下痢っ子悠里ちゃん4
「大嫌いなお兄さん」(中編)

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秋元 悠里(あきもと ゆうり)

 10歳 教育大付属小学校4年
 身長:130cm 体重:25kg

比較的おとなしめな少女。
小学1年生の時から胃腸が弱くなり、頻繁にお腹を下すようになる。
その体質から劣等感を感じて心を開ける友人がなかなかいない。
勉強は結構できる方で、エリート小学校の中でも中の上クラスの成績。
…しかし、長いテスト時間となると下痢で集中できない事も多く、成績にばらつきがある。


矢戸 武志(やど たけし)

 18歳 浪人
 身長:170cm 体重:80kg

悠里の母の友人の息子。
受験に失敗してしまった浪人。
少しロリコンの気があり、怪しい行動が目立つ。
悠里に嫌われている。

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再び部屋に武志と二人きりになった悠里。
さきほど排泄した便の調子がよかったため、悠里は心なしか顔がほころんでいた。
そんな悠里を見た武志。

「悠里ちゃん、なんかいいことあったの?」

という問いかけに、まさか本当のことを言うわけにはいかないので

「……」

何?どうしたの?…みたいな表情を浮かべ、不思議そうに武志を見返す。
こんな奴と喜びを共有したくない。
もう、とにかく武志と同じ空気の中にいるのが嫌だった。
さらに武志はしつこく、

「さっきから置いたままだったオレンジジュース、ぬるくなっちゃったからまた入れなおしてあげたよ」
「……」
「冷たくておいしいから飲みなよ」
「……」

悠里は黙って首を横に振る。
それでも武志はしつこく悠里に迫る。
さっきと同じく、たくさん喋らせて喉を渇かせるつもりである。

武志は勝ち誇った表情でニタニタ笑っている。
悠里は体調の良さから心配事が無くなり、武志を軽蔑した眼差しで見ている。
お互いが、何かに勝利した表情を作っていた。

つまらない会話のやりとりにうんざりした悠里は、武志の入れたオレンジジュースには目もくれず水筒に手をやる。
やはり喉が渇いたのだろう。自分専用ポカリスエットを飲む。

ングッゴクッ……!?

悠里は少し苦いような味を感じて、慌ててコップを置く。
ポカリスエットの味が少し変になっていた。

(……あ、え?何か変な味……??)

ほんの少しだけだが、いつものポカリスエットとは味が違う。
悠里の頭に疑問符が飛び交い、コップを見つめる悠里。
そんな悠里を武志は心配そうに見る。

(ちっ、下剤の味に気づかれたか?)

心配とはもちろん悠里のことではなく、下剤がばれたかどうかである。
それでも何とか平然を装いながら、遠目で悠里の様子を伺う。
少し首をかしげた悠里は、残りのポカリスエットを飲み干した。

(やった……飲んだぞ)

武志は心の中でガッツポーズを取った。
悠里は多少変な味を感じたものの、あまり深く考えずに飲んでしまった。

強力下剤入りポカリスエットを。

さきほど悠里がトイレに行っている間、武志が水筒に下剤を混入させたのである。
少量とはいえ、悠里の体内に強力な下剤が投与された・・・。
元々お腹の弱い悠里の体に下剤を投与されたら、一体どうなってしまうのか。
当然、武志は悠里の体質のことなど知らない。
もちろん、悠里は下痢止めを飲んだことはあっても、下剤など飲んだことはない。
あるはずがない。

完全に勝ち誇った武志は次なる作戦の準備のため、席を立つ。

「ちょっとトイレに行ってくるね……」

武志は悠里に言った。
悠里は勝手に行って来いとばかりに不機嫌な目線で武志を見て、時計を見た。

(あと20分くらいでお昼。お母さんたち、早く帰ってこないかな…)

この武志と二人きりでいる時間は、無限とも思われるくらい長く感じる。
その中の20分とは、普通で感じる2時間くらいとも思われた。
嫌いな人間と同じ空間を共にするというのは、本当に嫌なものであった。
このつまらなくも重苦しい空気に、悠里はうんざりすると同時に疲労感も感じていた。

(このままずっとトイレから戻ってこなかったらいいのに)

イライラした悠里は、怒りの矛先である武志にその気持ちをあらわにする。
今日の悠里は体調が良いため、残り1時間あっても催すことは無いと判断していた。
悠里はイライラした手つきでさらにポカリスエットを注ぎ、飲む。
もう多少の味の変化は、あまり気にならなくなっていた。

