ろりすかコレクション Vol.15
「痛いの痛いの、飛んでいけなの」
(魔法少女リリカルなのはA'sより)
高町なのは
9歳 私立聖祥大附属小学校3年生・時空管理局嘱託魔導師
体型:129cm 28kg 63-45-68
強力な魔力を秘めた地球生まれの中長距離砲撃型魔導師。
短めの栗色の髪をフェイトと交換したリボンで結んでいる。
まじめで明るいよい娘であり、正義の心にとても厚い。
フェイト・テスタロッサ
9歳 私立聖祥大附属小学校3年生・時空管理局嘱託魔導師
体型:131cm 30kg 64-47-67
ミッドチルダ生まれの中近距離機動戦闘型魔導師。
長い金色の髪をなのはと交換したリボンで結んでいる。
口数は少ないが、誰よりも深い優しさを秘めた少女。
アリサ・バニングス
9歳 私立聖祥大附属小学校3年生
体型:130cm 31kg 66-48-69
なのはのクラスメートにして1年生のときからの親友。
金色の髪を腰まで伸ばしている。鋭い眼差しの少女。
性格は勝気で行動派。
月村すずか
9歳 私立聖祥大附属小学校3年生
体型:128cm 25kg 62-44-66
なのはのクラスメートで、1年生のときからの親友。
ウェーブのかかった紫色の髪を腰まで伸ばしている。穏やかな眼差しの女の子。
性格は非常に内気でおとなしい。
(体型はなのはの身長を除いて推定値)
キーンコーンカーンコーン……
その日最後の授業の終了を告げる放課の鐘。勉強熱心な児童の多い私立聖祥大附属小学校でも、放課後を待ち望む子供たちの心は変わらない。
「なのはー!」
「なのはちゃん、一緒に帰ろう?」
「あ……う、うん……」
親友のアリサ・バニングス、月村すずかに声をかけられた高町なのは。だが、いつも元気な彼女にしては言葉の歯切れが悪い。リボンで結ばれた栗色の髪の房は、跳ねるように動くのではなく小さく上下している。
「なのは? どうかしたの?」
「顔色悪いよ……大丈夫?」
二人に指摘された通り、なのはの顔色は青白くなっていた。小さな体が小刻みに震えている。
「だ、だいじょうぶ…………んっ!!」
ギュルギュルギュルーーーーーッ!!
なのはの下腹部から重苦しい音が響く。
「なのは……?」
「なのはちゃん……?」
「ご、ごめんね、先に帰っててっ!!」
そう声を絞り出して、荷物も持たず教室から飛び出す。
「ねえ……なのは、おなかこわしてたの?」
「うん、たぶん……。すぐ会うと恥ずかしいと思うから、先に帰ろう?」
「そだね……」
「あぅ……」
ギュルルルルルルルッ!!
(トイレ、トイレ、トイレ…………お願い、間に合ってっ!!)
おなかを押さえながらトイレに駆け込む。
授業中からずっと我慢していた便意は、もう限界に達していた。本当ならもう少し人の来ない遠くのトイレに行きたいのだが、そんな余裕はない。
激しく音を立てて駆け下るおなかの中身が出てしまうのが早いか、個室の扉を開けてパンツを下ろしてしゃがむのが早いか。状況は一刻を争っていた。
「…………ふぅっ!!」
バタン!!
グルゴロロロロロロロッ!!
バサバサッ!!
スルルル……。
個室の扉を開けて中に飛び込み、裾の長いスカートをたくし上げてしゃがみこむ。真っ白な制服はなのはのお気に入りだが、ことこういう時に限ってはその長さと布地の多さが恨めしい。
「っくっ……!!」
薄桃色のパンツを下ろすと、小さく白いおしりが露わになる。その中心にあるすぼまりは、赤く充血して痛々しく膨らんでいた。震えるおしりの穴はそのふくらみを増す。一回り、二周り……。
ブビッ!! ブビビビビビビビビビチビチビチビチャァァァァッ!!
「ぁああっ……!!」
おしりの膨らみが限界に達した瞬間、その内側から茶色の液状物が水鉄砲のように撃ち出された。和式便器の薄い水面を直撃し、出されたばかりの汚液を跳ね上げる。
ブビブビビビビビビジャッ!! ブブブブッ!! ビィィィッ!!
ビチビチブリビシャッ!! ビュルビィーーーーッ!! ブポビュルッ!!
「やっ…………んんっ…………」
限界すれすれの我慢から解き放たれると、自分が置かれている状況、自分が生み出している状況が理解できるようになってくる。
学校の中で、教室のそばのトイレで、ひどい音を立てながら、ものすごいにおいを撒き散らしながら、水のように下ったうんちを出し続けて、茶色い汚れを便器の中、個室の床、自分の上履きに飛び散らせている……。
「…………」
青白かった顔は真っ赤になっていた。おもらしという最悪の事態は免れたものの、学校での下痢便という恥ずかしい行為。わずか小学3年生、年齢が二桁にも満たない女の子の心は張り裂けそうになっていた。
ギュルルルルルルッ……!!
「ふぐ…………くぅぅっ…………」
羞恥にもだえる間もなく、腸の奥からちりちりとした痛みが迫ってくる。少しでも痛みを和らげようと両手でぐるぐるとおなかをさするが、痛みがよりはっきりするだけだった。この腹痛から解放されるには、腫れ上がったおしりの穴を一杯に広げて、おなかの中の痛みの元を全部吐き出してしまうしかない。
「うんっ……!! ふぅぅぅっ……!!」
ブジュゥーーーーーブピッ!! ビチチチブビッ!! ドボブジュッ!!
