ろりすかZERO vol.1
ティリシア=リノール
13歳 修道女
体型 身長:142cm 3サイズ:71-56-73
修道院に入ったばかりの貴族の娘。
短い金髪と大きな瞳が特徴の可憐な少女。
素直で献身的な性格で、天使の生まれ変わりとも言われている。
「おはようございますっ!」
朝焼けにかすむ山奥の修道院に、澄んだ可愛らしい声が響く。
「おはよう、ティア」
「おはよう」
通りがかるシスターたちが、彼女に声をかけていく。
「早起きして掃除とはえらいな、ティア」
「あ……神父様、おはようございますっ」
通りがかった初老の男性も、彼女に声をかける。十字架のあしらわれた黒い上下の衣服。彼がこの修道院の院長でもあり、この教区を司る神父、メリウスである。
そして……彼の前で修道院の庭を掃き清めている少女が、ティア。本名をティリシア=リノール。この国の王家に連なる公爵家であるリノール家の一人娘である。が、彼女はそれを鼻にかけることなく、誰にでも親しげに話しかける。
この国では、貴族の娘は年頃になる前に修道院で数年を過ごすという慣習がある。多分に花嫁修業や評判に箔をつけるという形式的な意味もあるが、服従・清貧・貞節という戒律に基づく修道院の生活は、封建的な女性としての心構えを学ぶという意味で、将来の貴婦人たちの貴重な糧となるのである。
だが、金銭的にも身分的にも恵まれた身分である貴族の娘から、生活水準としては平民以下の修道女として生活するのは、多くの場合困難を伴う。今まで召し使いに着替えまでさせてもらっていたような女の子が、着替えや寝起きはもちろん、炊事洗濯まで一人で……いや、他人の手伝いさえしなければいけないという環境に置かれるのだ。
特にこの聖フラウス修道院は、国中でも一番規律が厳しいことで知られている。起床は夜明け前。朝食前に礼拝、昼食を挟んで日が暮れるまで奉仕活動、夕食の前後にもお祈りと聖書の輪講がある。その食事も、パンと一菜程度の質素なもので、少しでも規律に反しようものなら厳しい叱責と罰としての労働が課せられる。
貴族の娘たちは、何度もお叱りを受け、眠い目で追加の労働をこなし、その中でまた失敗をして叱られ、涙を流し……。そうして何年もかかって、やっと一人前の修道女に成長していくのだ。
そんな聖フラウス修道院に、ティアは……ぜひと熱望してやって来たのである。リノール家では何不自由なく溺愛されて育てられたが、世間の厳しさを知らずに大人になるわけにはいかないと、自ら望んでこの修道院にやってきたのだ。
もちろん、生活の大幅な変化に戸惑いはあった。しかし、生来の真面目さと向上心、そしてもともと素直で献身的な性格も手伝って、ティアは瞬く間に修道院の生活に馴染んでいった。
初めて修道服を着てから一ヶ月もしないうちに、「他の者もティアの態度を見習うように」という言葉をメリウス神父からいただけるまでになっていたのだ。
「ティアはいつも頑張ってるな……」
「いえ、そんなことないです」
神父からの言葉に、ティアは謙遜の言葉を返す。
「いや。おまえの姿を見て、みんな自分も頑張らなければと思っているくらいだ」
「そうですか……先輩たちのお役に立てれば、わたしも嬉しいです」
そう言って、ティアは庭の掃除を続ける。
「しかし……あまり頑張り過ぎないようにな。おまえが身体を壊してはいけない」
「いえ、わたしは丈夫なのが取り柄ですからっ」
「……そうだな。おまえが調子悪そうにしてるところは、見たことがない」
そう言ってメリウス神父が……続いてティアが、くすっと笑う。
「しかし、あまりやりすぎると罰掃除の仕事が用意できなくなって困るな。……他の者の仕事を奪うと、その者のためにはならないぞ」
「あ……」
ティアは意表を突かれて言葉を失う。
「……まあ、贅沢な注文だがな。一応、覚えておいてくれんか?」
「はい……ありがとうございます、神父様」
周りから認められたからと言って、有頂天になったりしない。新入りの後輩として、謙虚な心構えを持ち続けるティアは、ますますその評価を高めていった。
彼女が聖フラウス修道院に来てから二ヶ月……春のそよ風が姿を消し、夏の陽射しがこの地を包みはじめる。
そんなある日、あまりにも突然に……神は、ティアに過酷な試練を与え給うたのである。
(ふぅ……綺麗になったかな?)
