(第1小節 第2小節 第3小節 第4小節 第5小節 第6小節 第7小節 第8小節 Coda)


雪色の音符

Auftakt

 五線譜の上に黒で記された音符。ト音記号に続く上の段に隙間なく詰められた十六分音符、ヘ音記号に続く下の段には六連符が連なる。白い紙に記された黒い記号の列。
 少女の目の前には、その楽譜はない。少女の頭の中にもない。何百回も練習した指の動きは、体が完全に覚えている。
「………………っ」
 可愛らしい薄いピンク色のドレスに身を包み椅子に座った少女は、一瞬お腹を両手で抱え込み、目を閉じた。
 目を開けると同時に、かすかに震える手を鍵盤に乗せる。
 右手の人差し指と左手の人差し指が黒鍵に触れた。さらにその上に中指を添えて、指先の力を正確に伝えられるように構える。
「…………」
 唇をきゅっと噛み締めた少女の指先が、2つの鍵盤を押し沈める。グランドピアノの奥、2つの鍵盤の反対側に位置する2つのハンマーが弦を叩き、103.826Hzと207.652Hzの振動を同時に発生させる。
 G#8度の和音がホールに響きわたり、少女の演奏が始まった。

【第1小節】雪の朝

 ショパン作曲「即興曲第4番 嬰ハ短調 遺作 作品66」――通称、幻想即興曲。
 この曲は、幼稚園からピアノを習い始めた北野結希の憧れの曲だった。
 初めて参加した音楽教室の発表会で、バイエルの「ピアノのおけいこ」を上手に弾いて笑顔を浮かべていた彼女は、小学校高学年のお姉さんが奏でた曲に心を奪われた。
「お母さん、今の曲なんていうの?」
「あれはね、ショパンの、幻想即興曲っていう曲よ。気に入ったの?」
「うん……。とってもきれいで、ちょっとだけ悲しそうで……弾いてたお姉さんもとってもきれいだった……」
 きらきらと目を輝かせて、演奏の余韻の残る舞台に憧れの眼差しを向ける少女。
「結希も弾いてみたい?」
「うん! でも、すごく難しそう…………」
「そうね。たくさん練習しましょう。結希も必ず、上手に弾けるようになるわ」
「…………うん。私、がんばって練習する……!」
 彼女は胸に両手を当てて、はるか遠い目標を心に刻んだのだった。

 結希はいつかこの幻想即興曲を弾けるようにと、努力を続けてきた。
 毎日家のリビングに置かれたピアノに向かい、バイエル、ブルグミュラー、ソナチネといった教本を何度も反復練習して運指や表現力を身につけていく。
 初めて幻想即興曲の演奏に挑戦したのは4年生に上がった時。片手ずつゆっくりと楽譜を追いかけるのがやっとで、上手に弾けるようになるまでの道のりはまだ遠いと思い知らされたが、結希の心は挫折ではなく高揚感に包まれていた。
 ぜったいにこの曲を弾けるようになる、と思い、高度な教本を習い進めていく陰で毎日練習を重ねていった。やがて拍数の異なる右手と左手の旋律を合わせられるようになり、超高速の運指を求められる右手と、それに加えて表現力を求められる左手の奏法を鍛え上げる。
 4年生の発表会で先生から勧められた曲を完璧に弾き終えた結希は、控えめな声色ながらも、来年の発表会で幻想即興曲を弾きたいと確かな眼差しで訴えたのだった。
 それから毎日何度も練習を重ね、迎えた1年後の発表会。1月19日は、結希の11回目の誕生日だった。
 市民会館で開催されるピアノ教室の発表会プログラムには18番目に結希の名前と、作曲者ショパンの名、そして曲名幻想即興曲が記されていた。


 発表会、当日。
 何百回も練習を重ねた大好きな曲。ことこの曲に限っては、結希の演奏技術は完璧なレベルにまで達していた。練習でも音程やタイミングを間違えることはほとんどない。強弱、リズムの表現も彼女の思う通りの演奏ができている。
 準備は万端。彼女がやるべきことは練習通りの演奏を本番でやるだけであり、技術的な心配は全くないはずであった。
 しかし、彼女の心は不安にかられていた。
 本番を前にした緊張も強く感じている。しかし、それ以上に彼女を苦しめていたのは、今日になって急激に悪化したお腹の不調であった。
 
(……………寒い………………)
 朝6時58分、いつもよりわずかに早い時間に、結希は目を覚ました。直後に感じた寒気に、ベッドの羽毛布団の中で小さな体を震わせる。いつも横結びにしている髪を解き、薄いピンクに音符の模様が書かれたふわふわの暖かそうなパジャマに、か細い体を包んでいた。
(外が……曇り…………ううん、雪…………?)
 窓のカーテンの隙間から差し込む光は弱く、徐々に覚醒していく結希の網膜に、窓の向こうの白い光景が結ばれてくる。真冬とはいえ関東地方では珍しい、雪が降り積もっていた。
(寒いの…………嫌だな………………)
 結希は寒いのが苦手だった。体を温めようとセーターを着ても、体を冷やし続ける空気の冷たさに勝てず体が震えてしまう。手が動きにくくなり、暖めないと大好きなピアノを満足に弾けなくなるのも嫌だった。そして、何より苦しいのは――。
「あ、あっ…………」
  ゴロッギュルピィィィィギュルギュルルルルルルルッ!! ゴロロピィーーーッ!!
  グルルゴロロロロロロロゴロゴログギュルルルルルルルルルッ!! グピーーーグルルルギュルルルギュルルッ!!
 結希のお腹から音程も律動もない重く汚い音が鳴り響く。同時に襲ってくる強烈な腹痛。結希は布団の中で横向きになり、お腹を抱え込んで痛みに耐えようとした。
「うぅっ…………うあぁ……」
  ゴロッゴロゴロロギュリリッ!! グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥギュルギュロロロッ!!
  ギュルルルルルルルルルルルルルルギュルピィーーギュルルルルルゴロロロロロロッ!!
  ブピッ……!! ブププッ…………プシュゥッ!!
 寒さと腹痛に震える少女に次に襲いかかったのは、猛烈な便意だった。肛門の内側に水っぽい感覚が押し寄せ、お尻を締め付けるより早くかすかな音を立てて気体が漏れ始める。
(だめ、出ちゃう…………!!トイレ行かなきゃ……!!)
 結希は強烈な圧力に弾かれるように身を起こし布団を跳ね除け、結んでいない肩くらいまでの長さの髪をなびかせてお腹を押さえながらトイレに駆け込んだ。一戸建ての家の2階、結希の部屋のすぐ横にトイレはある。

(だめ、出る、間に合ってっ!!)
  ゴログルルギュリリグギュルーーーーーーッ!! ギュルルッ!
  ギュルルルグルルルピィーーーーーーッ! グギュルピーーーーーギュリリリリッ!! グギュルーーッ!
  ブピッ!! ブプーーーッブピィ!!
 左手をお腹から離さずにトイレに飛び込んだ結希は、痛むお腹をかばいつつ、温かいふわふわのパジャマのズボンを下ろしながら便器に座り込んだ。
「うぅぅっ!!」
  ブバッブジューーーーーーーーーーーーーーッドボッドボボボボボッ!! ビュルブピブビビィーッ!!
  ビチャビチブビビビビビビビビビビィィィィィッドボボボッ! ビチャビチビチブジューーーーーーーーッ!!
  ビチブビーーーーッブピピピピピピピピビチドボドボドボーーーーーーービィィィィィィィィィィッ!!
  ビュルルルルブピピピピピピピピピピピブジューーーーーーーーーッビチャビチャッ!! ブジュブピブジューーーッビチャァァァァァッ!!
  ビチャブバババババババババババババビチチチチチチチッドボボボボボ!! ビュルルルルブビーーーーーーッビチチチチチッ!!
 次の瞬間、結希のお尻の穴が大きく開き、茶色い液状便を便器の中に叩きつけた。便器の中の水たまりが一瞬で茶色く濁り切る。さらにその上から大量の液状便が降り注ぎ、汚らしい茶色の飛沫を便器の中一杯に弾き飛ばしていく。結希の白いおしりにもいくつもの茶色い水滴が付着した。
(お腹…………いたい…………!!)
  グルゴログピィーッ! ギュロロロッ!
  グピーーギュルグルルルルピィィィィィゴロロロロロロロロッ!!
  ブビチチチチブバブビィィィィブジュブジューーーーッ!! ビュブピピピピピピピピブジューッ!!
  ブピピピッブジューーーーーーッブバーーーーーーーーッドボッドボボボボ!! ブビィィィブピーーーーッビィィィィィッ!!
  ブバッブビブピピピピピピピピブジュルーーーーーッ!! ビュルルルルルブピーーーーーーーーーーーーッドボドボドボブジュルーーーーーーーッ!!
  ビュブブブブブブブブブビィィィィィィィブビーーーーーーーーッブピブバーーーーーーーーーッ!! ビチャブビィビチチチチチチチチッビチャビチャッ!! ブピブジューッ!!
 結希は便座の上でお腹を両手で押さえて前かがみになり、両目と唇をぎゅっと閉じて痛みに耐えている。膝は楽な姿勢で軽く開いているが、時折お腹の痛みに体を縮こまらせて膝を閉じて脚を震わせている。そして、その間も大量の液状便が肛門から吐き出され続ける。既に便器の中を茶色く染め上げたほどの量を出しても、お腹が全く楽にならない。
(寒い…………暖かくしなきゃ…………)
 結希は、手の届くところにある小型のファンヒーターのスイッチを押した。お腹を冷やしてトイレに篭ることが多い結希のために父親が買ってきてくれたものだった。これで暖かい風を足元に浴びることで、暖房のないトイレで少しでも冷えるのを防ぐことができる。
「…………あれっ……!?」
 暖かい風が出てこない。結希は何度かスイッチを押したが、全く動く気配がない。
(ど、どうしよう、壊れてる……!? このままじゃ、お腹もっと冷えちゃう…………1階のトイレに行った方が…………だめ、寒い、お腹いたいよぉ…………)
  グピィィィゴロロロロロロロピィィィィィゴロロロロロロゴロッ!! グピィーッ!
  グギュルルルルルルルルルルルルルルッ!! ゴロロピィーギュルルギュルーーーーッ!
  ブビチチチチチチチビチチチチビチャァァァァァァァァッ!! ビュルルルルビチィィビィーーーーッ!!
  ブバッブジュルーーーーーーーーーーーッブバーーーーーッドボボボボボッ!! ブバッブジューーーーーーッビチィィィィィィィィィビィーーーッ!!
  ビュルルルルルルルルルブピーーーーーッブジュルビチーーーーーーードボドボドボブジュルーーーーーーーッブジュルーーーーーーッ!! ビュルルルルブピビチチチチチチチチッ!!
  ビチャブジューーーッブビブビブジューーーーーーッ!! ブジュビチブピーーッビチチチチッ!! ビチャブピーーーッブビブビブバーーーーーーーッ!!
 結希は焦って対策を考えたがお腹が痛くて考えがまとまらない。下痢は止まる気配がなく、1階のトイレに行くどころかお尻を拭く余裕すらない。とにかく、寝ている間に冷えたお腹が作り出してしまった大量の下痢便を出しきらないといけない。

「うぅ…………痛いよぉ…………うぅんっ………」
  グピィィィィギュリリギュルグルルルルルルルッ!!
  ゴロッギュルギュルーーーーッ!! ゴログルゴロピィーーーッ!!
  ビュルルブピブバーーーーーーーーッ!! ブジュビチチチブジュルーッ!
  ビュブブブピブジュルーーーーッビチーーーーーーッ!! ブビチチチチチビチィィィィィブジューーッ!! ブピピピッブバババビチチチチチッ!!
  ブビビビビブビィィィィィィィィッドボドボドボ!! ブバッブジュルルルルブバァァァァァァァァァァァァッ!!
  ビチーーッ! ビチャブバーーーーーーーーッビチャァァァァッ!! ブーーーーーーーーーッ!!
 お腹が痛くて力を入れることも満足にできない。それでも液状の下痢便が肛門から飛び出してくる。
(…………ちょっと…………落ち着いたかな…………? 今のうちに、一回拭いて、下のトイレに…………)
 一瞬だけ噴出が途切れたタイミングで、結希は一度排泄を切り上げようとトイレットペーパーに手を伸ばした。
  ゴロロロロロギュルルルルルゴロロロロロログルルルルルルルルルルルルルゴロロロロロロロロロロロギュロロロッ!! ゴロッグギュルルルルルッ!!
  グピィィィィィィィィィィィィギュルギュルギュロロロッ!! グピーーーーピィーギュルルルルグウーーーーーッ!!
「あ、あぁ、あぁぁぁ………………」
(お腹痛い、お腹痛い、お腹痛いっ…………!!)
 腸内を茶色い液体が駆け下る凄まじい轟音がトイレの中に響いた。結希は伸ばした手を戻してお腹を抱え込むしかなかった。腹痛で何も考えられなくなり、頭の中が真っ白になっていく。
「うぅぅぅぅぅ!!」
  ブバッブピピピピピピブジュルーーーッ!! ブジュビチチチッ!! ブビィィィブビビビビィーーッ!
  ビュブブブジュルルルルルルビチーーーーーーーーーーーーッ!! ビチャビチャァァァッ! ブジュブババババババビチャァァァァァァァァァァァァッ!!
  ブピピピピピピピピピピピピブバァァァッドボボボボ!! ブビチチチチチチチブビブビーッブバーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ブバッビチチチチチブバババババババブバーーッビチャビチャビチャ!! ビュブブブブブブブブブブブブジュルーーーッブピブジューーーーッ!! ブビチチブピビチッ!
 次の瞬間には、結希の肛門からまた大量の液状便が吐き出されていた。まっすぐ便器の底に叩きつけられる怒涛のような液状便に加えて、肛門から左右に分かれてお尻の曲面を滑り落ちる液状便の流れがぽたぽたと便器に降り注いでいった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………うぅぅっ…………」
  ゴロッゴログウーーーーッ!! ゴロピィーーーーグギュルーーーッ!!
  プププップピピッ…………ププッ………………ポタ……ピチャッ……!!
 結希は2階のトイレの便座に座ったまま、10分を超える時を過ごしていた。激しい腹痛に襲われ、次の瞬間には大量の下痢便を噴射する。わずかに痛みと便意が弱まることはあっても、そのまま便意がなくなることはなく、再び激しい腹痛に襲われ、後は同じことの繰り返し。
 まるで反復記号で囲まれた楽譜のように、トイレの中の彼女は何度も同じ段階に戻ることを強いられているかのようだった。その度に体力を消耗し、さらにトイレの中の冷気でお腹が冷やされていった。
(や、やっと………終わった…………)
 何回目かわからない噴射の後、腹痛はなくならないがやっと便意の波が引き上げていった。結希は温水洗浄便座のスイッチを入れてお尻を洗うと、紙を素早く巻き取ってお尻を拭き始めた。洗ったはずの肛門の周りを拭いた紙は完全に茶色に染まり、拭いたつもりがなく尻たぶに触れただけのトイレットペーパーの端が茶色になっていた。跳ね返った飛沫が広範囲に飛んでおり、さらに肛門からお尻を伝って流れ落ちた液状便が彼女の白い肌を汚している。早くトイレから出たい気持ちに反して、これらを拭き終えるのに1分以上の時間を要してしまった。
(うぅっ…………ひどい下痢……………)
 パジャマのズボンとパンツを上げ、ふらつく感覚を覚えながら便座から立ち上がった結希は、便器の中身を目にして目が眩みそうになった。大量に使った紙を、茶色い液状便が染め上げながら水の底に沈め、底の見えない茶色の沼と便器の中一面に飛び散った汚物の飛沫が強烈なにおいとともに存在を誇示している。結希は蓋を閉じて水を流し、少女が吐き出したとは思えない大量の汚物を下水に送り込んだ。

(本番の時にトイレ行きたくなったらどうしよう…………)
 冷えたお腹を少しでも温めようと自室に戻りながら、結希は心を不安が覆っていくのを感じていた。
 今日は、大事なピアノの発表会。それも、幼い頃からの憧れだった幻想即興曲を弾く大切な日だ。
 そしてもう一つ特別なことがある。今日は結希の、11回目の誕生日だった。両親はもちろん、近くに住んでいる母方の祖父母だけでなく、東京の反対側の千葉から父方の祖父母も発表会を見に来てくれ、終わったらみんなで誕生会をする予定になっていた。
 みんなが楽しみにしてくれてる。その発表会で、失敗するわけにはいかない。
(大丈夫、演奏は5分くらいだから、お腹痛くなっても我慢できる……!!)
 結希は、発表会をきちんとやり切る決意を固め、少しでもお腹を温めようと自室に戻り、布団をかぶってお腹をさすった。
 しかし、数分後にまた腹痛が激しくなって、便意をもよおしてから5分ももたず再度トイレに駆け込むことになった。それも、1階まで行く余裕がなくまた寒い2階のトイレを選ばざるを得なかった。
 実は、ファンヒーター自体は壊れていたわけではないが、頻繁に使用するため動作が安定しなくなり、突入電流が入ってコンセント部分のブレーカーが落ちてしまっていたのだった。結希は何度もスイッチを押したが動かず、母にも見てもらったがブレーカーの問題ということにたどり着けず、ファンヒーターを動かすことはできなかった。朝方に寒いトイレに篭ったことで、雪空の外気で冷やされていた彼女のお腹はさらに冷え切ってしまい、猛烈な下痢を起こし始めていた。


【第2小節】繰り返す水音

「ん……っ……うぅ…………!!」
  ピィーーーーーーギュルルルルルグウーーッ!! ギュルルッ! グギュルギュロロッ!
  ビシャビシャビシャッ!! ビシャビュルッジャーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビュルルルルルルルルルッ!! ビシャーーーーーーーーッビシャビシャビチビチビチッ!!
  ブパッビチィーッビュルビシャァァァァァァァァァビシャーーーーーーーーッ!!
  ブシャビチィッビシャビュルルルルルルルルルビューーーーーーーーッ!! ビュッビシャーーーーッビィーーーーーーーーッビシャブシャーーーッ!!
 結希は1階のトイレにお腹を抱えて座り込んでいた。洋式便器の底は固形物の見えない茶色の汚水で一杯になり、そこに新たに叩きつけられた水便が飛沫を跳ね上げ、便器の側面に無数の汚れを塗りつけている。
 着替えて朝食を終えた後にまたトイレに駆け込み、やっとお腹が落ち着いた結希はピアノの前に座り、発表曲の練習を始めた。しかし、すぐにまた腹痛がひどくなり、1回目と2回目はいくつかミスタッチもありつつ弾き終えたものの、3回目を弾いている途中で我慢できなくなりトイレに駆け込んでしまった。
(ど、どうしよう…………お水みたいな下痢になっちゃってる…………)
  グギュゥゥゥグルルギュルギュルギュルルルルルルルルッ!! ゴログルルグギュルーーーーッ!
  グピーーーーギュルギュルピィィィィィィィィィィギュルルルルルルルッ!! ギュルゴロロロロログピィィィッ!!
  ビシャビュルビチィーッ!! ビュルッビチィィィビチャジャーーーーーーーーーーーービチィーーッ!! ブピッビシャアアアッ!!
  ブジャッビィーーーーーーーーーーーーーーーッブビビビビビーーッ!! ビシャジャーーーーーービィィィィィッ!!
  ブシャビチャブシャーーーーーーーーーッ!! ビュビュルジャァァァビシャーーーービシャーーーーーッ!! 
 結希は痛むお腹をさすりながら水便を出し続ける。朝の段階では、結希の腸の中で作られていたのは固形には程遠いまでもまだわずかに粘性の残った液状便であった。しかし今は、先端を潰したホースに全開の蛇口を繋いだときのような、全く粘性すら持たない水状の便を勢いよく噴射していた。
 黒髪を頭の横にまとめ、結希の好きなピンク色のゴムで結んだいつもの髪型。ピンクのセーターは厚手の温かいものだが、しかし、結希の繊細すぎるお腹を守りきることはできなかった。冷えて急激に下ってしまったお腹はいつになく強烈な痛みを発し続け、結希はずっとお腹を両手で押さえ続けていた。膝下まで下ろしたタイツの中には、まだ汚れていない白いパンツがある。結希は前かがみになり、洋式トイレに座って水便を出し続けていた。
「っぐぅぅ……っ……!!」
  ギュルルギュルゴロロロギュリリリリッ!! ピーーーゴロゴロロロロッ!! ギュルゴロロピィーーーーッ!!
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥピィィィィ!! グピィグルギュルギュロロロロッ!! ゴロッグルルルルギュルゴロロロロロログギュルッ!!
  ブピッビュルーーーーッビシャジャアッ! ブパッビュルルルビシャーーーッ! ブピッビュルルルルルルルルルビシャアアッ!!
  ブジュビュルビュルルルルルルルルッ!! ビチビチビチブシャァァァァァァァァァァァビュルッ!! ビュビシャーーーーッ!!
  ビシャビシャビシャビュルーーーーーーーーーーーッビィーーーーーーーーーーッ!! ビュブシャァァァァァァァァァァァァビチィィィィィィィィィィビシャアアアッ!!
「ねえ結希、大丈夫……? あんまりひどいようなら、今日はお休みさせてもらった方が……」
 トイレの扉越しに母の声が聞こえる。
「……だ、だいじょうぶ…………ちょっと、お腹冷えちゃっただけだから……っう!!」
  ギュルルルルルルルルルゴロロロロロロロロロロロロロログウーーッ!!
  グギュゥゥゥゥギュルルルルルルルッ!! ギュゥゥゥグルギュルルルルルルルルルギュリリリリリリリッ!!
  ゴロロロゴロピーーーーグルルルルルルルッ!! ピィーーーーグウーーーーゴロゴロゴロッ! 
  ビュビィーーーッ……ビチィッ……ビシャアアアッ……!!
  ビュルッ……ビシャアアッ……ビュルッビィーーーッ……!! ブシャビュルッ……ビュ……ビシャッ……!!
 結希は母に心配をかけまいと、凄まじい勢いで水状便を吐き出していた肛門を必死に締め付けた。完全に噴出を止めることはできないものの、トイレの扉の外に響く音はかなり小さくできている。しかし、主旋律こそ落ち着いたもの、副旋律として低音を奏でていたお腹の音は止めることができず、その苦しげな音が一層目立ってしまうのだった。
「そう…………。本当に辛かったらいつでも言ってね」
 母がそう言い残してトイレの前を離れる音が聞こえた。
「う、うん…………っぅぅ……!!」
  ギュルピィーーーグルルルピィーーッ! ギュルピィグウーーッ!
  ゴロロロロロロロロギュルルルグルルルルルッ!!ゴロピィィィゴロロギュルピィィィグギュルーーーーーッ!!
  ゴロッピィィィィィィィィギュルーーーーッ!! グピーーーーーーゴロゴロゴログギュルルルルルルギュルピィーーーーーッ!!
  ブジャッビィーーーーーーーーーッ……!!ビュルルルルルルルル……ビュルルッ!!……ブシャビチィーーーッ……!!
  ビュルッブシャーーーーッ……ジャーーーーブシャァァァァァビシャアアアアアアッ……!! ビュルルルジャーーーービチィーーーーーーーーーッ……!! ビシャアアッ…………!!
 荒れ狂っているという形容が等しいお腹の音が響き、結希は苦しげな声すら押し殺し、お腹を抱えて腹痛に耐える。必死に締め続ける肛門から漏れ出す水状便は徐々にその頻度と量を増し、震えるお尻の穴はすでに限界を訴えていた。
「うぐっ…………んうぅぅぅぅぅっ!!」
  ゴログルルルルルルルルルルルルルルグギュルルルルルルルルルッ!! ピィィィギュルルルルルギュルギュルゴロゴロゴローーーーーーッ!
  ビシャビシャビシャビシャーーーーーーーーーーーーーッ!! ジョボボボボブジュブジュブジュブビィィィィィィッ!! ブシャブシャァァァァビシャーーッ!! ジャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
  ブジャビシャーーーーーーーーーッビュルビチビチビチビチジャーーーーーーッ!! ブジュボボボボボブシャーーーーッ!! ブシャシャシャーーーーーーーッジャーーーブシャーーッ!!
  ブジャッビュルジャーーーーーーッ!! ブパッビシャジャアアッ!! ビュルビュルビュルルルルルビシャーッ!!
  ブジャッビチャジャアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!! ブシャビチィーーーーーーッブシャーーーーーーーーーーーーッジョボボボボボブビッ!! ブパッビチィィビチビチビチジャアアアアアアアアーーーーーーーッ!!
 お腹の中の水状便が流れ下る音が響くと同時に、結希の肛門が決壊して大量の水便を便器の中に注ぎ込んだ。
「……………………」
(…………よかった、お母さんには聞こえなかったみたい…………っ、痛いっ!!)
  ゴロッギュルピィーーーーーーーグルルルルルルルルルルッ!! グギュゥグルルッ! ゴログルルピィーーーーーッ!!
  グギュルルルルルルルルルルルギュルルルルルルルゴロロロロロロロッ!! ゴロゴロゴログルルルルルーーーーーッ!
  ブシャビシャビュルッビシャアアアアアーーーーーーーーーーッ!! ドボボボボボビシャビシャビシャッ!!
  ビィーーーーッ! ブパッビチィィィィィィィビチビチビチジャーーーーーーーッ!! ビチィーッ!
  ブシャッビィーーーーーーーッビシャビシャビシャーーーーーーーーーッビチィーーーーーッ!! ブパッビュビィーーッ!!
  ジャアアアアアアッ!! ビュブシャァァァァジャーーーービシャビシャビシャッ!! ブビュジャアアアアアーーーーーーッ!!
 ほっと安堵した結希を、次の瞬間にはまた腹痛が貫き、ほぼ同時に大量の濁流が便器の中に叩きつけられた。
「………結希ったら……こんなひどい下痢なのに無理して…………」
 少し離れた廊下の端で、母は小さな声でつぶやいた。
 トイレの中からは、結希の水状便の音が激しく聞こえ続けていた。


「結希……まだ時間はあるし、少しお布団に入って暖かくして休んだら?」
「う、ううん、もうちょっと練習したいから……」
 トイレから出てきた結希は、心配げな母に声をかけられたものの、一瞬の時間も惜しむようにピアノに駆け寄った。

(この曲をずっと弾きたかったんだもん……それに、お母さんもずっと楽しみにしてたし、お父さんも仕事が忙しいのに来てくれるし、おじいちゃんやおばあちゃんも見に来てくれるし……お休みなんて言ったらみんながっかりする……)
 結希は絶え間なく痛みを発するお腹を抱えながら椅子に座り、今日の発表会を楽しみにしてくれている両親と祖父母の顔を思い浮かべた。
(だいじょうぶ、がんばらなきゃ……)
 結希は大量の水分を失って疲労を感じながらも前を向き、右手と左手を鍵盤に乗せて流れるような旋律を奏で始めた。

 午前中の3時間をほぼ全部使って、結希は練習を続けた。しかし、その中でこの後も3回トイレに駆け込み、水状便を激しく便器に注ぎ込んだ。曲を弾き終えるまで耐えてからトイレに向かっていたが、一度運悪く母が1階のトイレに入っており、慌てて2階のトイレに向かって階段を駆け上がったものの、あと一歩間に合わずトイレの前でちびってしまいパンツを汚してしまっていた。かろうじてタイツには汚れが及ばなかったため、部屋に戻ってこっそりパンツを履き替えてまた練習を再開した。その次にもよおした時は演奏を中断してトイレに駆け込み、座りながらパンツを脱いだ次の瞬間には水状便が飛び出していた。
 演奏中に、我慢できなくなってしまうかもしれない――。今日7回目の排便を終えてトイレから出てきた結希の心に、小さな不安の火が浮かんだ。


【第3小節】焦燥の三拍子

「少しだけでいいから食べておいたほうがいいわ」
 母が昼食に温かいおかゆを用意してくれた。薄い塩分が、大量の水分と電解質を失った体には心地よかったが、食べ始めると同時にまたお腹が痛み始め、半分ほど食べたところで席を立ってトイレに駆け込まざるを得なかった。

(………………雪が…………こんなに…………)
 目いっぱいの厚着をして家の外に出た結希は、一面真っ白になった世界に息を呑んだ。
 雪の少ない関東地方の平野部では、数年に一度あるかどうかの積雪。冷たく凍りついた空気が空気中の水分を冷やして雪を降らせ、降り積もった雪が空気を冷やす。
(…………寒い…………お腹……痛い…………)
  グギュゥゥゥゥゥゴロッ……ピィィゴログギュルゥゥ…………!
  ゴロッゴログルルルルルルル…………グギュルーーーーーッ……ギュロロッ!!
 肌を刺すどころか突き抜けて体の芯を直接冷やすかのような冷気。暖房の効いた家の中から雪の積もる外へ一歩出ると、そこは結希にとって極寒地獄に等しかった。
「やっぱり寒いわね……早く車に乗って。暖房を強めにするから」
 母が運転する車で市民会館へと向かう。父は午前中の仕事をどうしても休めず、仕事先から会場の市民会館に直行するとのことだった。3人家族には十分な大きさのミニバンはスタッドレスタイヤを履いており、数cmの積雪なら問題なく走らせることはできる。雪道に慣れていない母は、安全のためにスピードを落として運転していた上に、所々で小さな渋滞が起きていた。そのため、普通なら車で5分程度の市民会館までの道に15分以上の時間を要してしまった。
(お腹…………痛い………………トイレ…………!!)
  ギュルルルルルルルルピーーーーーーギュルッ!! ピーグルルルルルルギュロロロロロロッ!!
  グピィィィギュリギュルルルルルルッ!! ゴロログルルピーグギュルーーーーーッ!
 結局、結希は車の中でまた便意をもよおしてしまった。母がエアコンを全開にしてくれていたが、そもそも外気温が低すぎてエンジンの排熱が足りず、車内の温度はほとんど上がらなかった。ブランケットをかけていても気休めにすらならず、さらにお腹を冷やしてしまった結希は車を駐車場に止めてもらうまで我慢できず、市民会館の入口の前で下ろしてもらって一直線にトイレに駆け込んだ。家のトイレとは異なる和式の便器にしゃがんだ瞬間にお尻に圧力を感じて、そのまま滝のように水状便を吐き出してしまった。