ブピッ!! ビチビチビチビチィッ!! ビュビュビュルルッ!!
ブジュビビビッ!! ブポビュボボボボッ! ブジュブジュブビィィィーーッ!!
断続的に続く下痢便の放出。おしりの穴が開くたび、麻布を引き裂くような轟音が響く。なのはの小さなおしりから生み出されているのが信じられないような汚らしい音。だが、その音が幻聴でないという動かぬ証拠が、彼女の両足の間にたっぷりと広がっている。
ビジュブピィーーッ!! ブビブビブリリッ!! ブシュビューーーッ!!
ブリビチチチチチブゥゥッ!! ブピブピピピブプゥーーーーッ!!
ビュルッ!! ジュルブピ!! ブピブピビッ!! ブリリリリリリリッ!!
ブビュジュビビビビビッ!! ブリビュポッ!! ジュブビチッ!! ビィーーーーーーーーッ!!
「はぁ……はぁ…………」
直腸を埋め尽くしていた便意をなんとか吐き出したなのは。だが、内臓を遠火で炙るような腹痛はまったく消える気配がない。
(まだ…………治らないのかなぁ……?)
便器の中に広がった下痢便の海。これだけの量を出せば、もう出し切って下痢が治ってもおかしくないはずだった。
しかも、なのはが出した量はこれだけではない。
(朝から……もう4回目なのに…………)
登校した直後、2時間目が終わった後、昼休みが始まってすぐ、と、なのははすでに3度トイレに駆け込んで、同じようなぐちゃぐちゃの液状便を排泄していた。この放課後のトイレが4度目である。
(食べすぎじゃなくて……お魚が悪くなってたのかな…………)
なのはは前日の夜食べたお寿司を思い出していた。『闇の書』の事件を通して心に決めた将来の夢――魔法使いとしてみんなの役に立つこと――を家族に話し、驚きはあったが快く受け入れてもらえた。そのお祝いにと食べたお寿司だった。今までのこと、これからのことで胸が一杯で、何をどうどのくらい食べたか全然覚えていないが、それだけに何かあったとしたらあの食事しかない。
グルルルルル……ギュルゥゥゥ……。
「うぅぅぅ…………」
おしりから出るものが止まっても、おなかの痛みは少しも楽にならない。
(どうしよう…………これから塾もあるのに…………)
行き帰りの遠さも問題だが、授業中にもよおしたら大変なことになってしまう。さっきはなんとか10分の間我慢できたが、授業が始まってすぐしたくなったら……。
(もし、授業中におもらししちゃったら…………)
ひどい音とにおいで教室はパニックになるだろう。触れるのもおぞましい汚らしい下痢便を撒き散らしてしまったら、アリサやすずかにも口を利いてもらえなくなるかもしれない。せっかく仲良くなったフェイトにさえ、嫌われてしまうかもしれない。
(そ、そんなのぜったいやだよっ……!!)
小学3年生といえば、おもらししても「しょうがないわね」で済む年齢である。だがそれは大人から見ての話。本人にとってはまさに死活問題なのだ。特に、小さいころから「いい子」でいようと心がけてきたなのはにとっては、おもらしは人に迷惑をかける最悪の行為なのだ。
(魔法でおなか、治せたらいいのにな……)
そう心の中で思う。丸一日下痢に苦しんできたなのはにとって、あまりにも切実な願いである。
『I'm afraid not, my master.(残念ながら不可能です)』
なのはの
「……わかってるよ…………」
なのはが属するミッドチルダの魔法体系において、
活力付与は消耗した体力の回復、疲労の回復に用いられる。魔法力を生体エネルギー、つまりは熱量に変化させるものであるから、原理は攻撃魔法とそう変わらない。
外的治癒は外傷の治療である。活力を付与しても、出血によってすぐ体力が失われては意味を成さない。したがって、止血、皮膚再生などを行う必要があるが、これには応急処置程度の知識と魔力制御技術が要る。
内的治癒は内科的な病気の治療で、今なのはが必要としているのはこれである。しかし、これは体内の見えない空間で魔力を微細制御することが必要で、内視鏡手術をするようなものである。当然ながら、治癒に特化した魔導師でないと使いこなせない。
なのはは強大な魔力を持っているものの、その素質は専ら攻撃に特化している。回復魔法は初歩の活力付与が精一杯であった。下痢を治すような内的治癒は、彼女には使えない。体の中の欲求にしたがって、便器の上でおしりの穴を開く……そうして恥ずかしい排泄を繰り返し、体調が自然に良くなるのを待つしかない。
「早く治らないかなぁ……痛いの痛いの、飛んでいけ……!!」
おなかをさすりながら、願いをかける。もう神頼みでも何でもしたい気分であった。
『Syntax error: No such spell, my master.(発動失敗、該当する呪文がありません)』
レイジングハートがすぐさまエラーメッセージを返す。
「レイジングハートに言ったんじゃないの。…………あれ?」
頬を膨らませようとしたなのはは、体の変化に気づいた。
おなかの痛みが消え去っている。
(おなか……治ったの……?)