庭の掃除を終えたティアは、ひたいの汗を拭うように手をかざした。さっきまでは山の後ろから縁取るようにその光を見せていた太陽は、やや高い位置からまぶしい朝日を浴びせていた。
(ちょっと……暑いね)
シスターの制服であるの黒い修道服は、太陽の光を十二分に吸収する。暑い夏の間といえど、修道院で暮らす以上、この服を脱ぐわけにはいかない……もちろん、ティアは暑いとは思っても脱いで楽になりたいという不遜な考えは抱かなかったが。
(そろそろ礼拝に行かないと……)
間もなく、礼拝堂でこの院のシスター全員が集まり、朝のお祈りが行われる。まだ時間的に余裕はあるが、ティアはいつも始まる10分以上前には礼拝堂に行くのが常だった。神父様や先輩方より後に行くようでは申し訳ないと、そう思っているのだ。
ティアは手に持っていた箒を片付け、礼拝堂へ向かう。
途中、井戸からくみ上げたばかりの冷たい水を両手ですくい、朝の陽射しに乾いた喉を潤した。身体に張り付くような暑さが、内側から振り払われていく……そんな心地よい感覚を覚え、ティアは軽い足取りで礼拝堂へ向かった。
今日はとってもいい朝。……ティアはこの時、心からそう思っていた。
「…………」
礼拝堂の大扉を開けると同時に、中に向かって一礼する。
………。
深々と下げた頭を上げると、礼拝堂の中が見渡せる。入口の大扉、そして色とりどりのステンドグラスから差し込む光が、わずかな塵を照らしてその道筋を描く。アーチ状の天井からは、いばらの冠が吊り下げられている。そして正面、木製の説教壇の後ろには青銅の十字架。どちらも、神の申し子たる創始者が処刑され、数日後に復活したという奇跡に基づく特別な意味を持つ神聖なオブジェである。
「神はいついかなる時でも、あなたを見ておられます」
ティアはここに来ると、メリウス神父が言った言葉をいつも思い出す。神につながる神聖な冠と十字架を見ると、不思議な感覚……厳しくも温かい、そんあ空気に包まれているような感覚を覚えるのだ。これこそが、神がわたしを見ていらっしゃるということなのだと、ティアはそう理解していた。
(本当は、ここに来たときだけじゃなくて、いつもそう思わないといけないのだけど……きっと、まだ修行が足りないから……)
ティアはそう思って、さらに祈りを捧げ、神の御心に近づきたいと改めて決意した。
礼拝堂の光景のみに目が行っていたが、礼拝堂にはティア以外誰も来ていなかった。礼拝の開始時刻より半刻弱ほど早いのだから、当然と言えば当然なのだが。
今現在、礼拝堂の中に、ティア以外に動くもの、音を立てるものはない。……そんな中、ティアの声でもない、靴音でもない、不思議な音が響き渡った。
ギュルルルルルゥ〜……ギュルゥ〜……
音響を意識して作られている礼拝堂の中に、低いくぐもった音が響く。その音は、ティアのおなかから発せられたものだった。
「あ……」
自分のおなかが立てた音に、思わず声を漏らすティア。規律で定められてはいないが、神聖な礼拝堂の中では、つとめて声をあげたり余計な音も立てないようにしている。しかし今は他に誰もいないこともあって、思わず声が出てしまった。
(おなかへったのかな……もう、食事にも慣れたと思ってたのに……)
ティアもここに来てしばらくの間は、質素な食事だけではおなかが減って倒れそうになったことがある。気の持ちようでどうにでもなる精神的な適応はともかく、身体が新しい生活に馴染むにはある程度時間が必要なのだ。
しかし、今では空腹を意識することなどなくなっていた。ましてやおなかが音を立てるなど、考えられないことだった。
(……朝ごはんまでくらい、がまんしなくちゃ)
そう思って、ティアはちょっとおなかをさする。その瞬間、空腹とは何か違う鈍い痛みを感じた。
ギュルルルルル……
再び響く音。自分しかいない礼拝堂に、ティアのおなかの音が響き渡る。自分にとってはもっとも神聖な……神がすべてを見ている場所で、こんな音……ティアの顔は、恥ずかしさで真っ赤になった。
(……礼拝中に鳴ったら恥ずかしいな……)
そう思って、おなかを少しでも楽にするよう、背中を丸めて礼拝堂の椅子に座った。
礼拝の開始時刻が近づいて、続々とシスターたちが礼拝堂に入ってくる。静々と席につく彼女らの脇に、縮こまって座っているティアの姿があった。
その姿は……つい先ほどまでの、活発で礼儀正しい姿とは比べ物にならない。身体は時おりびくびくと震え、恥ずかしさに赤くなっていた顔は血色悪く青ざめていた。その目は、何かを耐えるようにぎゅっと閉じられている。
ティアは……自分の考えが間違っていたことを思い知っていた。さっきおなかから発せられたうなりは……空腹によるものではなく、おなかの異常によるものだったのだ。時間とともに急激に強くなっていくおなかの痛みと、それよりわずかに遅れて襲ってくるおしりへの圧迫感……便意が、それを教えてくれた。
ギュル……ギュルルルルルッ!
(な、なんでこんな……急に……)
それはまさにおなかの急降下だった。ひとたびおなかがうなりを上げ、内臓が縮むような感覚を味わうたびに、何かがおなかの中を駆け下り、おしりの穴を内側からこじ開けようとする。
(ど、どうしよう……)
今すぐもれそうという状態ではないが、礼拝は半刻近くにも及ぶ。それが終るまで我慢できる自信は、ティアにはなかった。しかし今からトイレに行こうにも、礼拝が始まるまでもう時間がない。小用だけならまだしも、大きい方をしようものなら開始までに戻ってこられるかわからない。
礼拝中にもよおしては大変という思いはみな同じなのか、その前にはトイレに長蛇の列ができる。この上用を足し始めるまで待っていたら、確実に礼拝に間に合わなくなってしまう。その上……ティアにとってはもっと重要な問題があった。
(みんながいるところで大きい方なんて……恥ずかしくてできない……)
トイレ、と言っても修道院のそれである。並んだ腰掛に穴があいていてその下にツボが置いてあるだけの代物だ。おまけに、囲いも申し訳程度に左右を区切るだけで、座った真っ正面に人が並んでいれば、排泄する姿がそれこそ丸見えになってしまう。
裾の長い修道服が局部とそこから出る排泄物を隠してくれるものの、音と臭い、そして排泄する時の表情までまるわかりなのである。実家にいた時には誰にも見られない個室で用を足していたティアにとっては、その不衛生さはともかく、人に排泄を見られるという恥ずかしさが大きな問題だった。
数ヶ月の間に慣れたとはいっても、小用なら人前でも顔を伏せていればできるようになった程度で、大の方は人がいないときを見計らって手短にすませるという涙ぐましい努力をしていたのだ。
(と、とにかく我慢しなきゃ……)
とてもではないが、今トイレに行くわけにはいかない。礼拝の後もトイレが混むかもしれないが、それでも今行って間に合わなくなるよりはましだった。
グルルルルルル……ゴロロロ……。
(おねがい……おさまって……)
不気味にうなる自分のおなかをさすりながら、ティアはそっと目を閉じ、あまりにも切実な祈りを捧げた。
「主は言われる。さあ、われわれは互いに論じよう。たとえあなたがたの罪は緋のようであっても、雪のように白くなるのだ……」
メリウス神父の朗々たる声が響き渡る。そして、それを一心に聴きいるシスターたち。聖フラウス修道院の朝の大切な勤めは、今日も粛々と始められた。
……ただ一人、下を向いて必死に便意をこらえているティアを除いて。
(……も、もう我慢できない……どうして、こんなに早く……)
ティアは、あっという間に限界までふくれ上がった便意に苛まれていた。腹痛を伴う、急激な排泄欲求の高まり……ティアは、重度の下痢に冒されていたのである。
(うそ……もう、もれちゃいそう……どうして……こんな……?)
