に飛び出そうものなら……それは腐った卵よりはるかに強烈な臭いを放つに違いないのである。

「っ……」
 先ほどの駅で乗客が増え、目の前には二人組みの女子生徒が座っていた。
 目を合わせるのも恥ずかしく、樺恋は視線を窓の外に逃がす。
 ……いつまでも変わりのない、田園風景が続くだけ。

 キュルキュルキュルッ!!
「!!」
 再び鳴り出すおなか。
 再び正面を向くと、目の前の女子が心配げに見ている。

(だ、だめです……せめて……大丈夫なふりだけでもしないと……)
 そう思って、もはや動かすのもつらい手で、荷物の中から好物の「PRECH」を取り出す。おなかが空かなくてもつまんでいるこの菓子だが、今の彼女にはとても口に入れられるものではなかった。

 もう一度、窓の外に視線を移す。
「ぁ……」
 田園風景以外のものが視界に入った。
 電車の半分程度の速さで同じ方向に走るバイク……正確には原動機付き自転車だが、樺恋にそんな区別がわかるはずもない。そのバイクには少年が乗っていた。
 ……青い瞳を持った少年が。

(同じ色の……瞳……)
 樺恋と同じ、鮮やかな青。
 日本人の普通の瞳の色とは明らかに異なるその瞳。
 その瞳が、かすかに動いた。
 ……視線が、合った。

「にゅ……」
 即座に顔を赤らめてうつむく。
 女子校育ちでさらに人見知りの激しい樺恋は、男子に対する免疫がないに等しい。
 視線を合わせることすら、樺恋には恥ずかしくてたまらないのである。


 樺恋は後に、この少年……神代麻郁と、同じ場所で同じ時間を過ごし、同じ気持ちと同じ想い出を共有し、かけがえのない絆を手にすることになる。
 だが……それはあくまでも後の話だ。
 その場所に行き着くまで……いや、彼と再会するまでには、彼女にとってとても長い旅が待ち受けている。

  ギュルルルルルッ……。
「うぅ……」
 その旅は……まだ始まったばかりであった。


(早く……早く着いてください……)
 ……樺恋の限界は、早くも限界に達しようとしていた。
  ギュルゴロゴロゴロゴロッ!!
 夏場ゆえに冷房が目一杯に効いた車内。
 窓を開けていてもなお、その冷気は樺恋を包み込んで離さない。
 そしてその冷気は、樺恋の体調をさらにさらに悪化させていくのだ。
 その体調の悪化は、彼女のおしりの穴を襲う便意に直結していた。

  ギュルグルルルルルルルルッ!!
「っ!!」
 便意の大波。
 全身を強張らせて、必死におしりの穴を締め付ける。
  ググ……
 締めつけを振り払うように、熱い流れがおしりの出口に押し寄せる。
(だめです……おねがい……出ないでっ……)
 目をぎゅっと閉じる。
 もはやどんな体勢を取っているかさえもわからない。
 樺恋の頭の中にあったのは、たった一つ。
(おもらしなんて、そんな恥ずかしいことできませんっ……!!)
 その思いだけが、樺恋の小さな身体に力を与えていた。

  キュル……クゥゥゥゥ……。
「……ぁっ……はぁっ……」
 何度目かわからない下痢便の逆流。
 排泄を目の前にして肛門でせき止められ、腸の奥へ戻っていく。
 形容しがたい不快な感覚、それをこの数分だけで何度感じたことか。

 だが、決して楽にはならない。
 樺恋は、またすぐに襲ってくるであろう便意に備え、再び目を閉じた。


 ……次に樺恋の感覚を刺激したのは、何かを擦る甲高い大音響だった。

  キキィィィィィィィィッ!!
「……!?」
 一瞬遅れて目を開く樺恋。
 周りの学生たちは、すべからく窓の外の光景に見入っていた。

  ガシャァァァンッ!!
 急ブレーキをかけてスピンし、畑の中に突っ込んだ車。
 道路には、生々しく残る黒いタイヤの痕。
 先ほど追い越した少年も、追いついてその光景を眺めている。
 その中から、一人の少女が出てきた。
 赤みがかった髪。ただ、その瞳は青。
「この……変態っ!!」
 ドアを蹴り開けて出てきた少女の言葉である。
 おそらく、中で文句を言っている運転手に向けた言葉だろう……が、その真意はわからなかった。