頭の中で浮かべた疑問。
それに対して……。
「…………」
……体の中からの反論は、ない。
(……治ったんだ!! そうだよ、これだけ出したん…………だもん…………)
喜びを浮かべようとした顔に別の意味での赤みが差す。
足元に広がっている恥ずかしい排泄の痕跡。完全に液状化した形のない下痢便は、便器の底一杯に広がってその下の白色を全く見えなくしている。そこから立ち上る強烈なにおい。
必死に我慢している間は羞恥心を感じる余裕がなかったが、排泄が始まったら腹痛に苦しんでいても恥ずかしさが心を満たしていた。ましてや、その腹痛の苦しみが消えたとあれば、なのはの心の中は燃え上がるような恥ずかしさで一杯である。
(は、早く後始末しなきゃ……!!)
なのはは慌てて紙を巻き取り、ぷっくりと腫れ上がったおしりを拭い始めた。
ゴボジャァァァ………………。
「ふぅ…………」
なのはがびちびちと音を立てている間に何人かの出入りはあったが、トイレに駆け込んだ時と今、個室の外に出た時は幸運にも一人きりである。恥ずかしい音は聞かれてしまったかもしれないが、なのはの顔と結び付けられないということは幸いであった。
ジャーーーーー…………。
念入りに手を洗う。紙が残り少なくて、おしりににじんだ液体の感触がはっきり手に伝わっていた。その感触を忘れ消し去るるために、石鹸を爪の間にまで行きわたらせる。
(そろそろ…………いいかな……)
石鹸で白く包まれた手を流水にさらした、その瞬間だった。
バタンッ!!
「きゃっ……!!」
「あ……っ……!!」
突然、トイレの入り口のドアが荒々しく開けられた。
なのはが十数分前に飛び込んできたときのような音である。
(ど、どうしよう……まだ、においが…………ああ、ゆっくり手洗ってなければよかったのにっ……!!)
なのはは一瞬で恥ずかしさを顔中に浮き上がらせて、恐れるように入口を見た。
「……えっ…………フェイトちゃん……?」
「…………なのは…………」
そこに立っていたのは、なのはの友達――。
悲しい運命を背負って戦い、そして解り合った親友、フェイト・テスタロッサである。
戦塵になびいていた金髪は、今は微笑みとともに彼女を彩っている。戦いだけの毎日から、日本での平和な学校生活に慣れるのは簡単ではないが、クラスメートとも少しずつ打ち解けてきて、明るい表情を見せるようにもなった。
だが、今のフェイトの表情に明るさはない。顔色は青く、内股で震えながらおなかを押さえている。……なのはが今日何度もこのトイレに駆け込んだときに見せていた姿だった。
「あ、あの、フェイトちゃん…………おなかが……?」
「……急に……痛くなって…………ごめんっ、もう…………!!」
「あっ……!!」
詳しく話す余裕もないのか、フェイトはさっきまでなのはが入っていた、一番手前の個室に飛び込んでいった。
(そ、そこは使っちゃだめっ……!!)
さっきまで自分が下痢便を排泄していた個室だから恥ずかしい、ということもあるが、もっと重大な問題がある。汚れたおしりと靴と床を綺麗にするために、個室にあった紙をなのはがすべて使ってしまったのだ。
「フェイトちゃん、あの、そこは…………」
ブビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
なのはの警告をかき消すように、フェイトが飛び込んだ個室の中から気体と液体をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような音が撃ち放たれた。
「………………」
ビチッ!! ブリビチッ!! ブビビビジュブビビビッ!! ブポビィッ!!
ブリリリリリリリビシャッ!! ビュルビィーーーーーッ!! ゴポブジュッ!!
ビリュブリブリブリビチャーーーッ!! グビュルビッ!! ブッブリッブリリリリリッ!!
(フェイトちゃん…………)
あまりにも痛々しい音。つい先刻、自らが味わっていた苦しみだけに、個室の中の様子はありありと想像できる。
「ふうぅぅっ…………くぅんっ…………」
ブビビビビブビッ!! ブジュゥッ!! ビビブリリリリリブチャッ!!
ブピーーーーブピブピッ!! ビビブジュジュドポッ!! ブリブリブビビビビッ!!
ビチャビチャビチャジャアァァァァァァーーーーーッ!! ブボビュリリリッ!!
ビチブチャビシャッ!! ブボボボボボビッ!! ブピブピブピブリビチチチチチビィーーーーッ!!