おなかがゆるくなり、一日に何度も便意をもよおしたことがないわけではないが……それとは次元の違うひどさだった。針で刺すようなおなかの痛みと、押し寄せる大波のようなおしりの穴の圧迫感。
「んっ……」
急激に高まった便意に、思わず息が漏れる。ぎゅっと目を閉じ、全神経を集中しておしりの穴を閉じる。
グキュルゥゥゥゥ……。
(いや……聞こえちゃう…………)
トイレで大便をするのが恥ずかしくて、排泄が不規則になっていたこと。季節が夏に変わり、水や食べ物に雑菌が繁殖しやすくなっていたこと……何が原因かはわからない。
だが……召し使いに毒見をしてもらうような恵まれた生活を送っていたティアの胃腸は、決して強くはない。そんな彼女の消化器官が異常をきたすには、ほんのささやかな要因で十分だったのだろう。
(な、何とか……我慢できた……)
一時の大波をこらえきり、ほっとするティア。しかし……。
ギュルルルルルルルッ!!
(きゃっ………ま、また……)
わずかな間を置いて、再び腹痛と便意が彼女に襲いかかる。
「悪しき者はその道を捨て、正しからぬ人はその思いを捨てて、主に帰れ……」
神父の言葉は続く。深い深い意味を持つ、神聖な経典の朗読だ。いつもならその含蓄のある言葉を、様々な解釈をめぐらしながら聴き入るティアだが、今はそれどころではなかった。神父の言葉は、単なる音としてしか耳に入ってこない。ティアの頭に浮かぶことは、ただ一つだけ……。
(早くお手洗いに行きたい……!)
ただその一心で、幾度となく襲いくる便意に耐えるしかなかった。
「く……ふぅっ……」
もう……苦痛のため息は押さえきれなくなっていた。隣に座ったシスターはもちろん、メリウス神父も時おりティアのほうに目をやるようになっていた。
ゴロロロロロロッ!!
「……っ!!」
(ま、また……出ちゃいそう……)
おなかの低い音を耳にして、高まり始める便意に備えるティア。前かがみな身体をさらに倒し、全神経をおしりの穴に集中する。
(おねがい……出ないで……)
必死に括約筋を締めて、便がもれるのを防ぐ。おしりのすぐ奥には、灼けるような熱い感覚を感じていた。少しでも力を抜けば、すぐにでも液状の汚物があふれてしまうだろう。
グルルルルルルルッ!!
「ゃっ……!?」
さらに便意が加速する。もう、力を抜けばどころの話ではない。全力でおしりを締めていても、それを上回る力で内側から下痢便がこじ開けようとしている。おしりの奥の熱い感覚が、わずかな痛みをもたらす。それは……おしりの穴が開こうとする兆しに他ならなかった。
(だめ……でちゃだめっ!!)
もはや、なりふりをかまう余裕はなかった。ティアが取った行動は……おしりの下に片手を差し込み、開きかけた肛門を外から押さえつけるというものだった。
「っ……ぁっ……」
(おねがい……お願いだから……出ないでっ!!)
必死で指先に力を込める。しかし、調子を崩した腸から送り出されてくる下痢便も、並大抵の勢いではない。ティアのおしりの穴を舞台にして、壮絶な戦いが繰り広げられた。
そして……その結末は。
グキュゥゥゥゥ……。
(……た、助かった……)
おなかが下っている証である腸の蠕動音とは異なる、また奇妙な音がティアの下腹部から響いた。……肛門のすぐそばまで来ていた下痢便が、肛門の締め付けと外からの圧力に屈して直腸の奥へ逆流していく音である。
「っ……はぁ……はぁ……」
切迫していた便意が去り、ティアはほっとため息をつく。全力で便意をこらえるために、呼吸を止めていたのだ。
(でも……)
便意の元凶であるおなかの中の汚いものを出してしまわない限り、本当に便意から解放されることはないのだ。腹痛こそ続くが少しだけ楽になったティアは、説教台に目をやった。
「神は、すべての罪をお赦しになります。もちろんこれは、罪を犯してもかまわないというのではありません。罪が赦されないのであれば、一度罪を犯したものは神の御許へ行く希望を奪われ、再び罪を犯すことを厭わなくなるでしょう。ですから神はすべての罪をお赦しになり、償いの機会をお与えになるのです……」
神父は、経典の説明を続けていた。シスターたちも、その様子を聞いている。ティアの様子がおかしいことに気付くものは少なくなかったが、今は礼拝の時間であり、それから注意をそらすことは規律を破ることに他ならない。
もちろん、説教に耳を傾けず便意の我慢に必死になっているティアこそ、規律どころか当たり前の礼儀にすら反するものである。それはティアにも十分わかっており、心の中はみじめさと申し訳なさで一杯だった。しかし、それよりも強いたった一つの思い、それがティアの心を満たしていた。
(早く、早く終わって…………)
修道院で最も敬虔と言われるティアの心をもってしても、生理的欲求だけは抑えきれないのである……。
「万人をお赦しくださる神に、私たちもささやかな祈りを捧げましょう。……アーメン」
神父の言葉とともに、全員が目を閉じる。礼拝の最後を飾る、祈りの言葉だ。ティアの具合の悪さを察してくれたのか、説教の時間はいつもよりわずかに短かった。
ティアは……祈りの言葉が発せられる前から、ぎゅっと目を閉じていた。すでに限界に達していたはずの便意はさらに強くなり、おしりを押さえる手の感覚がなくなるくらい、強烈な便意と常に戦いつづけていた。
「…………」
神父とシスターたちが目を開ける。わずかに神父がうなずくと、シスターたちは静々と立ち上がり、一人また一人と、整然と出口へ向かって行く。
……そんな中、ティアはまだ椅子に座ったまま震えていた。
(ど、どうしよう……今動いたら……動いたら、出ちゃう……)
もう、左手はおしりから離せなくなっていた。腰を浮かせるだけの動きでも、もらさない保証はない。身体の限界を越えた便意を、もらすまいという意思だけでこらえている状態なのだ。
(でも……)
このまま座っていても、いつかはおもらししてしまう。多少の危険を冒してでも、何とかしてトイレまでたどり着く必要があった。ティアが最も神に近い場所と信じるこの礼拝堂の中でおもらしなど、命に代えてもできることではなかった。
(おねがい……少しだけ……もう少しだけ、出ないで……)
自分のおなかとおしりの穴に悲痛な願いを送り、ティアは震える左手に力を加えて、おなかの痛みをこらえて上体をわずかに浮かせた。
………その瞬間。
(あ……あぁっ!!)