 ガタン……プシュゥゥゥ……。
「えっ……!?」
 樺恋が車内に視線を戻す。
 列車は、その速度をほぼゼロにまで落としていた。
 ……停車駅。

「お、降りますっ!!」

 樺恋は、鞄一つに小さくまとめた……それでも彼女には大きく見える荷物を抱えて、駅のホームへと駆け下りた。


 ギュルギュルギュルッ!!
「うぅっ……」
 樺恋のおなかが、もう限界と悲鳴を上げる。

(お……お手洗いは……)
 小さな白壁の駅舎。一見してわかる、トイレらしい建物は見当たらない。
(ど、どうしよう、ここでお手洗いがなかったら、もう……)
 樺恋の我慢はあと1分ももたないだろう。

「あ……」
 その駅の改札の右側に、小さな扉がある。
 そこには、何よりも求めていた、「便所」の2文字があった。

(ま……間に合いました……)
 安堵のため息を漏らそうと口を開いた瞬間。

 最大級の便意が彼女を襲った。


  グギュルルルルルルルルルッ!!
「あ、ああっ……!?」
 理性さえ吹き飛ばすような強烈な腹痛。
 樺恋の我慢という努力の跡をもすべて押し流す強烈な波が、彼女の肛門を直撃した。

  ブリュッ!!
  ニュルブチュジュルルッ!!
  ブチュリュリュリュリュッ!!
「……っ!?」
 もう、おしりの感覚はなくなりかけていた。
 でも……かき消すことのできない音だけは、樺恋の耳にはっきりと飛び込んできた。

(わたし…………おもらし……を……)
 純白……だった樺恋のパンツの中。
 その秘密の場所を、ほとんど形を失った茶色い汚泥が満たしていた。
  ドサ……。
 樺恋の両手にあった荷物が、地面に落ちる。
 身体全体への意識を保てないほどに、樺恋は完全に放心していた。

 おもらし。
 汚らしい下痢便のおもらし。

 列車が出発したばかりの無人駅には誰もおらず、自分以外にそのおもらしを目撃したものはいない。
 それでも。
 樺恋の心は、恥ずかしさとみじめさで一杯だった。


  キュルギュルルルルルルッ!!
「ひ……ぁっ…………」
 樺恋のおなかの中で、便を絞り出すかのように腸内壁が収縮する。
 おもらしという最悪の形ではあれ、溜まっていた汚物を放出した樺恋ではあったが、おしりへの圧迫……便意は、弱まるどころかさらなる高まりを見せていたのである。
 そして、一度どろどろの汚物を通過させてしまった排泄口は、その汚物が潤滑液となっており、締め付ける力をほとんど失っていた。

  ニュルブブニュブチュッ!!
  ブブビブビブビブブブブッ!!
「は……ぁぁぁっ……」
 その結果は……おもらしのさらなる拡大。
 指一本分も開いてはいない肛門から、その細さまで圧縮された軟便が、流れる水流に乗って飛び出してくる。それが飛び出す先もすでに下痢便で一杯になっており、その汚物を肌と下着に塗りたくるように押し広げていく。
 朝の爽やかな空気に、おぞましい悪臭が混ざり始めていた。

(い、いやっ……早く……早くお手洗いにっ……)
 一刻も早くトイレに駆け込んで、下着を脱がないと……。
 樺恋は残されたわずかな体力と精神力で、トイレまでの十数歩の道のりを踏み出した。

(あと……あと少し……)
 トイレの扉の前。
 まさにあと1歩のところまで来た、その瞬間。
 ドアのノブを回そうと震える手を伸ばした、その瞬間。

「あぁっ……!?」
  ブビブボボボブジュィィィィィッ!!
 おもらしの追加。
 ……だけではない。樺恋の股間から発せられる音が、大幅に変質していた。
 粘着質に空気が混ざった破裂音から、水分たっぷりの流動音が響き渡っていた。
 軟便の隙間を水様便が満たし、さらに、下着の布地にまで染み込んでいく。
 さらに、下着を汚しきった水便は、そこからさらに外にまで染み出そうとしていた。

「だめ……だめっ……」
 目を閉じて、ノブをつかんだまま前かがみ。
 空いていたもう一方の手をおなかから離し、長いピンクのスカートの裾をつかみ、汚れきっているであろうおしりから遠ざける。
 万が一下着に接触しようものなら、決して人に見せられない無惨な汚れがついてしまうだろう。樺恋の精一杯の抵抗だった。