(フェイトちゃん…………がんばって…………)
ものすごい音とにおいがなのはの感覚を埋め尽くす。なのはが一生懸命片付けた個室の中の惨状が、それと同じかより大きな規模で再現されていることだろう。その惨状を生み出した親友の心を察し、彼女が早く下腹部の苦しみから解放されるよう、目を閉じて祈っていた。
「っはぁ…………はぁ…………はぁ…………」
個室の中から苦しげな声が響く……正確に言えば、個室の中から響いていた声をかき消していた排泄音が止まったのだ。
コン、コン……。
「っ!?」
「フェイトちゃん、私……」
「………………」
「あ、あの、紙……ないでしょ?」
「………………」
「……持ってきたから、ちょっとだけ開けて?」
「…………うん…………」
キィ……。
「…………あ…………」
個室の中には、なのはが予想していた通りの光景と、予想していなかった光景が広がっていた。
便器の中を埋め尽くした茶色い海、そして、便器の後端から後ろのリノリウム床に向けて叩きつけられた下痢便の跡……。
(フェイトちゃん……しゃがむ前に出ちゃったんだ…………)
「ご、ごめん、なのは……!!」
ゴボジャアアアアアァァァァッ……。
なのはの驚く顔を見て、慌ててフェイトは水を流す。だが、最もなのはを驚かせた便器の外の汚れは、その行為ではなくなってくれない。汚れたままのおしりの穴から、水滴がひとつ便器の中にこぼれた。
「ご、ごめん、紙ここに置くね!!」
なのははそう叫んでトイレットペーパーを二つ個室の隅に置き、自ら扉を閉めた。
「はぁ…………」
個室の中から響き始めた乾いた音と湿った音を背に、なのはは小さな胸を痛めていた。
(フェイトちゃんが出てきたら、ちゃんと謝らないと……。その前に、ここに入ってたことも……)
「……わかってる。なのはは悪くないよ」
「でも……ごめんね」
「なのはも大変だったんだから、気にしないで…………んっ……!!」
ギュルルルルル……。
「フェイトちゃん!? まだ痛いの?」
「…………うん…………」
「フェイトちゃん…………そうだ、私がおまじないしてあげる!!」
「え……?」
「ちょっと、じっとしてて……」
そう言ってなのはは、フェイトのおなかに右手を当てる。
ゴロ……ゴロロロロロ…………。
フェイトのおなかが立てる音が、振動としてなのはの手に伝わってくる。その振動をなだめるように、なでるように手を動かす。
「……痛いの痛いの、飛んでいけ!!」
「………………」
「…………どう……フェイトちゃん……?」
「これは……魔法…………?」
「ううん、おまじない。……気持ちだけでも、楽になるかなと思って」
「…………あ…………」
「フェイトちゃん?」
「うん……気のせいかもしれないけど、痛くなくなったみたい」
「ほんとに!? よかったぁ……」
「うん……ありがとう、なのは」
「よかった……。じゃあフェイトちゃん、一緒に帰ろう!」
気まずさを抱えていたままだった二人は、なのはの「おまじない」をきっかけに結びつきを取り戻したのであった。
「アリサちゃんとすずかちゃん、もう塾に着いてるかなぁ」
「……そうかも…………」
塾へと向かう途中にある公園。その中を駆け足で進むなのはとフェイト。魔法で飛べばもっと早いが、こんな個人的な理由で魔法に頼るわけにはいかない。
「あ、あの、フェイトちゃん、さっきのこと…………アリサちゃんたちには内緒だよ」
「…………うん、わかった」
「よし、近道しよ!」
そう言って、林の中へ歩を進めるなのは。フェレットだったユーノと出会い、魔法の力と出会ったあの林の中だった。フェイトも一歩遅れてそれを追う。
「!!」
木々のざわめきの中で、フェイトが突然歩みを止めた。
「フェイトちゃん?」
「なのは……この音……」
「音……?」
フェイトの言葉に従い、耳を澄ませてみるなのは。
…………。
…………ビッ……。
「え…………」
………………。
……ブッ…………ブボッ…………。
「うそ……これって……」
木の葉の揺れる音の向こうに響く、汚らしい音。
数十分前に、なのはとフェイトの聴覚を満たしていた音……下痢便の排泄音だった。
(もしかして……ううん、そんなこと…………)
この抜け道を知っている人間は数少ない。アリサやすずかを除いて、この道で人と会ったことはほとんどなかった。
さらに、この道は公園の中心部から離れていて、近くにトイレがない。以前一度、なのはもこの道の途中でおしっこがしたくなり、必死に我慢して塾のトイレに駆け込んだ経験がある。
その道の途中でこんな音が聞こえてくるということは……。
「なのは!」
「うん……あっち!!」
音の発生源である、植え込みの向こう側。
「あ…………」
「っ…………」
「ああ…………」
「や…………いやっ…………」
4人の少女の声が交錯した。
(アリサちゃん……すずかちゃん……)
なのはの脳裏に浮かんでいた最悪の状況が、そこに生み出されていた。
なのはの親友であるアリサとすずかが、やや離れてしゃがみこみ、水状の下痢便を地面に垂れ流していた。
しかもそれだけでなく、膝元まで下ろされた二人のパンツは、両方とも前から後ろまで茶色く染まっていた。……我慢できなくなって、おもらしをしてしまっていたのだ。二人とも育ちのよいお嬢様である。植え込みの奥に駆け込んだものの、外でパンツを下ろす決意ができず、迷っている間に便意が限界に達してしまったのだろう。
「ううぅ…………」
ビチビチビチビチッ!! ブピィッ!! ブピビィーーーーッ!!
いつも強気で胸を張っているアリサが、痛々しく前かがみでしゃがみこんでおなかを押さえている。両足の間に茶色の海を作り上げた後なのに、排泄の勢いは全く衰えず、茶色い飛沫を跳ね上げている。
「んっ……うぅ…………」
ビュルルルルルビチビチッ!! ブーーーーーッ!! ブビブビッビィィッ!!
ブチュブチュビチャァァァッ!! ブリリリリリビチビチビチビシャーーーーーッ!!
「あぁぁ……あっ…………」
ブビビビビビビーーーーッ!! ビチャブブブブッ!!
おとなしく物静かなすずかが、両足をすり寄せるようにして隠す股間から下痢便が迸る。その排泄音は、彼女の精一杯の大声よりもはるかに大きい。制服のスカートの内側に、おしりの部分から膝元にかけて茶色の汚れが吹き付けられている。パンツを下ろしながらも下痢便が全く止まらなかったという証である。
「うあぁぁ………………」
ブピブピブピブビビビビビッ!! ビュルビチビチビィィィッ!!
ゴポビュチュブビビィィッ!! ビシャビシャブジャァッ!! ブリリリーーッ!!
「うぐっ……!!」
「あぁぁっ……!!」
ビチビチビチビシャァーーーーーーーーッ!!
