下痢っ子悠里ちゃん4
「大嫌いなお兄さん」(後編)
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秋元 悠里(あきもと ゆうり)
10歳 教育大付属小学校4年
身長:130cm 体重:25kg
比較的おとなしめな少女。
小学1年生の時から胃腸が弱くなり、頻繁にお腹を下すようになる。
その体質から劣等感を感じて心を開ける友人がなかなかいない。
勉強は結構できる方で、エリート小学校の中でも中の上クラスの成績。
…しかし、長いテスト時間となると下痢で集中できない事も多く、成績にばらつきがある。
矢戸 武志(やど たけし)
18歳 浪人
身長:170cm 体重:80kg
悠里の母の友人の息子。
受験に失敗してしまった浪人。
少しロリコンの気があり、怪しい行動が目立つ。
悠里に嫌われている。
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バタン……
部屋に帰ってきた悠里を、武志はニヤニヤして嬉しそうに見つめながら言う。
「あのね悠里ちゃん。さっきお母さんから電話があって、帰る時間遅くなるってさ」
悠里の顔が蒼白になる。
裸足の細い足が、ガクガクと震えるのが見てわかる。
さらに
「あれ?どうして裸足なの?」
「トイレ、紙、大丈夫だった?」
「水、ちゃんと流れた?」
悠里が気にしていることをずばずばと質問してくる。
すべて自分がしかけた罠であるとわかっているくせに、本当にいやらしい人間である。
悠里は何も答える事ができず、ただ涙を浮かべてじっとうつむいていた。
最悪な現状を写真に撮られ、最低な計略にすべて引っかかり、プライドをずたずたにされてしまった悠里。
もう何を心配していいのかわからないくらい、絶望感に押しつぶされかけていた。
そんな悠里に、更なる絶望への一撃が飛んできた。
「ねぇ、麻里ちゃんって誰?」
(え?なんでこいつが麻里ちゃんを知ってるの!?)
驚きを隠せない悠里。
元々嘘を付くことができない悠里はすぐに顔に出る。
麻里の事を知っている事と、なぜそんな事を質問してきたのかという事と。
もう悠里は訳がわからなくなり混乱してしまう。
(……麻里ちゃん?)
ポーチの中や、手持ちの荷物の中には「麻里ちゃん」の情報は一切入っていない。
なのにこの男は「麻里ちゃん」という名前を、今、言った。
(心を読まれた?)
……いや、違う。
「麻里ちゃん」という名前を少し前に声にして出した事を思い出す。
あの思い出したくもない空間の中で…
『来るんじゃなかった……あの時無理を言ってでも麻里ちゃんとこや他のところに行けばよかったんだ……』
悠里は頭の中で、混乱して散り散りになっていた思考のパズルが音を立てて組みあがるのを感じた。
(トイレの中……見られてた!?)
この男ならやりかねない。
あの時素直に招き入れるようにトイレへといざなった行為は、数々の罠にはめる事だけではなかったということ!?
真相をうっすらと知らされた悠里は愕然とした表情をして立ち尽くす。
だが、見られていたとは限らない。
発した言葉だけ聞かれていたとしても、まさか中の様子までは……
と、必死に自分の置かれた状況を良い方向に持っていこうとする悠里の心理は、次の瞬間ずたずたに引き裂かれる。
「これ……見てみなよ」
武志が自分の机の上のPC(ノートパソコン)を指差して悠里を招く。
近づきたくはないけれど、知りたくない真相を確かめる必要があると、脳裏の片隅に感じた悠里は少しずつ近づく。
タンっと馴れ馴れしく肩に手を置かれて「ほらっ」と武志と並んで見たそれは…
(うそ!全部……)
PCのディスプレイ内のウインドウの一角に、先程の悠里が嫌というほど味わった屈辱のシーンが鮮明に流れていた。
排泄の音。
悠里の表情。
排泄物の形や現状。
息む声から、問題となった「麻里ちゃん」の名を含むセリフ……。
全てがハイクオリティで再び悠里の目前に曝される。
悠里はPCを学校の授業で少しだけ勉強したことがあるが、こういった動画の編集や閲覧などのやり方は知らなかった。
初めて知ったPCによる動画の鮮明さが、こんな形で体験させられたため悠里は大きなショックを受けた。
……そしてディスプレイ内の悠里は、下着で後始末をしてそれを便器に投げ入れ、キョロキョロと不安な表情を浮かべていた。
もう見ていられなかった。
恥ずかしくて悔しくて死んでしまいたい気分になった。
「じゃあ、今……ぱんつ履いてないの?」
さらに屈辱的な質問をしてくる武志。
この男は、こんなことをして一体どうするつもりなのか?