……およそ15分後。

ガチャッ

ようやく武志がトイレから戻ってきた。
そしてなぜか扉の側で座り込む。
扉の近くにいた悠里は、武志と距離が近づくのが嫌なので、少し離れて正座する。

……

沈黙の空気が二人を包み込む。
武志はじーっと悠里の下腹部を見ている。
悠里はそんな武志の視線を少しだけ意識したが、無視して本を読んでいた。
すると……

グギュルルゥゥゥ……

「!?」

ビクッと肩を震わせる悠里。
突然、急激な下痢の症状を感じた。
悠里の下腹部から発せられた大きな音は、静かな二人だけの室内に、大きく響き渡った。
それも「はっきり」と。確実に二人の耳に入った。

悠里は恥ずかしさのあまり、真っ赤になる。

武志は自分が投与した下剤の効果が出たのだと確信し、喜びを抑えるのに必死だった。
ようやく、可愛いけど無愛想なこの少女がパニックに陥るのかと想像すると、喜びのあまり声が出てしまいそうだった。

(今日は体調良いし、いきなりうんちしたくなることなんて無いはず…)

自分の体質を理解している悠里にとって、この突然の腹痛は理解できなかった。
そしてこの腹痛は下痢から来ているものではないと、自分の中で必死に否定していた。
下痢であると認めたくないのか、悠里はきっとこの腹痛は空腹から来ているものだろうと、楽観的に考えていた。

まさか自分専用の水筒に下剤が投与されていたなんて、予想していなかった。

悠里は武志に悟られないように、本で隠しながら左手でおなかを押さえていた。
そんな悠里に、武志は

「どうしたの?具合でも悪いの?」

と先制攻撃をかける。
なんせ自分の投与した下剤の効果はどれくらいのものか知らないし、悠里のこの状態は本当に下剤の効果のものかもわからない。
思ったよりも早く訪れた「毒」の効果に、武志自身も驚いていた。
そんな武志の問いかけに、悠里はただ、黙って首を横に振る。

しかし……

ギュルルルゥウゥゥゥ……

もう一度、尋常ではない音が、小さな悠里の下腹部から発せられる。
同時に揺れる腸から、悠里はこれが下痢であることを悟る。
これまで何度も下痢の症状に苦しめられてきた悠里だが、これほど腹部が痛む下痢の症状は、今まで感じたことはなかった。

(な、なに??この痛み…何だか内側からつねられているような感じ…)

確実に聞いた尋常ではない音に、悠里の下痢を確信した武志はわざとらしく、

「何でもないんだったら、僕ここでちょっと休むね。何もしてないから眠くなっちゃって」

悠里が相手しないから俺は暇なんだ、とでも言いたげに、武志は吐き捨てるように言い、扉にもたれかかって眠り始めた。
武志の巨体は扉を完全に覆い、見事な障害物となってしまった。

ギュウギュウと激痛を伴いながら音を発する悠里の下腹部。
これまでにない腹痛に、悠里は半分泣きながらおなかを押さえていた。

トイレに行きたいが恥ずかしい。
増してやこんな大嫌いな男を前にして行きたくない。
しかし行くとなっては、扉の前で障害物となっているこの男をなんとかしないと先に進めない。

悠里の腹痛は、そんな葛藤をさせてくれるだけの余裕を与えてはくれなかった。

悠里はすぐさま立ち上がり、トイレに行こうとする。
激痛を発するおなかに、手は添えられたままだ。
この男を前にトイレへと行くことは、確かに恥ずかしいことかもしれない。
しかし、トイレに行けず、ここで果ててしまうことはもっと恥ずかしいこと!
その葛藤がおとなしい悠里を激しく動かしたのである。

悠里は何も言わずに扉のノブに手をかける。
そしてこの行動を見ればわかるだろうと訴えるように武志を睨んだ。
切羽詰まった悠里の表情には焦りの色も伺える。
そんな悠里の状態を悟った武志は、意地悪な気持ちを忘れない。

「何?どうしたの悠里ちゃん」

ドアにもたれかかったまま、その場をピクリとも動かない。
そんな態度にイラっときた悠里はついに大嫌いなこの男に対して言葉を発した。

「どいて。ドアが開けられないから!」

額には脂汗が滲み出している。
どんなに隠そうとしても、その顔色から便意を我慢しているという表情は隠せない。
武志はその表情を舐めるように見回して、ニタァと笑い、

「どうしてドアを開けないといけないの?」

さらにじらす。
悠里は無言のまま武志を睨み続けている。
悠里らしからぬ、怒りに満ちた意地を感じる。
武志はいきなり立ち上がり悠里に近寄る。

「お腹が、どうかしたの?」

とわかりきった表情でわざとらしく悠里のお腹に手を伸ばす。
そして押さえるように悠里のお腹を刺激した。

(や、やめ…!!)