 トイレから出て、大ホールの客席――またもよおした時にすぐ外に出られるよう、後方の一番端の席――に座った結希は、10分ほど後に自らの選択が正しかったことを実感した。激しい腹痛とともに駆け下る便意。結希は今日何度目かわからない苦しみに襲われていた。
  グギュゥゴロロゴロゴロッ!! ゴロロロロロロロギュルーーーーーッ!! グギュルルピィーーギュルルルッ!
  ゴロッギュルルルルルルルピィーーーッ!! グギュルルルルルルルルルルピィーーグルルルルルグウーーーーーーッ!!
(も、もうすぐ発表会始まっちゃう…………どうしよう、今行ったら開演時間に間に合わないかも…………)
 冷や汗を浮かべ、お腹を押さえながら腸の中の様子に思いを巡らす結希。開演まではあと10分。朝から何度も繰り返した排泄は長ければ10分以上に及んでおり、今トイレに行けば開演までに戻ってこられる保証はどこにもなかった。しかし、今トイレに行かなければ、休憩時間まで我慢できないことは明白だった。
  ゴロギュルルギュロロロッ!! グギュルーーッ!
  ゴロロロロロロロロロギュリリリリグウーーーッ!! ゴロロピィーーーーーピィィィィギュルルルルッ!
  グピィィィィギュルピーグピィーーーッ!! ピーーーーーーーギュルルルルギュロロロッ!! グギュゥゥゥグルルルギュルーーッ!
  プピビピピッ…………プピッブプゥーーッ……!
(もうだめ……!! ……トイレ…………行かなきゃ…………!!)
 あっという間に高まってくる便意の前に、結希のお腹だけでなくお尻も悲鳴を上げ始めた。おならが漏れ始めてしまった結希はたまらず立ち上がり、すぐ横の通路からトイレに向かって走った。

(早くっ……トイレ、トイレ、トイレっ……!!)
 大ホールの重い扉を小さな体で倒れ込むように開け、結希は外に飛び出した。脇目も振らず、すぐ近くにあるトイレの入口に駆け込む――
「あっ! 北野さーん!」
「えっ…………あ…………三崎……さん!?」
 トイレに駆け込もうとした直前に、建物の入口から入ってきた少女に呼び止められた。小学校で同じクラスの、三崎真琳。ツインテールにした明るい茶色の長い髪を肩の前に出し、鮮やかなピンクのコートを羽織って、短いスカートの下は細い足を露出している。彩度の低い実用性重視の服に身を包み、それでも寒さに震えている結希とは対照的な姿だった。
「北野さんも発表会出るんだって? あたし綾夏ちゃんに呼ばれて見に来たんだ。北野さんのピアノも楽しみにしてるから!」
「う、うん…………っ……」
(……た、楽しみにしてくれるのは……嬉しいけど……い、今は…………っ!!)
  ゴロギュルッ! グギュゥゥピィィピーーーギュリリリグウーーーッ!
  グギュゥゥゥゥゥゴロゴロロロロロロロロロッ!! グギュゥゥゥグルルルルピィーーーグギュルルルッ!!
 結希は、前かがみでお腹を押さえていた手をそっと離し、スカートの裾を握りしめて体を強張らせる。慰めを失ったお腹が一層激しく痛み、辺り一面に響き渡りそうな重苦しい音を奏でる。
「あれ、北野さん汗びっしょりじゃない? 大丈夫? 緊張してる?」
「え、あ………………う、うん……ちょっと、き、緊張してて…………」
  ゴロッギュリリリリグルルギュロロッ!! グピィィギュルグルルルルルゴログギュルーーッ!!
  ギュルルルルルルルグピィーーーッ!! ゴロッグルピィィィィィィィィィィィィィグギュルーーーーーーーーッ!! ギュリリリリギュリリグギュルーーーッ!
 照明が明るくないため真っ青な顔色には気づかれなかったが、冷や汗が顔中に浮かんでいることは気づかれてしまった。結希は、今にも漏れそうな激しい下痢を隠すため、緊張のせいということにした。もちろん緊張はしており嘘ではないのだが、真実の全てではないこともまた事実だった。
「そうだね、緊張するよねー。綾夏ちゃんがね、北野さんの曲とっても難しい曲なんだって言ってたの」
「あ、ありが……とう…………っ……」
 お尻に水っぽい圧力が押し寄せ、肛門を内側から開かせようとする。真琳の手前、お腹を押さえることのできない結希の集中力を、激しいお腹の痛みが侵食していく。
  グギュルグルルルギュリリリギュリリリッ!! ギュリッ!!
  グギュゥゥギュルグギュルルルルルルッ!! ゴログルルルルルルピィィィィィ!!
  ブピブプップジュッ……ブビュッ!! ビュル……ブブブジュッ!
「っ!!」
(で、でちゃった……!?)
 お尻から響いた水っぽい音。ホールの中で漏らしてしまっていたおならと音程や音量の差はなかったが、おしりの周りに広がる感覚が異なる。熱い液体が、膨らみ弾けそうな肛門の外側を覆っている。結希は慌てて肛門を全力で締め直したが、そこには明らかなぬるついた感触が伝わってきていた。
(うぅっ、ちょっとでちゃった…………あっ、どうしよう、三崎さんに……気づかれてっ……!?)
「真琳ちゃーん!」
「あっ、綾香ちゃん! 見に来たよ! 良かったぁ、始まる前に会えて!」
 不幸中の幸いか、結希がちびった瞬間、真琳は入口から入ってきた友達の山南綾夏に声をかけられ、そちらに駆け寄ってしまっていた。
(…………行っちゃった…………き、気づかれなかった、よね…………)
 結希はスカートの裾を握りしめたまま、真琳が自分に目もくれず離れていくのを見送った。おそらく、仲の良い綾夏の発表を聴きにきて、自分はたまたま見かけたのでついでに声をかけただけなのだろう。蔑ろにされていると感じられたが、しかし今は無関心でいてくれることの方がありがたかった。
  グピィィィグギュルルルルルルルルルッ! ゴロロロロッ!
  ピィィィィィィィグルグルルグギュルーーーーーーーーーッ!! グギュゥゥゥゥゥグルルルルルルルルル!!
(い、今のうちにトイレにっ…………)
 結希は痛むお腹をまた両手で押さえ、気づかれないようにトイレの中へ駆け込んでいった。

「だ、だめ…………だめっ…………ううぅぅっ!!」
  グピーーーーーグルルグギュルッ! ゴロロロロロロロロロピィィィィィィィィィグギュルーーッ!! グギュルルルルルルルグギュルーーーッ!
  ブジュジュジュッ!! ビュッ!! ビチッ…………ブジュビヂッ!!
 トイレの中に駆け込んだ結希。もう肛門は限界に近づいていて、水便を連続的にちびってしまう状態になっていた。もはや一刻も猶予もなく、反射的に一番手前の個室に飛び込んだ。車から駆け下りたときと同じ行動だった。
「あ、あっ……あああっ……!!」
  グギュルルゴロロロギュルーーーーーーーーッ!!
  ビチッ!! ブジュブジュッ……!!
  グギュルルルルピィーゴロゴロゴログウーーーーーーッ!
  ビシャブビッ!! ビュルルッ!! ビュルルルルルッ!!
 ドアを閉める。鍵をかける。便器をまたぐ。スカートの中に手をいれる。タイツとその中のパンツに指をかける。一つ一つの動作をするたびに、水状便がパンツの中に注ぎ込まれていく。
 ずっとお腹に押し当てていた左手を離してスカートをめくりあげる。タイツの表面はまだ汚れていないが、その下に透けるパンツには、結希の手のひらほどの大きさの茶色い染みが浮かんでいた。
「ひっ…………!!」
  グピーーゴロロロロロロロロロロロギュルグギュルルルルルルルルッ!! グピーーーギュリリリリギュルルルッ!! ゴロッゴロロロロロログウーーーーーッ!
  ギュルルルルルルルルピーーーーーーーーーグウーーーッ!! グピィィィィィィィィィィピィーーーギュルルルグピィーーーーッ!! ゴロピーーピーギュリリッ! ゴロロゴロロロロロギュルギュルギュルーーーーーーーッ!!
 左手がお腹から離れて一瞬の後、結希のお腹をこれまでにない激痛が貫いた。腸を握りつぶすような圧力が体の中で生まれ、その圧力が水便となって肛門に押し寄せる。
 もう我慢する力はひとかけらも残っていなかった。吹き飛びそうになる意識をギリギリで保って、結希は右手でパンツを引きずり下ろした。
 ほぼ同時に、絶望的な我慢を続けていた肛門が決壊した。


「――っ!! っあぁぁぁぁ……!!」
  ジャーーーーーーーーーーッビシャビシャビシャブビューッ! ビィーーッビシャビュルルルルッ! ビシャビシャビシャッ!!
  ブジャビシャーーーーーーーッビィィィィッ!! ビュルジャーーーブシャァァァーーーッブビュルルルルルッ! ビチャビチャッ!!
  ビシャビチャブシャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャァァァァァジャーーーーーービュジャーーーーーーッ!!
  ビュビシャーーッジャーーーーーーーーーーッ!! ブパッジャーーーーーーーーーービチィーーーーーーッ!! ビシャアーーーッ!
  ブパッビシャジャーーーービュビシャーーーーーーッ!! ビュルッブシャーーッジャーーーーーーーーーーーーッ!! ブジャッビシャアアアッ!
 高速度で肛門から噴射された水便が、放物線ではなく直線を描いて個室の仕切り壁にぶつかる。便器に吸い寄せられるかのようにしゃがみ込む結希のおしりは少しずつ床面に近づき、水便の落着点を壁から壁の下の隙間に、そして個室内の床面へと変えた。上から降り注いだ水便の飛沫と床から跳ね上げられた飛沫が衝突し散乱する。便器の後方は、一瞬のうちに茶色の地獄絵図と化した。
「ひぁ……………うぅぅぅっ…………!!」
  グピィィィィィィグルルルルルルルルグギュルーーーーーーーッ!! ゴロゴロギュルッ!!
  ゴロッゴロピィィィィゴロロロロロログルルルルルグギュルーーッ!! ゴロロロロピィーーギュルーーッ!
  ブシャビシャーーッビシャァァァァァァァブビューーッ!! ビチィーッビチィーーッビュルルッ! バシャバシャバシャッ!!
  ビュルルルッビュルブシャーーーーッ! ブピッジャァァァァァビィィィィィッ!! ブシャッビチィビチビチビチビィィィィィッ!
  ビュジャァブシャーーーーッビュルルルルッ!! ビシャビチャジャアアアアアアアアアアッ!! ビシャービィィィィlッ!! ブシャビシャーーーーーーッ!
  ブシャッブシャビシャビシャーーーーッ!! ブシャッジャーーーーーーービチビチビシャーーーーーーッ!! ビシャブシャーーーーッビチィィィィィィィビュルッビュルーーーーーーーーーッブシャーーーーーッ!!
 崩れるように便器にしゃがみこんだ結希。止まらずに迸り続ける水便がタイル張りの床から便器の縁を捉え、便器の中へと注ぎ込まれていく。激しい腹痛の中でも、水状便が便器の縁を直撃して盛大に跳ね返った飛沫がお尻に広がった冷たい感覚は鮮明だった。
 惨めさを感じる間もなくまた腹痛が結希の小さな体を貫く。あまりの痛みに目を開けていることができず、閉じたまぶたに涙を浮かべ、お尻の穴を全開にする。お腹が痛くて力を入れていないのに、これまでに押し寄せていた圧力で肛門から勝手に水便が噴き出していく。便器の中は一瞬にして茶色の汚水に埋め尽くされた。固形物の全く見えない完全な水便だった。
「っくぅぅ………」
  ゴロギュルピィーーーッ! ピィーグルゴロロッギュルゴロロロロッ!! ゴロギュルギュルゴロピィーーグウーーーーーーッ!!
  ギュルルピーーーーーギュルグギュルルピーーグルルルルルルルッ!ゴロロロロギュルルルルルルルルルグギュルルルルルルルルルルルッ!!
  ブシャッブシャァァァァァビチャビュルーーーーーーッ!! ビュルビシャーッブシャーーッ!
  ブシャジャーーーーーーーーブビューーーーーーーーーーーーーッ!! ビュッビシャーーッビィッ!!
  ブシャジャァァァァァァァァァビチィーーーーーーーーーーーッ!! ビュルッビュルーーーッブシャーーーーーーーーーッ!!
  ビュルッビチャビシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! ブシャビチャビューーーーーーーーーーーーーーーービチィーーーーッ!!
 腹痛に耐えながら茶色の水を便器の中に注ぎ続ける。便器にまたがった少女の幼い股間の奥から、凄まじい勢いの水状便の滝が便器の中に流れ落ちていく。重い病気や食中毒などではなく、ただお腹を冷やしてしまっただけなのに、それだけで結希のお腹は壊滅的な下痢になってしまっていた。
「うぅ…………うぅぅぅ…………んっく…………っ!!」
  ギュルルグルルルルルルルルグギュルルルルルルルルッ!! グギュゥゥギュリリゴロゴログギュルルルルルルルルルルルルルッ!!
  ゴロピーーーーーーーーギュロロロロロロロロロロロロロロロッ!! ゴロッピィィギュリリギュルッ!
  ビシャビシャァァァァァジャーーーーーーッ!! ブパッビチィーッジャァァビシャーーーーーーーーーッ!! ブジャッビュルルルルルルルルルルビィィィィィィィィィビシャーーーーーーッ!!
  ジャーーーーーーッビチビチビチブーーーーーーーーッ!! ブジュビジュブジュグジュジュジュジュッ!! ブシャァァァァァァビチビチビチッビィーーッブビッッブビビビビビッブビィィィビチッブビィーーーーーーーーッ!
 勢いよく吐き出されていた液体に突然気体が混ざり炸裂音を立てる。ガス混じりの水状便が、真下だけでなく斜め後方側方にも降り注ぎ、便器の縁を斜め上から汚していく。横方向の初速度を持った汚水が跳ね上げた飛沫は便器の側面を飛び越え、結希の靴とタイツを汚していった。

「はぁ、はぁ、はぁ……っうぅぅぅ……!!」
  ギュルッ! ゴロロピィーーピィィゴロロロロギュロロロロッ!
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゴロゴログウーッ!!
  ビュッビュルル…………ビチィィビューーービィーーーーーッ……!!
  ブシャッ……!! ビューーーーーーッ……ビュッビュルーーーーッビシャビシャ……!!
 肛門の手前に押し寄せていた水便を吐き出し終えた結希は、止まない腹痛をなだめながら息を整えた。腹痛と便意に支配されていた思考回路が、徐々に落ち着きを取り戻していく。

「あ、あああ…………」
(ど、どうしよう、汚しちゃった……!!)
 一息ついた結希が最初にしたのは、後ろを振り返ることだった。そして、結希は文字通り目を覆った。壁にはわざと汚したかのような水状便の炸裂痕。止まることなく下方へ移動した水状便は扉の下を埋める金属部分に流れ落ちて大きく半円形の池を作っている。便器の後方の床にも叩きつけられた水便が後方に向けて飛沫を飛び散らせている。水便の川は便器の縁を塗りつぶして便器の中まで続いていた。
 そして、膝まで下ろしたパンツの内側には、ちびったという表現ではすまない水状便の汚れが染み込んでいた。白いコットンパンツのクロッチの後ろの部分は、端から端まで茶色に染まっている。その汚れはお尻側に広がり、蛇行しながら後ろのゴムにまで達している。悲しいことに見慣れてしまっている、漏らしながら脱いだパンツの姿であった。
「あっ…………!!」
 結希は慌ててパンツをタイツの内側から引き剥がした。厚く吸水性の高い子供用のコットンパンツは、ある程度の量を漏らしても吸収して外に汚れが広がらないが、放置すると徐々に染み込んでしまい、表面にも水分が滲んでくる。タイツまで汚したら外に出られなくなってしまう。幸い、タイツにはうっすらと茶色い色素は滲んでいたものの、本格的に汚水が染み込むには至っていなかった。

「ふぅ………………あっ………………ぅうぅぅううっ!!」
  グギュルルルルルルルルピィーーーーーーーーーーーーーーギュルルッ!!
  ゴロロロロロロログピーーーーーーーグギュルーーーーーーーッ!! グギュゥゥピィーーーーーーーグギュルルルルルッ!!
  ビュッブシャァァァァビュルルルルジャアアアアアッ!! ブシャッビシャアアアッ! ビシャーーッ!
  ビュルッビシャーーーーージャアアアアアッ!! ビィィィィィブジュジャーーーーーーッ!! ブジャッビシャビシャビシャアアッ!!
  ビュルッビシャビチィーーーーッ!! ブジャッビューーーーーーーージャアアアアッ!!
  ビィーーーーッビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!! ビシャビシャビシャーーーーーッ!!
 安堵のため息を漏らした結希を、また激しい腹痛が襲う。体が強張ると同時に、さっきの勢いを上回るほどの大量の水状便が噴射された。
「あぁぁぁっ…………」
  ゴロロギュルグピィーーーーーーッ!! ギュルルルルルルルルルルルゴロピィィゴロロッ!!
  グギュゥグルルピィーゴロロッ! ゴロッギュルピィィィィィィィィィィィゴロロロロロロロロロロロログギュルルルルルルルルルルッ!! ゴロッピィーーゴロッ!!
  ビシャビィィビシャアアアアアアアアッ!! ジャーーッビシャビシャビシャブビビビビビッ!
  ブシャビィィビュルジャーッ!! ブシャッブシャァァァァァァァァァァァブビューーッ!! ビュジャーーーービシャーーーーーッジャーーーーーッ!
  ブパッビューーーーーーーーーーーーーーーーーービィーッ!! ブジャッビシャァァァビィーーーーッビシャーーーーーービィーーーーーーッ!!
  ブジャッビシャビシャーーーーーッ!! ブピッビシャーーービシャブビューーッ! ブピッビシャーーーーーーーーーーービシャアアアアアアアッ!! ブジャッビュルブシャーーッビィィィィィィィィッ!
 お腹の痛み、狂おしい便意、激しい噴射。出しても出しても楽にならない下痢は、哀れな結希の体を楽器として終わらない三拍子を奏で続けていた。


 結希が激しい排泄を始める少し前、トイレの外では真琳と綾夏がしゃべっていた。綾夏は長い髪をドレスを着るのに合わせて予め結い上げている。服装はコートと長ズボンで、演奏前に体を冷やさないように注意を払っているようだった。
「ごめんね遅くなって、準備に時間かかっちゃった」
「気にしないで。お着替えとかあるから大変だよねー。可愛いドレスなんでしょ?」
「……うん、まあね…………あれ? 北野さんは?」
 大きな荷物を手で撫でながら綾夏は辺りを見回した。声をかけた時、真琳は結希としゃべっていたはずだった。
「あっ、いなくなっちゃった。…………たぶんトイレだよ」
「あ、そっか…………緊張してトイレ近くなっちゃったのかな」
「ううん、たぶんお腹壊してるよ」
 にやりと不敵に笑う表情。真琳が浮かべた表情は小学生らしからぬ悪意に満ちていた。
「えっ…………」
「最初見た時お腹押さえてたし、汗びっしょりだったし、声もめちゃくちゃ焦ってたし……自分では隠してるつもりだったんだろうけど、あれじゃバレバレだよ。あとね、白っぽいタイツ履いてたんだけどさ、この辺が茶色く汚れててびっくりしちゃった。たぶん朝からひどい下痢なんじゃない?」
 結希が必死に隠そうとしていたお腹の不調は、あまりにもあっさりと真琳に見破られていた。
「そ、そう…………可哀想だね」
「ねー。あれじゃピアノに集中できないんじゃない? もしかしたら、演奏中に漏らしちゃうかも」
 真琳が口にした言葉にびっくりして、すぐ視線を落とす綾夏。
「漏らすって……さすがにそんなこと……本当に具合が悪かったら休むと思うし……」
「そっか。それなら綾夏ちゃんの不戦勝だね」
 不戦勝、という言葉を聞いて、綾夏の頬がわずかに引きつった。
「っ……べ、別に、発表会は勝ち負けじゃないから。それに、やるならちゃんと技術で勝たないと……」
「ふーん。まあいいけどね」
『本日は雪の降る中、みそらピアノ教室の発表会にお越しいただきありがとうございます。今日のために練習をしてきた生徒たちの一生懸命な演奏を、ぜひ温かくお聴きください』
「あっ、そろそろ発表会始まっちゃう。ほら、席に戻ろう?」
「はーい。……楽しみだね」
「…………………………勝ち負けじゃ……ない………………けど……」
 またにやりと邪悪な笑みを浮かべる真琳を、綾夏はたしなめることはせず客席へ戻った。


「うぅ……………うぅっ、ひっく…………うぅぅぅ…………」
 個室の中では、結希がしゃがんだまま涙を流していた。肛門からお尻の曲面を伝って流れ落ちた水便が、ぽたぽたと便器の中にこぼれる。何度も何度も繰り返した激しい排泄の末に、ようやく肛門をこじ開けようとする便意からは解放されたが、汚れを拭くことはできていなかった。
 トイレットペーパーホルダーには、茶色い芯だけが残されていた。運悪く、個室の紙がなかった――というのは、事実とはわずかに異なる。紙がなかったのは結希のせいだった。さっきこの個室で用を足した時に、肛門を汚しきりおしりにも跳ね返った水便を拭くために大量に紙を使ったために、その後数人が使っただけで紙がなくなってしまったのだった。
 便器の中には、凄まじい量の水状便が茶色の海を作り上げていた。かなりの量が便器の底に流れ込んだはずだが、それでも便器の白色が全く見えなくなるほどの大量の水便が、和式便器を茶色に染め上げていた。四方八方に飛び散った飛沫と、便器の後ろの床、壁にぶちまけられた水便は、とても小学5年生の小柄な少女が出したものとは思えない惨状だった。
(片付けなきゃ………………それで、着替えて………………あっ!?)
 結希は隣の個室からトイレットペーパーを持ってこようとして、汚れたパンツを脱ぐことにした。そのためにまずタイツを脱ごうとして、結希はタイツの内側の汚れに気づいてしまった。和式便器の中に吐き出した水便が跳ね上げた飛沫が、無数の汚れでまだら模様を作り上げていた。
(こ、これ…………もしかして、さっきから…………!? じゃあ、三崎さんに見られちゃった……!?)
 あまりにも恥ずかしい下痢の痕跡を見られたかもしれない。結希の心を焦燥と絶望が包んでいった。

(弾くの…………あきらめたほうがいいのかな…………でも…………)
 途方に暮れる結希の心を暗い感情が満たす。
(もし、お休みして、三崎さんに噂にされちゃったら…………)
 結希の心には大きな心配事が生まれていた。三崎真琳はクラスの中心的な人物だが、良くない話も聞いたことがある。自分より目立つ気に入らない女子を、悪い噂を立てて蹴落としている、と。噂話が好きではない結希の耳にも入るくらいだから、おそらく皆の共通認識なのだろう。
 実際にその場面も見たことがある。学芸会で主役に選ばれた女の子の悪い噂を流しているところだ。それも、「家族で遊園地に出かけた帰りに車の中でおしっこを漏らした」ということを低学年の弟から聞き出して広めまわっていた。そのやり方にも怯えていたが、結希もその数週間前に遠方の祖父母の家に車で行く途中に渋滞に巻き込まれて、サービスエリアに着いて車を降りた瞬間に下痢便を漏らしてしまっており、もしかしたらそれを噂にされるのではないかと怖くて仕方がなかったのだった。その時は幸いにして杞憂に終わったものの、今回はそうではないかもしれない。
『北野さんお腹が痛くてピアノの発表会休んだんだって』
『難しい曲だから実は弾けなくて仮病を使って休んだのかも』
『あっ、でも下痢してたのは本当だったみたい。トイレに行った後タイツがすっごく汚れてたんだよ』
 そんな風に噂されたら、もう学校に行けなくなってしまうかもしれない。
(だ、だいじょうぶ……ちゃんと演奏できるから。そうすれば、別に…………漏らしたとこ、見られたわけじゃないから…………)
 結希は不安を振り切るように、本番に臨む意思を奮い立たせた。汚れたパンツとタイツを脱ぎ、慎重に外を覗き人がいないことを確認してから隣の個室に入り予備のトイレットペーパーを取ってくる。拭かずに立ち上がったことで汚れてしまったお尻を綺麗にし、汚してしまった後方の壁と床を掃除し、パンツとタイツの汚れを可能な限り拭っているうちに、トイレットペーパー一巻きはほとんどなくなってしまった。
 こんなこともあろうかと、結希は替えのパンツと黒いビニール袋を一枚スカートのポケットに入れてきていた。真っ白なパンツに履き替え、汚れたパンツとタイツを袋に入れて、結希は涙で赤くなった目元を拭いながら個室を出た。
(だいじょうぶ…………だいじょうぶだから…………)
 自分に言い聞かせるように心のなかでつぶやきながら、結希はいつもの2倍以上の時間をかけて手を洗った。
 結希が客席に戻ったときには、すでに開会の挨拶は終わり、幼稚園の生徒たちの演奏が始まっていた。


【第4小節】涙の前奏

「うぅっ…………」
 結希はお腹を両手で押さえながらトイレから出てきた。開演前にクラスメートに引き止められて下着と個室を汚してしまった後、涙を拭きながら後始末をして客席に戻ったものの、席に座って間もなくまたお腹が痛くなり、10分もしないうちに結希はまたトイレに立っていたのだった。

「結希、本当に大丈夫? 朝よりひどくなってるじゃない……」
 客席に戻ろうすると、ホールの外で母が待っていた。もう、出番に備えて着替えをする時間になっていた。
「今ならまだ大丈夫だから、無理しないでお休みした方が……」
「だ、大丈夫っ……練習はちゃんとできたし……トイレ行きたくなっても、5分くらい我慢できるから…………」
 発表会を辞退することを勧める母の言葉に、結希は小さく首を振って答えた。
「そう…………どうしても弾きたいの?」
「…………うん……弾きたい……」
 弾きたい、という気持ちは本当だった。だが、それとは別に、弾かなければならない、という思いも結希の中で大きくなってしまっていた。もし、ここで逃げ出したら、『下痢で発表会を休んだ』という噂がクラス中、いや学校中に広まってしまう。
「わかったわ。じゃあドレスに着替えましょう。でも、本当に我慢できなくなったら、直前でもいいからトイレに行かせてもらいなさい、ね?」
「う、うん…………」
  ゴロピィィ………ギュグルルルルッ! ギュルッ……グギュルッ……ギュルーーーーーッ!
  ゴロギュリリリギュルルルルルルグギュルーーッ!! ギュルギュルギュルルルッ!
 結希はお腹から苦しげな音を鳴らしながら歩き出した。学校中で心ない噂をされる暗い光景を思い浮かべてしまった結希は、精神にさらなる負荷をかけてしまい、ただでさえ最悪の状態にあったお腹の具合を限界を超えて悪化させてしまっていた。

 結希は舞台脇の通路を通り、女子用に指定されていた楽屋に入った。念のため着替える前に楽屋を出てすぐのトイレに行き、和式の便器にしゃがんだ瞬間にお腹がごろごろと鳴り響き、お腹を強く抱え込むと同時に滝のように水状便を吐き出してしまった。結希は冷え切った体を震わせながら便器にしゃがみ続けた。
「結希……タイツどうしたの?」
「……あっ…………え、えと…………その……………」
 楽屋に戻ると、結希の両足を覆うタイツがなくなっていることに母が気づいてしまった。照明が暗い客席では気づかれなかったが、白色光の下では一目瞭然だった。
「もしかして、間に合わなくて……」
「だ、大丈夫、間に合ったの…………その、うまくしゃがめなかったから、脱いじゃって……」
 結希は慌てて取り繕った。内側が茶色い飛沫で汚れてしまったタイツは、黒いビニール袋に入って鞄の底に押し込まれている。漏らしたわけではないが汚してしまったことに変わりはなく、結希は正直に伝えることができなかった。
「……それならいいけど……」
 一層心配そうな眼差しになった母を見て、結希は申し訳ない気持ちになった。