自分の体重による圧力から解放されたおしりの穴は、一瞬だけその締めつけを緩めた。その隙を見逃さず、肛門から何かが飛び出してきたのである。
プスゥゥゥッ!
「ひっ……!」
……背筋の凍るような……だけど、乾いた感触。
一瞬遅れて、特有の強烈な臭いが鼻を突く。
…………ティアは、おならを放ってしまったのである。
(……ど、どうしよう……聞こえちゃった!? ううん、このままじゃにおいで……)
激しく混乱するティアの思考。実際にはすでに周りに座っていたものは礼拝堂から出てしまっていたので、音や臭いを知られる可能性はほぼなかった。
(と、とにかく早くお手洗いに……!!)
ティアの考えがやっとまとまる。長い忍耐の末、立ち上がるという最初の障壁も乗り越え、やっとトイレに行けるようになったのだ。ティアは礼拝堂から出ようと、出口に向かって一歩を踏み出した。
しかし、その時……。
「ティア……一体どうしたんだ?」
「あ……」
メリウス神父が、ティアに声をかけた。いつも真面目なティアの、礼拝中の不可解な行動。彼ならずとも、疑問に思っていたことだろう。
「身が入っていないようだったが……なにか、気になることでもあったのかね? それとも、身体の調子が悪かったとか……」
「あ……あの……わたし……そ、その……」
どうやら、神父は礼拝に集中しなかったティアを責めるというより、いつもと違う様子のティアを心配して声をかけたようだった。
だが……熱がある、身体がだるいなどの病気ならともかく、激しい下痢で一刻を争う状態のティアに対しては逆効果だった。ティアはあまりの苦痛に、自分の体調を説明することすらままならない。もっとも、できたところで「うんちがもれそうなのでお手洗いに行かせてください」とはとても言えなかっただろうが……。
「大丈夫かね? 顔色も悪いし、今日の勤めは休んで……」
「んぅっ……くぅぅぅっ!!」
神父の言葉を聞きながら立ち尽くすしかないティアを、便意の大波が襲った。おならを出して楽になっていた反動のような、今まで以上の強烈な便意だった。
(だめ……だめ、でちゃうっ……!)
ティアは絶望を感じながらも、必死の抵抗を試みた。立ち上がってからもおしりを押さえていた左手に加え、利き手である右手をもおしりを押さえるのに回した。両手で必死に力を込めて、押し寄せる下痢便を押しとどめる。
「くぅっ………うぅぅぅ……」
拮抗。両手の力をもってしてもなお、下痢便の勢いを押し返すには至らなかった。もはや、肛門の締め付ける力など当てにならなかった。ちょっとでも押さえつけが弱まったら、一気にあふれ出してしまう。それより早く、便意の波が引いてくれることを願うしかなかった。
「あ……あぁぁ……」
しかし……便意の波はちっとも引いてくれない。今まで何十回もこうして押しとどめ、腸の奥へ押し返していたのだった。そのたびに直腸内には新たな下痢便が送り込まれてくる。それらを押し返すのに必要な力も、どんどん大きくなるのだった。
「あっ…………」
そしてついに……ティアの身体が悲鳴をあげた。直立という不安定な姿勢に耐え切れず、身体の重心が崩れたのだった。必死に足を動かして踏みとどまるが、そのために、さっきの状態よりわずかに足を開くことになってしまったのだ。そして……おしりを押さえていた手がほんの少し、ごくわずかだけ肛門からずらされる。
ほんのわずかな外圧の弱まり。
……それは、下痢便に肛門を開かせる最後の一押しとなってしまった。
「だ、だめっ!!」
肛門を駆け抜ける熱い感覚に恐怖し、ティアは必死にその部分を押さえ直す。だが……その行動は、ほんの一瞬だけ遅かった。
ブビッ! ブププププッ!!
汚らしいくぐもった破裂音が、彼女のおしりから発せられ……礼拝堂中に響き渡った。
指先には、修道服の上からでもはっきりと感じられる生ぬるい湿り気……。臭いこそまだ外に出てこないが、水っぽい音とこの感触が、ティアに自分の失態をはっきりと認識させた。
(わたし………………おもらし…………しちゃった…………)
触るどころか見るのも汚らしい下痢便を、よりにもよって神聖な礼拝堂の中で衣服の中にもらしてしまったのである。
神父にも今の音は聞こえただろうし……それ以前に、すべてをお見通しの神……その目が最もよく届くこの礼拝堂の中で、排泄物を下着の中に……。ティアにしてみればそれは、神の目の前でおもらしをしたに等しかった。
(わたし……わたし、どうしたら…………どうしよう……)
もう、頭の中は真っ白である。恥ずかしさと情けなさと……いろんな感情が混ざりあって、何も考えられない。
……そんなティアを現実に引き戻してくれたのは、再び襲ってきた腹痛と便意だった。
ギュルルルルルッ!!