色々な思いが脳裏をよぎり、がっくりとうなだれてまぶたを閉じていると……
ギュルッ……
(うぁ……)
下剤の効果か悠里の体質か。
もうどちらの影響なのかわからない便意がまたしても襲い掛かってきた。
自分でも、もう何度目かわからないくらいになっていた。
(もう……いや……)
どこにも逃げられない状況に追い詰められた悠里は、半分投げやりになっていた。
すぐさま「牢屋」を出てトイレに向かう悠里だが、あのトイレは紙が無い上に全てを覗かれてしまっている。
このまま普通にトイレへと入ってしまうと、わざわざ罠に飛び込んでしまう獲物になってしまう。
この状況になっても、全く動きを見せない武志が、かえって不気味に感じた。
そうなるとやはり、まだ何かあるのだろうかと考えてしまう。
悠里は迫り来る便意に耐えながら、あれこれ考えをめぐらせる。
(そうだ!外!!)
この家から出て、近くの公園や店のトイレに入れば、紙もあるだろうし何より安全である。
それにそのまま自分の家に帰ってしまえば、焚いてきたバルサンが気にはなるが、一番安全である。
玄関へと走る悠里。
しかし……
「く……靴が……無い!」
悠里が履いてきた、お気に入りの靴が無い……というか隠されていた。
あるのは忌々しい武志のものらしい靴だけが、広い玄関の土間にぽつんとあるだけだった。
下駄箱を見渡せる範囲には、悠里の靴は見当たらなかった。
考えられるのは、悠里の身長ではとても届かない、あの上の棚…。
踏み台にできるものは近くに見当たらない。
どこかから踏み台になるものを見つけ、持ってきてあの棚の上を探す事を考えたが、
でも、もし、あそこに悠里の靴が入っていなかったら…。
今の状況ではとても間に合いそうにない!
何とかしてあの「トイレ以外」で用を足さないと……
(トイレ以外……?)
ふと、考え込む悠里。
悠里は少し前の学校からの帰宅を思い出す。
あずさにトイレを先取りされたあの時を。
(そうだ……!バケツ!)
悠里はひらめいたように洗面所を探す。
広い家の中、やっと見つけた洗面所には、バケツが見当たらない。
(そんな……)
絶望の色に染まり立ち尽くす悠里。
ギュルルルゥゥゥ……
それでも便意の津波は休む暇を与えない。
何度も味わった痛みに麻痺したのか、それとも慣れてしまったのか。
悠里はさすりながら移動を始める。
ついでにその場にあった、ボックスティッシュを手にとって、万全の態勢で望む。
けれど、頭は早く排泄したい気分でぼーっとなっていた。
(もう、我慢できないよ……)
半分諦めの表情を作った悠里の目前に広がったのは「風呂場」。
ここなら……
(洗面器……!!あれなら……)
もはや他人の家であることを忘れ、とにかく被害を最小限に抑えることだけしか頭には無かった。
そこで悠里が取った行動は……
カポッ。
小さな洗面器をお尻に密着させて、その中に排泄する。
これなら飛び散るのを防ぐことができるかもしれない。
幸いボックスティッシュもあるし、液状であればバスタブに流すことができるかもしれない。
(これなら……)
今の悠里に考えられる、最高の設備であった。