あまりに突然の出来事に、悠里は逃げることすら忘れていた。
ボフンッと押し込まれた武志の掌から、まるで波紋のように悠里の腸内の悪魔がのた打ち回る。

ギュウウウゥゥゥ!!

押し込まれた武志の掌を中心に、ものすごい激痛が悠里を襲う。
(い、いやぁ!)
その激痛と共に感じる腸の運動。
…というより「躍動」。
必死に武志の手を振り払う。
汚い虫を追い払うように振り払う。
悠里は激痛に耐えながらうめく。

そして……

ビチッ……

(う……いやぁ……)

悠里はお尻に嫌な感触を感じた。
これまでに何度も味わった、生暖かい液体が下着に染み渡る感触・・・
今の武志の一撃で、悠里を苦しめていた腹痛の原因が顔をのぞかせたのだ。

そのぬちゃっとした感覚に、悠里は複雑な哀しみを覚えた。

漏らしてしまった悔しさ、しかも大嫌いな男の前で・・・
その哀しみは確かに大きい。
だが、今悠里を大きく哀しませる原因となっているのは、出てきた「それ」の感触である。

確実な液状便。

今朝から体調が良いと自覚していた軟便ではなく、出てきた「それ」は液状だった。
せっかく治りかけていた体質が、また元通りになってしまったという哀しみがどっと溢れてくる。
一緒に喜んでくれた母のうれしそうな笑顔がちらつき、悠里はさらに深い哀しみを抱く。

そして目頭が熱くなり、なんとも言えない哀しみで覆われ、涙が溢れ出た。

「ひっく、ひっく。うぇぇん!」

すごい勢いで泣き出した少女を目の前に、さすがに武志はやりすぎた感を抱いてひるんだ。
悠里はとにかく今の被害をなんとかしようと、トイレに向かう。
ひるんだ武志は、普通に悠里を通してくれた。

……そう。強烈に悠里を襲っている便意という悪魔の猛攻は、まだ終わっていないのである。

しかし、あっさりと通した武志の顔は、いやらしい笑顔となって、悠里を見送っていた。
そんな武志をよそに悠里は部屋を飛び出した。

ぬちゃぬちゃと不快な感触をお尻におぼえながら、悠里は急ぎ足でトイレへと向かう。
(だめ……出ちゃうよ……)
下剤の効果はまだまだ継続しているようで、悠里の腸内は、次なる便意の波が荒れ狂っていた。
トイレまであと少し。
悠里は小走りでトイレの取っ手に手を伸ばした。
その少し手前の床に、悠里のソックスに包まれた足が触れた時、悲劇が起こった。

ぬるっ

!?

悠里は足の裏にぬるりとした感覚を覚えてバランスを崩した。
もう片方の足で、崩れたバランスを立て直そうとしたが、その足もぬるりとした床に足をとられる。




挿絵:なるび様より寄贈



「きゃぁ!」

ドスン!!ベシャッ!!

滑る床に両足をすくわれてしまい、悠里はしりもちをついてしまった。
実は、武志がトイレの扉直前の床に、サラダ油をうっすらと塗っていたのである。
下剤の効果で切羽詰った悠里がこのトイレ目指して来るだろうと、武志は前もって罠を仕掛けていたのだ。

家に響き渡る大きな音と共に転倒してしまった悠里。
予想外の衝撃に、悠里は固く閉ざしていた肛門の力を緩めてしまう。

ビュルッビチビチビチィ!

しりもちを付いたままの体勢でお漏らし。
転倒してしまった恥ずかしさと、凶悪な便意に追い込まれた状況で頭の中が真っ白になった。
悠里は驚いた表情のまま、お尻に広がる生暖かい感触を、ただ黙って感じ取っていた。
白いぱんつの間から、液状の茶色い液体が染み出してくる。

ビチュビチュビチュ…………

スカートは油まみれでギトギト。
パンツは液状便でベトベト。
ただ、悠里はショックで固まったままその場を動けない。

ひとつの波を越えた安堵感のようなものに包まれて、心のどこかで腹痛から解放されてほっとしていた感もあった。
悲惨な状況の中の静かな安堵感であった。

ほっとしているのも束の間。
強力な下剤の毒が、再び襲い掛かる。

ギュゥウゥゥゥ……

乱れた服装を直すことも忘れ、立ち上がる。
ぬるっとした床に足を取られたが、再びしりもちをつくわけにはいかない。
下半身に力を入れながら、ゆっくりとトイレのドアノブに手を伸ばす。
足に神経を集中していたため、便意の我慢が多少おろそかになった。
しかし、トイレが目の前だったということで、便意を我慢することを犠牲にして、とにかくこの場を安全にやりすごそうとした。

やっとのことで、悠里の手はドアノブまでたどり着き、握り締めた。

ぬるっ

(さ、最低!)