「ひぁっ……!? あぁぁぁっ……」
そう、今まで経験したことのないひどい下痢なのだ。ほんのわずかだけ出しただけでおさまるはずがない。ティアの身体の中にはまだ、今の数倍以上の大量の下痢便が残っているはずだった。
「ティア……もしかして、今……」
「ご、ごめんなさいっ!!」
ティアの状態に気付いた神父の言葉を遮るように、彼女は一言だけ叫んで、出口へと駆け出した。それ以上の言葉を考える余裕も、発している時間もなかった。
「うぅっ……」
(と、とにかく……礼拝堂の外へ……)
ティアは、もつれそうな足を必死に動かして、礼拝堂の出口を目指した。
「…………うぅっ!!」
(だめ……また出ちゃうっ……!!)
礼拝堂を飛び出した瞬間……ティアは二度目の限界を迎えた。
さっき流れ出した下痢便のせいでおしりの穴が緩くなっている上、走ることでおなかに圧力がかかり、さらに強烈な便意が襲ってきたのである。おもらしという形で一度限界を越えてしまったティアには……もう耐える力は残っていなかった。
ブビチビチビチッ!! ブビュブボボボッ!!
おしりの穴から飛び出していく液状の便が空気と触れ、すぐに下着の生地にぶつかって音を立てる。服の中で発せられたその音は、低く醜い音となって外界へと出て行く。
「……え……今の音……?」
「なに……もしかして……?」
礼拝が終わったばかり――ティアには永遠と思えるような我慢の時間だったが、実際には数分も経っていなかった――とあって、礼拝堂の外には数人のシスターが残っていた。不幸にも……ティアの二度目のおもらしの音は、そのシスターたちにも聞かれてしまったのである。
「え………い、いやぁぁぁぁっ!!」
その声で再びおもらしの喪失状態から我に返ったティアは、先輩たちの見守る前での再度のおもらしという事実を認識して、思わず悲鳴をあげた。
(ど、どうしよう……あぁぁぁっ!!)
さらに直腸の中を、下痢便が駆け下ってくる。今はまだ断続的な少量のおもらしですんでいるが、このままでは完全に肛門が決壊してしまう時も遠くない。
(お手洗い……早く…………あぁぁ、だめっ!!)
「やぁぁぁっ……!!」
ブビビュルルッ!! ブピブピッ!!
また……肛門から液体が弾け出る。わかっていても我慢できないみじめさに、ティアの目の淵に涙が浮かんだ。
三度目のおもらし……その周期もさっきよりずっと短い。おもらしの量も、もう少量と言えるものではなく、かすかな刺激臭すら放ち始めていた。
とても……トイレにたどり着くまで我慢できるとは思えなかった。
(どうしよう……どうしたら……………!?)
涙にかすむ視界には、しゃがみこんで用を足せそうな場所はない。必死で考えをめぐらすティアの頭に浮かんだのは、生垣と雑草に囲まれた一本の樹。今日の朝、今となっては遠い遠い過去に思える朝早くに掃き清めていた、まさにその場所であった。
あの場所は礼拝堂の真裏。人もめったにいないし、ここから数十秒でたどり着く。そこで……考えるのも恥ずかしいけど、野糞をする……それしか、ティアがこれ以上のおもらしを避ける方法は残っていなかった。
(おねがい……あとちょっと……ちょっとだけ……)
そう願いながら、ティアは弾かれるようにその場を駆け出した。
「はぁ………はぁ…………」
目指す樹の下。そこに……ティアはたどり着いた。もはや、立っていることはかなわない。左手でおなかを抱えながら、しゃがみこんでいた。右手は修道服の下で、下着の上から肛門を押さえつけている。
「……うぅっ!!」
ブビビビッ!!
また……下痢便が下着の中に溢れ出す。走りだした瞬間から、何度この熱い感覚を感じただろう。ここにたどり着くまでの間、常に下痢便が漏れつづけているような状態だった。それでも肛門を締めつづけ、染み出す液状便の汚い感触をいとわずおしりを押さえつづけて噴出を最小限に抑えたのは、ひとえにティアの強い精神力の成せる業だった。
(は、早く脱がなきゃ……)
そう思って、おなかの具合を見計らいながら両手を肛門から離す。
しかし、下着に手をかけようとしたその瞬間……。
ブブブブブブブッ!! ブビュブボボッ!!
外圧を失ったおしりの穴から、ものすごい勢いで下痢便が吹き出した。慌てて、両手で下着の上から肛門を押さえ直す。
(ど、どうしよう……)
こうして押さえていては下着が下ろせず、さりとて下ろそうと手を離せばその前に大量の便があふれてしまう……。まさに二律背反だった。しかも、こうして押さえている間にも、最大級の排泄欲求が彼女を襲い続ける。
(こうなったら……こうするしか……!!)
ティアはまず、足を器用に動かし、修道服の裾を前にたぐり寄せた。茶色く汚れた下着と、その上から肛門を押さえる右手が露わになる。
そして……右手で肛門を押さえたまま、それを覆う布地をつかんだ。肛門の真下はもう白い部分がないほど真っ茶色に汚れていたが、かまってはいられない。彼女はつかんだ布地をそのまま……真横にずらした。
一瞬にして、汚れた下着に覆われていたその部分……茶色の汚物にまみれたおしりの穴とその近くの肌、そして、まだ汚れていなかった女の子の局部が明らかになる。
「くっ………あぁぁぁぁぁぁっ!!」
ブビッ!! ブビュルルルッ!!