ブリリリリリブボゴボボボビィィィーーーーーーッ!!
ビュルルルルルブピッブピッブピッビチィーーーーーーーーーッ!!
ブボビュルルルルルブリビチビチビチビチチチチチブジュビジャーーーーーーッ!!
おもらしで茶色く汚れた二人のおしりから吐き出される下痢便は、全く勢いを失わない。
「お、お願い……ちょっと……」
「向こうに……行ってて……お願いっ……!!」
腹痛に苛まれながら、絞り出すように声を上げる。
「う、うんっ……!!」
「ごめん…………」
なのはとフェイトは慌てて、元来た道へと戻った。
「………………」
「…………」
あまりに衝撃的な光景に、二人は言葉を交わすことすらできなかった。
「…………なのは、フェイト……ちょっと、来て……」
アリサが植え込みの向こうから顔を出す。
「アリサちゃん……すずかちゃんは?」
「その…………まだ泣いてて……ちょっと……」
「そう……だよね……」
もともと恥ずかしがりなすずかにとって、外でおもらしをしてしまったということはあまりにもつらい事実だろう。このまま消えてなくなりたいとすら思っているかもしれない。
「あの…………ティッシュ、持ってる……? その……足りなくて…………」
「あ……ご、ごめん。はい……」
「これも…………」
「ありがと……。それと……その…………スカート…………汚しちゃって…………」
「あ…………そっか……着替え、持ってくるね」
「ごめん…………っう!!」
ギュルルルルルルッ……。
「アリサちゃん?」
「だ、だいじょうぶ……まだちょっと痛いけど……おかしいなぁ、どうしてこんな急に……」
「急にって……あの、いつぐらいから……?」
「この公園に入った後から…………すぐに我慢できなくなっちゃって……」
(急におなかが……フェイトちゃんもそう言ってた……)
ゴロギュルルルギュルーーーッ……。
「うぅぅ……」
「アリサ、おまじないをしてあげる。なのはから教わった、痛みが飛んでいくおまじない」
「え……」
「…………痛いの痛いの……」
アリサのおなかに手を当てておまじないを唱え始めるフェイト。
(公園に入ったころ……私が、フェイトちゃんにおまじないをしてあげた時……。フェイトちゃんがおトイレに駆け込んできたのは、私が自分で…………)
下痢の度合いと腹痛が始まった時間の奇妙な一致。これは偶然として片付けられるのだろうか。もし偶然でないとしたら……。
(おなかの痛みが……誰かのところに飛んでいく……!?)
なのはの願いは、痛みがどこかに飛んでいってなくなってほしい、だった。決して、痛みを人に押し付けて自分が楽になろうとしたわけではない。
(ああっ……!!)
純粋な願いを曲解して周りに不幸を撒き散らす。なのはには心当たりがあった。悪魔のような作用をするそんな存在――。
(ジュエルシード……!!)
なのはの頭の中で、すべての謎が一本の糸でつながった。
「……痛いの痛いの……飛んで」
「だめぇぇぇっ!!」
フェイトが口にしかけた言葉をかき消すように、なのはが叫ぶ。
その瞬間。
青い輝きがなのはを中心に広がり、森の中の静かな空間を埋め尽くした。
「っ…………」
光が徐々に収まっていく。
それと引き換えるように、小さな青く輝く点が、なのはの体から上空に次々と昇っていく。
(ジュエルシードの…………粉…………!!)
青き宝石、ジュエルシード。手にしたものに幸運をもたらし、その願いを叶える異世界の
このジュエルシードを集め、封印することがなのはの魔法少女としての出発地点であった。フェイトとの出会いも、このジュエルシード集めの戦いの中だった。なのはが集めた12個のジュエルシードは時空管理局によって封印され、フェイトが集めた9個は次元震の発動によって失われた。
だが。
発動したジュエルシードとの格闘戦、砲撃戦を重ねる中で、そのごくわずかな部分が本体から剥離し、なのはの体や衣服に付着していた。塵や埃なら入浴や洗濯で洗い流されてしまうだろうが、それ自体が魔力を持ったジュエルシードの粉末はなのはから離れなかった。そして塵が積もった量が一定値を越え、ついになのはの願いを受けて発動したのであった。
「なのは、セットアップ!!」
「うん!!」
事態を理解したフェイトが自らの発動体を握り、なのはに変身――
「レイジングハート・エクセリオン!!」
「バルディッシュ・アサルト!!」
桜色と金色。二人の体が二つの輝きに包まれる。
身に着けていた小学校の制服が転移し、一瞬だけ幼い裸身がのぞく。ひどい下痢に苦しんでいたせいか、やや下腹部がへこんだように見える二人の姿。
その体がさらなる輝きに包まれ、次の瞬間にはデバイスモードの杖を手にした二人の魔法少女が立っていた。
白い制服を基調に青いラインを配したローブに身を包む、時空管理局嘱託AAAランク魔導師、高町なのは。
体に密着するレオタード・タイプの黒い戦闘服に黒いマントをまとった、時空管理局嘱託AAAランク魔導師、フェイト・テスタロッサ。
「なのは……」
「フェイトちゃん……」
「ごめんね、また巻き込んじゃって……」
「しばらく隠れてて。すぐ片付けるから」
「うん……」
闇の書の事件の時に戦場に巻き込んでしまった二人には、魔法の力を説明してある。
目の前で変身するのは初めてだが、さほど驚きはないようだ。
「行こう、なのは」
「うん!!」
魔力を解き放ち、空中を蹴って駆け上がる。
「フェイトちゃん、動きは?」
「何もない…………もしかして、まだ完全に発動してないのかも」
「え……?」
「破片が集まっている最中……今なら、すぐに封印できるかもしれない」
「そっか! やってみる!!」
桜色のアクセルフィンを輝かせ、なのはがジュエルシードの正面に回りこむ。
至近距離でも迎撃される様子はない。
(今ならいける!!)