(ドレスはぜったい汚さないように、気をつけないと…………)
 着替えを始めた結希は厚手のセーターとスカートを脱いで、半袖シャツの下着を脱いだ。本当はここで脱ぐはずだったタイツは既に汚れ物として鞄にしまわれている。クラスで一番小さな結希の体を包むのは厚手のコットンパンツ一枚になり、膨らみのない胸と、度重なる下痢のせいでややへこんでみえるお腹が楽屋の張り詰めた空気にさらされていた。
(寒い…………早く着替えなきゃ…………っ!!)
  グピーーグルルルルルルルルゴログギュルーーーッ!!
  ゴロッゴロゴロロッ!! グピィーーーーーゴログギュルーーーーッ!!
 ドレスの下に着る光沢のあるキャミソールのようなスリップをかぶったところで、結希はお腹を押さえてしゃがみこんでしまった。
(だめ、お腹痛い…………トイレ……!!)
  グピーーゴロゴロロロッ!! ギュルーッ!!
  グギュルルルルルギュルルルルルルルルーーーーッ!! ギュロロロロッ!
 普段着を着直そうとしたが、腹痛と便意が輪唱のように押し寄せてきてとてもそのような余裕はなかった。
「ごめんなさい、ちょっとトイレっ!!」
「結希!?」
 結希はスリップとパンツだけの姿で楽屋を飛び出し、トイレに飛び込んで水状便を便器の中に叩きつけた。素足に無数の水状便の飛沫が跳ね上げられてくる冷たい感覚に震えながら、5分ほどで何とか水便を出し終えて楽屋に戻り、結希はやっとドレスを身につけることができた。


「……うん、とっても似合ってるわよ、結希」
「あ…………ありがとう、お母さん」
 ドレスを身にまとった結希は、小さなお姫様のような可愛らしい姿であった。
 いつもと同じ横結びの髪をゴムではなくピンクのリボンで結び、肩の高さまで伸びるリボンの先端がひらひらと舞う。ドレスは、膝丈の薄いピンク色。同じ色のリボンが腰の後ろ側で結ばれ、細い腰の形を目立たせる。そのリボンから下のスカート部分は、内側に仕込んだ白いパニエがドレスの裾をふんわりと膨らませている。袖のないドレスで寒くないようにと、肩から両手首までを白いボレロが覆っている。足元はドレスと同じピンクのフォーマルシューズに、膝下で小さくフリルが広がる清楚そうなハイソックス。
 ふりふりの飾りや鮮やかな色等のいかにも可愛いという感じの衣装ではないが、落ち着いた色使いや控えめな形状は、おとなしい印象の結希にとても良く似合う衣装であった。大きな鏡で、正面と背中を見て、こんなきれいな衣装で舞台に立てることを嬉しく感じ、朝に目覚めてから沈んでばかりだった心が初めて温かくなるのを感じた。

  ギュル…………ゴロッゴロロロロロゴロゴロッ!!
「…………!!」
 だが次の瞬間、心と体が一瞬にして冷たくなった。もう今日何度目かもわからない下痢。お姫様のような綺麗なドレスに着替えた彼女の体の中では、今も汚い水下痢が作り続けられていた。
(ど、どうしよう…………ドレスを汚しちゃったら大変だし…………我慢、しないと…………)
  グギュルルルグウーーーッ!! ギュルルルルルルルルギュリリリゴロロロゴロロッ!!
  ゴロッギュルルルギュルーーーーーーーーーーーーーッ!! ピーーーーーーーゴロゴロゴロゴロッ!!
 今すぐにでもトイレに駆け込みたい気持ちをこらえ、お腹を押さえて苦しみに耐える結希。
(で、でも……がまん…………できない…………もれちゃう…………!!)
  ゴログルルルグルルゴロロロッ!! ゴロゴロロロロッ!
  ピーーグルルグギュルルルルルルルルルルルルルッ!! グギュルゴログピィーーーッ!!
 何度もお腹の音が轟くたびにお尻に押し寄せる圧力が強くなり、我慢しようという意思はあっという間に打ち砕かれてしまう。
(ど、どうしよう、一回脱いでトイレに…………で、でも、もう我慢が…………!!)
  グピーーゴログギュルルルッ!! ギュルッ! グギュルッ!!
  グピーーーーギュルゴロゴログウーーッ!! ゴロロロロログルルルルピィィィィィッ!!
  ブプッブピッ……ブッ!! プジュッ!! プゥブピビピピッ!
 ドレスを汚さないためには一度脱いで着替えるべきだった。しかし、おしりに押し寄せる圧力はその時間を与えてくれない。あっという間に肛門が圧力に屈して水っぽいおならを漏らし始める。
「お、お母さんごめんなさい、トイレっ……!!」
「えっ……もう? 我慢できないの?」
「…………う、うん……」
 結希はお腹を押さえて涙を浮かべながら弱々しく答えた。きれいなドレスに身を包んだ小さな体が哀れに震えている。
「そのままでいいから行ってらっしゃい。一緒に入って手伝ってあげようか?」
「ひ、一人で大丈夫っ…………うぅっ!!」
 弾かれるように楽屋を飛び出した結希は、ドレスの裾をはためかせながらトイレに駆け込んだ。

(はやく、はやく、トイレっ……!!)
  ゴロピィーーーギュルルッ!! ゴロロロロピィーーーーーーギュルギュルゴロッ!
  グピィィィィィギュルルルルルゴログルルルルッ!! ゴロッギュルグウーーーッ!! グルッ!
  グギュゥゥゴロロロロギュルギュルーーッ!! ゴロロロロロロロピーーーーーーーギュルルルルルルルギュロロロロロロッ!!
 灰色のタイル張りに和式便器の個室という古めかしいトイレに、似つかわしくない美しく可憐なドレスに身を包んだ少女が飛び込んでくる。苦しげに顔をしかめ、お腹を痛々しいほどに両手で強く抱え込んで個室に飛び込み、扉を閉めて鍵を掛ける。
(汚しちゃだめ、汚しちゃだめっ……!!)
 便器をまたいだ結希は、ドレスを汚さないよう細心の注意を払って態勢を整えた。ボレロの袖をまくり、前かがみになってドレスの生地をたくし上げ、パンツを下ろした。ドレスの内側にあるパニエという膨らみのあるペチコートが元の形に戻ろうとするのを手で押さえるために、前側の生地をまとめて右手で押さえ、後ろ側は左手で引っ張るようにして押さえる。本当は痛むお腹を押さえ続けていたかったが、そうしたら前か後ろかが便器の近くにまで下りてしまい飛沫で汚れることは目に見えていた。
「っう…………くっ…………」
  ゴロギュルグルグギュルーーッ! グピィィィィィグルピィーグピィーーーッ!!
  …………ジャアッ……!! ビチィーッ……!! …………ビュルッビィーーッ……!!
  グピーーーーーギュルルルルルルルギュルーーーーッ!! グピィィィーーーーッ!
  ビシャビシャッ!! ………………ビィーーッ……!! ブビュビュルルルッ……!!  
  ギュルルルルルギュルグピーーーーーゴロロロロロロロロログルルルルルルルルルルッ!!
  ……ビチィーッ……!! ……ビシャブシャーーッビチィィィッ!! ブパッ!! ブシャーッ…………!!
 便器にしゃがんだことでおしりの穴が勝手に開き、断続的に水便を漏らしてしまう。本当は今すぐにでも肛門を全開にして水便を吐き出してしまいたい。しかし、そうしたら勢いよく跳ね上げられた飛沫が、必死に守ろうとしているドレスを汚してしまう。結希は、お腹の痛みと腸内の圧力に耐えながら、涙ぐましくお尻の穴を締め付け、何度も下や後ろに視線を移し、ドレスの状態、足と便器の位置関係を確認した。
(だ、大丈夫、これなら…………)
  ゴロギュルグギュルーーーッ!! ゴログギュルーッ! ゴロッ!
  …………ビュルッ……!! ビシャビシャビシャアッ……!!
  ……ビュルッビチィーッ……ビィーッ……!! ビュルッビチャビチィーーーーーーッ……!!
 安全を確認した結希は少しずつお尻の穴を緩める。水状便がおしりから便器の中まで一瞬水柱を作りすぐに消えて茶色い雫が肛門から横に垂れおしりの肌を伝っていく。その水滴が便器の中に落ちるより早く次の水流が流れ出る。
「っう……!? あ、あぁぁ……っ……!!」
  グギュルルルルルルルルルルルルルルルルグルルゴロピーーゴロロロロロッ!! グギュゥグギュルッ!
  ギュルルルルルルルルルギュルギュルピィーーーーーーーーーーーーーッ!! グギュルルルルルルゴロロロギュロロロロロッ!!
 慎重に少しずつ水便を出していた結希を、突然激しいお腹の痛みが襲った。まるで、便器にしゃがんでいるのに肛門を全開にしないことを本能が責めているかのようだった。耐え難い痛みに体を震わせてお腹をぎゅっと押さえる。体に力が入ってしまい、腸内の水状便が勢いよく押し出される。それを止めるだけの力は結希の肛門には残っていなかった。
「うぁぁぁぁ…………!!」
  ビュルーーッ……ビィィッ……!! ビチィーーッビュルーッ!! ブパッビィッブシャビシャビュルルルルルルルルッビチビチビチビチィィ!!
  ビチビチビチジャーーーービチャビシャーーッ!! ブジャッビチャブシャーーーッブバババババッ!!
  ブシャッビチィーーーーーーーーーーーーーッビシャアアアアアアアッ!! ジャァァァァァビシャビシャブシャーーーーーーーーーッビィーーーーーーーーッ!!
 断続的な噴射が止まらなくなり、その水流が数倍の太さになるまでわずか数秒。既に茶色く染まっていた便器の底の水を、茶色い濁流が容赦なく跳ね上げていく。ドレスを汚さないようにという結希の健気な努力はあっという間に水泡に帰してしまった。
(だ、だめっ!! 止まってっ!!)
  グピィィィィィィィィィィィィィィギュルルルルギュルーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビュルッビュルビュルルルッ!! ビチビチビチビュッブシャーーッビシャーッ!!
  ブシャッビシャァァァァァァァビィィィィッジャバババババッ!! ビュルッビシャァァァァァァビュルーーーーーッ!!
  ブシャビシャブシャーーーッブビューーーーーーーーーッ!! ビュッビチビチビチビチィーーーーーーーーーーーーーーーーッビィィッ!!
  ビチィィィィィィィィィィィィィィビィーーーーーーッ!! ジャアアッ!! ブシャジャーーーッジョボボボボボッビシャビシャブシャーーーーーッ!! ブジュッビュルーーッビュルルビィィッ!!
 一気に噴出してしまった水便を止めるために必死にお尻に力を入れる。しかし、一度力尽きた肛門はもう言うことを聞いてくれず、腸の奥から押し寄せる水状便を食い止めることはできなくなっていた。
「うぁぁぁ……っあぁ……!!」
  ゴロピィーーーッ! ゴロロピィィィィギュルギュリリッ! ギュルギュルギュルーッ!
  グギュゥゥピーーゴロピィィィィィィィゴロロロロロロロロロロロッ!!
  グピーーーゴロロピィーーーーーーギュルルルッ!! グギュルルルルルルルルゴロピーゴロロロログピィーーーーッ!!
  ゴロロロピィィィィィィィィィィィィィィィゴロロロロロロッ!! グピーーゴロゴロゴロゴロピィーーーーーーーーギュロロッ!!
 押さえていないお腹がごろごろと音を立てて激痛を発する。
(だめっ、お腹痛い、止まらないっ……!!)
  ブシャビチィィィジャーーーーーッ!! ビチチチチチチチチブジューーーーーッブシャーッ!!
  ブジャッブシャァァァァビュルーーーーーーーーーッ!! ビューービシャーーーーーーーーーービシャビシャビシャアアッ!!
  ブシャッビィーーーーッビチビチィーーーーッブシャーーーーーーーーーッバシャバシャッ!! ブシャビシャァァァァァァァァビュルルルルッ!!
  ビシャビシャビシャブビューーーーーーーーーッ!! ブジャッブシャーーッジャァァァァァァァァァァァァァァァァァビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーッビチビチビチビチッ!! ビシャブジュビィィィィッ!
 激しいお腹の痛みのため、噴射の勢いを調節することもままならない結希。ドレスの布地の下にのぞく小さなおしりから、滝のように水状便を噴射し続ける。
(だめ……靴下、汚れちゃってる……!!)
  グピィィィィピィィィィゴロピーーーーーーグピィーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ゴロギュルルルルグギュルーーーッ!!
  グギュルルルルルルルルゴログルルルルルルルルグウーーーーーーーーーーッ!! ギュリリリリギュリリリグピィーーーッ!
  ビチャビチャビチャビュジャーーーーーーーーーーッ! ビシャァビュルルルッブビューーーーーッ!!
  ビィーーーーッビシャァァァブビィーーーーーーーーッ!! ブシャビューーーーーービチャビチャビチャビュルーーーーッビシャアアアアアアッ!!
  ビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーッビィーーーーーーーッ!! ブシャッビュジャーーーーーービィーーーーーッビュルルルルッ!!
 哀れな少女は、衣装を汚さないようにというささやかな願いすら叶えることはできず、直腸に押し寄せる水便を、一切の抵抗なく便器に吐き出し続けることしかできなかった。体の前に寄せ集めた布地で遮られて靴下が汚れているかはわからないが、薄手のハイソックス越しに感じる冷たい湿り気が、自らの下半身で何が起きているかを伝えてくれていた。
(こ、これで舞台に出たら……下痢でドレスを汚したって噂されちゃう……!!)
 このまま出し続けたら靴下は人前に出られないほど汚れてしまう。もしそれを気づかれたら、舞台を汚したと噂されてしまう。そうしたらピアノ教室にも学校にも行けなくなってしまう。それがわかっていても、水便の勢いを抑えることができず、白かった靴下に次々と茶色の飛沫が飛び、布地に消えない染みを作っていく。
『北野さんのドレス、下痢で汚れてた』
『信じられない……そんな汚い格好で舞台に出るなんて』
『トイレもちゃんと使えないなんて、恥ずかしすぎるんじゃない』
 心無い言葉が脳裏に浮かび、その重圧がさらに結希の腸を刺激する。腹痛のもとである水便を出し続けているのに、意識がなくなりそうなほどに腹痛が強まっていく。
「うぅっ………ひぐっ………………お腹……痛いっ…………」
  グギュゥゥゥゥゥピーーゴロゴロゴロッ!! ピーーーーーギュルルルルルルルッ!
  ゴロロロロロロピィーーーーーーーーーーーーッ!! ゴロギュルルグギュルーーーッ!
  グピーーーーーーーーーグルルルルルルルルルルルルルルピィーーーーーーーーーーーーーーーーギュルッ!! グギュルルルピィーーーーーギュルルルルッ!!
  ジャーーーーーーーッ! ビシャビシャッビュルーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビィーーーーーーッビチャビチャッジャーーーーーーーーブシャーーーッ!! ビシャビシャビシャーーーーーッ!!
  ブシャーーーーーーーーーッブビビビビィーーーーーーーーーーーーッ!! ブパッビチャビシャーーーーーーーーッ!!
  ブパッブビィビュルビュルルルルッ!! ジャーーーーーーーーーービチィィィィィィィィィィビュルーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブピッビュルビシャビュルルルルルッ!!
 髪を結んだピンク色のリボンが力なく肩に垂れ下がっている。白いボレロを、せめて汚さないように袖を肘までまくり、細い体にまとったドレスの布を胸の前と腰の後ろに寄せ集め、落ちないように手で支える。激しく痛むお腹をさすることも押さえることもできず、結希はひどい痛みに苦しんで、ぎゅっと閉じた目に涙を浮かべていた。ドレスの中に隠されていた幼い股間を便器の上で冷たい空気にさらして、開いた肛門から大量の水状便を吐き出していく。
 すでに茶色の汚水でいっぱいになっている和式便器の底から飛沫が跳ね上がり、フリルのついた真っ白な靴下を茶色に汚していった。


「結希…………」
「……………………ごめんなさい、お母さん…………靴下、汚しちゃった…………」
 結希は泣きはらした目を拭いながら、靴下を汚してしまったことを告白した。
 10分以上の時間をかけて水便を出し終えた後、結希は足元を見て泣きそうになりながら後始末を始めた。撥水性のフォーマルシューズは幸運にも水分の多い水便を吸い込まなかったため紙で拭き落とすことができたが、靴下の布地に染み込んでしまった茶色はどれだけ紙で拭いても全く落ちなかった。
「……大丈夫よ、靴下はもう一足用意してあるから。すぐ履き替えちゃいましょう。ほかのところは汚れてないから、このまま舞台に出られるわ」
 母が優しい口調で教えてくれた。ドレスのスカートは、お腹の痛みに苦しみながら必死に押さえて守ろうとした努力が報われ、汚れのないまま保たれていた。
「…………ありがとう…………ごめんなさい…………」
 結希は母が出してくれた真新しい靴下に履き替えた。脱いだ靴下の内側には無数の飛沫が染み込み、茶色のまだら模様になっていた。この衣装を着たまま水状の便を大量に和式トイレで吐き出してしまったことが一目で分かるほどの悲惨な汚れ方だった。
「……気にしないでいいわ。…………本当に、休まなくていいの? 無理しなくていいのよ?」
「うん………………ずっと、がんばってきたから…………わたし、弾きたい…………」
 結希は少し脚を震わせながらそうつぶやいた。学校で噂されたくないから、ということは言い出せなかった。
「そう……結希がどうしても弾きたいなら…………でも、またお腹痛くなったら、時間に間に合わなくてもいいからトイレに行かせてもらうのよ」
「……う、うん…………」
 結希は、少しふらつきながら立ち上がった。間もなく、指定された集合時間だった。
「……じゃあ、行ってらっしゃい。……お願いだから、無理しないでね」
「うん………」

 客席に戻ろうとした母は、入口から急いで入ってきた父の姿を見つけた。
「ごめん、遅くなった。ぎりぎり間に合ったかな」
「お父さん…………良かった、間に合って。もうすぐ結希の番よ」
「ごめんごめん、ぎりぎりになってしまった……楽しみだな、結希、あれだけ練習していたんだから」
 朝からの結希の体調の悪さを知らない父は楽しみだと言うが、それを知っている母は気が気でなかった。
「え、ええ…………でも、その…………」
「?」
「結希ね……お腹を冷やしちゃったみたいで、朝からひどい下痢で……何度もトイレに行ってて、休んだ方がいいって言ったんだけど、どうしても出たいって…………」
 父は娘がひどい下痢で苦しんでいたという事実に驚いた。
「……そうか…………」
「もし本番中に我慢できなくなったら……どうしよう、やっぱり今からでも、先生に言って休ませてもらった方が…………」
「…………でも、結希がどうしても弾きたいと言ったんだろう?」
 父は顔を上げてつぶやいた。何とか、娘の晴れ舞台を叶えてやりたいと思っているようだった。
「ええ、そうなんだけど…………でも、やっぱり心配で…………」
「結希ももう11歳だし、自分で選んだことなら、信じてやらせてあげた方がいいと思う。それを止められたら、きっと後悔するんじゃないか」
「そう…………そうね。…………結希を信じましょう」
 迷っていた母もついに結希の思いを理解し、舞台に立つことを受け止めた。

(も、もうすぐ…………私の番…………)
 集合時刻になり舞台袖に立つと、結希の心の中に張り詰めた緊張感があふれ出してきた。これまで下痢がひどく本番のことを考える余裕がなかったが、ステージ上の下級生の演奏を見守り、同じように順番を待つ同級生の姿を見ると、観客の前で演奏することへの緊張が湧き上がってくる。
(うまく…………演奏できるかな…………もし、できなかったら…………)
「…………っ……!!」
  ゴログギュルーーッゴロロログピィーーーーーーーーーッ!! ゴロロロロロロロロロギュリギュロロロッ!!
  ゴロロロロログルルルルルルルルルルルルルッ!! グルルルルギュルゴロロロッ!
 結希の心に本番でうまくできるかという心配が浮かんだ瞬間、また強烈な痛みがその意識を貫いた。今日何度目かもわからない激しい腹痛と便意だった。
(ど、どうしよう、トイレ行かなきゃ…………でも、舞台袖で待ってなきゃいけないのに…………本番まで……がまんしなきゃ…………)
「うぅぅ……!!」
  グギュゥグルルルルルルルルルルルピィィィィィィィィィゴロロロッ!! グギュルルルルルピィギュルルルルッ!!
  ギュルルルルルグルルゴロロロロギュリリリリグピィーーーーーーーーッ!! ゴロッピィーーーーーーーーグギュルルルルルルルルッ!!
  グピィィィィギュルギュロロロロロロロッ!! ゴロギュルルルルルルルルルルグギュルーーーーーーーッ!!
  ブピップゥーーーープジュブププププププッ……! プジューーッ……!
 結希は狂ったような痛みを発し続けるお腹を抱えて前かがみになった。お尻からはすでにガスが漏れ始めている。
「せ、先生、あのっ…………トイレ行ってきていいですかっ……!!」
 結希はよろめきながら舞台袖で待機している先生に近づき泣きそうな声で訴えた。
「北野さん、トイレって……大丈夫? お腹痛いの?」
「は、はい…………あのっ、お願いします、すぐ戻りますからっ…………!!」
  ゴロギュリリリリギュルルルルルルッ!! ギュロッ!
  ギュルルルルルルギュルギュロロロロロロロロロッ!! ゴロゴロロロゴログルルッ!!
  ゴロロロロロロロロギュルギュリリリリリピィィィィィィギュロロッ!!
  ブピプチュブジュプチューーーーッ!! ブチュビピーープジューーッ!
「え、ええ、行ってきていいわ」
 青ざめた顔でお腹を押さえる少女を前に、先生もその訴えを認めることしかできなかった。

 早く戻らなければという焦燥にかられながら、結希は水状便を何度も何度も大量に吐き出していった。便器の中から跳ね上げられる茶色い飛沫は、結希のふくらはぎの内側に直接飛び散っていた。今度靴下を汚したら舞台に出られなくなってしまうとわかっていた彼女は、必死に我慢して靴下を脱いでから排泄を始めたのだった。冷たい飛沫が脚を震わせ、凍てつく空気がむきだしの下半身を冷やす。
 トイレに入ってから5分の時間はあっという間に過ぎてしまった。激しい噴射はおさまったものの、お腹の痛みは全く消えてくれず、腸の奥にも水分がうごめくような感覚が残ったままだった。しかし、もう時間がない。トイレの中でも聞こえる放送のスピーカーからは演奏が終わり拍手が響いていた。戻らなければ自分の番になってしまう。
 母は自分の番に遅れてでもトイレに行けといっていたが、そんなことはできるはずもなかった。
『北野さん下痢でトイレから出られなくて出番に間に合わなかったんだって』
『えー、何それ恥ずかしすぎじゃない?』
『他の人にも迷惑かけるなんて最低ーっ』
(うぅっ…………そんなのだめ…………)
 頭の中に浮かんでしまった未来の光景を振り払うように、結希は慌しくトイレットペーパーを巻き取り始めた。急いでお尻と脚を拭き、靴下を履き直して水を流し、便器の中を埋め尽くした茶色い水を流し去る。腸内に生暖かく水っぽい感覚が残っていることを、結希は必死に忘れようとしていた。
(早く……早く戻らなきゃ…………!!)
 結希は慌てて個室を出てトイレの扉を開ける。
「っ、あっ!!」
「……っ……ご、ごめんなさいっ!!」
 結希がトイレの入口から出ようとした瞬間、駆け込んできた少女とぶつかりそうになった。水色のドレスに身を包んだ、結希より少し背の低い女の子だった。慌てて避けると、少女は入口の扉も閉めずトイレの中に飛び込んでいった。
(あの子も、トイレ我慢してたのかな…………だ、大丈夫、私も、終わったらすぐに行けば…………)
 結希はそっとトイレの入口のドアを閉めて、足早に舞台袖に戻った。すでに結希の一つ前の前の生徒の演奏が始まっていた。

「――っ!!」
  ギュルピィィゴロロギュルギュロッ!! ゴログルルルルルピィーーーーーーッ!! ゴロゴロロッ!
  ゴロッギュリリリリリリリリリピィーーーーーーッ!! ゴロロロロロロロロロギュルルルルルルルゴロロロロロロロギュルルルルルルルルッ!!
(そ…………そんな…………もう……!!)
 舞台袖で立ち止まった結希を、また激しい腹痛が襲う。さっき十分に出しきれなかった便意が、また凄まじい圧力を伴ってお尻に押し寄せてくる。
(ど、どうしよう…………もう、トイレに行ってたら間に合わない…………)
「北野さん、大丈夫? 体調が悪いなら、休んだ方が…………」
 お腹を押さえて逡巡する結希を見て、心配した先生が声をかけてくれた。ここが、結希にとって最後の分岐点だったかもしれない。
「…………だ、大丈夫……です…………」
(だ、大丈夫…………あと少しだけ、我慢すれば…………!!)
 結希は、必死に表情を取り繕ってみせた。彼女は、激しい腹痛と便意を抱えたまま、舞台に出る道を選んでしまった。

「次はプログラム18番、若葉台小学校5年、北野 結希さんです」
 アナウンスを聞きながら、可愛らしいドレスを身にまとった結希は舞台の中央に置かれたピアノへと歩いていく。彼女の体の中では、いつ漏れ出してもおかしくない大量の水状便が、肛門に圧力をかけ続けていた。
「曲目は、ショパン作曲『幻想即興曲』」
「……………………」
 ピアノの前の椅子に座った結希は、曲目のアナウンスを聞いた瞬間に目を見開いた。
(ずっと…………ずっと弾きたかった曲…………)
 本番の緊張とお腹の苦しみに押しつぶされそうだった結希の心を、かすかな光が照らす。
(…………お願い…………今だけでいいから、お腹痛くならないで……!!)
 結希は、一瞬だけお腹を両手で抱え目を閉じた。雲間に差し込む光のように、その瞬間だけわずかにお腹の痛みが和らいだ。結希のささやかな願いが、糸が切れそうな緊張と心から離れなかった不安を打ち払っていく。
 その先に残った、少女の純粋な思い。
(……私…………弾きたい……!!)
 目を開いた結希は、右手の人差し指と左手の人差し指を黒鍵に乗せた。


【第5小節】悲劇の即興曲

 唇をきゅっと噛み締めた少女の指先が、2つの鍵盤を押し沈める。グランドピアノの奥、2つの鍵盤の反対側に位置する2つのハンマーが弦を叩き、103.826Hzと207.652Hzの振動を同時に発生させる。
 G#8度の和音がホールに響きわたり、結希の演奏が始まった。
 
 右足が踏むペダルが弦のダンパーを開放し、振動は減衰せずに響き続けている。
 3秒。結希は右足のペダルを踏み変え、左手と右手を白鍵に乗せる。
「っ………」
 お腹の痛みをこらえながら、最初の和音より少し小さな音のC#8度を両手で弾き、六連符を右手で弾き始めて流れるように左手で受け継ぐ。溜めを作ったかのように少しずつ速度を上げながら、2小節、4回の六連符を弾き終え、右足のペダルを抜く。
(……ここから……!!)
 ここからが、幻想即興曲の真骨頂。左手で六連符を弾き続けながら、右手はそれと異なるタイミングで十六分音符を叩く。楽譜の指示は二分音符が1分間に84回。すなわち、十六分音符は1分間に672回、1秒に11.2回の速さ。単純に右手で弾くだけでも高度な技術を要する。それを、リズムの異なる左手の六連符と合わせる。4拍3連のクロスリズムと呼ばれる音の流れ。頭で考えたら1小節を最小公倍数の48等分してその5拍目で右手、7拍目で左手……となりとても思考が追いつかない。それを、何百回と練習することで体にリズムを刻み込んで、結希はこの舞台に臨んでいた。
 低音から高音へと流れる十六分音符の束を2小節、結希は誤りなく弾ききった。
(…………だいじょうぶ、いける…………!!)
  ゴロッ……グルゴログギュルーーーッ!! ギュルルッ!
 結希のお腹はすでに限界近いまでに下っている。今すぐにでもお腹を抱え込みたいほどの痛みが持続する。思考の半分以上が「お腹痛い」「漏れそう」「トイレに行きたい」に支配されている。しかし、結希は両手が覚えている楽譜を正確に演奏し続ける。右手の親指を薬指の下にくぐらせて一気に高音に展開し、何度か行ったり来たりしながら低音に戻ってくる。また最初と同じメロディから、今度は断続的に降下する悲しげな印象を伴いつつまた高音へ展開する。
(次は…………)
 十六分音符の連続でありながら、小節の頭から4音ごとにアクセントをつけた演奏。四分音符の四拍子のように聞こえる主旋律の裏で、幻想的な光が舞い動くような小さな音が連続する。
 結希のピアノは、音の正確さもさることながら強弱の表現力が抜群であった。「歌うように」という表現がぴったりなほど、作曲家が曲を通して描こうとしている世界を感情豊かに紡ぎ出している。

「結希…………」
 客席で息を飲みながら娘の演奏に聞き入る母は、思わず目を細めた。
 練習と遜色ない、それ以上の演奏ができている。美しいドレスに身を包み、鍵盤の上で軽やかに指を跳ね回らせ、楽器を通して美しい音の世界を表現する。小さなピアニストの姿であった。