ビチチチッ……ブリリリブシャァァァァァァッ!!
まさに間髪も入れぬ間に……壮絶な排泄が始まった。茶色に汚れた肛門の内側、その粘膜を剥き出しにして、完全に液状化した彼女の排泄物……うんちが飛び出してくる。最初は様子見のように断続的で勢いも弱かったそれは、わずかの後にはおしりの穴からものすごい勢いで噴出する茶色の激流となっていた。
「うぅっ!! あ、あぁぁっ!!」
ティアの悲鳴。排泄を始めても弱まるばかりか一層強くなる激しいおなかの痛み、そして、肛門からすごい勢いで飛び出し、地面に当たって跳ね返ってきた下痢便がおしりにべちゃべちゃと張り付く気持ち悪さ。その両方に対してあげた悲鳴だった。ティアはおなかの痛みをこらえようと、一層前かがみの体勢になり、おしりの穴を斜め後方に突き出すような姿勢になる。
「んんっ!!」
ブビュルルルルルルッ!! ビチチチチッ!!
ブビビビビィィィッ!! ブチュビシャァァァァァァッ!!
駆け下ってきた便意に、何度目かわからない苦痛の声をあげる。同時に、肛門から後ろに向かって、とんでもない勢いで下痢便が噴射される。決しておなかに力を入れて、出そうと気張っているわけではない。おなかが苦しくて、力など入れられないのだ。
それにもかかわらず……まるで水鉄砲のように、茶色く濁りきった汚液が、後から後から溢れ出し、地面にたたきつけられていく。あっという間に、地面には下痢便の水たまりが作られ、その大きさをどんどんと増やしていった。もちろん、臭いも相当なものになっていた。腹下しによる下痢便という質的にも最大級に臭いものが、これだけの量吐き出されているのだから。
普通の人間なら一生に一度も経験しないような壮絶な下痢の苦しみを、ティアは今まさに味わっていたのである。
「ふっ………んんっ…………んくっ!!」
ビュルッ!! ブビチチチッ!
ブビュッ! ビュルッ!! ブピュブピュッ!!
さっきの大量噴出で少しだけ勢いが弱まったのか、おなかをかばいながら断続的な排泄を続ける。極端に上体を前に倒す不安定な体勢を保つため、左手を目の前の樹に当ててバランスを取る。
「うぅっ……あぁぁぁ、だめっ!!」
再びおなかの中を液体が駆け下る感覚。もう何度も経験した、身の凍るような感覚。ティアは再び目を閉じて、肛門を襲うであろう熱い……痛みさえ覚える感覚に備える。
唯一の救いは、もうそれを我慢しなくていいということだった。トイレではない、野外の誰が来るかわからない場所での野糞ではあるが……こらえ続けていた便意からの解放は、何ものにも代えがたい幸せであるのは間違いない。
……だが、下痢便が肛門から噴出する感覚より先に、ティアの五感は別のものを感じ取っていた。
「ティア……おまえ……」
「え……」
耳から入ってきた聞き慣れた声に、ティアは思わず振り返る。
そこには、驚いた顔のメリウス神父。その視線は……むきだしになったティアのおしり……その中心にある肛門に釘付けになっていた。
「い………いやぁぁぁぁっ! 見ないで、見ないでください!!」
必死の叫び。だが……神父がそれに反応するより、ティアの肛門のそばまで来ていた下痢便があふれるのが先だった。
……神父の視線のちょうど中心で、さっきと同じ……いや、それ以上に激しい排泄が繰り返された。
ブビビビビッ!! ブボビチュルルルッ!!
ビチビチビチッ!! ブビィィィビチッ!!
ブバッ! ビジュルッ!! ビリュブリュルルルルルッ!!
「あぁぁぁぁ……だめ……見ないで……見ないでっ……」
ティアの願いもむなしく、駆け下ってきた下痢便は、ものすごい勢いでティアの肛門から飛び出していった……。
茶色に染まった下着、汚物に覆われた肛門とおしりの肌……あまりにも水分が多いため、その一部は肌を流れ落ちて尻たぶの頂点……あるいはちょうど性器のあたりから滴ってすらいる。そして、その汚れの中心から、噴射という形容でも物足りない勢いで飛び出していく新たな排泄物……それが、茶色の濁流となって、すでに形成された下痢便の海に叩きつけられていく……。
そんな様子を全く隠すこともできず、敬愛する神父にすべてを見られてしまったのである。ティアの心は恥ずかしさを通り越して、絶望で一杯だった。それでも、その表情は反射的に真っ赤になる。
頬を染めて涙を浮かべた彼女は、まさに清らかにして可憐であった。しかし……その清らかな彼女の肛門から、あまりにも汚らしい下痢便が迸っているのは、紛れもない現実なのである……。
「おねがい、止まって……いやぁぁぁっ!!」
ビチビチビチ! ビシュルルルルルルルッ!!
ブバビチャビチャッ!! ブプビュルビチチチッ!!
ビブブブブブ!! ブボボッ!! ビィィィィッ!!
ビチュビチュビチュッ!! ブバッビチチチッ!!
ブリュビチュビィッ!! ブリュルルルルルーーーーーーーーーーッ!!
響き渡る排泄音と、立ち上る猛烈な悪臭の中……神父は目を閉じてわずかに首を動かし、そして踵を返して去っていった。
「あ……」
(……こんなことしちゃったんだもん……当然だよね……)
愛想を尽かされたのだと、そう思った。礼拝堂でのおもらし。そして、修道院の中での野糞。どう考えても、許されることではなかった。だから……ティアはこれ以上の絶望は感じなかった。そして……神父がいなくなったことで、ためらいなく排泄を続けられること、それがわずかな救いであった。
後ろを気にすることなく、顔を正面に向け、ぎゅっと目を閉じる。その目の淵からは、涙が水流となって零れ落ちていた。まだ安らぎより苦しみが支配する表情で、ティアは再びおなかに力を入れ始めた……。
「んっ……」
ブビュルッ!! ブリブバババッ!! ビチチチッ!!