 ガチャッ……。
「はぁ……はぁっ……」
 ノブを回し、扉を引き開け、中に入り、扉を手前に引く。
 閉まる方向への速度を得たドアが完全に閉じられる前に、樺恋は両手でスカートをたくし上げ、腰の上で手前にまとめて左手で押さえた。

 下着と靴下だけに覆われた下半身があらわになる。
 その下着には、おしりの側に茶色の三角形が浮き上がっていた。パンツの繊維にまで染み渡った液状便が、白い部分をほとんど奪い去っている。さらに、吸収しきれなかった水分が、今にも落ちそうな水滴となって、茶色となった布地の上に光沢のある点をぽつぽつと作り上げていた。

「ふぅ……っ!!」
  ジュル……チュルルルルルッ!!
  ジュブビジュジュジュジュィィィッ!!
 か弱い括約筋の力ではもう押しとどめようのない流出。
 一瞬遅れて、パンツの表面に浮き上がった茶色の点がその大きさを増し、少なくない数がおしりの震えとあいまってトイレの床に落下する。スカートを引き上げていなかったら確実に汚れが拡散していたことだろう。

(あと……あと一歩だけ……)
 一段高い便器。
 そこに登る一歩が、あまりにも遠く感じた。

 倒れそうに震えている右足を、そっと前に上げる。

  ニチュッ……ピチャ…ベチャベチャッ!!
「や……っ!!」
 覚悟していた股間の不快感。
 そして、覚悟しなかった、わずかにずれたパンツの隙間からの軟便の流出。
 もはや、前から見ても茶色の汚れがはっきり浮かんでいたパンツ。それを少しでも動かせば、こうなるのは自明の理だった。

「ふぅ……ぅぅっ……」
  ニュルベチャッ……ニュ………………ポチャビチャッ!!
 左足も段の上に上げる。その途中から、便が落下する時の音が変わった。
 便が落ちる先がコンクリートの床ではなく、和式便器の底……汲み取り式の便漕に変わった証拠だった。

 便漕は長く掃除をされていないのか、相当量の排泄物に満たされていた。
 もちろん、発するアンモニア臭、大便の腐臭も相当のものである。
 そして、そこに新たに加わる樺恋の下痢便の刺激臭。

 だが……樺恋の頭には、悪臭も汚さも関係なかった。

 今はただ……一刻も早く楽になりたい。
 おなかの中の下痢便を全て排泄して……。

「んっ………」
 自由のきく右手で、汚れきったパンツをずらす。
 ぐちゃっという気味の悪い音と共に、べっとりと汚物が付着したおしりの肌が現れた。
  ボチャッ……ビチョン、ボチャンッ……
 同時に、安定を失ったパンツの中の便が、和式便器の底へ落下して水音を立てる。

 そして、ふとももの中ほどまで下着を下ろした瞬間、また……。

  ブブシュッ!! ブジュッ!! ビシャシャシャッ!!
    ボタ……ベタベタッ……ビチャッ……
「はぁ………っ……」
 付着した下痢便に覆われて見えないとはいえ、外気にむき出しになった肛門から、斜め後方に向けて液状便が噴出する。

(もうだめ……もう止められませんっ……)
 限界だった。
 崩れるように膝を折り、便器の上にまたがる。

 和式便器にまたがっての排泄。
 ごく当たり前の行為のはずだった。
 だが、樺恋はそのために大きな代償を払っていた。
 汚れた下着。
 おもらしのみじめさ。
 小さな胸が押しつぶされそうな恥ずかしさ。

 全ては、突然の下痢という運命のいたずらがもたらしたものだった。
 もしそれが、運命を司る天使の意思によって引き起こされたものだとしたら、それはどれほど残酷なことだろう。

 悲惨な運命に見舞われた樺恋。
 苦しみつづけた彼女に、気まぐれな天使はわずかな報いを与えようとしていた。

 今なお激しい腹痛を引き起こしている腸内の下痢便を、思い切り放出するという自由を……。


「んーーーー……っ!!」
  ビチビチブジュブリブジュビシュィィィィッ!!
    ボトトト……ボチャボチャボチャッ!! ビシャッ!!
  ジュブブリュビジュビチチチチブジャァァァァァッ!!
    バチャバチャ……ビチョビトトトトトッ!!
  ビリュリュリュ……ジュブビチビチビチビチビチッ!!
    ビチャビチャ……ビチャビチャビチャチャチャッ!!
  シュビビビビビジュルブシュジュルブリリリリリリリッ!!
    ドボドボドボッ!! ビチャボトトトトトッ!!
 堰を切ったような排泄が……開始された。
 肛門を震わせて飛び出してくる下痢便の排泄音。
 汚物が汲み取りの便漕の液面に衝突して弾ける水音。
 互いに劣らぬほど汚らしい2種類の音が、輪唱のように繰り返されていく。