「レイジングハート……エクセリオンモード!!」
『All right. Exelion mode.』
以前、ジュエルシード封印の戦いを続けていた時には全魔法力を単一の魔法に振り分けるシーリングモードを用いて、ジュエルシードの封印・捕獲を行っていた。その後レイジングハートは瞬間的に魔力を増強するベルカ式カートリッジシステムCVK-792Aを搭載し、レイジングハート・エクセリオンへと生まれ変わっている。以前のシーリングモードに相当するのが、フルドライブのエクセリオンモードだ。
「リリカル、マジカル……」
なのはは全精神力を込めて呪文を唱えた。CVK-792Aのカートリッジが2発装填され、桜色の輝きが辺りを満たす。
(私が発動させちゃったんだもん……私が封印しなきゃ!!)
「ジュエルシード、
詠唱は完璧だ。なのはの魔法力、魔法制御技術ともに、以前とは段違いに成長している。
後は呪文発動の言葉を唱えるだけだ。
「ふうい……」
なのはが口を開く。長い詠唱の最後の1音節を発音しようとする、まさにその瞬間だった。
ギュルルルルルルルルッ!!
「うあああっ!?」
ねじり切られるような痛みが、なのはの下腹部を襲った。
(ど、どうして…………こんなときにっ……!!)
ジュエルシードは、フェイトのおまじないを止めたなのはの言葉を「理解」し、それを実現していた。痛みがどこかへ飛んでいくことを否定する……すなわち、自分の体にその痛みを留めておく、という意味で。
『Process abort.(呪文発動中止)』
「え……あっ……!!」
(封印が……失敗しちゃった……!?)
腹痛のために声がつまり、最後の発音ができなかった。レイジングハートに願えば発動する低位魔法と異なり、高位魔法である「封印」は正確な呪文の詠唱を必要とするのである。
(も、もう一度…………)
「リリカル、マジカル…………」
ゴロゴロゴログギュルルルルルーーーーーッ!!
「……っう!! あ、あ、あぁぁっ…………」
再び腹痛…………そして、今度は強烈な便意までもが襲ってきた。
放課後のチャイムとともにトイレに駆け込んだ時を上回る、激しく切迫した便意。
(だ、だめ、こんなことで…………封印、封印しなきゃ……!!)
「っ…………リリカル…………マジカル……」
震える声で三たび呪文の詠唱を始める。だが、彼女の集中は、今度は体の外から乱されることになった。
「なのは、危ないっ!!」
「え……」
「…………」
目の前にあったジュエルシードから、青い光の筋がなのはに向かって突き進んだ。
「あっ……!!」
『Protection(防御壁展開)』
桜色の輝きが広がり始めるのと、なのはの体に光線が直撃したのは、ほぼ同時だった。
「なのは!!」
「だ、だいじょうぶ…………え、ええっ……!!」
なんとかジュエルシードの光線を防ぎきったなのはだったが、閃光が収まった後の光景に愕然とした。
目の前に自分がいる。
まるで変身の途中のような、輝きに包まれた下着姿。その姿で……おなかを押さえ、内股で苦しんでいるなのは自身の姿が、目の前にあった。いや、それだけではない。脚を伝った不透明な液体の跡。
「あ…………あぁ…………」
なのはにはわかった。これは、「激しい下痢でおもらしをしてしまった高町なのは」の姿なのだ。あの時、トイレの中で、こんなことは絶対にいやだと思っていた姿、それが今目の前にある。
「なのは!? しっかりして……!!……ぐぅっ…………!!」
フェイトもおなかを押さえて苦しみ始めた。
「あああ…………私……わたし…………」
今日これまで、下痢に苦しむフェイトやアリサ、すずかの姿を見て、なのはが感じていたのは「同情」だった。だが、彼女たちの下痢は、なのはの身勝手な願いのせいで起こったものだった。フェイトが個室の床を汚し、アリサとすずかがおもらしをしてしまった苦しみは、今目の前にあるように、なのはが味わうべきものだったのだ。
「フェイトちゃん……ごめん……みんな……みんな……私のせい……」
涙を浮かべながら謝るなのは。フェイトはおなかの痛みをこらえてなのはの元へ向かう。
「泣かないで、なのは」
「でも……」
「なのはは悪くない、悪いのはジュエルシードだから」
「でもっ……フェイトちゃんにも……」
「責任は……私にもある。ずっとなのはと一緒にいたのに、気づかなかった」
「フェイトちゃん……」
「だから……一人で背負い込まないで。なのはが苦しい時は、いつでも代わってあげる」
まっすぐな瞳。誰よりも強く、誰よりも優しい瞳。
「…………」
「アリサも、すずかも、きっとそう思ってるよ。なのはのこと、嫌ったりしない」
フェイトの言葉と眼差しが、涙に包まれたなのはの心を溶かした。
「…………フェイトちゃん…………ごめんね…………」
「……うん……でも、泣くのはジュエルシードを封印した後……!」
「…………うん……!!」
「行くよ!!」
「うんっ……!!」
二色の輝きが弾けるように飛び去ったその空間を、青白い輝きの帯が貫く。
なのはの形をしたジュエルシードからの空対空砲撃。
(フェイトちゃん、どうする?)