(もう一度…………さっきと同じように入って……!!)
 楽譜のディミヌエンド、「だんだん弱く」の指示を完璧に、最後は消え入るように弾き終えた結希は、最初の低音から高音へのメロディをもう一度弾き始めた。
「……っぅっ……!!」
  ゴロピィィグギュルルゴロロロロロロロロロロッ!!
  グピーーーーーギュルルルルルルグルルッ!! グルルギュルギュルッ!!
  ギュルルルルルルルルルゴロゴログギュルルルルピィィィィィグピィーーーッ!!
 繰り返しを一度終えたところで急激に腹痛が強くなる。同じように弾こうとする手が震え、いくつかの音がわずかに弱くなった。
(ま、まだ、大丈夫……………これくらい、がまん、できる…………!!)
 肛門の内側に押し寄せてくる熱い茶色の洪水を押し留めながら、結希は必死に指を動かした。
 徐々に感情の波が高まるかのように少しずつ高音へ移動していく右手。震える手に力を込め、弾く強さをクレッシェンドさせていく。頂点に達した感情が不安定になり転がり落ちるかのように、「強くし続ける」の楽譜通りにさらに音を強くしていく。
(次……フォルテで……!!)
 35小節目、左手で3和音を弾き、右手は十六分音符から高音に跳ねて駆け下りる音列をフォルテの大きな音で弾き鳴らす。それで終わりではない。最後の音をフォルテシモで弾き終えた余韻が消えぬうちに、再度高音から転がり落ちるような右手の十六分音符の波に、今度は左手の8度の和音が四分音符で連続する。結希の小さな手では1オクターブは届かないが、高速で手を動かして短時間で連続して弾くアルペジオ奏法により和音と同じ響きを奏でていく。
「っぅぅぅ…………!!」
  ゴロロロギュルピィィゴロゴロゴロピィィィグピィーーッ! ギュルルルルピーーーーーーッ!!
  ギュルルゴログギュルルルルッ! グピィゴロピィーッゴロロロロロッ!
  ギュルルルルルルピィィグピィーーーーッ!! グギュルルルルルルルルルルルルルゴロギュルルルルルピーーーーーッ!!
 曲の盛り上がりに刺激されたかのように腹痛が激しさを増し、更に強い圧力が体の中から押し寄せる。猛烈な便意を我慢しながらの演奏。アルペジオの2音目が少しずつ弱くなる。
 14個目の8度和音を、リテヌートの「すぐに遅くする」のわずかに溜めるようなテンポで弾き終えると、怒涛のような十六分音符がついに途切れる時が来た。
 40小節目、演奏開始から1分13秒。

「ふぅ……っ…………」
 文字通り一息ついて、長調に転じた左手の六連符を穏やかに弾き始める。2小節を弾き終え、右手が弾くのはA♭。名前は異なるが十六分音符の弾き初めのG#と同じ黒鍵である。異名同音と呼ばれる技法により、転調の違和感なく曲は流れていく。
(これで……四分の一くらい……)
 結希の演奏速度で弾き終わるまで約5分30秒。その1/4までは、大きなミスなく弾くことができた。穏やかな曲調の中間部は、装飾音符や3度隣の音を速く交互に弾くトリルがあるものの、技術的にはそれほど難しくない。結希は、自らの長所である感情豊かな表現でこの中間部をまとめ上げて、自信を持ってまた最後の十六分音符の連続に挑むつもりであった。
(…………お腹……痛い…………だめ、どうして、急に……!?)
  ギュルギュリピィーーグルルルルッ!! グピィィギュルーーッ!
  ギュルルルギュルピィーーーッ!! グピィィィィィィィギュロロロロロロロロロッ!!
  グピーーーーーグギュルーーーーッ!! グピーーーゴロロロロロロロロギュルーッ!! ゴロギュリリッ!
  グギュルルルルルルルルグルルピィーーーーーーーギュルーーッ!! ギュルルルグルルルゴロロロギュロロロロロロロロロロロロッ!!
 しかし、その中間部を弾き始めてすぐ、結希のお腹が急激に音を立てて下り始める。左手が奏で続ける六連符の音に隠れて客席には聞こえないが、結希自身には重苦しい腸の唸りがはっきりと聞こえていた。

 左手で六連符を継続しながら、右手の二分音符から始まる優雅に舞うようなメロディを奏でる。左手が3連符の1拍目にアクセントのある下降アルペジオに転じ、また六連符に戻り右手も同じメロディを繰り返す。
(うぅ、漏れそう…………だめ、がまんしなきゃ…………!!)
  グギュルルルルルルルピーーーーーーーーーーギュルーーーーッ!! ピィーーッ!
  ギュルルルルルルルルピィィィィィグギュルーーーーッ!! ギュリグギュルーーーーッ! グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゴロロログルルルルルギュリリリッ!!
  グピーーーーーーーーーーゴロロロロログギュルーーーーーッ!! グギュルルルルルピィゴログルルギュルーーーーーーーーーーッ!!
 思わず鍵盤から手を離してお腹を抱え込みたくなってしまうほどの腹痛。結希は腸がねじ切られるような痛みに耐え、必死に鍵盤を叩いた。
「あっ…………」
 優しく弾くはずの右手の音が一瞬強くなってしまった。お腹の痛みのせいで体に力が入り、鍵盤を反射的に強く叩いてしまったのだった。
(やっちゃった……こんな強く弾いちゃだめなのにっ…………!!)
「っ!」
 今度は左手のアクセントの音が聞こえないほどに弱くなる。音とタイミングの誤りこそないものの、曲の表現としてはミスタッチに他ならない。
(ど、どうしよう…………こんなに失敗しちゃうなんて…………!!)
 前半の高速十六分音符は、あまりにも高速であるがゆえに多少の強弱のミスがあったとしてもすぐ次の音に上書きされほとんど目立たない。事実、結希もすべての音を完璧に弾けたわけではなかったがほとんど破綻は感じられなかった。しかし、この中間部では進行がゆっくりな分、ちょっとしたミスが目立ってしまう。ごまかしが効かないのだ。
 そして、もう一つの誤算は、進行の遅さ故に「考える余裕が出てきてしまう」ことだった。結希の頭の中はすでに、半分どころか90%以上が腹痛と便意に支配されていた。前半では忙しすぎて意識する暇もなかったが、今は演奏しながら、激しい腹痛と凄まじい便意に苛まれ、あとどれくらい我慢できるか、演奏が終わってからトイレに駆け込むのに間に合うか、といった焦燥感に包まれていた。
「う、ぅ…………っ…………」
  ゴロッギュルギュルーーーーーーッ!! グピーーギュルピィーーグウーッ!!
  ゴロッグルルゴロロロロロロログウーーーーーーーッ!! グギュルルルピィーーーグピィーーーッ! グギュルグルルギュロロロロロロロッ!!
  ゴロロロロロロピィィィィィピィィィィィィィィィィィィギュルーーーッ!! ゴロギュルピーーグギュルルルッ!!
(お、お腹痛い……だめ、でちゃう…………だめっ!!)
 これまでで一番強いと思っていた腹痛がさらに増して、肛門に凄まじい圧力を押しかける。必死に肛門を締め付けるが、その肛門が徐々に熱くなる感覚が生まれてくる。
  ……………プッ…………ブピッ………………ブジュッ……!
「――っ!!」
 結希は青ざめた顔を一気に赤面させた。演奏中に、おならを漏らしてしまった。
 幸い音は小さく、ごく少量のためかにおいも広がっていない。しかし、演奏中に楽譜に示された音符以外の音を立ててしまったことに違いはない。
(だ、だめ、これ以上は…………!!)
 結希は、両手を体が覚えている流れのままに動かしながら、残る全精神力を振り絞ってお尻を締め付けた。

「はぁ…………はぁ…………っぅぅ………………!!」
  ギュルルルルピィーーグウーーーッ!! ゴロロギュルグルルッ!!
  グピィギュルルルルッ!! グギュルルルギュリギュリグギュルルルーーーーーーッ!!
  ……………………プブッ……………………ビッ…………!!
  ピィィィィィギュリリッ!! グピーーーゴロロロロロロロロギュルルーーーーッ!! ギュルピーゴロゴロゴロッ!
  ゴロッギュルルルルルギュルギュルピーーーーーーーーーーーーーギュルーーーーーッ!! ゴロゴロゴロピィーーーーーッ!
  ……ブピピピッ……!! …………ビピピッ………………………プジュブジュッ!!
 わずかにリタルダンドの減速をきかせて再度同じメロディに戻る。しかし、結希は同じように演奏できない。手が震える。お尻を締め付けるのに体中の力を動員せねばならず、指先の加減が効かない。そして、そんなに必死に我慢しているのに、結希をあざ笑うようにお尻の穴からはおならが漏れ続ける。あってはならない音の間隔は徐々に短くなり、音量は大きくなり、音の長さは十六分音符から八分音符、符点四分音符、4連八分音符と、徐々に長くなってきていた。
(どうしよう、もう我慢できない…………漏れちゃうっ…………)
 演奏開始から2分10秒、59小節目では右手が跳ねるようなリズムを刻み、次の小節ではオクターブ高くまで展開する。結希は、もう楽譜を追うだけで精一杯だった。思ったような強弱がつけられない。しかし、それでもこの高難易度の曲を間違えずに弾いている。頭は何も考えられなくても、両手が勝手に動くほどに結希はこの曲の演奏を身につけている。
(トイレ行きたいっ…………でも…………そんなことしたら…………)
『北野さん演奏中に我慢できなくなってトイレ行ったんだって』
「――っ!!」
 頭に浮かんできた幻影を振り払うように両目を一瞬強く閉じまた見開く。そんなことを今考えてもいいことは一つもない。それよりも集中すること。演奏に、それとも我慢に……?
「っあぁぁっ……!!」
  グギュゥゥゥゥギュルピィーーギュルルルルッ!! グピーギュロロッ!
  ギュルルルルルピィィィィィィグピィーーーーーーーッ!! グギュルッ!
  ……ブシュッ…………ブピピピブジュッ…………ブビッ…………!!
  ゴロギュルルルルルルルルルルルルピィィィィィィギュルルッ!! ギュルルルギュルゴロギュルルッ!
  グピーーーーーーーーーーーピィーーーーーーーーギュロロッ!! ゴロロロロギュリリリピィーーーーーッ!! グギュルルルギュルピィィグウーーーーーッ!!
  ブジュッ!! ……………ブププププビジュッ!! …………ブビビビブビッ!!
 お腹の音とおならの音がピアノの音の裏で鳴り響く。おならの音はかなり水っぽくなってきていた。肛門の直前まで水状便が押し寄せてきている。もう、いつ漏らしてもおかしくない状態だった。
(がまん…………弾き終えるまで、がまん…………そしたら、トイレ……トイレっ……!!)
  グピーーグルゴロロロギュルルルルグピィーーーーッ!! ギュルギュルギュルギュルルッ!!
  グギュゥゥゥゥゥピィーギュルルルルルゴロロロロロロロロッ!! グルルピィーーッ!
  ゴロッグルルルルルルルピィーーーーーーーーーーゴロロロロロロロロロロギュリリリリリリリッ!! ギュルルギュルグルルルルルルルルッ!
  ブビィッ……!! …………ブジュブピッ!! ビブブピピッ!!
 我慢することを考えたら、今度は我慢しきってトイレに駆け込む光景が頭に浮かんでくる。ドレスをはためかせ、汚れることを気にせずパンツを下ろし、和式便器をまたいで一気に噴射する。お腹の中で結希を苦しめている水下痢便を体の外に吐き出す。
(だめ、だめ…………まだだめっ!!)
  ギュルルギュルルルッ!! グギュゥギュルーッ!
  ギュルルルルルギュルピィィィィィィィィィィィピィーーーーーーーーーーーーグギュルーーーーッ!! ゴロッギュロロッ!!
 勝手に開きそうになるお尻の穴を締め付け、両目を閉じて必死に我慢しながら指先の感覚を頼りに演奏を続ける。水の上で妖精が舞い踊るかのような軽やかな音列。結希はその体の中に大量の水状便を押し留め、行き場を失った液体が腸の奥へ逆流する感覚に震えながらも、必死に鍵盤を叩き続けた。

 幾度目かの同じモチーフの繰り返しの後、左手の六連符をリタルダンドで減速させて一瞬の静止。そして再びの転調、変ニ長調から嬰ハ短調へ。同じG#の音から始まる、十六分音符の怒涛。
 演奏開始から3分35秒が経過していた。
(ここまでくれば…………もう少し、もう少しだけ……お願い…………!!)
 三部構成の最終部分。結希は顔に浮かび流れた汗を顎先から落としながら、鍵盤を見据えて祈るような思いで手を動かした。秒間10音を超える高速運指。考えるより速く手を動かす。余計なことを考える余裕はない。前半部ではそのお陰で、演奏前から切迫していた便意を一時的に忘れて演奏できていた。もう一度同じことができれば――。
「っぅぅ!!」
  ギュルルルギュルギュリギュリリリッ!!
  グピーーーーーーーーギュルルルゴロロロロロロロロッ!! ピィィィゴロギュルーーーーーーッ!
  ……ブピプジュプゥゥゥッ! ……ブピブジューッ!! ブピィィッ!!
  グピィギュリリリリリリリリリリリリピィィィィィィィィィィギュロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!! ギュルルゴロロッ!! グギュルッ!
  ゴロッギュリリリリリリグルルルッ!! ギュルルルゴロピィーグギュルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ブジュ…………ブチュブピピピピピピピピ…………ビピィーーーッ…………!!
(だめ…………もうだめっ…………お腹が……………………)
 結希は、強烈な便意を意識の外に押しやることはできなかった。演奏を始めてから3分半の間に高まった便意。さっきまでは3分すら持たずにトイレに駆け込んだりちびったりしてしまっていたのに、さらに悪化したお腹の痛みに苛まれながら、便意を水際で食い止めるのに肛門に力を込めながらの演奏。完全に食い止めることはもはやできておらず、おならとして体外にガスを漏らしながら鍵盤を叩いている。水っぽいおならはもう気体が出ているのか液体が出ているのかわからない。
「…………っ………あ…………あぁ…………」
  ギュルルルルルルギュリリピィィィィィィィピーーーーーグギュルルルルッ!! グピィピィィィィィィィピーーーーーギュルーーッ!
  ゴロッギュリリリゴロロロロロロギュルーーーーーーーーーーッ!! グギュゥゥピィーーギュリリリリリグピィーーーッ!!
  ギュルルルルルルルルルルグルルルルルグギュルーーーーーーーーーーッ!! ゴロピィィゴロロロロロログルルルルギュルーーーッ!!
 高音展開。転びそうになりながらの下降音階。再び繰り返す最初のモチーフ。今度は下降しながらの上昇音階、タイミングの異なる下降音階。さっき弾いたはずなのに、さっきはちゃんと弾けたはずなのに、腹痛の波が指の力を失わせ、いくつかの音が消えそうに小さくなる。
(もうだめ…………もう無理っ……………トイレ……トイレっ…………!!)
『あと少しだったのに我慢できなくてトイレに行ったんだって』
『そんなひどい下痢だったの?』
 今すぐトイレに駆け込みたい心に黒い影が立ちふさがる。そしてその間にも、下りきった結希のお腹は直腸に水状便を送り続ける。一拍目のアクセントが、前半の時より遥かに弱々しい。表現できなくなってきた曲のイメージ。ただ切迫感だけがピアノからも結希の表情からも全身からも表現されていた。
  グギュゥゥゥゥゥゥゥグギュルーーーーーーーーッ!! グピーーーーーーーーーゴログギュルーーッ!! ゴロッギュロロロロロロロロロロッ!!
  ピィーーーギュルピーーーーグウーーーーーーーーッ!! ゴロギュリリリリリリリリリリリリグウーーーーッ!! グギュゥゥピィーーピーーグピィーーーッ!
  ブプッ…………ブジュ……………………ブ……………ブビッブーーーーーーーッ!!
「ぁああっ……!!」
 おしりから響き渡った大きな音。おならの勢いが押さえきれず、大きな破裂音を鳴らしてしまった。ピアノの音に負けないほどの大音量。運悪く、1小節だけリタルダンドで遅くなり音の密度が下がった時に、その音は響いてしまった。
(い、今の……き、聞こえちゃった……!? 私…………演奏中に、こんな…………)
「っぐぅぅぅ……っ……ぁあぁ…………!!」
  ゴロギュリリリリグルルルルルギュリリッ!! グギュルルルルグウーーーーッ!! ギュルギュリリリグウーーーーーッ!
  ゴログルルルゴロロロロッ!! グピィィピィィィィィィィィィィグルルルルーーーーーーッ!!
  ギュルルルルルルルルルルゴロギュルルルルルギュリリリリリリリピィーーーーーーーギュルルルッ!! グピーーーーーピィィィィィィグルルッ!! グルルルルゴロロロロゴローーーーッ!
  ブピッブビビビビッ!! ブプゥッ!! ブジュブジュブビッ!!
 結希のお腹は十六分音符ひとつ分の時間すら安らぎを与えてくれない。気が狂いそうなお腹の痛み、肛門が引きちぎられそうな強烈な圧力、ピアノの音を上回りそうな激しいおならの炸裂。その音をかき消すかのように、再び十六分音符と六連符を曲頭と同じフレーズで弾き始める。

 限界だった。
 我慢の限界を超えて我慢し、何度も何度も押し寄せる便意に耐え、無事に演奏を終えるわずかな希望にすがって弾き続けていた結希の体は、ずっと限界を訴えていた。それでもトイレに立たず、演奏をあきらめず、指を動かし続けていた。
「…………あ、あっ…………あぁぁ………………」
  グピィィィィギュルルルルルルピーーーーギュルーーーッ!!
  ギュルギュリリリリリリリリリリリリリゴロロロッ!! ピィーゴログギュルーーッ! ゴロッピーゴロピィーーーッ!
  グピーーーーーピーーーーギュロロロロロロッ!! グギュルルルルルゴロロロロロロロログルルルルルルルッ!!
  ゴロゴロゴロゴロギュルーーッ!! ギュルギュルグルルルルルルルピィィィィィィィグウーーーーーッ!! グギュゥギュルグギュルルルッ!!
 制御を失った急降下を続けるお腹が水便で肛門を破裂させようとしている。
 転びそうになりながら上昇音階を弾き、下降に転じる。一度弾いたはずのメロディ。一番遠い小指で弾く音が抜ける。
 痙攣して感覚を失いながらも必死に中身を押し留めていた肛門が力尽きようとしている。
 左手の3和音から飛んで2小節30音の下降音階。もう一度フォルテシモでG#の音を両手で叩き、悲劇の始まりを告げるような右手の下降音階を流しながら、アルペジオで弾く左手8度の和音を14回。
「――っ………!!」
  グギュゥゥギュリリリリリリギュルーーーーーーーーッ!! グギュルルルピィーーーーーーーーグピィーッ!!
 E8度、C#8度、G#8度、オクターブ下がってE8度、C#8度、G#――。
  ブジュビチッ!!
「っ!!」
 おしりから響いた液体の破裂音。熱い感覚が消えない。肛門の周りが濡れた感覚。湿り気を帯びながらも白いままだった下着の奥に、茶色い液体が広がる。
(う……うそ…………出ちゃっ……た……!?)
 C#8度、G#8度、G#8――
  ビジュブジュッ!! ビュルルルッ!!
 少量の水状便をちびったことを感じつつもとっさには何もできず、途切れかけた意識のまま左手でアルペジオを弾き右手は十六分音符を弾き流し続ける。しかし、彼女に現実を突きつけるかのように、お尻からはまた水状便が漏れ出し、パンツの染みを広げる。肛門が生温かい液体に包まれる感覚。
「――っっ!!」
  グギュルルッ! ゴロロピィーーーーーーーゴロゴロゴログギュルルル!! ゴロギュルーーーッグギュルルルルルルルルルーーーッ!
 声にならない悲鳴を上げた瞬間、結希のお腹をこれまでにないほどの痛みが貫いた。

 結希は。
「………………………」
 鍵盤から手を離し、お腹を押さえていた。

 ホールを沈黙が満たしていた。

 117小節4分の3。
 演奏を始めてから、4分35秒。
 結希の演奏は、ここで止まっていた。

「う…………ぁぁ…………っ…………ごめんなさいっ!!」
 結希は弾かれたように椅子から立ち上がり、お腹を押さえながら舞台袖へと駆け出す。

 少女の足音だけが響く舞台。
 残響の消えたピアノが、音を発せずに佇んでいる。

 演奏は終わっていた。
 完結ではなく、中止されて。
 残り20小節と4分の1。
 楽譜の上に残された408個の音符は、結希の手から奏でられないまま、白く塗りつぶされた。


  ブジュッ!! ブピッビィィッ!! ブジュルルル!!
「ひっ……!!」
 下手側の舞台袖に引っ込む直前、結希のお尻で破裂音が連続した。すでに直径2cmの染みが浮かんでいた白いパンツに、布地の外側ににじみ出る勢いで水便が吐き出される。
(だめ、だめっ……出ちゃだめっ!!)
  ギュルルルルグルルルグルルルルルルルルルルグピィーーーーーーッ!!
  ゴロッゴロゴロロロピィーゴロロログピィーーーグギュルルゴロギュルゴロロロロロロッ!!
 結希は両手でお腹を押さえていたが、さらに肛門が膨らむ感覚を覚えてとっさに左手を離し、おしりに回してドレスの布地の上から肛門を押さえた。ドレスの下で布地を膨らませているパニエが一瞬抵抗したものの、さらに強い力で押さえつけてドレス、パニエ、スリップ、パンツを押しつぶして肛門が開くのを阻止する。10秒前まで鍵盤で六連符を流れるように弾き続けていた左手の人差し指と中指が、フォルテシモの打鍵より強い圧力でお尻の穴に押し付けられている。その指先には湿った布の感覚ではなく、何枚もの布地を突き抜けてにじみ出た水便の濡れた感覚が伝わってきた。
(お願い、だめっ、出ないでっ…………!!)
  よろめくように足を前に出し、舞台の端の袖幕の後ろに身を隠す。結希がお尻を押さえた場所は、ぎりぎり客席から見えてしまうところだった。
(だめ、だめ、だめっ…………!!)
  グピーギュルピィーーーーーーグギュルルルルルルルルッ!! ゴログウーーーッゴロロロロロゴロロッ!
  グギュゥゥゥゥピィィィィィィギュルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ゴロッピーーーーゴロログギュルルルルルッ!
  ピーーーギュルゴロロロロロロロロロロッ!! グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥグルルゴロロゴロロロログギュルーーーーーーッ!!
 お腹の中で大嵐が起きているかのようなすさまじい腹鳴り。強烈な痛みに意識を吹き飛ばされそうになりながら、圧迫されて真っ白になっている左手の人差し指と中指をさらにお尻の穴に突き刺す。
「あ…………あっ…………」
  ゴロピィィィィィィィィィゴロロロロロロッ!! グピーーーーーーーギュルルピーーグルルグピィーーーーーーーーーッ!!
  ゴロピーゴログギュルルルルルルルルッ!! グギュゥゥゥゥゥギュリリリゴロロロロロロロロロッ!! ピーーピィーグギュルルッ!
  ビュッ…………ブピビピッ! プジュプジュッ…………ブビジュッ!!
 お尻を押さえ続け我慢しても、便意の波が全くひかない。完全な決壊こそ免れているものの、押さえた指の下で肛門は少しずつ水状便を漏らし続けていた。すでにパンツの染みはクロッチ部の端から端まで広がっている。

(も、もうだめっ…………トイレ…………トイレっ…………!!)
 結希は右手でお腹を押さえ、左手でお尻を押さえながら、楽屋の廊下に続く扉へ向かって駆け出した。
「き、北野さんっ……!?」
「うぅぅっ…………!!」
 心配して声をかけてきた先生に返事をすることすらできず、体が勝手に開こうとする肛門を無理やり押さえつけることだけに意識を集中し、舞台脇の扉を目指す。
「あ、あぁぁ…………」
  ギュルルルルルルルルルルルピィーーギュルルルルルルゴロロロロロロロロロッ!! ゴロロッ!
  ゴロゴログルルルルルルルルルルルルグギュルーーーッ!! ゴロロピィーーッ!
  ギュルルルルルルルルルルギュルギュルルルルルルルルッ!! グピィィィグルルルルルルルルギュルルルルルルルギュリリリッ!!
  ブピッビピブジュブジュッ!! ブピーーーッブプッ!! …………ブジュブププビチィッ!
 腸を捻り潰されるような腹痛をこらえながら、内圧と外圧が拮抗する肛門から少しずつ水便を漏らしながら、結希は右手をお腹から離して扉を開けた。

「うぁぁ…………ぁ…………」
 結希は倒れ込むように廊下に出た。
 約8m先右側に女子トイレの入口。今日何度も駆け込んだトイレの和式便器が結希の訪れを待っている。
 結希の小さな歩幅でも15歩歩けばその入口をくぐれるはずだった。震える足で、一歩目を踏み出す。

「あぁぁぁ…………ぁぁ…………」
  グギュゥゥゥギュルルゴログギュルルルッ!! ゴロッグルルルルルルルルゴログピィーーーーーッ!!
  ゴロロロロロロロロロロロロロロピーーーーーーーーーーーーーーーーーーギュルルルルルルルルルルルルルルッ!! グピィィィィゴロゴログウーーーッ!
  グピィィィィィィィィィィギュリリリリリリギュルルルルゴロロロロロギュルピィィィィィィグギュルルッ!! ゴロッギュリッグギュルルルルルルギュルギュルッグルルルルルーーーーーーーッ!
 その時だった。扉を開けるときにお腹を押さえる右手を離してしまった結希に、凄まじい腹痛が襲いかかった。肛門が膨らむ感覚。お腹に勝手に力が入ってしまう。力いっぱい押さえる指先が、それ以上の力で押し返される、ピアノを弾いている時には決して感じない感触。
 それは、終わりの始まりだった。
(だめっ……………………でる……っ…………!!)
  ブジュビチゴポブボォォォォッ! ブジャッビチィーーーーーーッブジュボボボボッ!
  ゴボッグポブジュルルルルルルルルルルルルルルルジャアアアアアアアアーーーーーーーッ!! バシャバシャバシャッ!!
  ビシャビシャビチビチビチビィーーーーーッ!! ゴボボボッゴポッビチィィィィィィィビシャーーーーーーーーーーーッ!! ビシャッベチャビチャパタパタパタッ!!
「………………あ……あっ…………あぁぁぁぁぁぁっ……!!」
 漏らしてしまった。
 結希は、廊下に出て3歩歩いたところでついに力尽き、大量の水便を下着の中に出し始めた。押さえている左手の下で水状便が怒涛のようにパンツに吐き出されていく。すでにお尻の周りの布地は飽和するまで茶色い水分を吸っており、飛び出してきた水便の一部がパンツを突き抜け、その外にあるスリップをびしゃびしゃに濡らし、ドレスの美しいピンク生地に茶色を染み出させ、結希の指を茶色の液体で包み同じ色の雫を滴らせた。
 そして、押さえられた肛門から噴き出した水便の大半は、行き場を求めてパンツの中で前や後ろ、横に広がり始めた。前方向には重力の助けを受けて素早く広がり、少女のつるつるな割れ目を汚していく。後ろにも重力に逆らいながら広がっていく。十分な空間がある中心が先に水便に覆われて茶色く染まり、パンツのお尻の形を二等辺三角形のように徐々に右上へ、左上へと茶色で染め上げていく。横方向は子供用パンツのゴムの力で肌に押し付けられているものの、大量の水便の圧力はそれをものともせず、決壊した布地側面から、噴射の勢いそのままに水便が吐き出される。右足、左足の内側を幅2cmにも及ぶ茶色の水流が流れ伝い落ちる。それだけでは足らず、パンツの脇から真下に水便がこぼれ落ち、リノリウム地の床に茶色い汚れを塗りつけていく。飛沫が飛び散り、その飛沫を新たに落ちてきた水便が飲み込んでいく。履いていた白いフォーマルシューズは、床面から跳ね返った飛沫と上から降り注いだ水滴であっという間に茶色の汚れで埋め尽くされた。


(……わ……私………………………漏らし……ちゃった…………………)
 結希の心を絶望が包んでいく。もう、取り返しがつかない。漏らしてしまった。パンツを汚してしまった。ドレスを汚してしまった。床まで汚してしまった。
「ひっ……!!」
  ギュルルルルルギュルルルルルグルルルルルギュロロロロッ!! ゴロロロロロロロピィィィィィィィィギュルルルルルルルルルルギュルルッ!!
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥグピィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! グルルギュルピィーーーーーギュルルルルッ!!
 これだけの惨状を作り上げてなお、結希の胃腸は苦しみから解放されていなかった。腸内に大量に残っている水便が、中身を漏らして内圧の下がった直腸に今まで以上の勢いで押し寄せてくる。
(だめ…………このままじゃ…………トイレっ、トイレにっ…………!!)
 結希の体は、彼女の心に絶望に沈むことすら許してくれなかった。このまま立ち止まって漏らし続けたらドレスと床の汚れが際限なく広がってしまう。少しも楽にならない便意を、トイレに入って吐き出すことが、結希にできるたった一つのことだった。