下痢便の海はさらに広がりつづけていた。猛烈な勢いで吐き出されたため、足元に広がって靴や衣服を汚す心配こそなかったものの、ティアの後方には飛び散った飛沫も含めて、肩幅以上の茶色の水たまりが出来上がっていたのである。
「うぅぅぅ……」
溢れ出す勢いこそ弱まってきたものの、まだまだ強烈な腹痛、そして便意は消えない。ティアはおなかをかばいながらも、排泄物を残らず出そうと少しずついきみはじめた。
「んんんっ!!」
ブビチッ!! ビチチチチッ!! ブリュルルッ!!
ブバビュルルッ!! ブリリリリビシャッ!!
おしりから出ていく勢いが加速する。恥ずかしい大きな音を立て、汚物が地面に弾け散る。
「んくっ……うぅぅぅっ……あぁぁっ!!」
ビチビチビチビチッ!! ブッブビビビッ!!
ブリュルルルッ! ビブバビュルルルルッ!!
彼女が苦しみの声をあげるたび、新たな排泄物が生み出されていく。そしてそれは、いつ終わるともなく続いた……。
「んんんんっ!! うくっ、いやぁぁっ……あぁぁぁぁぁっ………」
ブチュビチビチチチチッ!! ビリュブリュブピュルルッ!!
ブジュルビチブビィィィィッ!! ブリュビシュピブブブブッ!!
ブリュビチビチビチッ!! ブリリリリリビシュルルルッ!!
ジュブビリュルルルルルルッ!! ビリブシャァァァーーーーーーッ!!
……どれほど時間が経っただろうか。
ティアのおしりから、もう茶色の液体は出尽くしていた。時おり腸内の粘液がぽたぽたとこぼれるのみとなっている。
その足元には……見るも無惨な下痢便の海が広がっていた。その大きさは、一番幅広いところでは目の前の大木の幅に匹敵するかというものだった。地面に打ち付けられたその汚物は、夏場ゆえ湯気を立てるようなことはないが、代わりにおぞましい臭気を立ち上らせている。
その中心にいるティアは、もう嗅覚が……いや、あらゆる感覚が麻痺するような気分を味わっていた。神父様や先輩方の前でおもらしをして……さらに、こんなところで汚らしいものをすべてぶちまけてしまった。嘘だと思いたかった。目を閉じ、耳をふさぎ、目の前の現実を否定しようとした。
だが……息を止めようとしてもなお鼻腔に侵入してくるとんでもない悪臭、そしておなかの中のものを大量に排泄したにもかかわらずじゅくじゅくと痛むおしりの穴……そんなみじめな感覚が、自分がしてしまった行為をいやがおうにも認識させる。
(わたし……わたし、とんでもないことを……)
きっと……この修道院にはもういられないだろう。規律違反もいいところだし、それ以上に、明日……いや、今この瞬間より後、みんなに合わせる顔がない。そもそも、自分が犯してしまった過ちを、どう説明すればいいのか……。おなかをこわしていて、礼拝を妨げるわけにはいかなくて……どんな言い訳を並べても、結局はおもらし、野糞という行為を正当化することはできない。
そのことについて話すことすら、わずか13歳の少女にはとても耐えられるものではない。敬虔な修道女であるティアも、本当は恥じらいに満ちた一人の少女に過ぎないのだ。
(もう……おしまいだよね……)
ティアは……混乱する頭の中で、最善の処置を考えた。
(今すぐに、自分の粗相の後始末をして……荷物をまとめて、誰にも顔を合わせずに、この修道院からいなくなろう。神父様に、お詫びの置き手紙くらいを残して……)
ティアが悲壮な決意を固めた瞬間……その後ろから、温かな声がかけられた。
「……ティア、大丈夫かい?」
「え……?」
振り返るとそこには……去っていったはずのメリウス神父の姿があった。横を向いてティアのほうを見ないようにしているのは、足元の惨状から目を背けるためか、それとも恥らうティアへの気遣いなのか……。
「もう……落ち着いたかね」
「え…………?」
なにを言われているかわからないティアに、神父は優しく問いなおす。
「おなかの具合はもう大丈夫か、と聞いているんだがね」
「あ……は、はい………今は…………」
そこまで言って、ティアは一気に顔を赤らめた。
「そ、その……申し訳ありません……わたし……わたし……」
「気にしなくていい。……そうだ、これを…………」
そう言って手に持っていたボロ切れを差し出す。後始末に使え、ということらしい。紙などは貴重品で、とてもおしりを拭くのに使えるものではない。そのため、女性とはいっても小用はもちろん、大便をしてもおしりの穴を拭くという習慣はなかった。
しかし今は、尻たぶにまで及ぶこの汚れようである。そのままにしては下着どころか、修道服を着て歩くことすら危うい。せめておしりの汚れをぬぐうくらいはさせてやろうとの心遣いであった。
「あ……ありがとうございます……わたし……わたし、……もう、どうやって謝ったらいいのか……」
涙声で話すティア。
「……まさか出て行こうとか、そんなことを考えているのではないだろうね?」
「え……だ、だって……わたし、こんなことをしてしまって………もう……許してもらえるはずありません……」
「……あなたは、今日の説教を全く聴いていなかったようですね」
「え……?」
「神はすべてをお許しになるのです。それに、あなたは建物や庭を汚そうと思っていたわけではないのでしょう? 必死に抗いながら、仕方なくそうなってしまったのでしょう。そのような罪なら、神がお許しにならないはずがありません。神がお許しになるものを、どうして私や他の者がとがめることができましょう……」
いつもの説教と同じ調子で、理路整然と神父は説いた。神父は……ティアを許そうとしているのである。
「で、でも、わたし……どうやってお詫びしたらいいか……」
「詫びる必要などありません。自分の行いを恥じたのなら、後は同じことを繰り返さぬようにすればよいだけです」