「ふくっ……ぁっ……あぁぁっ……」
  ビジュブビビビビビビビッ!!
  ブリビチブボボボブリュビシャァァァァッ!!
  ニュブブバババビリュビチィィッ!!
    ドポドポドポビチャビチャッ……。
 止まらない排泄。さらに勢いを増していく。
 肛門からほとばしる茶色の水流。完全に液状となった真っ茶色の水下痢便の中に、時おり混ざる黒ずんだ未消化物。それが1秒と途切れることなく、和式便器の底へと注ぎ込まれていく。
 かなりの量の汚物を溜め込んだ便漕の液面は決して低くなく、樺恋のおしりから吐き出された下痢便は、腹圧に重力を加えたすさまじい勢いで液面に衝突し、汚物の飛沫を巻き上げた。
 その一部は、汚い下痢便を撃ち込まれた便器からの反撃であるかのように、便器すれすれにまでしゃがみこんだ樺恋のおしりの高さまで跳ね上がって、その肌に付着していく。
 いわゆる「おつり」の発生であった。

「あぁ…………や、やっ……」
 ピチャピチャッ……ピチャッ……
 肌に突き刺さる冷たい感触。
 もっとも、「おつり」の大半はその根本的な原因である肛門の周辺を襲っている。そこはすでに、おもらしの下痢汚泥でぐちゃぐちゃになっており、それが膜のようになって樺恋の触覚を不快感から守っていた。
 だが、ごくわずか、おしりの外側……決して肉付きがいいとは言えないが、確かな丸みを帯びた二つの半球の外半分にも、便漕内汚物の跳ね上がりは及んでいた。

 おもらしの汚れに比べれば、数滴の汚れカスなど取るに足らないかもしれない。
 だが、自分の身体の中から出された下痢便とは異なり、いつ誰が出したかもわからない、まさにこれ以上ない「汚物」の付着である。精神的な不快感は、逆に比べようもないほど大きかった。

「……あぁぁぁ…………いやっ……」
  ブチュブチュジュブブボボボブリリリリリッ!!
  ブチュ!ブチュ!ビビビビビビビビッ!!
  ビシャシャシャブブブブッ!! ブリュビビッ!!
  ップリュブジュブビブバババババババビチビュルッ!!
    バチャバチャバチャバチャッ……ビチャビチャッ……
 だが、どれだけ不快感を感じても、肛門からの噴出を止めることはできない。
 か細い声で現状を否定したところで、注がれる下痢便の勢いは決して弱くならない。
 跳ね上がってくる滴の不快感を感じながらも、樺恋は排泄を続けるしかないのである。

 スカートの布地を集めた下にある、今もまだかすかな鳴動を続けるおなかに、樺恋は再び力を込めた。

「ふっ…………んん……………んぅ……はっ…………うあぁぁぁっ!!」
  ブチュブチュブチュブビビビビビッ!!
    ボトトトブビッ!!……ビチャンッ……
  ブリブリビチチチチチブビブバババッ!!
  ジュルブチャブチャブチャブボボボブチュッ!!
  ビジュブジュブピピピブビィィィィッ!!
    ドボドボドボドボドボッ……ボトトトトトッ……。
  ブリリリリリブジュッジュブブブブブブパァァァッ!!
  ブビブビブビビチビチビチビィィィィィブリュビビビビビビッ!!