「あ……………あぁっ……………」
  グギュルルルゴログルルルルルルルルルルギュルーーッ!! ギュルルルルルルルルルルルピィーピーーーーギュリリリグウーーーーーーーーーッ!!
  ゴロギュリゴロロロゴロロログウーーーーーーッ!! グギュルルルルゴロギュルーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ギュルーッ!
  ブジュビチチゴポポポポッ! グボボッ!
  ビチブジューーブジャッビュルビュビィィッ!! ブジュゴボボボボボボッブジュッビュルブシャーーーーーーーーーーーーーーッ!! !!
  ビュルビチビチィィィィジャアアアアッゴポポポポポポポポポポポポポポポポッ!! ブジャッビシャビィィィィィィィィッ!! ビシャビシャビシャポタッ!!
  ゴボグボボブボォォォォォォッ!! ビチビチビチビシャァァァァビィーーーーーーーーーーッビシャーーーッ!! ビチャビチャパタタタタッ!!
 結希は全身を震わせながら右足を踏み出した。その瞬間、隙間ができたパンツの右側から大量に茶色い水がこぼれ落ちる。足を下ろそうとした床にはすでに茶色の飛沫と水たまりの先端が広がっていたが、避ける余裕はなく結希のフォーマルシューズはその汚れを踏みつけてしまう。左足を上げると、今度は左側に水状便が流れる。その間もパンツの中には新たな水便が注ぎ込まれ、前後に汚れを広げていく。パンツの後ろ側の茶色い三角形の裾は二本の脚のそれぞれ中央を越え、布地の外寄りから脚の後ろへと細い水流を流し始めている。

「うぅ…………あ、あぁぁぁっ…………」
  グギュルルルルグルギュリリグギュルルルルルルルッ!! グピーーグルルルルルッ!! グルルゴロログギュルッ!!
  グギュルルルルギュルルピィギュルルッ!! グピィィィィィゴロロロロロロロロピーーーギュルルゴロロログギュルーッ!! グピーーピィーーーギュリッ!!
 パンツの脇から茶色の滝をバシャバシャとこぼしながら、必死に歩みを進めて8歩目。トイレまでの中間地点で、結希は立ち止まってしまった。恐ろしい音がお腹の奥で鳴り響き、腸がちぎれ飛ぶような痛みが襲ってくる。
「うぅぅ……ふぐっ…………あぁぁぁぁぁ…………!!」
  ゴボゴボゴボビュビューーーーーーーービチィィィィィビシャーーーーーッ!! ゴポポポポジャーーーーーーーーーーッ!
  ブパッブシャーーーーーーッゴボゴボゴボッビチャジャーーッ!! ビュビチィィィィィビシャーーーーーーーッビュルーーーーーーーーッビチビチビチビブビビビビッ!!
  ブパッビィィィィィィィィィィィィィィィィビュルルルルッゴボゴボブボッ!! ビュルッビシャーービチィィジャアアッ!! ビシャビシャビシャッ!!
 立ち止まった結希が後ろに突き出した肛門から大量の水便がパンツに注がれた。結希の左手は必死にお尻の穴を抑えていたが、すでに漏らした水便が吸収されず潤滑剤となり、肛門を閉じるための摩擦力を生み出せていなかった。噴き出す水便を受け止め続け、すでに茶色い濡れ雑巾と化したパンツを越えてスリップとパニエとドレスに液体を染み込ませていく。すでにドレスの布地にもパンツの汚れと同じ大きさの――直径10cmほどの濃淡のある染みが浮かんでいた。パンツの外側からにはにじみ出た水分が流れ落ち、指先で押さえられたスリップの内側を伝って脚の少し後ろに流れ落ちる。お尻の部分は左手で押しつぶされていたものの、それ以外の部分はパニエの形態保持力で広がりを保っている。その広がった裾の中心以外からも水状便の雫がぽたぽたと垂れ始め、床に落ちて広範囲に飛沫を撒き散らしていく。肛門の噴火口を押さえている左手の人差し指と中指はすでに全面が水状便に覆われ、茶色い汁を滴らせていた。

(……いかなくちゃ…………トイレにっ…………トイレっ…………!!)
  ギュルルルルルルルルギュリリリリゴロロロロロロロロロロロッ!! ゴロギュルグピィーーッ!!
  ギュルルルゴロゴロギュリリリリリリリリリリリリリグピィーーーーーーーーーーーーーーッ!! グピーーグルルギュリリリリギュロロロロッ!!
  グギュゥゥゴログルルルグギュルッ! ギュルルルルルルルルルピィィィィィィィィィィィィィグルルルッ!!
  ブパッビチャビシャジャァァァァァァァゴボビュルーーーーーーーーーーーーーッ!! ビチビチビチッブジャッビューービチィィビィィィィビュジャーーーーーーーッ!!
  ゴポッゴポポポポポビシャビュビュルブシャァァァァァァァァァァァァジャァァァァァァァァァビュルーーーーーーーーーーーッ!! ブパッビィィィィィブシャァァァァァァァブシャーーーッ!!
 結希は一度止めてしまった脚をまた動かし、自らが作った茶色い水たまりから脱しようとした。一瞬でパンツを満たしていた水便がまた右側から流れ落ちる。脚の内側の汚れは靴下に達し、白いフリルを汚し靴の中の布地まで染み込んでいた。一歩進むとまた左側にも水便が流れ落ち、トイレで必死に守ろうとした靴下をぼろ切れのように汚していく。
 結希の歩いた跡には、茶色い汚水が点々とではなく途切れずに続いていた。舞台から出て最初に漏らしてしまった箇所、トイレまでの中間地点にはひときわ大きい直径40cmほどの不整形な水たまりと直径1mにも及ぶ無数の飛沫が残されていた。その間は幅5cmほどの茶色い水跡がパンツのクロッチ部の幅だけ離れて並行し、トイレに近づくほどにその幅が広がっていた。

(トイレっ……!!)
 結希はトイレの入口の前に立った。閉ざされているドアを開ける。狂ったように痛むお腹から右手を離し、冷たい金属製のノブを回す。そのまま扉を突き飛ばすように押し開ける。その瞬間にも強烈な痛みがお腹で弾け、結希は前かがみになり右手でお腹を押さえた。
  グギュゥゥゥゥゥギュルギュルギュルグギュルーーーーーーーーーーーッ!! グルルルルルルピィィィィィィィピィーーーーーッ!!
  ゴロロピーーーーーーーーーギュルルルルッ!! グピーーゴロピィーーーーーギュルルルルグルルルルルルルッ!!
  ゴロロギュルルルルルルルルピーーーーーーーーーギュルーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! グルルギュルグルッ! ゴロロロロピーーーーーーーーーーーーギュロロロロロロロロロロッ!!
  ビチビチビチブジュッ!! ブビビビビッゴボッブジューーーーーーーーーーーゴボゴボゴボッ!!
  ブパッブシャーーーーーーーーーーッビシャアアアアアアアアッブピッビュルルビィィッブピッビュルーーーービシャビシャァビチャビシャーーーーーーーッ!!
「あ、あぁ…………あっ…………」
 左手が熱い感覚に包まれる。肛門が全開になり、お腹が勝手に水状便を押し出そうとしている。押さえても押さえても、それを上回る勢いで水が溢れてくる。結希の左手は、決壊した濁流をせき止めようとする無力な抵抗だった。
(…………トイレ……もう少し…………なのにっ…………!!)
  ゴロロロロロロロロロロギュルグルルルルルルルルルルルピィィィィィィィィィグピィーーーーーッ!! グギュルルルルギュリリリリリリグピィーーッ!!
  グピィィィィギュルルルルルルルルルルルルギュロロロロロッ!! グギュルルルルルピィィギュリリゴロロロロロッ!!
  ブシャッビィィィィィィィッブジュブボッ! ビシャブシャァァァァゴボッゴポゴボビチチチチチチッビュブビューッ!!
  ブジュブボブボビシャーーーーーーーッジャアアアアッ!! ビィーーーーーッビシャーーーーーーーーーッ!!
  ジャーッブジュグポポポポポポポポゴポポポポポポッ! ブパッビシャァァァァァァァビュルビュルーーーーーーーーーッビチィィィィィィィィィィッ!!
 苦しみの涙で滲む結希の視界には、開かれた個室のドアの向こうの便器が映っている。ドレスに着替えた直後と、本番前に駆け込んだ個室、その時に飛び散った飛沫がそのまま残っている汚い和式便器。結希にはそれで良かった。あと10歩進めば、結希の体の中に残っている水便を便器が受け止めてくれる。だが、その10歩は果てしなく遠かった。
 演奏が始まる前から限界近い便意を抱え、必死にこらえておならを漏らしながら演奏を続け、限界を迎えてちびり始めてついに演奏を諦めトイレに向けて駆け出した。この時点ですでに限界だったのだ。舞台袖でお尻を押さえ、廊下に出て漏らしながら必死に決壊するのを防ぎ、やっとトイレの入口をくぐった。限界を何度も超えて我慢し続けた彼女の必死の努力は称えられるべきものだった。たとえ、最後の最後で願いが届かなかったとしても。

(…………トイレ…………トイレにっ…………!!)
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥギュルルルルルルルルルピィーーーーーーーーギュリリリリリリリリリリリリリリリッ!! グピーゴロピィィギュリリッ!
  ゴボゴボゴボッビュッビュルルルルビィーーーーーッビシャビシャーッ!! ビューービチビチビチゴボォッブジャアアーーーーーッ!
  ビシャビシャビュルビシャーーーッ!! ゴボゴボッゴボボボブパッビチャビュルジャーーーーーーブシャーーーーーーーッビィィィィィィッ!! ブジュブジュビュルッビシャビシャバシャバシャッ!!
 トイレのタイルに1歩目の右足を踏み出す。常に最密充填状態のパンツの中から脚の内側だけでなく前側、後ろ側にも4本以上の水流がのたうつように流れ落ち、靴下を汚す。靴下の最上部で染み込むより早く流れ回った水便が内側から外側までを覆い、フリル全部とその下の布地を茶色に染めている。脚の内側の靴下は完全に茶色に染まり、靴の底はすでに吸いきれない水便が溜まっていた。靴の内寄り側面には、靴下が吸いきれなかった水流が細く流れ落ち始めている。
(お願い…………お願いっ…………!!)
  ゴロゴロゴロロロロロロロロロロロギュルーーーッ!! ゴロロロピーーピーーーーグルルッ!!
  ブシャーッゴボゴボブビィィビシャッビシャーーーーーーッ!! ブパッビュルビュビシャーーーッジャァァァブシャーーーーッ!!
  ブシャビューブシャーーーッブシャァァァァァァァァァァビチビチビチビチ!! バシャバシャッ!!
 左足で2歩目。これまで右足から踏み出していたため相対的には汚れが少ない左側だが、少ないと言っても凄まじい汚れの中の10%程度に過ぎず、左脚も目も当てられないほどぐちゃぐちゃであることに変わりはなかった。足を下ろすと、靴の中に溜まった茶色い汚水が指の間に流れ込んだ。
(だめなのっ…………まだ…………まだっ…………!!)
  グピィィィィィィィィピィーーーーーーグルルルルルルルルルルルルルルルルッ!! ギュルピィィィィィギュルルルッ!!
  ゴボゴボゴボブシャッビチィーーッビュルーーッビチィーーーーーーーーッ!! ビチビチビシャビシャァジャーーーーーービュルルルルルッ!
  ビュルッビチィーーーーーーーッビィィッ!! ゴボボッブパッビュルジャァァァァジャァァァビィーーーーーーーッ!! バシャバシャッバシャシャシャッ!!
 3歩目。全身が震え始め、肛門は外に押し出されんばかりに広がり水便を吐き出し続けていた。それでも結希の左手は肛門を押さえ続ける。離したら本当にここで終わってしまう。押さえつけられたドレスが茶色に染まり、汚れは直径20cmに広がり、内側に滲んだ薄い汚れではなく表面まで浸透した濃い茶色になってしまっている。内側のスリップはそれ以上に汚れ、すでに汚水を目一杯吸い込んだ濡れタオルのようにパンツから出てくる水分を内面に沿って流れ落とすだけになっていた。その外側のパニエも汚水を吸い込んで、徐々にドレスのスカートの膨らみを保てなくなり始めている。
(だめ…………だめ……………………いや…………やだっ…………)
  グルルゴロロロロロロロロログルルッ!! ゴロッグギュルーーーッ! ゴロッゴロロッゴロッゴロゴロロロロロッ!
  ビチビチビチジャーーーーーーーーーーーーーーーーーッバシャバシャバシャベシャッ!!
  ブジャッビュビュブビューーーーーーーーーーーッゴボゴボゴボッ!! ブシャッビィーーッビュルーーーーーッ!!
 4歩目。大量に水便を蓄えたパンツから水便が流れ落ち、両脇から流れ出した水便が床で2つの池を作って次の瞬間には大きな一つの湖となった。同時にスリップの中央とお尻の外側を伝って水便の滝が流れ落ち、その外側のドレスの内側からも細い水流がいくつもこぼれ、生地の表面にも水流が染み出していくつもの雫が床を叩いた。水流はドレスの裾から流れ落ちるだけでなくフリルの継ぎ目に沿って周状に広がって、フリルのひだに沿っていくつもの箇所から水便を滴らせている。
(もう…………………もう…………だめ…………………)
  ゴロロロピィギュルゴロピーグピィーーーーーッ!! グギュゥゥゥピーギュルルルルルルルルルルグギュルルッ!!
  ゴロロロロロロロピィーーーーーーーーーピィギュルギュルーーーーーーーーーッ!! ピィィィィィィギュロロッ!!
  ビィィィビチビチビチブジャアアアアッ!! ゴボボゴボブパッブシャブシャーーーーーーーッ!! ビュルッビシャブビビビビビィーーッ!
  ブジャッビシャァァァァァァァァァァァァビシャアアアアアッバシャバシャバシャ!!
 5歩目の右足を上げた瞬間、結希のお腹をまた激痛が貫いた。右足を前に出すことはもうできず、左脚よりわずかに前で肩幅ほどの位置に着地した。震える脚を伸ばすことができず、膝を寄せて内股になり、お尻を無意識に後ろに突き出してしまう。
(だめ…………だめ……っ…………)
 進まなければいけない。
 でも、お腹が痛くて歩けない。指がしびれて力が入らない。お尻の穴がもう閉じてくれない。次の一歩を踏み出す力は、少女の小さな体にはもう残っていない。
 結希の我慢は……個室の5歩手前までしか、届かなかった。

「あ、あぁ、あぁぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………!!」
 絶望に満たされたか細い声が響く。その声が消えないうちに、決壊が始まった。
  ブシャァァァァァァァァァァァビュルビュルビュルッビシャーーージャアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッ!! ゴポポブジュブジュビシャシャビシャジャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ブビッビチビチビチビジューーーーーッゴボゴボゴボブジュゴボボボボボボボボブビビビビジューーーーーーーーゴポポポポポポポポポポゴボゴボボボボボブーーーーーーーーーッブジュゴボゴボボボゴボゴボボォォォッ!!!
  ゴボボゴボビシャッ!! ゴポッブジュルルルルブジュゴボビチッゴボボボボッビシャビシャジャーーーーーーーーーーーバシャバシャバシャッ!! ブジュブジュブーーーーーッゴボボボゴボゴボゴボボボッゴボボボボボッビシャビシャビシャビシャジャァァァァァァァァ!!
 蛇口を全開にしたようなとてつもない勢いで水便がパンツの中に吐き出され、パンツの中で爆発的に汚れが広がった。子供用パンツのお尻の上のゴムまで汚水が汲み上がり上から溢れ出した。おしりの球面のいちばん膨らんだ部分だけがパンツに接し、他の部分の空間はすべて水便で埋め尽くされた。パンツの両脇からだけでなく、おしりの頂点の脇からも大量に汚水がこぼれ出し、一秒も止まることなく滝のように水便が流れ落ちていく。両脚を伝っていたいくつもの水流が一つの大きな流れとなり、さらにその外側にのたうつ茶色い細い水流が新たに生まれていく。その汚れは脚の内側だけでなく外側まで及んでいる。
 一気に広がった汚れはパンツの外にも及び、スリップは後ろ半分お尻から下の布地が茶色の滝と化していた。その外のドレスは、裾の全てはまだ汚れてはいないものの押さえたお尻を中心に直径30cmの茶色の不整形楕円が広がっている。押さえてしわになっている部分が強く汚れ、お尻の形を象るように汚れを広げていく。そしてスリップとドレスの裾からは水状便の水流と茶色い滴が流れ落ちる。ドレスの背中、腰の高さで結ばれた可愛らしいリボンは、直接お尻に押さえつけられてこそいないものの、垂れている先端はお尻の汚れに接していて、ドレスの表面ににじみ出てきた水便を大量に吸い込んで半分以上が茶色に染まっていた。直接汚れに触れていないリボンのループ部も、パンツの上からあふれ出した水状便が染み込んだ結び目から茶色が侵食し、すでに3cm程は汚く染まってしまっていた。お尻を押さえる手は、手のひらから手首まで内側全体が茶色い水便で塗りつぶされている。指先に至っては外側の爪まで汚水の汚れが及び、爪の間にまで水便が入り込んで流れ落ちていた。
 脚を覆うように流れ落ちた水便は、すでに汚水を飽和量を超えて吸い込んだ靴下の繊維の表面を流れ落ち、靴の中を満たした。すでに指より高くなっていた水位は滝のような汚水の流入によってあっという間に上昇し、靴底から3cmほどの開口最前部、足の甲の上から床に流れ出した。その流れ出す速さよりも流入する速度が大きく、さらに1cm高いかかとの後ろまで全周にわたっていくつもの茶色い水流が靴の中からあふれ出した。靴の中はもう水便の洪水になっていた。その洪水が堤防を越えて決壊し、結希の足元のタイルに大きな水たまりを作っていく。
「や、やだ…………いやっ……………だめ……っ………………!!」
  ギュルルルルルルルルルルルルルルルルルグルルルルルルルルグルルルルッ!! グギュルルギュルルルルルギュリリリリッ!
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥギュリリリリリゴログピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ゴロッピィィピーーグピィーッ!!
  ゴボッゴボボボボボブシャーーーーーーッ! ビチビチビチブジャッビュルーーッビュルルッビィィィィッバシャビシャビシャバシャッ!
  ブジャッビュルーッビシャァビュルッジャーーーーーーーーーーーーーゴボゴボゴボッ!! ブピッビシャーーーーーーーーーーッビシャーーッゴボゴボゴボッバシャバシャッ!!
  ブジャッビュルルゴボボビュルッビィィィィィィィィィィィィィィィィィィッビチャビチャビシャビシャゴプッバシャアアアッ!! ブジャッビュルビュルルルルルルブビューーーーーーーーーーーッ!! ビシャビシャビシャゴボジャーーーーーーーーーーッ!!
 結希はまだお腹とお尻を押さえていた。お腹は痛みを少しでも和らげようと強く押さえていたが、お尻を抑える左手の力は弱々しくなり、ピアニシモの打鍵圧より弱くほぼ触れるだけになっていた。それでも、出してはいけない場所で漏らしているという意識のためか、せめてもの抵抗の証として結希は左手をお尻の穴に添え続けている。寒くないように手首まで覆っていた白い毛糸のボレロの袖が、袖口だけではなく5cmほど上まで茶色く染まっている。
 まだ下り続けているお腹が唸りを上げ、またパンツの中に大量の水状便を噴射する。すでに一杯になったパンツの中では汚水が渦を巻き、隙間の空いた側面やお尻の後ろ側だけでなく繊維の間を伝って布地の表側へもどんどん浸透していく。結希の腰から下では、スリップは一面茶色の布切れになり、ドレスは茶色い汚水を垂れ流す滝となり、そこから流れ落ちる涙のような汚水の雫を床に垂らし落としていた。
 トイレの中は、結希の漏らした大量の水便が放つ猛烈な刺激臭に包まれていた。こんなものを体の中にとどめていたらどれほど苦しかっただろうと思わせるほどの悪臭。結希の瑕一つない白い肌から、純白だったパンツの中から、お姫様のようだったドレスの布地から、下水の中よりもひどい臭いが放たれていた。
 結希の脚は小刻みに震え、お腹を押さえる手も震える。わずかな風圧でもひらひらと舞うほど可憐だったドレスの裾は、今やたっぷりと汚水を吸収し重力に引かれる汚物となり果てていた。振動でわずかに揺れるドレスの裾、折れ曲がって川になっている部分からは汚水の水流が振り回されながら流れ落ち、そうでない部分からも茶色い水滴が1秒間に10個近くも落下していく。どうやったらあの綺麗なドレスをこれほどまでに汚せるのかと思うほど、あまりに無惨な汚れ方であった。
「…………!!」
(わ、私………………こんなに…………漏らして……………汚し……て…………)
 お尻だけでなく脚までを埋め尽くした不快感に、結希は思わず後ろを振り返り、お尻の汚れを見ようとした。しかし、お尻を見る前に目に入ったのは、足元に広がる巨大な茶色い水たまりと、トイレの入口から切れ目なく続く汚水をこぼした痕跡と、その周囲1m先にまで飛び散った数限りない茶色い飛沫と、廊下にも続き折れ曲がって舞台の方へと伸びている床の汚水の川だった。結希は、自らの下半身だけでなく、大切な発表会の会場を、トイレ以外の場所までも、汚してしまっていた。 
 横結びの髪をまとめるピンクのひらひらのリボンと、ボレロの左胸にワンポイントとして飾られているリボンは汚れていないままだった。しかし、上半身の可愛らしい装飾は、水下痢を漏らしてしまった少女の下半身の悲惨さをいっそう際立たせてしまっていた。腰のリボンと靴の飾りリボンは可愛らしいピンクや白ではなく、汚らしい茶色に染まっていた。


 (挿絵:ウニ体さん文字無し版)

「うぁぁ……あ…………ううぅぅぅぅっ…………ひぐっ……………………うああぁぁぁぁっ……!!」
 結希の目から涙の筋がこぼれ、もう一滴が新たな川を作り、その後は途切れることなく涙が流れ続けた。そしてその涙を流す間も、結希のおもらしは止まらなかった。
  ゴロロロロロロロロロギュルルルルルゴロロロロッ!! グギュルギュルピィーーーーーーーーーーーーーーギュリリリリリリリリッ!!
  ゴロロロロロロロロロロロロロロロロピーーーーギュリリリリリギュリリッ!! グピーーーギュルギュルギュルグルルルルルルゴロゴロゴロッ!!
  ブシャブシャゴボッブジュブボビシャアアアッ!! ビュッビシャーーッビチィーーーーーッブシャーーーーーーッビシャーーッ!! バシャバシャバシャパタタタッ!!
  ブピッビシャビシャジャーーーーーーーーーーーーッゴボッブジュボボボボボッ!! ビシャビューーーービュルーーーーーーーッブビュビュビュビューーーーーッ!! ビュルッビシャビシャビシャビィィィジャーーーーーーーーーッ!!
  ゴボブビッ!! ブシャッビィーーーーーッジャーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャビシャビシャッ!! ビシャアッ! ジャァァァァァーーーッゴボブビューーーーーーーーッ!!
  ビチビチビチッビュルッビィィィィィィィィブシャァァァァァァァァァァァァゴボボボボボゴボッ!! ビュルルルルルルルビューーッ!! ブジャッブシャァァァァァァァァビシャビシャッジャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
 咆哮のように鳴り響くお腹の音。何度も逆流して腸内を往復していた水便が腸を駆け抜ける水音。開いているとはいえ流路が細くなる肛門でわずかにせき止められ液体が密度を上げて渦巻く音。
 肛門から飛び出す水がゼロ距離でパンツの布だったものに衝突する音。水便の中に混入した空気が肛門から外に出て弾ける音。人間のおしりから発せられているとは信じられないほど大きい、勢いよく流す便器の水洗の音のような激しい流水の音。パンツの中で水便が行き場を失い限界を超えて汚れた布を膨らませ溢れ出す音。
 大量の汚水が脚を流れ落ちる音。細い水流がチョロチョロと蛇のように脚に絡みつきながら靴下までの軌道を描く音。震える足が靴の中を満たした水便を床にこぼす音。流れ落ちてきた水便が靴の中に入ることすらできずタイルに流れていく音。
 パンツの裾から流れ出した茶色い水が滝のようにタイルに降り注ぐ音。おしりの後ろやや横から茶色い水が細い水流となって流れ落ち、スリップの表面で弾かれて無数の雫となってタイルに降り注ぐ音。スリップとドレスの生地から、太い水流と細い水流と断続的な滴が落下し、床を様々な音程とリズムで叩く音。

 楽譜に記された音符を弾き終えられなかった結希は、たどり着くことのできなかった便器を目の前にして、自らが作り出し広げている水状便の池の上で、お腹とお尻から誰にも真似できないほど汚い音を奏で続けていた。


【第6小節】絶望の後奏

「うぅぅ…………えぐっ…………ひくっ…………うぅぅぅぅ…………」
 茶色い湖の上に立ち尽くす少女。
 パンツから直に落ちた水状便、脚を伝って靴の中から溢れ出した水状便、スリップやドレスの布地から滴り落ちた水状便。それらがすべて一体化し、結希の足元に直径2mほどの湖ができ上がっていた。さらに広範囲に飛沫が撒き散らされ、タイルの継ぎ目を這うようにまだその先まで汚れが伸びようとしている。
 小さなお姫様のようなドレスを着て、幻想的な曲を美しく演奏していた結希は、耐え難い下痢の便意に屈して演奏を投げ出し、トイレに駆け込むことすら叶わず体内の水便をすべて漏らしてしまった。可愛らしいドレスは下半身がぐちゃぐちゃに汚れ、靴下はすべて茶色に染まり、白い靴は内側から汚水の滝を流しながら茶色の海に浮かんでいる。一番内側にあるパンツは前から後ろまで水状便の貯水池となり、白い部分は全く存在しなくなっていた。

(私…………私…………演奏中に…………トイレに…………それなのに…………まにあわなくて…………)
 お漏らしの嵐が止み、結希は自分がやってしまったことの重大さを感じ始めていた。
 
 大事なピアノの発表会だったのに。この日のために練習してきたのに。お母さんやお父さんやおじいちゃんおばあちゃんたちが見てくれていたのに。最後まで演奏できなかった。お腹を壊して、トイレを我慢できなくて途中で舞台から逃げ出してしまった。
 お腹が痛くて押さえないと動けなかった。演奏を止めてお腹を押さえ、そのまま舞台袖に駆け出していく。見えなくなるぎりぎりのところでお尻も押さえてしまった。お腹を壊してトイレに駆け込もうとしていたことは、見ていた人に気づかれているだろう。
 それだけでも大変なことなのに、トイレまで全然間に合わず漏らしてしまった。この日のために買ってもらったドレスはもうぐちゃぐちゃに汚れてしまっている。廊下からここまでの床に、漏らして下着からこぼしてしまった水状便がびちゃびちゃと飛び散っている。

 漏らした瞬間こそ誰にも見られなかったかもしれないが、それと等しいほど恥ずかしく情けないことをやってしまった。
 どうしたらいいんだろう。どうやって謝ったらいいんだろう。先生に。会館の人に。お母さんに。みんなに。
「うぅ…………ひぐっ…………うぁぁっ…………あぁぁぁっ…………」
 結希はお尻から水便の雫を垂らしながら、心が絶望に包まれていくのを感じていた。
 

「…………………結希…………」
 母がトイレの入口に立っていた。
 演奏を止めて舞台袖に駆け出していった結希の姿を目にして最悪の事態を想像した母は、急いでホールを飛び出し関係者入口から舞台裏に入ろうとしたところで、廊下からトイレの中へと途切れずに続く水状便の痕跡を目にしてしまったのだった。
「……あ……ぁ………………………お母さんっ…………ごめん……ごめん、なさいっ………私…………」
 後ろを振り向いた結希は、母の悲しげな顔を見て再び涙を流し始めた。
「いいの、謝らなくていいのよ。結希は一生懸命がんばったもの。上手に弾けてたから。みんな聴き入ってたわ」
「…………でも…………私…………途中で……我慢できなくて………………」
「気にしないで。誰だって体調が悪いことはあるんだから」
「でも……………こんな…………漏らして…………ドレスも、廊下も、汚して……」
「いいのよ。結希は悪くないのよ。ずっと我慢して、辛かったでしょう……ごめんなさい、こんなに苦しいってお母さんが気づいてれば……」
 母はトイレの中へ入り、結希の体を抱き寄せて優しく頭を撫でた。温かい母の手に触れられ、結希はついに緊張の糸が切れて幼児のように泣き始めた。
「う、うぅ…………うぁぁっ……あぁぁぁぁぁっ…………!!」
「……………………」

「…………う、うそ、何これっ……!?」
「っ!!」
 トイレの外から声が響く。
「あ、あぁっ…………ど、どうしよう、こんな……」
 結希は外からの声に怯え震え始めた。漏らして周囲を汚した光景を誰かに見られたら――。
「大丈夫。外はお母さんが片付けてくるから。ここも掃除しておくから、結希は個室に入って着替える準備してて。そうすれば他の人には見られないから」
「………………うん………」
 母が慌ててトイレの外に出ていく。しかし、結希は放心状態のまままだ動くことができず、水状便で汚れたパンツから茶色い雫を垂らしつつその場に立ち尽くしていた。