(バリアの強さ次第で、戦い方が変わるから……一度、仕掛けてみる)
(うん。援護するね。……フェイトちゃんは大丈夫?)
(……?)
(その……おなか……)
(今はまだ、なんとか……なのはは?)
(私も、まだしばらくは平気……。気にしないで、集中して戦おう)
(うん)
「バルディッシュ!!」
『Assult form.』
「レイジングハート!!」
『Accel mode.』
二人の杖が形を変える。ともに戦闘の基本となる汎用性の高い形態である。
相手の性能が不明である以上、砲戦または格闘戦に特化するわけにはいかない。
「……」
なのはは自分の姿をしたジュエルシードを見据える。
(私と同じなら……強力なバリアを持った高出力砲撃仕様……欠点は、動きの重さ。)
レイジングハートを胸元に構える。
「リリカルマジカル……福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと、鳴り響け」
詠唱を開始するなのは。レイジングハートの本体、赤色の宝玉が輝きを増す。
「アクセルシューター!!」
桜色の環状魔法陣が8つ、空中に浮かび上がる。
「シュートっ!!」
可変速誘導射撃魔法、アクセルシューター。桜色に輝く弾丸が、魔法陣から射出される。直進、鋭角、放物線、さまざまな軌道を描いて、ジュエルシードに迫る。
「…………」
「かわされた!?」
8方向からの同時攻撃を「自分ならかわしきれない速度」で叩き込んだなのは。だがジュエルシードはあっさりとそれを回避した。
「それなら!!」
『Control restart.(誘導弾、制御再開)』
空過した誘導弾を制御思念で引き戻す。
「アクセルシューター・サーキュレーション!!」
速度を上げた誘導弾が、ジュエルシードの周りを高速で旋回して球形を描く。どれほど速く動いても、誘導弾に当たらずにこの球体を抜け出すことは不可能だ。
ギュルグルルルルルゴロッ……。
「く、このくらい……!!」
戦闘中にもかまわず襲ってくる便意。だがなのははおしりをきゅっと引き締めて、誘導弾の制御に集中する。なのはの体が震えても、射出した魔力弾の軌道は変化しない。完全に相手の動きを押さえ込んでいる。
「フェイトちゃん!!」
「…………うん」
上空に踊る金色と黒色。動きが止まる隙を狙っていたフェイトの姿がそこにはある。周りには金色の環状魔法陣が8つ。
「分かたれし天地、結ぶは
バルディッシュの金色の輝きが増し、共鳴するように環状魔法陣の回転速度が上がる。
「プラズマランサー!!」
その一つ一つから、輝く光の矢が放たれる。
高速直射射撃魔法、プラズマランサー。アクセルシューターほどの追尾性能はないが、速度と貫通力では上回る。
8本の魔法の矢が、ジュエルシードの直上から同時に降り注ぐ。
「…………」
ズドドドドドッ!!
「直撃っ!!」
「これでどう……!?」
「…………」
「……ごめん、効いてないみたい」
フェイトは近接格闘能力には優れるが、射撃能力ではなのはに一歩も二歩も譲る。
「……なら、今度は私がやってみる。フェイトちゃん、
「うん」
「バルディッシュ」
『Haken form.』
フェイトの杖が形を変え、先端から光の刃が伸びる。大型の鎌。フェイトが得意とする近接戦闘用の形態だ。
「行くよ」
『Yes, sir.』
そう言い残して、フェイトは姿を消したかのような速さで突進した。
「せーーーいっ!!」
「…………」
バルディッシュの輝きが空中をなぎ払い、それより一瞬だけ早くジュエルシードが回避する。
「はぁっ!!」
だが回避した先にはすでにフェイトの第2撃が待ち構えている。それをかわせば第3撃。ジュエルシードは、時折全方位射撃で牽制することしかできない。
ギュルグルルルルルゴロッ……。
「はあああっ!!」
フェイトのおなかもなのはと同じように急降下を続けている。しかしその便意を振り払うように、フェイトは光の刃を振り回す。その輝きがジュエルシードのバリアを捉え、金色に輝く火花を散らす。
近接格闘戦において、主導権は明らかにフェイトの側にあった。
「フェイトちゃん……」
なのははその様子をやや離れた位置から見守っていた。
スピードはフェイトの方が一回り上のようだ。両者の運動は、螺旋を描きながら上昇していく。
(なのは……届く?)
フェイトからの念話が入った瞬間、上空の一点が淡く輝いた。
あの点に捕獲魔法を仕掛けてあり、そこに追い込むつもりだ。
(うん、だいじょうぶ!!)
「レイジングハート、バスターモード!!」
『Buster mode.』
砲撃魔法射出用の形態にレイジングハートを変化させる。カートリッジが装填され、杖の先端に魔力が集中する。
「福音の光、永遠の光、
フェイトが示した位置ははるか上空にあり、並の魔導師の射程を大幅に越えている。
だが、なのはは並の魔導師ではない。
「ターゲット…………ロック・オン!!」
肉眼では豆粒ほどにしか見えない距離の目標を、レイジングハートの照準管制機能で捉える。あとは……。
「……フェイトちゃん……!!」
「やあっ!!」
「………………」
十数回目の攻撃をかわされたフェイト。だが、彼女はその瞬間に微笑んだ。
「万物に戒めを!! ライトニングバインド!!」
「………………!!」
光の輪が、なのはの形をしたジュエルシードの両手両足を拘束する。
「……なのは!!」
「いくよ……ディバインバスター・エクステンション!!」
レイジングハートの先端にまばゆい光が集まり、狙点へ向けて解き放たれた。
レイジングハートの主砲・ディバインバスターの改良型。超長距離砲撃魔法、ディバインバスター・エクステンション。なのはの強大な魔法力が、杖の先端から迸る。
空間を引き裂くようなエネルギーの放出。
そのエネルギーが、目標へ向けて一直線に伸びる。
(いける……!!)