「でも……それでは、あまりに申し訳ないです……」
「……仕方ありませんね」
神父はふっと目を閉じる。
「それでは、シスター・ティリシアに、明朝の庭掃除当番を命じます。……今日の説教を聴かなかったことに対する罰として、ね」
「……あ…………」
神父の顔が緩み、同時にティアの目に新たな涙が浮かんだ。
「ありがとうございます……」
………。
………………こうして、ティアは自らの過ちを許されたのである。
「さて……早く後始末をなさい。そのままの格好でいては気分も悪いでしょうし……何より、あなたの方を見て話ができません」
「え…………あっ!?」
ティアは自分の格好を見て、一気に顔を赤面させた。大便を排泄した状態のまま……汚れがべっとり付いたおしり、下痢便の滴と腸液が滴っている秘部をむき出しにしたまま、しゃがみこんでいたのだから。
「で、では私はこれで。一人で、大丈夫ですね?」
「あ…は、はい……あ、ありがとうございましたっ!!」
修道服の裾で自らの肌を隠し、ティアは慌てた声で返事をした。
………神父が去った後、ティアは下着を脱ぎ去り、わずかな布でおしりを拭い始めた。自らの失態の跡のすぐそばでの後始末はみじめではあったが……ティアの心には、おもらし直後の絶望感はなくなっていた。
おしりを拭き清めた跡は、地面に撒き散らされた汚物の始末。穴を掘って周囲の土ごと、自分の排泄物をその中に流し込む。ここまで来る間にもらした下痢便を地面に垂れ流していたら……と心配したが、幸いにもそれはなかった。あとは……修道服に付いた汚れは、元が黒い生地とあって、目立つものではなかった。さっと拭くだけで臭いも残らない。下着は水で洗っても汚れが染みとなって残り、とても履けるものではなくこっそりと捨てるしかなかった。
こうして、ティアのおもらしと野外排泄の痕跡はすべて消え去った。もちろん、あれだけひどい下痢をしていて、この一回だけの排泄で終わるはずもなく、この日一日中トイレに座りっぱなしのような状態が続いたが、幸いにも同じ失態を二度繰り返すことはなかった。
だが……ティアはあと一度だけ、排泄の時と同じだけの羞恥を味わうことになる。
――懺悔、という制度がある。
教会に訪れる信者が、自らの犯した罪……それは大抵はささやかなものだが、それを司祭に告白し、神の許しを請う。神はすべての罪を許す、しかしそれは、罪を犯したものが自らの罪を認めた時のみである。
ここ修道院においては、将来一つの教会を任せられるであろう者が大半を占めるため、シスターたちには懺悔を聞く側としての訓練が必要なのだ。そのため、毎週の安息日には、持ち回りで司祭役を決め、そのものに対して他の者が懺悔するという慣習がある。
ここまで言えば……その週の懺悔の集いで、どのような告白がなされたかは想像に難くないだろう……。
「わ、わたしは……わたしは…………4日前………れ……礼拝堂で……その……」
「ティアさん、どうなさいました? 懺悔すべきことがあるなら、包み隠さず、神にすべてをお話なさい……」
「わたしは…そのっ…………………うぅ……ぐすっ………」
「ティアさん!」
「……うぅ………わたしは……礼拝堂で………礼拝堂で……………おもらししてしまいましたっ……うぅっ……ひっく……」
「え……そ……そんな……」
「うぅ…おなかを……こわしていて……………それで…………そのあと……そのあと……また………………」
「ティ、ティアさん、もういいわ、もう………そんなことが……」
「うぅっ……………ごめんなさい………ごめんなさい…………」
……神の与えたもうた過酷な試練のために、ティアは何度も恥じらいの涙を流すことになった。その涙が記憶から消えない限り、この日神父が見せた慈悲の心を忘れることはないだろう。
そして……それが幸せかそうでないかはわからないが……女の子としての最大の恥ずかしさとともに刻まれたこの日の涙は、ティアの記憶から消えることは決してないのであった……。
あとがき
まず最初にごめんなさい。長くなりました。本編で35kB(約15万字)あります。ですが、この小説は特別な事情があって、何が何でも手を抜く訳には行かなかったのです。
この小説は七さんが描かれた排泄絵の情景を小説にしようとして作ったものです。もとは2ちゃんねるのスカトロCGスレッドに七さんが投稿したもので、私が知る限りで最高のクオリティを誇り、またシチュエーションも私の好みに最も合うものでした。
修道服の少女がおしりの穴をむきだしにして液状便を噴射する姿はまさに感動の一言でした。絵の隅々まで手抜きなく塗られ、下着やおしりの汚れなどから、我慢やおもらしの場面など、直接に描かれていない姿がありありと想像できます。
このたび、赤さんのサイト「赤い衝動」のチャットにおいて七さんと話す機会を得、こうして思い出の絵に小説をつけさせていただくことになりました。そのため、できることはすべてやってみようと中世やら修道院やらの背景設定を調べて盛り込んでいったため、このように長くなってしまいました。
内容については長くは語りませんが、おもらし、排泄は恥ずかしいこととしながらも、やってしまったことを許すという態度は、そのまま私のポリシーでもあります。修道院という設定のおかげで、そのポリシーをこのように直接的な形で描くことができました。サイトの開設をこのような記念碑的な作品で飾れるということは、この上ない幸せです。重ね重ね、「原作者」の七さんに感謝いたします。
オリジナルキャラの作品はこれと言った予定はないのですが、今回中世とかを書いてて楽しかったので、「おもらし日本史・世界史」とかいいかもしれません。十二単とかドレスとか着た女の子が大変なことになってしまうわけです。……と、いうだけなら簡単ですけどね。頑張ります。