「…………あっ、山南さん……!! ごめんなさい、すぐ片付けますから…………」
 母が外に出ると、楽屋の出口で立ち尽くしていたのは結希の同級生の山南綾夏であった。同じピアノ教室に通っており親同士も顔見知りである。
「…………これ、もしかして、北野さんが…………」
「……………………ごめんなさい。ずっと我慢してて、間に合わなかったみたいで……」
 母は頷いて最小限の事情を説明した。
「…………」
「…………汚してしまってごめんなさい。すぐ片付けるから……大丈夫? 避けて歩けそうですか?」
「は、はい…………北野さん、大丈夫なんですか? こんなに……」
 綾夏は、同情の視線で床の汚れを見下ろしていた。
「…………心配してくれてありがとう。お腹を冷やしてしまっただけだから、暖かくして休めば大丈夫だと思います。ごめんなさい、本番前に心配かけてしまって。……がんばってね」
「…………はい」
 綾夏がドレスの裾を汚さないように舞台袖に入っていくのを見送り、母は廊下の汚れを見渡した。
 舞台から出てすぐの位置からトイレの入口まで切れ目なく水状便が流れ落ちた跡が残り、周囲に飛沫が飛び散っている。舞台入口と、中間地点にひときわ大きい茶色の池。ここで立ち止まって大量に漏らしてしまったことが伝わってきた。それでも我慢してトイレに入ろうとして、便器を目の前にして力尽きてしまった娘の心情を思うと胸が張り裂けそうになった。
「あっ…………」
 後ろを振り返る。
 誰もいない。もし、結希が漏らしてしまったところを誰かに見られたらそれこそ深く傷ついてしまうだろう。
(今のうちに早く片付けないと…………お父さんが見張ってくれているうちに)

「…………出演者の方ですか?」
 楽屋へ続く通路の入口のドアの前で、父は派手な格好の少女に声をかけた。
「はい。この後出番だから通してくれます?」
(北野さんあの様子だと絶対漏らしたわね。証拠写真を撮れるといいんだけど)
 結希の同級生、三崎真琳は心の中で悪意に満ちた欲望を浮かべながら、それをおくびにも見せず出演者を装って舞台裏に踏み込もうとした。
「何番目ですか? お名前は?」
 その前に立ちふさがるように道を塞ぐスーツ姿の男性は、事情を知らない真琳からはスタッフのように見えていた。
「えっと、次の次かな。山南綾香です」
(曲はよくわかんないけど、北野さんかなり上手だったし……学校で目立つ前に潰しておいた方がいいかも)
 息をするように嘘の情報を並べ、怪しまれずに通り抜けようとした。
「山南さんですね。曲目は?」
「え……曲目…………えっと…………」
 曲目。綾夏からプログラムを見せてもらったが、音楽にさして興味のない真琳は見たことのない曲名――バッハのインベンション13番イ短調――を覚えていなかった。
「…………曲目は何ですか?」
 少し鋭い視線で問い直すスーツ姿の男性に、真琳はわずかに気圧された。
「あー………………ちぇっ。……ちょっと忘れ物しました、失礼しますっ」
 真琳は結局満足の行く回答を出せず、ごまかしてくるりと体を翻して客席へ戻っていった。
「……………………ふう……」
 父はため息をついた。こんな芝居はやりたくないが、嘘をついて通ろうとしたところを見ると、良くない意図を秘めていたことは間違いなさそうだった。それがただの好奇心なのかそれ以上の悪意なのかはわからなかったが、ひとまず結希の恥辱の痕跡は、一番見られてはならない人に見られるのを避けることができた。


「うぅっ…………ぐすっ…………ひっく…………」
 結希は母が出ていった後もしばらく動けず、その場に立ち尽くしていた。お尻からはまだ水便の雫が滴り落ちている。
(…………冷たい…………脱がなきゃ…………また、お腹、冷えちゃう…………)
 体温と同じ温度だった水状便は、パンツの表面で外気にさらされ、冷たい液体となって結希の下半身を冷やし始めていた。股間を埋め尽くすおぞましい感覚に冷たい不快感が加わり、結希は絶望に沈む意識を引き戻して歩き出そうとした。
  
 ゴボジャーーーーーーーーーーッ…………
「っ!!」
 その時、突然トイレの中で水音が響いた。閉まっていた右側の個室の中で、水を流す音だった。続いて回転式の鍵を外す音。閉まっていた右側のドアの表示が赤から青に変わった。
(…………だ、だれか、入ってた…………!?)
 結希は目の前の開いた個室しか見ていなかったが、隣の個室は閉まっていて鍵の表示も赤くなっていた。結希が駆け込む前から、誰かが入っていたのだ。ということは、結希が漏らしながらこのトイレに駆け込んできて、個室にたどり着けず漏らしてしまい、パンツの中からあふれるほど大量に水状便を漏らしてしまった音は、お腹の痛みに苦しむ声は、すべて個室の中の子に聞かれていたことになる。
(う、うそ、そんな…………だめ、見ないで…………)
「……………………っ」
 結希の願いも空しく扉が静かに開き、中から綺麗な水色のドレスを身にまとった女の子が現れた。身長は結希よりもわずかに低く、髪は短くおかっぱに切り揃えられている。彼女は扉の外を見た瞬間息を飲んだ。
(…………雪ヶ谷、さん…………?)
 この青いドレスには見覚えがあった。結希が出番の前にトイレから出た時に、入れ替わりで駆け込んできた女の子。結希の2つ前の順番で、プログラムには確か、雪ヶ谷みゆりという名前が書いてあった。学年は2つ下の3年生だった。
(ど、どうしよう…………な、なんて言えば…………)
「………………だ……大丈夫……ですか……?」
 ドレスを着たまま水下痢を漏らしてしまい床まで汚してしまっている結希は、もう言い訳のしようがなかった。ただうろたえるだけの結希に、少女――みゆりは心配そうに声をかけた。
「……………………だ、大丈夫……………です…………ひくっ…………」
「………………………………」
 どう見ても大丈夫ではない格好で、結希は声を絞り出した。みゆりは、声のかけようもないという表情でうつむいた。
「…………お…………おねがい…………だれにも……言わないで……っ…………」
 結希は泣きながら訴えた。すでに綾夏に外の汚れを見られてしまい手遅れかもしれないが、せめてお漏らしのことは誰にも知られないようにしたかったのだ。
「……………………」
 こくり、とうなずいて、みゆりは心配そうな表情のまま手を石鹸で洗い、汚れを踏まないようにトイレを出ていった。そのドレスの後ろ姿は、無惨な結希のドレスと異なり綺麗なままだった。
(…………私……小さい子でもしないような……お漏らし…………)
 結希は改めて自分がしてしまったことの恥ずかしさを思い知った。気を取り直して個室に向かおうとすると、今みゆりが出てきた個室の和式便器の中の茶色が目に入った。結希が入ろうとしている一番近い個室と同じような、水状便が激しく飛び散ったような汚れ方であった。本番前にはそんなに汚れていなかったので、もしかしたらみゆりもお腹を下してトイレの中で結希と同じような水状便を出していたのかもしれない。彼女は、結希が出番の直前でトイレから出てきた時に、入れ替わりに大急ぎでトイレに駆け込んでいた。
(あの子はちゃんと我慢できたのに……私は…………)
 それだけに、我慢できず漏らしてしまった自分の情けなさが際立ってくる。同じようにお腹を下したのに、2つも下の子がきちんと我慢して演奏を終えてトイレで排泄していたのに、自分は演奏を終えることもできず、トイレにすら間に合わず漏らしてしまった。どうしてこんな失敗をしてしまったのだろうと、結希は自分を責めながら、個室に向かって脚を進めた。
 その瞬間、パンツの中に溜まっていた水状便が大量に流れ落ち、床の上の茶色い池に降り注いで飛沫を撒き散らした。

「う…………うぅ…………っ………………」
 何とか個室にたどり着いた結希は、止まらない涙を拭いながら、汚れたドレスを脱ごうとした。まず彼女が脱いだのは、肛門のすぐ外で水便の直撃を受け続けたパンツだった。子供向けのコットン生地の優しい肌触りは完全に失われ、水状便が滴る汚物そのものとなり果てていた。便器をまたいで、汚れきった左手とまだ汚れていない右手をドレスの内側に入れてパンツをずり下ろすと、それだけで中に溜まっていた水便が大量に流れ落ち、和式便器の中を茶色に染め上げた。バシャバシャと水便が便器の中の水を跳ね上げる音が個室に響き渡った。
 漏らした水便が冷たい空気にさらされて肌から熱を奪っていくのを感じながら、結希は靴を脱いだ。ドレスに合う白いフォーマルシューズの中には、底が見えなくなるほどの量の水便が溜まっていた。片方ずつ靴を取り、溜まった汚水を便器の中に注いでいく。おしっこを漏らしてしまった低学年の少女がやるような、あまりにも情けない行為であった。泣きながら靴の中の水便を捨て終わった後、結希は茶色く染まった靴下を脱いだ。汚水をたっぷり吸い込んだ靴下を履き続けるよりは、素足のままトイレの床にしゃがんだ方がまだよかった。
「っ…………あ、あぁぁ」
  グピィィィィィゴロロロロロッ!!
  ゴロッギュルゴロギュルルルルルッ!! ゴロピィィィィィィィィギュルーーーーーーッ!!
  ビュルルルルルッ!! ビチビチビチビィィィビシャァァァビシャビチャビチャ!!
  ビュッビィーーーーッビシャーーーーーッビチビチビチジャーーーーーーーーーーッ!! バシャバシャバシャッ!!
 次は、汚れたドレスを……そう思った時、結希の体はまた腹痛に貫かれ、そして同時に立ったまま水便を肛門から迸らせてしまった。もう一瞬も我慢ができなかった。前かがみになって噴射した水便は斜め後ろに飛び、さっき汚して拭いた個室の後ろの壁をまた汚してしまった。
(ま、また…………汚して…………あっ!?)
  グギュゥゥゥグギュルルルルッ!! ゴロゴロロロッ!!
  ギュルルルゴログギュルーーーーーーーーーーッ!! ゴロゴロギュルッ!!
  ブシャビュルルルルルルルジャアアアアアッ!! ビュブシャーッビチビチビチビチビチッ!
  ビュビチビチッビュルーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブピッビィィィィッ! ビシャシャシャッ!!
  ビチィーーーーーーッビィーーーーーーーッビュルルルルルルルッ!! ブジャビシャァァァジャアアアアアアアアアアアアアッ!!
 水便を噴射しながらしゃがみ込んでやっと便器の中に排泄を始めた結希は、個室を掃除しなければならないことを考えて紙を取ろうとした。トイレットペーパーホルダーには芯しか残っていなかった。この個室も結希が何度も使ってお尻を拭きまくったことに加え、汚した靴下を拭こうとして紙を無駄にしてしまっていたために、あっという間に紙がなくなってしまっていた。もっとも、一番近いこの個室以外に駆け込む余裕はなかったし、本番前で紙を取りに行く余裕もなかった。不可抗力なのだが、しかし結希自身の責任であることもまた事実だった。
「うぅ……………うぅぅっ………………」
  グギュゥゥグルルルゴロロロゴロロロロロロロッ!! ギュルーーッ!
  ピィィィィィィィゴログルルルルルルルルルゴロロロロロロロログウーーーーーーーーーーーッ!! グピィギュルルゴログギュルルルッ!
  ビシャアアッ! ブシャビシャアアアッ!! ビュビチィィジャーーーーーーーッ!!
  ブシャビュルブーーッビュルルッ!! ビュルッビシャーービチャビィィィィィィッ!! ブピッビチィーーッビシャビィーーーーーッ!!
  ブジャッビチャビィィィィィィィィッ!! ビシャビシャーーーブビューーーーーッ!! ビチビチビチビチッ!!
  ブパッブシャァァァァァァァブシャァァァァァビィィィィィィィィィィィィッ!! ビュジャァァァァァァビュルルルルルルーーーッ!!
 汚れたドレスを脱ぐ気力ももはやなく、和式便器にしゃがんで水便を垂れ流す結希。体の汚れを拭けないまましゃがみ込んだことで、折り曲げた足の後ろ側の汚れが肌に貼り付き、おぞましい触覚が伝わってきた。パンツを便器の前方に脱ぎ捨てて、むき出しにした股間は前から後ろまで茶色の汚水が塗りたくられ冷たい光沢を発していた。その汚れきったお尻から、結希はさらに肛門を汚しながら大量の水便を吐き出していった。

「…………結希、ごめんなさい、遅くなって…………結希!?」
「うぅぅぅっ…………!!」
  グギュルルグルルルルルルルギュルーーーーーーーーーッ!! グギュルピーーギュロロロロッ!!
  ビュビシャーーーッブシャーーーッビチィーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャビシャジャァァァァァァァァァァビジャアアアアッ!!
  ブシャビシャビシャッビィィィッ!! ブピッビィーーーーーッジャーーーーービィーーッ!! ブシャビチィーーーーーッジャーーッ!! ブビュビィィィィッ!!
  ビチャビチィーーーーッビシャーッ! ブパッビチビチブシャーッビチッジャアアアアアアアアアアアアッ!! ビュッビシャビシャァァァァァァァァァァァジャーーーーーーッ!!
 母が廊下の掃除を終えてトイレに戻ってきた時、結希はまだ凄まじい音を立てながら水便を出し続けていた。
「……結希、大丈夫っ……!?」
「お母……さん………………あのっ、紙…………」
「紙……!? 紙がないの!? ……ごめんなさい、先に気づいてれば…………持ってきたわ。ちょっと、開けて……………………っ…………」
 結希が入っている個室の扉から一瞬中を見た母は絶句してしまった。ぐちゃぐちゃになったドレスを脱げないまま、汚れきったパンツと靴と靴下を便器の前方に投げ出し、便器の後方の壁と床を水下痢で汚し、汚れきった下半身をむき出しにして、右手だけでなく汚れきった左手でもお腹を押さえて少しでも腹痛を和らげようとしながらそれすらも叶わず、苦しみながら便器に水便を吐き出し続けている娘の姿。あまりにも悲惨な光景だった。
「………………つらかったわね、結希……。もう、もう大丈夫よ。お母さんが一緒だから」
「う、うぅ…………うぅぅぅ……………………わあああああああっ……あああああ…………!!」
 結希は、母の震える声を聞いてついに、悲しみと後悔を抑えきれなくなった。

 結希はもう、ひとりで後始末をする気力が残っておらず、すべてを母に委ねた。汚れた股間を、割れ目の間まで拭き、何度拭いてもきれいになった気がしないお尻を繰り返し拭い、両脚を上から下まで汚し尽くした水状便を拭き取り、足の指の爪の間にまで染み込んだ水便を拭ってもらう。トイレの個室前の床と、個室の中の床に撒き散らされた汚水を紙で拭き取ってもらう。汚れたドレスとスリップを、できるだけ肌につかないよう脱がしてもらう。その作業の間、結希は3回に渡ってお腹を押さえてしゃがみ込み、便器の中に水便を注ぎ込み、そのたびにお尻の穴を拭き直してもらった。 
 パンツとスリップとパニエとドレスと靴下は、あまりにも汚れがひどく、もはや洗うことすら叶わなかった。ゴミ袋を二重にして、すべての汚れ物を一緒に放り込む。一番汚染がひどいパンツの汚れがドレスの汚れていない上半身部分にも染み込んでいき、可憐な衣装すべてを汚物ゴミに変えていった。
 母は楽屋から着替え――もともと着ていた服を取ってきたが、その時に鞄の中にしまわれた黒いビニール袋を見つけ、中に汚れたパンツとタイツが入っているのに気づいてしまった。本番前に漏らしてしまうほど具合が悪かったのに舞台に立たせてしまったことを、母は後悔するしかなかった。
 結希は、元の暖かいセーターとスカート、母が用意していた予備のパンツに着替え、ようやく個室を出ることができた。大量に漏らした姿で個室に入ってから、すでに30分が経過していた。トイレを出ると、廊下で父が待っていて、結希の震える体を抱きしめてくれた。


 結希は両親に支えられながら楽屋の通路を出た。まだ発表会は終わっておらず、入口付近に人の姿は見えなかった。
「…………今のうちに家に帰りましょう、結希」
「う、うん、……っ……!!」
  ピィーーーーギュルゴロロロロロロロロロロロロロロロロログウーーーーーーーーッ!! グギュルルルルゴロギュリリグウーーッ!!
  グピィィィギュルピィーーーーーーーーーーーーッ!! ゴロッゴロロロピィーーグルルルルルルッ!!
 人目を避けるように市民会館を出ようとした結希は、また激しい腹痛に襲われて立ち止まった。一瞬にして漏れそうな便意が肛門に襲いかかる。もうトイレに駆け込むしか選択肢はなかっった。
「あ、あのっ…………トイレ、また…………!!」
「えっ……!?」
 母が驚くより早く、結希はトイレに駆け込んでいた。楽屋のトイレに戻る余裕はなく、今日何度も利用した客席側のトイレに飛び込んでいた。

「うぅぅぅっ…………」
  ギュルギュルグウーーーーーーーーーーッ!! グピィィィピーゴロロピーーギュリリリリッ!!
  グピーーーーーーーーーーーーゴロロロロロロロロロロロロロロロロロロゴロゴロギュルーーッ!!
  ブシャッビュルビシャァァァァァァァァァァァァビシャアアアアアアアアアッ!! ビュルッブシャァァブシャァビィーーッ!!
  ブパッビュビチィーーーーーッ!! ビュルッビシャァァァァァァァァァァブシャーーーーーーッ!! ブシャーーーッビュルルジャーーーーーッ!!
 個室に入ってから10分が過ぎたが、結希の排泄はまだ終わっていなかった。下痢が止まらない。出し終えたように思っても、しばらくするとまたお腹がごろごろと痛み、次の瞬間には水便が迸っている。
 1日中下痢に苦しみ続けている結希。ついに耐えきれず悲惨なおもらしをしてしまってもなお、お腹の具合は回復する様子を見せなかった。漏らした後、満足に着替えもできずにトイレで下半身を丸出しにしていたことで、結希のお腹はさらに冷えて底抜けに下ってしまっていたのだった。
 しかし、結希に待ち受けている苦しみは、お腹の痛みだけではなかった。

「あっ、綾夏ちゃんお疲れ様! ピアノ上手だったよ!」
「あ、ありがとう…………」
「っ!!」
  ビシャビシャビシャッ!! ビジュッ……!! ……ブピッビィッ…………ビュルッ……!!
 個室の外から聞き慣れた声が響き、結希は驚いて息を飲んだ。一瞬遅れて、水便を噴射していた肛門を全力で閉じる。トイレから出られずに時間が過ぎるうちに、発表会が終わってホールから人が出てくる時間になってしまったのだ。
 1つか2つ離れた個室に並んでクラスメートの二人が入り用を足し始める。
「それにしても驚いちゃった。北野さん演奏途中でやめちゃうんだもん。綾夏ちゃん見てた?」
「え…………う、ううん、私は着替えてたから…………」
(…………わ…………私のこと…………話してる………………そんな…………!!)
  ギュルギュルゴロロログルッ! ギュルーーッ!
 結希の目に、流し尽くしたはずの涙がまた浮かんだ。同時に、ずっと続いているお腹の痛みが激しくなる。
「へぇ。北野さんね、演奏を途中でやめて、お腹押さえて楽屋の方へ駆け込んでたの。ちょっとお尻も押さえてたんだよ。きっと下痢で我慢できなくなったんだよ。恥ずかしいよねー」
「…………」
(…………おしり……押さえてたの……見られちゃってた…………ど、どうしよう…………)
  ゴロログギュルーーーーッ!! ギュルルギュルーーーッ!!
  グギュルルルルルギュリリリリグウーーーーッ!! ピィィピィーーグウーッ!
 結希の表情に絶望が浮かび、お腹が悲鳴を上げ始める。結希のせめてもの希望としては、客席にいた人には下痢を我慢していたことを知られていないということだったが、その希望は完全に打ち砕かれた。あと少し我慢して完全に隠れてからならお尻を押さえても気づかれなかったかもしれないのに。
「もしかすると、トイレまで間に合わなくて漏らしてたんじゃない? あたし関係者以外立ち入り禁止って言われて楽屋に入れなかったんだけど、綾夏ちゃんもしかして見たんじゃない?」
(…………いや、お願い……お漏らししたところ……見られてませんように…………)
  ゴロロロロロロロロロロロロロロピィーーーーーギュルーーーーーーッ!! ピィーーピィギュルッ!
 結希は両手でお腹を押さえながら祈った。もうそれしかできることはなかった。下り続けるお腹は、無理やり止められた排泄を再開させようと肛門に圧力をかけ続けている。結希は絶望の中で必死に我慢し続けるしかなかった。
「えっ…………う、ううん、漏らしたところを見たわけじゃ…………」
「ふうん、漏らしたとこは見てないんだ。じゃあ別の場面を見たとか?」
(………………あ……あぁっ…………あの時の声…………もしかして山南さん……!?)
 結希は、トイレの中で漏らしてしまった時に、外で汚物を見つけて叫んだと思われる悲鳴を聞いていた。あれが、もし綾夏だったら、結希が漏らしていたことは丸わかりになってしまう。

「…………その……………………えっと…………」
 綾夏は逡巡した。結希が漏らした瞬間は見ていないが、結希が廊下で漏らした痕跡ははっきりと目にしていた。しかし、それを真琳に話せば、次の月曜日には学校中に噂が広まっていることだろう。そんなことになったら、結希は学校に来られなくなってしまうかもしれない。
 だが、黙っていた方がいいという理性を、心の中の嫉妬心が抑えつけていく。綾夏が今日弾いた曲は、結希が昨年の発表会で弾いた曲だった。その出来栄えも、1年前の結希の方が上だった。楽譜を追うことだけが精一杯の綾夏に対し、1年前の結希は細かな強弱や速さの調節で表情豊かに演奏していた。もし結希が幻想即興曲を弾き終えていたら、自分の演奏など誰の耳にも残らなかっただろう。
(私だって頑張ってるのに…………なんで追いつけないの? なんで、こんなに努力してるのに、あの子の方が………………あの子がいなければ、きっと私の方が…………!!)
 綾夏の心の中の天秤は、ついに良からぬ方向に傾いてしまった。
(お願い、言わないで…………お願いっ…………)
「…………あの、他の人には絶対言わないでくれる?」
(お願い…………言わないでっ…………!!)
「え? うん、いいよ、あたしと綾夏ちゃんだけの秘密。で?」
(お願いっ……!!)
「…………北野さんね、その……間に合わなくて、廊下で漏らしちゃったみたい……舞台の出口からトイレの前まで、下痢でぐちゃぐちゃになってて……」
「っ…………!!」
(…………………そん…………な…………)
 結希は心臓が打ち砕かれるような衝撃を受けていた。下痢を我慢できず漏らしたことを、綾夏が見ていて、それを真琳に教えてしまったのだ。単におしゃべりというだけでなく、悪意を持って噂を流そうとする真琳が結希の恥ずかしい失敗を知ってしまったらどうなるか。考えることすら恐ろしい未来が待っていることは間違いなかった。
「へぇ…………そうなんだ、可哀想だね」
 可哀想、と口にする真琳の表情には暗い笑いが浮かんでいた。
「うん…………だから、他の人には言わないで。お願い」 
「わかったって。ふうん、そんなぐちゃぐちゃに汚しちゃったんだ。それは恥ずかしいよね」

「…………」
(あ…………あ……………………あぁ…………)
  ゴログルルギュリリピィーーーギュルーーーーッ!! グピーーーーーギュルルルッ!!
  グピィィィィグルルルルギュルゴロゴロロロロロロロロロロロロロロッ!! ゴロッグルルルルルッ!
  ビジュッ……!! ブッ……ブピィ…………!! ビュルルッ!!
 結希はトイレの個室の中、絶望の嗚咽すら漏らすことを許されず、お腹を押さえて便意を我慢し続けることしかできなかった。ついにその我慢も限界になり、お尻から水便が漏れ出し始める。
「……なんか変な音しなかった? もしかしてここ、北野さんが入ってるんじゃない? ひどい臭いもするし」
「え…………さ、さすがにもう帰ったと思うけど…………だいぶ具合悪いみたいだったし……」
「そうかな? 実は下痢がひどすぎて帰れないんだったりして。北野さーん、北野結希さーん! 大丈夫ですかぁ?」
「……………………」
(やだ………………やめてっ……………言わないでっ……やめて…………!!)
  グギュゥゥゥゥゥゥギュリリッ!! ギュルピィーーゴロロロロッ!!
  ゴロロロロロロロロロロゴロロロロロロロロロロロロロゴロピィーーッ!! ギュロロッ!
  ブジュルルッ……!! ビチッ…………ブビッ……ビィッ!! ……ブシャッ………!!
 悲鳴すら上げられない結希は、個室の中で目を閉じて震えながら激しくなる腹痛をこらえ、便意を少しずつ便器の中にこぼしながら耐え続けることしかできなかった。
「ね、ねえ真琳ちゃん、他の人もいるし、人違いかもしれないからそのくらいにして…………」
「えー、あたし心配してるのにぃ……まあ、いいか。じゃあ行こ、綾夏ちゃん。発表会上手にできたお祝いに、カフェでケーキ食べる約束だもんね」
「う、うん…………」
「………………」
 結希が必死に唇を噛みしめる中、綾夏と真琳はトイレを出ていき、騒がしい話し声が消えた。

「う…………うぅ…………あぁぁ…………ああああっ…………わあああぁぁっ…………!!」
  ゴロッピィーーーーーギュリリリリリリリギュルーーーーーーーーーーッ!! グギュルルギュリギュルルギュルーーーーーーーーッ!!
  ブピッ…………ブジュッビチッ……ブッブバッブシャァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ビチビチビチジャーーーーーーーーーーッブビィィィィィィィッ!! ブジュブジュビチッビシャビシャビシャーーーーーーーーーーッ!!
  ビシャビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルビチィーーーーーーーーーーーーーーッビィィィィィィィィッ!! ブピッビィーーッビビチビチビチッビィィィビシャアアアーーーーーーッ! ブシャビシャビシャビビビビィーーッ!
  ブパッビシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァジャーーーーーーーーーーッ!! ブパッブシャーーーーッビチィーーーーーーーーーッ!!
 結希の涙腺と声帯と肛門が、同時に決壊した。
(私…………もう…………おしまいだ………………こんなの……学校にも……もう……行けない………)
 発表会の演奏を途中で止めて台無しにしてしまった。
 トイレに間に合わず大量の水状便を漏らしてしまった。
 それを同じピアノ教室の同級生、綾夏に知られてしまった。
 そのことが、意地悪な同級生、真琳に伝わってしまった。
 演奏を終えられなかっただけでも再起不能に近いショックを受けていた結希の心は、漏らしてしまったことでボロボロになっていた。そして、それをクラスメートに知られてしまったことは、結希の心をどん底を突き抜けるほどに深く傷つけていた。
 しかし、クラスメートを責めることはできなかった。自分のせいなのだ。漏らしてしまったのも、我慢できず演奏を続けられなかったのも、結希自身の失敗だったのだから。

「………………!!」
 そして結希は、真琳が最後に言い残した「お祝い」「ケーキ」という単語にもう一度心を抉られた。
 今日は、結希の誕生日だった。
 発表会を終えて、大好きな両親と、見に来てくれた祖父母が、誕生会を開いてくれるはずだった。
 結希の誕生日のお祝いに、大きなバースデーケーキを用意してくれているはずだった。
 結希はそんな家族の思いも、自分の失敗で台無しにしてしまった。
「うぅぅぅぅっ…………うぁ…………うあぁぁぁぁんっ…………!!」
  グピィィィィィィィィィィィィィィィゴロピーーピィィィギュルゴログウーーーーーッ!! グピーーギュルルギュルグウーーーーーーッ!!
  ビシャビシャブシャーーッビィーーッ! ビチャビュルルビィィジャアアアアアアッ!! ビチビチビチィーーッ!
  ブシャブシャーーーーーーーーーッビィィィッ!! ビシャビシャビシャッジャアアアーーーーーーーッ!
  ブジャッビュルーーーーーーーーーーーーーッジャアアアッ!! ビチィィビシャァァァァァジャアアアアアアアアアッ!!
  ブパッビシャーーーーーーーーーーーージャーーーーーーーーーーーッ!! ブバッビシャビュビィーーーーーーーーーーーーーッ!!
 結希の胃腸はもはや何も受け付けようとせず、ただその中身を水状便としてすべて吐き出し続けていた。


【第7小節】失意の夜

「っ……………ふぅっ………………うぅぅ………………ひぐっ…………」
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥギュルギュルピィーーーーーーーーーーーーッ……グピィーッ…………
  ギュルルルルルゴロロロロロロロロピィーッ……ギュルルルルゴロピーーグギュルーーッ……
  …………………ビュッ…………ジュッ…………ビュルビチッ……………………
  ポタ…………ポタタッ…………ブジュゥゥゥグジュグジュビピッ!! ジュルル…………ビチビチビチドボボボボボッ!! ……ポタッ……ポタポタポタッ…………!!
 