(直撃だ……!!)
勝利を確信した二人。
だが、その二人の目の前で、予想外の光景が展開された。
「リフレクションシールド」
「え……」
「なっ……!?」
ジュエルシードに直撃した閃光は、本来ならそのまま突き抜けるはずであった。
だが、桜色の輝きはジュエルシード本体にわずかに届かず、その直前で跳ね返された。
「魔力反射……くっ!?」
いくつかの光条が流れ弾となってフェイトを襲う。この程度は自動防御で耐え切れるが……。
「なのは!!」
跳ね返されたディバインバスターの本体が、なのはに向けて突き進んでいた。
「あ、あっ……守って、レイジングハート!!」
『Protection powered.(強化防護壁展開)』
バリアが発動する。強大なバリア出力と砲撃出力を誇るなのはだが、自らの矛で自らの盾を撃ったらどうなるかわからない。とにかく全力で耐え切るしかない。
ズンッ!!
「くぅぅぅっ……!!」
両手で杖を握り、その先端からのバリア出力に全神経を集中させる。
攻撃と防御。両者の力は拮抗している。
(耐え切れる……)
あと数秒、この出力を維持できれば……。
ゴロギュルグルルルッ……!!
「あ、う……あぁぁぁっ!!」
その集中が途切れた。激しい便意が、なのはの体の奥底から押し寄せたのだった。出力の弱まったバリアが、勢い衰えぬ光線に貫かれる。
「きゃああああああっ……!!」
「なのはっ!!」
「……あぁ…………はぁぁぁ…………」
なのははかろうじて空中で体勢を維持していた。だが、バリアジャケットの一部が破れている。さすがに無傷ではすまなかった。
ゴロロロロロ……ギュルグルルルルルッ……!!
「うぅ……」
自由な右手でおしりを押さえるなのは。もう、そうしないと出てしまいそうだった。
(どうしよう……このままじゃ……!!)
「なのは、来るっ!!」
「えっ……!?」
「ディバインバスター、シュート」
「あ……!!」
ジュエルシードの攻撃。さっきの射撃をそのまま繰り返すような一撃だ。
「あ、あっ…………」
ギュルギュルギュルギュル……。
バリアを発動させようにも、おなかが痛くて集中できない。もし集中したら、その瞬間におしりから下痢便があふれ出してしまう。
「あああ……」
ディバインバスターの輝きが迫る。
(やられる……!?)
ドオンッ!!
「え……っ!?」
「なのはは……やらせないっ!!」
目の前に立ちふさがった黒い影が、輝きの進行を阻む。
「フェイトちゃん……!?」
「バルディッシュ、最大出力!!」
『Defencer plus. Full power』
バリアの輝きがフェイトとなのはの体を包む。だが、機動戦闘を得意とするフェイトの防御魔法はもともと大した効力はない。まして、防ぐ対象はなのはの全力射撃と同等の威力。なのはの前に立ちふさがるフェイトに、とてつもない衝撃が襲い掛かった。
「今のうちに……逃げて……っく!!」
あとがき
下痢はあまり黄金というイメージがないのですが、とりあえず黄金週間に便乗したリリカルなのは二次創作です。構想1日作業1日半という突貫工事ですが、とりあえずまとめることができました。筆者自身が無印とA'sを1回ずつ見ただけなので、あまり原作を知らなくてもお楽しみいただけるかと思います。熱血バトルアニメの雰囲気が出せていればよいのですが。
話の舞台はなのはとフェイトのチームプレーができる時期として、A's最終話直後ということにしました。筆者のお気に入りキャラである月村すずかちゃんの排泄シーンを描くために、第1期のマジックアイテムであるジュエルシードの効果でおなかの痛みを他人に移す、というコンセプトを頭をひねって考え出しています。その意味ではアリサだけが本当に巻き添えです。
一番の難題は最後の一撃をスターライトブレイカーにするかエクセリオンバスターACSにするか、というろりすか小説とは思えない問題でした。まあ、なのはの中の人曰く「魔法少女」ではなく「魔砲少女」だそうですからこれでいいのでしょう。茶色い液をこぼしながらの突撃も描きたかったのですが、カウントダウン中おもらしと「全力全開」をやりたかったので最終的にスターライトブレイカーにしました。名前も好みですし。
設定に関しては小説という形態に合わせていろいろいじっています。無詠唱の魔法についてもできるだけ詠唱をつけたのが一つで、映像のスピード感と迫力を詠唱のリズムで補おうという試みです。
小説という形態の上では、主人公の名前が一番の問題でした。ひらがなで「なのは」はどの字も助詞になりますので、文節の切れ目がわかりにくくて仕方ありません。しかしキャラクター名は動かしようがないので、なんとか読み取っていただければと思います。
本放送からだいぶ遅れて見たのですが、キャラクターはいい子ばかりだし戦闘シーンはハッタリが利いてて楽しいしで、なのははとてもいい作品でした。また機会があったら扱ってみようと思います。