悠里は顔をしかめる。
なんと武志はドアノブにもサラダ油を塗りこんでいた。
さっき転んだ時、手に油が付いてしまったのに加え、ドアノブにもサラダ油。
ぬるぬる滑ってドアノブがまわせない!
悠里は焦って、両手でつかんで回そうとするが、哀れ、ぬるぬると滑って肝心のドアノブ本体は回ってくれない。

ギュルルルゥゥゥゥ……

またしても悠里の直腸へとやってきた、便意の津波。
(どうしよう!どうしよう!!)
今度はさっきよりも強烈な便意と激痛が悠里を襲う。
転ばないようにと便意の我慢を犠牲にしてまで足元に神経を集中させたがゆえに、もう限界を迎えていた。
そしてさっきよりも増した激痛は、悠里にその場から一歩でさえ移動することを許さなかった。
握り締めているドアノブは、ぬるぬると滑って動かすことはできない。

(もうだめ……)

完全に諦めた悠里。
もう一歩も動くことができない。
目的地であるトイレは目の前にあるというのに、開けることができない扉の前に、悠里の心は再び絶望の色に染められる。
ゆっくりとその場にしゃがみこみ、せめて汚れたパンツを下ろし、果てる。

ビチッビシャー……

完全な液状便だった。
肛門を通り抜ける感触はなんとも言えない。
悠里は再び床を汚す。

ビチャビチャビチャー……

まるで小便のような勢いで悠里の小さなお尻から撒き散らされる液状便。
こんな悲惨で哀しい中でも、とても痛かった腹痛から解放されたことだけは悠里に安堵感を与える。
もうここまで激しくお漏らししてしまった悠里には、恥ずかしさよりも先にある心配が湧き上がっていた。

自分のお漏らしによって汚れてしまった下着と、お気に入りの服。
自分が撒き散らした汚物で汚れた、他人の家の廊下。
そして何より再び舞い戻ってきた忌々しい体質。

色々な不安とやるせない気持ちが混ざって、もうどうすればいいのかわからなくなり、そのままの格好で泣き出す。

「ひっく……ぐすぐすっ……」

そこに、あの「牢屋」の扉が開き、武志がニヤニヤしながらゆっくりとやってきた。
悠里は武志の気配に感じながらも、うつむいたままぐったりしていた。

「うわー!悠里ちゃん、なんてことをするんだ……」

武志はなぜか少し笑いながら、この惨状を見ながら言う。
悠里は嫌悪感と羞恥心から、武志の目を見ることができない。

こんな男の前で……
もうお嫁に行けないかも知れない。
何より、人間としてのプライドが地に落ちてしまった。
絶望感でいっぱいになる悠里に、武志は追い討ちを掛けるが如く

「悠里ちゃん!ハイチーズ!!」

……!!

悠里がビクつき振り向いた時、カメラのシャッターが押されて、赤いランプが点灯したのが見えた。

(……撮られちゃった)

こんな恥ずかしい姿を。
自分が一番嫌いな人間に。
そして自分が一番恨んでいる体質がもたらした結末を。

武志はゆっくりと近づいてくる。
そして絶望に震える悠里をそのまま通り過ぎ、トイレのドアノブを雑巾でぬぐった。

「ドアノブ滑ったろ?これで滑らずに回せるから・・・」

その武志の意味不明な行動を見て、悠里は訳がわからなくなった。
悠里の体質、やってくる便意の津波、この廊下の惨状……
まるですべてを知っていたかのようなそぶりを見せる。

だが…

ギュルルルゥゥゥ……

(ま、また……!?)

再び悠里に襲い掛かる凶悪な便意。
忌々しい人間を目の前にしているにも関わらず、慌ててトイレへと滑り込む。
ドアをしっかりと閉めて、鍵をかける。

(よし、鍵はちゃんとかかるみたい)

いきなりあんなところをカメラで撮影する男である。
鍵がかからないように細工されていたり、外から覗いたりの変態行為もやりかねない。
迫り来る便意から焦る気持ちを抑えながらも、武志の人間性への警戒心を怠らない。
悠里は「それだけ」を確認し、便意の悪魔を振り払わんと、汚れた下着をおろして便器にしゃがみこむ。

「んんっ……」

ブブッ……
ベシャベシャベシャ……

ほぼ液状の便が和式の便器にたたきつけられる。
便器内の水が一気に茶色へと染まる。
トイレ内で悠里が奏でる排泄音が、外の武志に聞かれているかも知れない。
…が、そんな恥ずかしさよりも、体内で蠢く悪魔の恐怖の方が脅威であった。
そんなことを気に留めている場合ではない。

ビューッ……ビチビチッ!!