 家の1階のトイレの中。
 結希は涙を流しながらお腹を押さえ、前かがみで洋式便器に座り込んでいた。
 痛々しく膨れ上がった肛門からは断続的に水便が流れ落ち、肛門のひだを表面張力で伝った液体がおしりの曲面を滑り、変曲点を超えたところで雫となって水面に落下していった。
 時折お腹の中のガスが肛門に膜を貼った水便を膨らませ、肛門の下に茶色いシャボン玉を作り上げる。そのシャボン玉の表面を細い水流が一つ二つと流れ落ち、次の瞬間には怒涛のような水状便の滝が便器に注ぎ込まれた。そしてまた肛門から液体がお尻を伝う。
 出しても出しても終わらない下痢に、結希は苦しみ続けていた。
 トイレの床の上には、水便で茶色く汚れたパンツが投げ出されていた。


 悲しみと絶望に包まれ言葉を失いながら発表会場を後にした結希は、降り続く雪の中、母が運転してくれた車で家に帰った。しかし、雪道のノロノロ運転の渋滞に巻き込まれ行き以上に時間がかかってしまった。車に乗った段階で便意を感じ始めていた結希は、ジュニアシートの座席のお尻の下に左手を差し込み、ドレスを押さえたように必死に肛門を押さえつけていた。それでも完全に水状になった便は押さえきることができず、パンツを汚してその外のスカートにも染み込みつつあった。
 家の前に着いて車から飛び降りた結希は、靴を跳ね飛ばすように脱いでトイレに駆け込もうとしたが、扉を開けた瞬間に漏らしてしまった。もうお尻の穴が言うことを効かなくなっていた。スカートの上から押さえていた左手がまた生温かい液体に包まれ、パンツの脇から水便がこぼれ始める。漏らしてしまったパンツを下ろしながら洋式便器に座り込んだ瞬間、凄まじい勢いの排泄が始まった。
 それから1時間が経ったが、結希はまだ立ち上がることができずにいた。水便が一度途切れても腹痛が止まず、数分後にはまた新たな汚水が腸内から吐き出されていく。おしりを拭いても拭いている間に肛門が熱くなり、慌ててどけた手をかすめて水便が便器の中に叩きつけられる。

「うぅぅぅっ…………ひっく…………うぅっ………………んうっ!!」
  グギュルルルルルルルルギュルピィィィィィィィィィィッ!! グピィィピーーグギュルーーーーーーッ!!
  ジュッ!! …………ビジュルルッ!! ………………ビュブシャーーーーーーーーーーッビシャァァァァァァァァァァァビチィーーッ!
  ビシャビシャビシャッ!! …………ブシャァァァァビューーーーーーーーーーーーージャアアッ!! ドボドボドボドボッ!!
  ビシャビュルルルルーーーーーッ!! ブビシャァァビチィーーーーッバシャバシャバシャビシャビィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!! ビシャーッビュブシャーーッブビィィィィッ!!
 また始まる凄まじい勢いの排泄。渋り腹と激しい排泄を繰り返し、体中の水分を失ってもまだ止まらない下痢。
 結希のお腹は、限度を超えた冷えと、発表会本番での大失敗の精神的負荷、学校で噂されてしまうという恐怖によって完全に下りきってしまっていた。

「お義父さん、お義母さん…………すみません、遠くから来ていただいたのに……結希、やっぱりまだ出られないみたいで…………」
 廊下からリビングに戻ってきた母は、扉越しに伝わってきた結希の様子を祖父母に伝えた。あまりに苦しげな様子に、声をかけることすらできなかった。
「いいのよ、真紀さん気にしないで。…………結希ちゃん、そんなにお腹の具合が悪かったのね…………」
「…………はい………………お腹を冷やしてしまって、朝からひどい下痢だったんです……何度も、何度もトイレに行ってて…………本番前にも行ったんですけど、出番を待っている間にまたトイレに行きたくなってしまったみたいで……演奏中に、どうしても我慢できなくなって…………」
「そうだったの…………とっても上手に弾けてたのに…………辛かったわね……」
 事情がわからず演奏を止めてしまったことに驚いていた祖父母も、母の説明を聞いて状況を理解した。
「…………それと…………すみません、ドレス、買っていただいて…………結希も本当に気に入っていたんですけど………………その…………汚してしまって…………」
「……っ………………まさか……漏らしちゃったの……?」
 祖母がはっと息を飲んで声を潜めて訊いた。母は、長い沈黙の後でかすかにうなずくことしかできなかった。
「………………ごめんなさい…………せっかく、一緒に選んでいただいたのに…………洗っても落ちないくらい、汚れてしまって…………」
 デパートの子供服売り場でドレスを試着した結希の嬉しそうな顔が母と祖父母の脳裏に浮かぶ。そして、その光景が二度と戻ってこないことも。
「いいの、いいのよ、謝ったりしないでちょうだい…………。……そうなの………可哀想……苦しかったでしょうに…………」
「……すみません…………私が、もっと強く止めていればよかったんです。そうすれば、こんなことにならなかったんです。結希も傷つかずにすんだはずなんです。それなのに…………うぅっ…………」
「真紀さんのせいじゃないわ。…………結希ちゃんも、何も悪くないのよ」

「うぅ…………あぁっあぁぁぁ…………うぁぁぁぁん…………!!」
  ギュリリリリリリゴロロロロロロッ! グウーーッ!
  グギュゥゥゥピーゴロピィーーーーーーギュルルルルルッ!! グピーゴロロピィィィィィィグギュルルッ!!
  …………………ビュッビュルルルルルルルッブシャーーーッ!! ブパッビチィィィィィビュルーーーッ!! ドボボボボボドボッ!!
  ブジュブジュブジュッ!! ビシャァァァァァァァァビュルビュルーーーーーーーーーーーッ!! ブシャッビュビチィビュルーッ!!
  ビュビシャーーーーーーーーッビィーーーーーーーーーーーーーッ!! ドボビチャビチャッ!! ブシャビュルルビィィジャーーービシャーッ! ビシャーーーービィィィビシャビシャビシャーーーッ!
 周りの誰もが結希は悪くないと思っていた。しかし、トイレの中に閉じこもっている本人は、止まらない下痢と格闘しながら、誰よりも強く、自分の失敗を後悔していた。
(なんで、もう少しだけ我慢できなかったんだろう…………なんで、もっと早くトイレに行かなかったんだろう…………なんで、発表会を休まなかったんだろう………なんで、お腹冷やしちゃったんだろう…………なんで…………なんで……………私………)
 泣きはらした結希の目にまた涙が浮かび、すぐに跡が残る頬を伝って流れ落ちた。
「うぁぁぁぁぁぁっ…………あぁぁぁぁぁ……………」
  グピィギュルゴロロロッ! グピィィィピィーーーゴロロロロログウーーーーッ!! グピーーギュロロッ!
  グギュルルルピィィィィィィィィ!! グギュゥゥゥゥゴロロギュルグウーーッ!! ピィーーーギュルグピィーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビューッ!! ビシャーーッビィィィィビュルーーーーーーーッ!! ブシャッビチィーーーーーッジャァァァァブシャーーッ!! ブパッジャーーーーーーーッ!!
  ビュビチィィィィィィィィィビシャァァァァァァァァブシャーーーッドボドボドボッ!! ジャァァビィーーッビュルルルルッ! ブシャビシャーービチィーーーーーッジャーーーーーーーーービュルビィーーーーーーッ!!
 完全に壊れてしまった結希のお腹が、排泄物にすらなれなかった汚水を吐き出し続ける。
 結希は泣きながら、お腹をさすり続けていた。


「……そろそろ、お暇しようか。結希ちゃんをゆっくり休ませてあげよう」
 いたたまれない沈黙を破って、祖父が口を開いた。
「…………そうね。あの、これ…………お誕生日のプレゼント。落ち着いたら渡してあげてちょうだい」
「…………はい…………」
 母はきれいな包みを受け取ったが、結希がこれを受け取れるのはずっと後になるのではないかと思い始めていた。
「あ、あの…………ケーキ、よかったら持って帰っていただけませんか……? 結希、とても食べられる様子じゃなくて…………私達も…………」
 母は、冷蔵庫の中に放置されているケーキのことを思い出して、せめて祖父母に食べてもらおうとした。
「…………でも、そんな。結希ちゃんが食べられないのに、私達だけいただくわけには」
「……いや、頂いて帰ろう。捨ててしまったら、結希ちゃんはそれも自分のせいでと思ってしまうだろうから……」
 悲しい譲り合いになってしまった状態に、祖父が助け舟を出した。
「…………そう……そうね。…………じゃあ、半分いただいて帰ります。残りは真紀さんのご実家で……」
「……ありがとうございます。では、ちょっと箱を分けますので…………」

 母はケーキの箱を開けた。
 中からはスポンジと生クリームの甘い香りが漂い、色とりどりのフルーツが盛られたケーキの中心に、「結希ちゃん 11歳のお誕生日おめでとう」とチョコペンで描かれたホワイトチョコのプレートが飾られていた。ケーキの脇には、赤青黄と白のマーブル模様の、11本のろうそくが添えられていた。
 本当なら、このろうそくをケーキに立てて、ハッピーバースデートゥーユーの歌を歌い、結希がちょっと恥ずかしそうな笑顔を浮かべながらろうそくの火を吹き消し、みんなが拍手とともに「お誕生日おめでとう」とお祝いの言葉をかけるはずだった。素晴らしい演奏をみんなで称え、結希は練習を頑張ってきたことを話し、来年はどんな曲を弾くの? 将来はピアニストになってみんなをコンサートに招待してね、と、ちょっと気が早い期待をされて、恥ずかしがりながらも笑顔を浮かべるはずだった。一年で一番楽しみな誕生日を迎え少しだけ成長した少女と、それを見守る両親と祖父母の、暖かい団欒のひとときを迎えるはずだった。
 それなのに。

  ビィィィィィッビチビチビチッ!! ビシャーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「…………っ……!!」
 沈黙に包まれていたリビングに、廊下に続く扉を閉めていても聞こえる冷たい水音が響いた。
 …………現実は、あまりにも残酷だった。

「…………っ…………うぅっ……………………どうして……こんなことに……結希は、何も悪いことしてないのに……こんな…………こんなのって…………」
 ついに悲しみに耐えきれず、母の目から涙がこぼれ落ちた。
「………………可哀想に…………気を落とさないで、真紀さん…………」
 祖父と祖母に支えられながら、母は涙を流し続けた。
「……はい……………はい……っ…………うぅぅぅっ……………!!」


「…………っ…………うぅっ…………………」
 これが夢や幻だったらどんなに良かっただろう。嗚咽を漏らして涙を流しても、悲しい現実は変わらない。それがわかっていても、母は悲しい思いをして今も苦しんでいる娘を思い、まるで自分のことのように涙を流し続けた。
 その涙がようやく流れ落ちなくなった頃、玄関の扉が開いた。
「…………ただいま」
「………………お帰り、なさい………………………」
 祖父母が帰る直前、父が家に戻ってきた。母が結希を連れて帰った後、ピアノ教室の先生や市民会館の担当者にお詫びをして回ってきたのだった。
「…………その、先生は、何て…………」
「気にしないでください、と……。むしろ体調が悪いのに気づかなくてすみません、と言われてしまった」
「…………そう…………ごめんなさい、全部やってもらってしまって…………」
「会館の方も、気にしなくていい、と…………時々あることだからって」
「……………………」
 時々ある、というのは会館のスタッフが慰めようとしてくれたのかもしれないが、母には逆効果だった。たぶん時々あるのはおしっこを漏らしてしまった程度で、下痢でここまでひどく汚してしまったことはないのだろうと想像できてしまった。
「気にしないでまた来週からレッスンに来てほしいと言ってくれていたけど…………結希は?」
「………………まだ……ずっと……」
 母は結希が入ったままのトイレのドアを見て悲しげにつぶやいた。
「そうか…………」

「進一、私達はそろそろお暇するわ。」
 帰り支度をした祖父母――父にとっての実親が玄関に現れ、短く言葉を交わした。
「あ……ごめん、わざわざ来てくれたのに…………気をつけて」
「気にしないでいい。それより、結希ちゃんを励ましてあげなさい。今日すぐには立ち直れないかもしれないけれど……きっと、元気になれる日が来るはずだから」
「真紀さんのこともお願いね。自分を責めないでって」
「ああ…………わかってる」
 そうして、祖父母は結希と言葉を交わせないまま家を辞していった。

「っっ……ぐぅ………………あぁぁ…………あぁぁぁぁっ……………うぁぁぁぁぁぁっ…………」
  ギュルルルルルルピィィィィィィィィィギュルルルルルッ!! グピィィピィィゴロギュロロッ!!
  ギュルルルグウーーッ! ゴロロロロロロロロロロロロギュリリリリリリリリリリギュルッ!! グギュルルグルルルゴロロロログルルッ!!
  ビチビチビチブシャッビチィィィブビューーーーーーッ!! ビシャビシャジャァビュビィーーーッビュルーーッ!!
  ブジャッジャーーーーーービシャアアアアアアアッ!! ビュッビュルーーーーッビシャビシャーーーーーッドボボボボ!!
  ジャーーーービシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッブビューーッ!! ビュルッビィーーッビチビチビュルジャーッ!
  ビュルッビシャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! ビシャビュルビュルーーーーーーーッジャァァァァァァァブシャーーーーーーーーッ!! ビチィビュルルビシャーーッ! ビチビチドボドボドボドボッ!!

 その間も、玄関からほど近いトイレの中からは、結希が水便を便器に吐き出し続ける音が響いていた……。


【第8小節】嘲笑の教室

「………………」
 結希は、恐る恐るという形容そのままに、少しだけ開けたドアから教室の中を覗き込んでいた。

 発表会で悲劇的なお漏らしをしてから1週間。
 家に帰っても下痢は全く治まらず、汚れた体を洗うために入浴した際も湯船の中で腹痛に襲われ、トイレに行くことも間に合わず洗い場にしゃがみこんで大量の水便を吐き出してしまった。夜中もベッドに横たわる時間よりトイレに座り込む時間の方が長いほどで、体も心も消耗しきっているにも関わらず絶え間ない腹痛に苛まれ、その晩は眠ることすらできず涙を流しながらベッドの中で体を震わせていた。
 翌朝になっても下痢が治らない様子を見て、両親は結希を病院へ連れて行った。重篤な感染症などではなかったが、逆に特効薬もなく、点滴で水分を回復させる対症療法を受けて帰宅するしかなかった。点滴を受けている間にもトイレを我慢できなくなり、もし間に合わなそうだったらと用意してもらったポータブルトイレを1時間の間に3度にわたって使用することになった。経口補水液を買うために寄ったドラッグストアで一緒に買った紙おむつをトイレで穿き、すぐに車の中で汚してしまった。家に帰っても下痢は止まらず結希は自室と隣のトイレの間を何度も何度も往復し、時折紙おむつからあふれるほど漏らしてしまって後始末をしに泣きながら階下に降りるという一日を過ごした。トイレに駆け込んだ回数は1日だけで30回に達していた。
 月曜になっても下痢が続き、とても学校に行ける体調ではなかった。ただ、結希にとっては学校を休めることは悪いことではなかった。学校に行って、もし噂が広がっていたら――。想像するだけでも恐ろしいことだった。水分とゼリーだけを口にしてはトイレでお尻から水便を吐き出しつつ、結希は部屋に閉じこもっていた。
 火曜日になってようやくお腹の具合が回復し始めて食事も取れるようになり日中は紙おむつを外せるようになった。木曜日にはトイレに行く回数が10回を切るようになったが、その夜、明日は学校に行かなければと思うとお腹が激しく痛み始めてまた調子が悪くなり、結局金曜日の朝もトイレから出られず学校を休むことになった。
 家に閉じこもったまま不安な週末を過ごした結希は、これ以上両親に心配をかけることができず月曜日には登校することにした。日曜の夜には明日のことが怖くなり激しい腹痛を抱えてベッドで震えながら眠れぬ夜を過ごした。

 そして迎えた朝。日差しは冬にしては暖かかったが、結希の脚は学校に近づくごとに震えを増していった。いつもと同じ黄色のセーターと緑色のスカートは、少しでも目立たないようにと選んだものだった。人目を避けるように廊下の端を歩いて教室に向かい、中を覗き込んだ。

(お願い……噂になってませんように…………)
 必死の願いを込めながら静かにドアを開け、足音も立てないように自分の席に向かう。

「あのね――――」
「……だね、それって――――――」
「――――じゃん」
「ううん、――――」
(ど、どうしよう、もし誰かが、噂に…………)
 聞き取れない雑多な声や遠くの小さな声がすべて結希を責めているように感じる。緊張と不安と恐怖で胸が締め付けられる。

「あっ北野さん、おはよう……」
 結希が自分の席にたどり着く直前、一つ前の席の笹谷詩乃が声を掛けてきた。あまり目立つ方ではなく、休み時間はよく図書室で本を読んでいる子だった。
「…………あ…………笹谷さん………お、おはよう……」
 結希は詩乃とは仲が良い方だった。二人ともあまり社交的な性格ではないが、それだけに適切な距離感を保って話をすることができる。詩乃から普段と変わらない挨拶を受け、結希は戸惑いながらも挨拶を返した。
(………………だ、大丈夫……? 噂になってないの……?)
 結希はかすかな期待を抱き、自分の席に座ろうとランドセルを肩から下ろした。

「よぉ北野、久しぶりじゃん」
「…………っ……!!」
 普段ほとんど話さない男子の辰川翔が話しかけてきた。背の高い男子を前にして結希の小さな体はびくりと縮こまった。
「北野、おまえピアノの発表会でウンコ漏らしたんだって?」
 大きな声で話しかけてきたのに身構えた結希は、何を言っているのか一瞬理解できなかった。
「っ」
(…………え…………っ………!?)
 その内容は、結希が一番恐れていたことだった。
(……知られてる……!? ……そ、そんな…………やっぱり…………)
「俺も聞いたぜ。ピアノ弾いてる時にいきなりビチビチって漏らしたんだろ?」
「ちょっと、そんな汚い話しないでよ」
「北野さん可哀想に、漏らしちゃったんだって?」
「発表会でって、ドレスとか汚しちゃったの?」
 次々と結希の恥ずかしい失敗を口にする男子と女子。
(み、みんな…………知ってる…………男子まで…………そんな……!!)
「あ……………あ……………」
 結希は恐怖で真っ青になりがくがくと震え始めた。肩から机の上に下ろそうとしていたランドセルが滑り落ちてそのまま床に落ち、大きな音を立てた。
「ちょっと、翔くん、悠くん、いい加減なこと言わないでよ。ねえ、違うわよね、北野さん?」
「っ……ぁ…………」
 後ろから肩に手を置かれた結希はびくっと体を震わせた。恐る恐る振り返ると、真琳がにやりと笑みを浮かべて立っていた。
「演奏してる最中じゃなくて、演奏を途中でやめてトイレに行こうとしたのに、間に合わなくて廊下で漏らしちゃったのよね?」
「っ……!!」
 真琳がクラス中に聞こえる声で結希が失敗した事実を語る。結希は何も言葉を出せなかった。真琳が言ったことはすべて本当のことであった。
「あたしは直接見たわけじゃないんだけどぉ。廊下がぐちゃぐちゃになってたんだって。どんなにたくさん漏らしたのかしら」
「あ、あっ……………えっ…………」
 結希はめまいがするような感覚を覚えつつ、先ほど挨拶をしてくれた詩乃の方に視線を泳がせた。
「………………」
 しかし彼女は、一瞬だけ結希と目を合わせたものの、何も言わずすぐに視線を落としてしまった。
「あ、あぁぁ……………あっ…………」
 助けを求めるかのように視線を動かした結希の視界に、窓際の机の脇に立っていた綾夏の姿が映った。
「…………………」
 しかし彼女も、結希と目が合いそうになると、すぐに顔を背けて視線を反らしてしまった。

(…………いや…………こんな…………こんなのって…………!!)
 結希に励ましの声をかけてくれる友達は、誰もいなかった。ただ嘲笑の声だけが響いていた。
 結希に同情の視線を送ってくれる友達は、誰もいなかった。ただ好奇の目だけが集中していた。
 誰も、結希を助けてはくれなかった。誰もが、結希を傷つけていた。
 しかし、誰かを責めることはできなかった。自分のせいなのだから。大切な日に、してはいけない失敗をして、発表会を、誕生日を台無しにしてしまったのは、全て自分のせいだったのだから。
「…………あ…………うぅ………………うぁぁぁぁぁぁっ!!」
 結希は真っ赤な顔で悲鳴を上げると、弾かれたように教室の外へ走り出した。
 すでに大きく傷ついていた結希の心は、これ以上の辱めにはもう耐えられなかった。
 教室から、学校から、クラスメートたちから、綾夏から、真琳から、全てから逃げ出したかった。逃げた後のことは考えなかった。とにかくすべてが怖かった。

 結希の椅子の横の床には、可愛らしい薄いピンクのランドセルが転がっていた。
「おい、片付けといてやれよ」
「やだよ。ウンコ漏らした奴のランドセルなんか触りたくねーよ」
「……………………」
 綾夏は、結希のランドセルを拾い上げ、哀れみを含んだ視線を向けながら、何も言わずランドセルを結希の机の脇に掛けた。
「綾夏ちゃんどうしたの。いまさら可哀想になってきた?」
「………………別に……。そういう、わけじゃ…………」
 綾夏は悲しげな表情を浮かべつつ、自分の席に戻り、空席になった結希の机を見つめた。


「はぁっ、はぁっ……はぁっ………………」
 転びそうになりながら逃げるように学校を飛び出した結希。
(もうやだ………………こんなの、もうやだっ……………)
 結希はあまりにも辛すぎる現実から逃避し、自分だけの部屋に閉じこもりたかった。
 だが。
「うぅ、っ…………!!」
  グギュルルピーーギュルギュロロロロッ!! グギュルルッ!
  ゴロゴロギュルピィーーッ!! グギュルルルルルルルルルルルピィィギュロッ!!
  グピーギュルルルルルルルルギュルルルッ!! ゴロッピーーーーーーーーーーグルルッ!! ゴロッグウーッ!!
 横結びにした髪を振り乱して走っていた結希は、お腹を押さえて立ち止まった。
(…………お腹…………痛いっ…………!!)
 赤くなっていた顔が一瞬で青ざめ、上気した汗ではなく冷や汗が額に浮かぶ。激しい腹痛、今にも漏らしそうな便意。
 結希はまた、お腹を壊してしまっていた。

 発表会の日にひどくお腹を冷やしてしまってから少しずつお腹の具合は回復し、木曜日にはやっと水状便ではなくやや粘性のある下痢便程度にまで回復したが、学校に行かなければいけない、けれどもお漏らしの噂が広まっているのが怖いという精神的なストレスで結希のお腹は再び猛烈に下ってしまっていた。特に日曜日の夜からは具合が悪くなり、夜中も何度も起きてトイレに駆け込んでいた。便もまたしゃーしゃーの水状便に戻ってしまっていた。
 今日の朝も何度もトイレに行き、痛むお腹をさすりながらがんばって登校したのに、結希を待っていたのはクラス中の冷たい視線だった。心を深く傷つけられた結希は、今までよりも一層激しくお腹を下してしまっていた。

「うぅぅっ…………くぅっ…………!!」
  グギュルルルグウーーーーッ! グギュルルピーーーピーーーグギュルルルッ!!
  ゴロッゴロロロログギュルルッ! グピィィィゴロロピィーーーーピーーーーゴロロロロッ!!
  ゴロッギュルルルルルルルルルルルルルグピィーーーーーーーーーーーッ!! ゴロッギュルゴロロッ!!
(だめ、がまんできない…………トイレ……トイレっ……!!)
 あっという間に限界に達した便意を必死に堪えながら、結希はトイレにたどり着ける方法を考えた。学校を飛び出して数分。お腹の痛みのせいでまともに走れない状態では、家に着くまではあと10分近くかかる。それまではとても我慢できそうにない。
 一番近いのは学校のトイレだったが、とても学校に戻ることはできなかった。他学年のトイレを使えば同級生には会わないかもしれないが、それでも学校に戻るのは結希にとって恐怖でしかなかった。
 あとは、家とは逆方向になるが、少し離れた公園に公衆トイレがある。ここからの距離は5分ほど。そこも何度も使ったことがある。男女共用の個室が一つしかなく、埋まっていたら万事休すとなるが、結希にはもうそれ以外の選択肢が残されていなかった。

「はぁっ、はぁっ…………うぅぅっ……!!」
  グギュルルルピィィィィィギュリリリリギュルルッ!! グギュルーーーッ!!
  ゴロギュルゴロギュルルルッ! グピィィギュルピィィィィィゴロロロログギュルッ! グギュルギュルピィギュルーッ!!
  ゴロロロロロロロロロロロロロロロピィーーピーーーギュルルッ!! ゴロッピーギュルルルルルピィィィィィギュルーーッ!
  グピィィィィィィギュルギュリリリリリリリリギュルーーーーーーッ!! グギュゥゥピィーゴロロロロゴログルルルルルッ!!
  ……ブッ…………ブプププププッ……ビピーービピピッ!!
  ……ブピ……プジューーーーッ!! ブピピブピブプーッ!
(だめ…………お腹……痛い…………もう……だめっ…………!!)
 公園のトイレを目指して歩き出した結希は、1分も歩かないうちに立ち止まってお腹を押さえていた。お尻からは早くもおならが漏れ始めている。
 結希の想定より遥かに早く、肛門が限界を迎えようとしている。結希の考えが甘かったわけではなく、お腹の具合がひどすぎるのだった。激しいストレスに打ちのめされた結希の神経は、助けてほしいという悲鳴を上げるかのように猛烈な下痢を引き起こしていた。

(トイレ…………行かなきゃ…………もれ……ちゃう…………!!)
  ギュルルルルゴロロロピィーーーッ! グピーーーーーゴロロロッ!!
  ゴロッゴロロピィーーーーグルルッ!! グギュゥゥゴロロロロピーーーーギュリッ!! グギュルルギュルッ!
  グピーーーーーギュルルッ! グピィィィィィィィグルルルルルルルルルギュルーーーーーーーーーーッ!! ゴロロゴログギュルーーーッ!!
  ゴロギュルルルルルルルグピィーーッ!! グピーーーーーーーーーーーーーーーーピィーーーーーーーッ!!
  プジュ……ビピピピピッ!! ビピピピピッブプーーーーーーーーッ!
  ブピプゥゥゥゥゥゥゥゥプジュブジュブジュルルルルッ!!
「っ!!」
 止まらなくなっていたおならにひときわ水っぽい音が混ざった。一瞬遅れて肛門の周りににじむ熱い感覚。
(……で、でちゃったっ…………もう…………だめっ…………!!)
  グギュゥゥゴロロギュリリグギュルーッ! グピィーーゴロロロギュルルルルルルルルルルーーーーーッ!!
  ギュルーーーッ!! ギュルグギュルルルルルルッ!! ゴロピィーゴロロロロロロロログルルルルルルルルルッ!!
  ギュルギュルギュルルルルルギュルルルルルルルーーーーーッ!! ギュロッグギュルルルルルルルルルルルルルグピィーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  プジュブピプチュプゥゥッ……ブジュブブブッブジュルルルッ……ビィィッ……!!
 結希はお尻を押さえて立ち止まった。凄まじい音を立てるお腹が、腸の中に溜まった水状便を洪水のように吐き出そうとしている。家まではとてもたどり着けない。公園のトイレどころか、公園の入口すら見えていない住宅街の真ん中で、結希は限界を迎えようとしていた。

「あ、あ、ああっ…………」
  グピーーーーグルルルルッ! ギュルグギュルーーーッ!
  ギュルゴロロロロロロロロロロログウーーッ!! ギュルルルギュルギュルピィーーーッ!!
  ゴロギュルギュルーーーーッ!! グギュルルルギュリリリギュルピィーーーーーーーーーーッ!!
  ブピッブピプジュプジューーーッ……プゥゥッ……! ブジュゥゥゥ…………ビチ……ビチィッ!!
(もうだめっ…………もれちゃう…………!!)
 あの日とは対照的な快晴の朝。住宅街の路上で、今にも水下痢を漏らそうとしている結希の姿を隠すものは何もなかった。遠くに人や自転車、車の動きが見える。ここで漏らして、今度はその姿を大勢の人に見られてしまう。ピアノ教室にも学校に行けなくなった結希は、ここで漏らしてしまったらもう近所を歩くことすらできなくなってしまう。その瞬間は間近に迫っていた。

  グピィィィィィィィィィゴロロロロロロゴロピーーーーーピィーーーーーーゴロロロロッ!! ゴロッ!
  ゴロッギュルルルルルルルルピーーーーーーーーーーーーーーーピィーーーーーーーーーーーグピィーーッ!! グピィィィィィピーーーーーーグギュルッ!
「だめ…………やだ……………あぁぁぁ…………!!」
 気が遠くなるほど激しく痛むお腹が内容物を波打たせる感覚。全力でお尻を押さえているのに肛門が膨らむ感覚。直腸に大量の水便が注ぎ込まれて押し広げられる感覚。結希は1週間前と同じ感覚を思い出していた。ひどい腹痛に必死に耐え、ドレスの上から必死にお尻を押さえ、絶望的な状況でトイレまで辿り着こうと必死に脚を前に進めていた時と同じ感覚を。大量の水便を漏らしてドレスを汚してしまった感覚を。その時と、全く同じ感覚だった。
(もうだめっ……………………でる……でちゃう…………!!)
 ドレスを着たまま漏らしてしまった市民会館の廊下の光景がフラッシュのように脳裏に浮かび上がる。
「うぁっ、っあぁぁぁぁ…………あああぁぁぁっ…………!!」
  ゴボッブボォォォォォォブジューーーーーーーービュルビシャアアアアアアアアアッ!! ビィッブビビィィィジューーーーーーッ!
  ジャーーーーーゴポッブリブボボボボビチィィブシャーーーーーーッビジャアアアアアアアアアッ!! ブジュブジュビュルルルルルジューーーーーーーーーーーッ!!
  ブシャビュルルッビチビチビチビュルビュルッビューーーーーッ!!ゴボゴボゴボブーーーーーーーーッビヂビヂビヂブジュルルルルルビィーーーーーーッ!!
  グポポポポブジュボボボッシャーーーーーッブジュブジュッビシャビシャッ!! ジャーーーーーーーーーッビシャビシャビシャビシャァァァァァァビィィィィィィィッ!! ビシャビュルルルルルルッ!! ブシャブシャーーーーーーーーッ!!
 お尻の穴が熱くなった。指先を生ぬるい液体が包む。肛門が開ききって閉じてくれない。押さえているのに。水状の便がどんどん溢れ出している。水便がパンツの中に注ぎ込まれ、すぐにその生地をすり抜けて外側のタイツに染みを作っていく。布地に吸収されるより早く吐き出される水便がパンツの中で前後左右に広がり、横から漏れ出した水便がタイツと太もものわずかな隙間からこぼれ落ち、太ももを覆うタイツに茶色い筋を作っていく。
 また、漏らしてしまった。
 お腹を壊して。トイレに行こうとしたのに間に合わなくて。してはいけない場所で。誰に見られるかわからない場所で。結希は大量の水便を漏らしていた。