「……はぁ…………はぁぁ……っ………」
  ……ピチャッ……ピチャチャッ……。

 腸内の汚物を出し尽くし、肛門に付着した液便が滴り、便漕内の汚水を叩いてかすかな音を立てる。
 排泄が収束したこの状態になるまで、5分以上の時間を要した。

 樺恋には怖くて覗き込むことはできなかったが、樺恋の排泄した汚物は、便漕の中でも肛門の真下の位置で確かなまとまりを形成し、「新鮮な悪臭」を放っていた。
 だが……便器の中をのぞきこまなくても、それに勝るとも劣らない惨状が樺恋を待ち受けている。

 一段下の床に、そして便器のふちにも飛び散らせてしまった下痢の飛沫。
 秘密の一本線から腰骨の辺りまで、股間をべっちょりと覆い尽くした下痢軟便。
 ふとももの間に橋をかけている、かなりの量を便器の中に落としてもなおずっしりとした重さを保っているおもらしパンツ。

 樺恋の人生の曲り角となる旅の始まりで巡り会った運命の天使は、この悲惨な光景の後始末をする少女に、手を差し伸べてはくれなかった。



「ぐすっ……」
 清楚な雰囲気をかもし出す白い帽子。可愛らしいピンクのリボンで胸元を結んだ純白のブラウスの上に、礼儀正しさをうかがわせる穏やかなブラウンのベスト。おとなしさと可憐さを強調するフリルのついたロングスカート。
 電車に乗る前と同じ格好の服に身を包んだ、表面的には汚れ一つない小さな身体が、駅のベンチに横たわっていた。

 この少女が、わずか数十分前に、言葉では語りきれないほど汚らしいおもらしをしてしまったなどと、誰も信じはしないだろう。

 だが、樺恋の心の中から、おもらしの事実が消えることはない。
 おしりにまとわりつく下痢便の感触。
 肛門を駆け抜けた液状便の熱さ。
 跳ね返ってきた汚物の冷たさ。
 消そうとしても消えない感覚が、樺恋の心を折れそうなほどに苛んでいた。

 この場所から数メートルも離れていない汲み取りトイレの便器の中には……。
 樺恋が苦しみながら吐き出した大量の下痢便が。
 樺恋のもらした大便を受け止め、生地にまで下痢汁が染み渡ったため捨てざるを得なくなった、子供っぽい下着が。
 樺恋のつるつるの股間にこびりついたぐちゃぐちゃの軟便を拭き取ったティッシュ、そして、その紙を使い果たしたために荷物から取り出して代わりにした、茶色に染まったタオルが。
 すべて、見ればわかる状態で残されているのだ。

「……すっ……うぅっ……っ……」
 目じりから涙がこぼれる。
 ずっと我慢していた下痢のように、涙を流そうとする強烈な圧力があるわけではない。
 それなのに、涙が止められないのはなぜだろう……。

 答えはわからない。
 ただ、こうであったらいいな、という願いはある。
 透明に澄んだ涙の水流が、おもらしによって心にまで残された汚れを洗い流してくれるから。
 だから……こんな時だけは、涙が止められないのだと。



あとがき

 おねがい☆ツインズアニメ完結記念。
 世間知らず内気ろり少女、小野寺樺恋たんの下痢おもらし排泄物語です。

 おね2は深衣奈・樺恋の主役ツインズが大好きなので、作品としてもここ数年では一番のお気に入りです。そしてこの作品は排泄妄想もたくさん浮かぶんですね。
 今回は物語冒頭の電車の場面を用いましたが、他にも書きたいシーンはたくさんあります。
 同居ものの必殺兵器、家の中でのトイレ争奪戦や、体育倉庫に潜んだ時、どこにも動けない状態での下痢など。特にせっかくツインズなのだから、二人同時の下痢ってのは一度は書きたいですね。

 今回の特色は「汲み取り」ですね。
 やはり物語の舞台が田舎ということで、汲み取りの共同トイレなども数多く残っています。その特徴を生かす描写を心がけました。主に排泄物の落下音と、「おつり」ですね。このあたりで新鮮さを感じていただければ幸いです。

 ちなみに、なぜ「汲み取りトイレが残っています」と断定できるかというと、昨年夏におねてぃ巡礼ツアーに行ってきたからなんですね(笑)
 今回のおもらしの舞台となった大糸線稲尾駅、おねてぃの小石の告白シーンに使われた海ノ口駅なども実際に汲み取り式ですね。他にも、キャンプ場などのトイレも同様でした。

 タイトルは主題歌「Second Flight」と対になるように取りました。「First」と「Fast」の韻を考慮すれば、勢いよく便漕深くまで落下する便、という意味との掛詞にもなるかなと思っています。随所にこの歌の歌詞を差し挟んでいますので、気付かれた方はニヤリとしてくださいませ。

 と、いうところでそろそろ筆を置こうと思います。
 実際にはメモ帳で保存して終了、なんですけどね(笑)
 では次回の作品、そして少し先になるとは思いますが、おね2再挑戦にもご期待ください。


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