シャーシャーと悠里の小さなお尻から流れ出る液状便。
まるで体の水分すべてを出し切るかの勢いで放たれるそれは、まるで小便のようだった。

プシャァァ……

小便が終わった後のような余韻を残し、悠里の「今回の」排泄は終わった。
当たり前のように後始末に入った悠里。
トイレットペーパーに手をやると……

「あっ……」

紙が無かった。
最初に用をたした時はあったのに。
そこでようやく気づく。

これは武志の仕業であると。

扉の前に居座り、邪魔したのも、床に変な細工をして滑りやすくしたのも、ドアノブをぬるぬるにしたのも……。
すべてあの忌々しい男「武志」が仕掛けた罠であったと。

(ひどい……)

それなら、激しい便意に襲われるタイミングも知っていた?
じゃあ、武志は自分の体質をはじめから知っていたのだろうか?
すべてが武志の思惑通りに動かされていることを悟り、悠里は悲しくなった。

それよりも今の状況をなんとか凌がなければならない。

悠里はすぐさまいつも携帯しているポーチを開けて、ポケットティッシュを取り出そうとした。

(あ……あれ?)

中には両面紙やすりと、アルミホイルがぐしゃぐしゃにして入れられていた。
そして・・・肝心なものはすべて抜き取られてしまっていた。

…つまりは、換えの下着も盗られていた。

ポーチがいつものように膨れていたので、中身は無事かと安心しきっていた。
こんなところにも武志の罠が潜んでいたとは!

しゃがみこみながら呆然とする悠里。
紙やすりをつまみ、考える。
こんなもので後始末をしたら、大変なことになると容易に予想できた。
アルミホイルも表面がツルツルしているため、きれいに後始末することはできない。

「うぅ……うっ……う……」

悠里は悲しいのか悔しいのか、そのままの状態で泣き出した。
このまま後始末が終わって武志の下に戻ったとしても、何をされるかわからない。
それよりもお気に入りの服も汚れ、悠里の大切な装備もすべて没収されてしまっている。

「来るんじゃなかった……あの時無理を言ってでも麻里ちゃんとこや他のところに行けばよかったんだ……」

今更になって後悔の念が湧き上がる。
そして悠里は後始末においての最後の手段に出る。

(仕方ないよ……ぱんつで拭こう……)

ゆっくりと立ち上がり、下着を脱ぐ。
ついでに汚れたソックスも脱ぎ、予備とする。
下半身はスカート以外の衣服をまとわぬ姿で後始末をする。

なんとか後始末を終え、使ったぱんつとソックスを見る悠里。
ひどく茶色に汚れたそれを見て、ため息が出てしまう。
そしてサニタリーボックスを探すが、それも撤去されている。

(詰まっちゃうかも知れないけど……仕方がないよね)

少し罪の意識を感じながら、後始末に使った「それ」を便器の中に落とす。
「それ」は悠里の排泄した汚物を覆うようにかぶさり、視界から地獄を消し去ってくれた。
そして流す。

(……あれ?……うそ!)

流れない。
悠里にとっていつものサイクルである「後始末→流す」という当たり前のアルゴリズムが展開しない。
そうである。ここは武志のテリトリー。
さっきまで何一つとしてスムーズに展開していなかったことを思い出し、悠里は一気に焦りだす。

(こ……これじゃ……)

下着と靴下で後始末をしましたと言わんばかりの恥ずかしい情景をそのままにしなければならない。
年頃の悠里にとって、それは大きな屈辱となる。

(どうしよう……)

つまみを必死に回しても、ガコンガコンと空しく響き渡るだけで、どうにもならない。
悠里は顔を真っ青にしながらキョロキョロとする。
バケツで水を汲み、一気に流してしまう方法も考えたが、下着とソックスはその程度で流しきることはできないだろう。
もう一度拾って処分するのも、あまりの汚さにためらってしまう。

(もう……もういい!)

何も無かったかのように外に出て、さっきまでの悪夢を忘れようとする悠里。
けれど罠にはめられたとはいえ、自分のやったことは悪いこと。
なんとかきれいにしなければならないのだが、今はとてもそんな気分にはなれなかった。
後ろめたい気分が消えないまま、悠里は再び牢屋へと戻っていく。

(お母さん……早く帰ってきて……)

自分の撒き散らした汚物がそのままになっている床を通って。

(続く)


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