「うぅぅ……ぐぅぅっ…………あぁぁ……ぁぁぁっ……!!」
(お願い……お願い止まってっ…………だめなの…………こんなところでっ…………!!)
  ギュルギュルルルルグルルルルゴロッ!! グギュゥゥゥゥゥゥゥピィーーーーーーーーーーゴロギュルルッ!!
  ゴロロロロロロロロロロロロログルルルルルルルルルルルルッ!! ギュルグルギュルギュルルルルッ!
 結希は前かがみの姿勢で、猛烈な腹痛を右手でなだめながら、必死に左手を肛門に押し付けた。一気におもらししてしまってもなお諦めず、必死に我慢しようとしている。だが、それは汚れを肛門の周りに塗りたくり、スカートを汚れた布に押し付けて二次災害を招くだけの行為にすぎなかった。
  ビシャビュビシャビシャーーーーーーーッゴポッブボォォブジューーーーーーッ!! ビュッビューーービィーーーーーッビチィーッゴボブボーーッ!!
  ゴボボボッブジュルルルゴポポポッジャーーーーーーーービュビィーーーーッ!! ビチビチビチビチビュルジャァァァァァァァブビューーーーッ!!
  ゴボボボッブジュルルルルルルゴボボボボボッ!! ブパッビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィブシャーーッ!! ビシャビュルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャブシャーーッビシャーーッブビューッ!!
 次々と水状便がパンツとタイツを汚していく。タイツの表面には水便がにじみ始めて、表面を汚水の流れが直に滑り落ちるようになった。タイツの布地と肌の間を縫うより早く汚れが滑り落ち、足元を汚していく。アスファルトの地面にも水便がこぼれ落ち始めた。これが水たまりになって結希の足を飲み込むのに時間はかからないだろう。タイツで締め付けられているパンツは水便を受け入れられる量が少なく、行き場を失った水便がお尻の後方からパンツの上のゴムを通り越して溢れ出した。その外にはタイツがあり、プリーツスカートの上端がある。その上を更に乗り越え、スカートの表面を水便が流れ落ち始めた。
 

(……お願い……せめて……誰にも……………………あっ……!?)
 この一週間で何度味わったかわからない絶望。そして、いつ誰が通りかかるかわからないという焦燥。便器を目の前にして水状便を残らず漏らしてしまった光景が脳裏に浮かぶ。結希は放心することすら許されず、必死に周囲を見渡した。そして次の瞬間、涙に滲む視界の端に無機質に光る金網の扉を見つけた。その向こうは薄暗く先は見えない。行き止まりになっている路地がそこにあった。
 人通りはない。金網の扉は内側にわずかに開いており、鍵はかかっていない。この路地に入れば、身を隠すことができる。漏らしても見つからずにすむ。いや、それよりも、ここなら、今からでも―――。

「うぁぁっ……………!!」
  グピーーーーーーーギュリリリギュルルルッ!! ギュルルルルギュルギュロロロロロッ!
  グギュルルルルルルルルルグルルルルピィーーーーーッ!! グギュルギュルルルルルルルルルゴロロロッ!!
  ゴロッギュルゴログルルルギュルルルルルルルルルルルルッ!! ギュルルルルピィーーーーーーゴロゴロゴロゴロピィーーーーッ!!
  ブジュゴボゴボゴボゴボブボォォォッ!!ビチビチビチッブジュビシャジャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! バシャバシャバシャッ!!
 頭の中に「野糞」という言葉が浮かんだ瞬間、お尻でひときわ大きく響いた破裂音に弾き飛ばされるように、結希はふらつきながらも駆け出していた。
 左手で汚れきったお尻を押さえ、右手はお腹を押さえている。スカートのおしりは深緑を通り越して茶色い液体が浮かび始めている。そしてタイツの中は水便の洪水になっていて、いくつもの水流が合体して両足の内側を茶色に染め上げていた。完全に漏らしてしまった少女にとって、この路地裏は緊急避難ができる野外排泄スポットにしか見えなかった。
 体ごとぶつかるように金網を開けると、抵抗なくあっさりと扉は開いた。幅2mもない道の、3mほど先に行き止まりの壁。コンクリートの地面にはそこかしこに黒ずんだ染みが残っている。路地というよりも使われなくなったゴミ捨て場のようだったが、結希にとってはもう何でも良かった。

(だめ、だめっ…………まだっ…………!!)
  グギュルグルギュルルグルルルピィーッ!! グギュルーーッ!
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥピィィィィグルグギュルルルルルルルルルルッ!! グピィィギュルルルルルルッ!!
  ブジュゴボゴボボボボッビジューーーーーーッ!! ブジュビチッブビィィッゴポポポポッブブブブッビチブジュブジュッ!!
  ゴボッブーーッブピッビチャビュルルルルルルルルルルルルルッ!! ゴボボブジュルルブリッブシャブビューーーーーーッ!!
  ゴポッブブブブブブブブブブブブブッブリブボォォォォォォォォォォォォォォッ!! ビュッビュルルルルルルルルルルルルルルルルビュルーーーーーーーーーーッ!! ビュッビィィビューーービシャビュルーーーッ!!
 凄まじい勢いで水便を漏らしながらスカートを捲りあげ、身を翻して壁に背を向ける。体の向きを変えるだけで水便の雫が慣性に従って振り落とされコンクリートの地面に飛び散る。
  ブジュブボブブッビチーーーーーッ!! ブボボボボボボボボボボボゴボボボボボッ!! ビシャビュルルルルルルルルルルルルルルジャーーーーッ!!
  ビュビシャーーッビシャァァァァァァァァァァァァァァァビュルビシャアアアアアアアアアアアッ!! ブシャジャアアアアアアアアアアアアッ!!
「あぁぁぁぁ…………!!」
 さらに破裂音が響き、一瞬でその染みが全周3cm以上外側に広がる。すでにタイツに白い部分はほとんど見られなくなっていた。タイツの汚れは足元まで達し、白いスニーカーの中を水便で満たし始めている。さらに靴の表面にも、タイツの外側を流れ落ちてきた水便が茶色い色を塗りたくっている。結希の下半身はもうぐちゃぐちゃだった。
 おしりから離した左手でパンツをタイツごとずり下ろす。中から現れるのは、肌色ではなく茶色。少女の誰にも見せてはいけない秘密の部分は、路地裏でパンツを下ろしても秘密のままだった。完全に水状便の茶色に覆われて割れ目の形すら見えなくなっていたからだった。太ももも、膝の裏も、ふくらはぎも、すべて茶色に染まっている。タイツの中を駆け抜けた水状便が、汚水の茶色と、わずかばかりの未消化物を少女の柔肌に塗りたくっていた。
「だ、だめっ…………だめぇ…………」
 前かがみになってしゃがみ込もうとする途中で、結希の肛門がまたも咆哮した。
  ブシャーーーーーーーーーーーーーーーッビシャビシャビシャバシャバシャッ!! ブジャビチャビチビチビチッブビィィィィビシャーーーーーーーッ!!
  ビュビシャァァブビュルルルルビューーーーーーーーーーッ!! ブシャァァァァァァァァァァァァビュルルルルルブジャビシャビィーーーーッビシャアアアッ!!
  ブジャーーーーーーーーーッ!! ブパッビシャビシャァァァァァァァジャーーーーーーーーッ!! ブピッブシャァァァァァァァァビシャァァァァァァブビューーーーーッ!!
「あぁぁぁぁ……………………」
 凄まじい勢いで壁に水便が叩きつけられる。ほぼ真横に噴射された水便は汚れきったスカートの縁をかすめて飛沫を散らしながら壁に直撃し、直径30cmに渡る汚物の痕跡をブロック塀の壁に塗りたくった。跳ね返った茶色い水飛沫が結希の靴と白いタイツを汚していく。さらに壁から流れ落ちた茶色い水が滝のようにコンクリートの地面を叩き、しゃがみ始めて斜めに落ちてきた水状便の濁流が茶色に塗りつぶしていく。
(…………ど、どうしよう、私、また、漏らして…………こんな所で……しちゃってる……!!)
 水便を噴射しながらスカートを抱え込み、崩れ落ちるようにしゃがみ込む。茶色に汚れたおしりの中心から、真下の地面に凄まじい勢いで水便が噴射されていく。一瞬で両足の間に広がった汚水の池。そこに至近距離で力いっぱい叩きつけられた液体は、茶色い靴と茶色いタイツの間の地面をあっという間に茶色に塗りつぶしていった。
 トイレではない場所で、いつ誰が通りかかるかもしれない路地裏で、結希は汚れた下半身を丸出しにしてしゃがみ込み、凄まじい勢いで下痢便を噴射していた。


 (挿絵:ウニ体さんPixiv版)

「うぅぅ…………」
  ゴロロロロギュリリグギュルルルッ! グギュルッ!
  グピィィィィィィィィィゴログルギュリリリリリッ!! グギュルルルルグルルルグギュルーーーッ!!
  ビュルッビュルルルッ!! ポタポタポタビシャァァビュルーーーッ! ブピッビチィーーッビュルルビシャーッ!!
  ビュルッジャーービシャァァァァァァァビュルルルルルルルッビュルルルッ!! ビシャアアッ! ブピッビチィィィィィィィブシャーーーーーーーーッブビューーーッ!!
  ブビュビチビチビチビチッビシャーーーーーーッジャーーーーーーーーーーッ!! ブジュビュッビュルーーーーーーーーーッ!!
  ブシャビシャーッビュルーーーーーーーーーーーッビュルルルルルルルルルルブビューッ!! ブジャッビチビチブシャーーーッビュルビシャーーーブビューーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビシャビシャビシャビュルッビューーーービュルルルルルルッブーーーーーーーッブジュグジュブジューーーーッ!! ビュビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーービチャビチャビィィィィィィィィッ!!
(だめ…………と、止まらない…………こんなところ、見られちゃったら…………!!)
 漏らしてしまった水便がおしりの曲面に沿って一番低いところに集まっていくが、途中で水滴が大きくなりすぎて地面に落ちてしまう。そこはすでに水便の海の中だった。さらに、タイツのおしりに当たっていた部分、もはやどんな布だったかもわからないほど茶色に染まって、その内側にあるパンツが茶色で隠れて見えなくなっている部分からは、いくつもの茶色い水流が地面に向けて流れ落ちていた。下痢便とも呼べないような完全に茶色い水になった水便が、アメーバが這い広がるように地面に汚れを広げていく。

「んっ!! うぐぅ……………うぅぅぅっ!!」
  グギュルルルルルルルルルルルギュルルピーーーグルルルルルルルルゴロロロロロロッ!! グギュルルピィーーーーーギュルーーーッ!!
  ブパッビィィィィィィッ! ブジュブジュビュルルルルルジャーーーーービュルルルルルルッ!!
  ビュッビュルビチィーーーッビチビチビチビチィーーーーーーッ!! ブパッブシャーッビシャーーーーーーッ!! ビュッビィィビューージャァァァァァァァァァビュルーーーーッ!
  ビシャビィーーーッビューーーーーービュルルルルルルブビューーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ビシャーーーーーーーーッビィィィィッ!!
  ブジャッビュルルルルルルルルルルルルルルルルビュルーーッ!! ブジャッビュルルルルルルビチィーーーーーーッビィーーーーーーーーーーーッ!! ビシャビシャビシャッ!!
(……ど、どうしよう、誰か来たら…………は、早くしないとっ…………!!)
 靴やタイツを汚さないためには、少しでも肛門を締めて排泄の勢いを抑えるべきだった。しかし、ここはトイレではなく、ただの路地裏だった。結希がそうしたように、誰でも入ることができる。金網を閉める余裕は全く無かった。扉は無造作に開いたままだった。誰か来たらおしまいだ。水状便を大量に漏らしてぐちゃぐちゃにした下半身から、まだ止まらない水便を垂れ流している。小学5年生の、子供よりは大人に近い年齢の女の子が決して見せてはいけない姿だった。こんなところを誰かに見られたらもう生きていけない。 結希は恐る恐る顔を上げた。視界が涙で滲んでいる。幾度かまばたきをすると徐々に涙滴の屈折効果が薄れ、数m先の光景が結希の網膜に映し出された。

「え…………」
「あ………………」
 そこには人の姿があった。道路に立って路地裏を見ている、黒の学生服に身を包んだ中学生くらいの男子。信じられないという表情で立ち尽くしていた。当然だろう。小学生の女の子が、水下痢を漏らして路地裏に駆け込み、壁まで飛び散るほどに水便を噴射してしまい、さらに汚れたおしりから大量に水便を撒き散らして地面を汚している。
 結希が路地裏で繰り広げていた恥辱の光景は、すべて見られてしまっていた。
(……え……あ……ど、どうしよう……うそ……こんな……見られて…………あぁぁ……)
 結希の青ざめていた顔が一瞬で真っ赤になる。考えがまとまらない。
「ご、ごめん、見ようとしたわけじゃなくて、その、具合が悪そうだから、気になって……」
「う、うぅっ!!」
  ブシャッビィィィィィィィィビシャアッ!! ブビューーッ!
  ビュビュビュブシャーーーーーーーッ!! ブピッビィィィィィッ!
  ビュルッジャーーーーブビューーーーーーーーーーッ!! ブシャビシャァビィーッビチィーーーーーーーーッ!! ブシャーッ! ブビビブビビビビビィッ!!
 事情を説明しようとする少年の声を結希の肛門から響く破裂音が遮る。
(ど、どうしよう、私、見られて、こんなところ…………)
 結希は顔を真っ赤にして凍りついていた。手で顔を隠したいと思ったがお腹が痛すぎて下腹部から手を離せない。恥ずかしいと思いながらも、滝のように吐き出される水下痢が止められない。完全に下ってしまったお腹が水便を直腸から送り出し、恥辱の茶色い水たまりを広げていく。
「あ、あ、あ………………」
「………………」
 言葉を発せなくなった結希の視界の中で、少年は言葉を失って立ち尽くしていた。
(だめ、と、とにかくここを離れて…………逃げなきゃ…………!!)
  ビュジャァァァァァビチャビュルルルルルルルルッ!! ビシャーッ!
  ブシャッビシャビチャビチィーーーーッビシャアアッ!! ブパッビィィィビシャーーーーッ!!
  ブシャビシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァビュルーーーーーーーーッ!! ビュビシャーーーッビチィィィィビシャーーーーーーッビィィィッ!
 結希はとにかくこの場から逃げ出そうとした。本来、そのためには腸内の水便を出し切り、汚れたパンツをタイツを脱ぎ、お尻と脚を拭かなければならない。だが、結希にはそんな事を考える余裕はなく、ただこの場所からいなくなりたいとしか考えられなかった。
「……あ、あのっ…………ご、ごめんなさいっ…………!!」
 結希は慌てて腰を上げると、汚水まみれのパンツとタイツをそのまま引き上げようとした、しかし、水下痢で濡れたタイツは肌にひっかかりなかなか結希の秘部を隠してくれない。中に溜まった水便をタイツの中にこぼしながら無理矢理にパンツをはき、ついでタイツを力いっぱい引き上げる。濡れたタイツが汚れたおしりを再び覆う形容しがたい感覚を感じながら結希は立ち上がった。
「あっ……………」
  ビュルビチビチビチブジューーーーーーーーーーーーーーッブビビビビビッ!!
  ビシャビチィィィィィブビューーーッゴボボボボボボボッ!! ブシャジャァァジャービュルーーーッゴボッブボボボボボ!!
 立ち上がった結希のおしりから凄まじい破裂音が響く。まだ便意が全く収まっていない状態でパンツとタイツを引き上げてしまったのだから、こうなることはわかりきっていたのだった。
「あぁぁ…………やだっ……………………っ!?」
  ブジャッビィィィィィィィィィィビチィーーーーーーーーッゴボボボボボッ!! ビュルッビュルルッゴポゴポッ!!
  ブピッビューービシャーーーーービュルビィーーーッブジュブジュブジュ!! ビュルーーーーーーーーーッビィィブシャーーッビチィーーッビュルルッ!
  ビシャジャーーーーーーーーーーーービチィーーーーーーッゴボッゴボボボボッ!! ブピッビュルルブシャーーーーーーーーーーーーーッブジュブジュビィーーーーーーーーッ!!
 パンツの中をもう一度満たす生暖かい液体の感触。その気持ち悪さに震えた瞬間、結希の脚から力が失われた。度重なる激しい下痢による脱水症状と激しい羞恥による精神的負荷が、結希の意識を一瞬途切れさせたのだった。
「……あ、だめっ……ああっ!!」
 バランスを崩した結希は、上体を起こしきれないまま後ろ向きに倒れ込んでしまった。結希の体は軽く、普段なら尻もちをついてちょっとお尻が痛むだけで済んでいただろう。だが、今結希が倒れ込もうとしている地面には、彼女が出したばかりの水状便が大きな池を作っていた。そのちょうど中心に、結希のお尻が落下してくる。数秒後の光景を想像してしまった結希は必死に体勢を立て直そうとしたが、すでに手遅れだった。

  ビチャバシャッ!! ベチャッ!!
「――っ!!!」
 汚れきったパンツとタイツで覆われたお尻が水状便の水たまりに叩きつけられ、あたり一面に茶色い飛沫を飛び散らせた。さらに、後ろに倒れ込んでしまった結希の背中は壁にぶつかってもたれかかる姿勢になってしまった。その壁には、結希がしゃがみ込む前に噴射してしまった水状便が、まだ流れ落ちきらずに茶色い壁画をつくっていた。結希の背中を覆う黄色いセーターが茶色に染まっていく。一瞬遅れて地面についたスカートの裾が水状便を吸い上げ、緑色が茶色みを帯びた濃い色に変わっていく。地面に突こうとした両手が触れたのは水便の池の中だった。

「あ、あああ…………」
 路上で水下痢を漏らしてしまい、必死にたどり着いた路地裏でしゃがむ前に水便を噴射して壁を汚した上に大量に水状便を地面に吐き出す。女の子としてやってはいけない行為をいくつも重ねた上に、その光景を異性の少年に見られてしまった。それだけでももう生きていけないほどの衝撃なのに、パニックになって下痢が止まらない状態で下半身の着衣を戻して立ち上がり、案の定すぐにまた漏らしてしまい、バランスを崩して自らが出した汚物の中に倒れ込んでしまった。
  ゴロッピィギュルグギュルーーッ! グギュルルルルギュルピィーーーッ!!
  グギュゥゥゥゥゥピィーギュルルルルルルルルルルッ!! グピーーギュルルルルグギュルーッ!
「あぁぁぁぁ…………」
 もう、限界だった。ちょっとしたプレッシャーでもお腹にきてしまうほど繊細な少女の精神。結希の心は、もうこれ以上つらい思いをするのに耐えられなかった。直腸の圧力が高まっていく。それを食い止めるだけの体力も精神力も結希には残されていない。
「…………お願いっ…………!!」
 パニックになっていた結希がようやく発した意味のある言葉は、これまでにない切実さにあふれていた。
「…………お願い………………見ないでください…………っ!!」
「あ…………」
 次の瞬間には漏らすという感覚を感じながら、結希は顔を上げた。目の前で立ちすくむ少年に、消え入りそうな声で必死の懇願をする。しかし、その答えを聞くことはできなかった。
「うぁぁぁぁぁぁ…………!!」
  ブシャッブビューーーーーーーゴボボボボッ!!
  ビュッジャービシャァァゴボッブビィーーーッ! ブボボボッブピッブシャーーッビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
  ビチビチビチビュッビチャビィーーーーーーーーーーーッビシャアアアッ!!ゴボッゴボボボボッブピッビィーーーーーーーーッビュルーーーーーッ!!
  ゴボゴボゴボビシャビュビュジャーッ!! ブボボボボォッブシャビシャーーーーーービュジャアアアアアアアアアアアッ!! ビィッ!
 我慢を放棄したお尻の穴が開き、直腸の圧力そのままに水状便を汚物そのものと化したパンツの中に叩きつける。倒れ込むときにもがいたせいで、結希の両足は大きく開かれ、しりもちをついた体勢では股が開かれ、スカートの中のタイツが丸見えになり、その奥で汚れたパンツが輪郭をあらわにしていた。その茶色がさらに濃くなっていく。
 結希はまた漏らしてしまっていた。

「………………ご、ごめん……………僕、そんなつもりじゃ…………ごめんっ……!!」
 少年は頭を下げ、踵を返して道路を結希が歩いてきた方向へ走り出し、コンクリートの壁の向こうに姿を消した。
「う、うぅ…………うぅぅぅ…………!!」
  ゴボボボボボビュルーーーーーーーーーーーッビィーーーーッ!! ブビューッ!
  ブパッジャーービュルビュルーーーーーーーーーーッグジュブジュブジュッ!! ビュッブビューーーーーッ!
  ビュッビシャブシャーーーーーーーーーーッビシャアアッブジュゴボボボボボボボッ!! ブシャビチャビィィィィィィィィッ!!
  ブシャッビシャブシャァァァァビュルーーーッゴボッゴボボボボッ!! ビュビュルーーッビュルビシャアッ!! ブパッブシャァァァジャアアアアアアッブビィィィィィィ!!
 結希は地面にしりもちをついたまま水便を下着とタイツの中に噴射し続けていた。繊維の隙間まで埋め尽くした水便が布地の外に染み出すより早く新たな水便が吐き出され、パンツの中を茶色い汚水が押し広げていく。
(どうしよう…………見られちゃった…………私…………漏らしたところも…………こんなところで、しちゃったところも…………どうしよう…………)
 少年が視界から消えても、結希の心に刻まれた衝撃は消えてはくれなかった。お漏らしと排泄を見られてしまった羞恥も大きかったが、それ以上に不安が大きかった。少年の顔に見覚えはなかったが、制服は近くの若葉台中学校のものだった。近所に住む少年であることは間違いない。結希のクラスに兄弟がいるかも知れない。もし、このことを近所に知られてしまったら。クラスメートに知られてしまったら。もう二度と学校に行けなくなってしまう。
  ゴロッピィーーーギュルゴロロロロロピィーッ!! ゴロッギュルグギュルッ!
  ギュルルルルルピーーーーーーーーーーギュルルルルルルッ!!
「あぁぁぁ…………」
 結希のお腹はまだ下り続けて新たな水便を肛門に向けて送り込んでいる。少年がいなくなり、またパンツを脱いで水便を思いっきり放出することもできるはずだった。だが、結希にはもう立ち上がる力が残されていなかった。駆け下ってきた水便で肛門が熱くなる。中が熱いのか外が熱いのかもうわからなくなっていた。
「あ…………あぁぁっ…………あぁぁぁぁ………………」
  ブピッビチィィィィィゴボッゴボボビシャアアアアッ!! ビュルッジャアアアアッ!
  ブシャッブシャーーーーーーッビチィーーーーーーーーーッゴボゴボボボブジューーーーーーッ!! ブピッビュルルルルジャーッ!! ビチビチビチブビィィィーーーーッ!!
  ビシャビシャーーーーーーーーージャーーーーーーーーーーーーーッゴボゴボゴボブーーーーーッ!! ビシャジャァァジャーーーーーーービシャビチィーーーーーーッ!!
  ゴボボビュッビュルーーッビシャビュルルッ!! ビュッビチィーーーーーーーッゴボブジューーーーーッ!! ビュルッビュブシャーーーーッ!!
 結希は尻もちをついたまま、水状便をパンツの中に出し続けた。スカートももう水便を吸い上げてくれない。茶色い汚水の海が結希のお尻を中心に広がっていく。直径はもう1mを超えていた。
「うぅ…………あぁぁぁぁぁ………………」
  ブシャッビュルルビュルジャーーーーーーーゴボゴボボボッ!! ビュビシャァァァァァァビチィィィィィィジャアアァァァァァァァァッブビビビビビビッ!!
  ビチビチビチッビュッビュビチャビィィィィィィッ!! ブピッビシャァァァァァァァァビュビシャーーーッ!! ビィーーッ! ジャーーーーーーーーーッ!!
  ビュブシャァァァァァァァァァビィィィィィィィィィッ!! ビシャビシャビシャブパッビシャビィーーーーッ!! ビュルーッ!! ビュルルルルルルルルルル!!
  ブシャッブシャビジャーービィーーーーッビシャアアアアアアアアアッ!! ブパッビシャァァァァァァァビシャーーーッ!! ブパッジャーーーーーーービュブシャーーーーッ!! ジャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
 結希はもう、立ち上がる気力も、パンツとタイツを脱ぐ気力も失っていた。ただ、一刻も早く排泄が終わることだけを願い、直腸に流れ込んでくる水状便をそのままパンツの中に吐き出し続けていた。肛門の周りだけでなく、パンツの前の方から後ろのゴムまですべてが水便で埋め尽くされていた。出した水便が冷たくなるより早く次の汚水が吐き出され、結希は生暖かい感覚に下半身を浸し続け、涙を流しながら悲しい排泄行為を続けていた。
「うぅぅぅ…………痛い…………はやく……っ……!!」
  グピィィィィィグルギュルグギュルーーーーッ!! ゴロッゴロロロロロロギューーーーーーッゴロゴロゴロッ!!
  グピーーーーーーーーギュルルルルルルグルルルッ!! ゴロゴロロロロロロロピィーーーーーグウーーーッグルルルルルル!
  ギュルゴロロロロロロロピィィィィィギュリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!! ゴロッグルルピィーーーギュルルルルルルーーーーーーーッ!!
  ゴボボボゴボッブシャッビューーーーーーーーーーービシャーーーーーーーーーーーッビチィーーッ!! ビチビチビチッブシャビチャブシャァビシャーーッゴボボボボボッ!!
  シャーーーーーーーーーーーッブボゴポッブパッビシャビィィィィィィィィィィッ!! ブシャッビシャーーーーービシャビシャーーッブピピピピピッ! ブジュグジュブジュブジュジュッ!!
  ビュッブシャーッビチャビチィーーーッ! ビチビチビュッビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーービチャビチャビチィーーーーッ!! ゴボボボボボブシャッビチィーーーッビシャアアアアアアッ!!
  ブジュルルルルルーーーーーッ!! ゴボゴボッブピッビュルルルルルルルルルルルルルルルビチィーーーーーーーーーーッ!! ビシャビィーッビュルーッビシャーーーッジャァァァァァァァァァァァァァァァァッゴポゴボボボッ!!
 また誰かに見られてしまうかもしれない、さっきの少年が戻ってくるかもしれない。誰か人を呼ばれてしまうかもしれない。一刻も早くここから逃げ出さないといけないのに、まだ下痢が止まらない。水便が止まらない。お腹が激しく痛み続ける。腸が千切れそうな痛み。神経がねじ切られそうな痛み、脳が焼ききれそうな痛み。食中毒の猛烈な下痢にも劣らない激しい腹痛に苦しみながら、結希は止まらない水状便を吐き出し続けていた。
 うわ言のように上げる苦悶の声は、お尻から響き渡る凄まじい排泄音にかき消されてしまっていた。茶色い水たまりはどんどん広がり続け、後ろは壁にまで達し前は地面に投げ出した足より先まで広がってしまっていた。背中に冷たい濡れた感触が伝わっていた。



「あぁぁ………………はぁっ…………はぁっ…………」
  グウーーーーーーーーッ……グギュルッ…………ゴロピィーーギュルルルピィーーッ……
  グギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゴロピーギュルーーーーッ……ピィーーーギュルーーーッゴロロロロロ……
  ブビィィィィィィィッ!! ブジュグジュブジュジュジュッ!! ブビブビビビィッ!!
  ビチビチッビィィィィィィィッ!! ブジュブビビビビビブジュグジュブブブブブブジュルッ!!
 やがて水便の代わりに空気の破裂音が響くようになってきた。やっと水便が出なくなり少量のガス混じりの水分だけになってきたのだ。お腹の痛みはまだなくならないが、意識が飛びそうなほどの激しい痛みではなくなってきた。

(…………私……………………こんな…………ぜんぶ…………漏らして…………)
 まともな意識が戻ってきて、最初に結希が感じたのは羞恥だった。彼女の視覚は、めくれたスカートの中で茶色く染まったタイツと、その下の地面の茶色い池をとらえていた。タイツは汚れが目立たない黒色だったのに、表面に滲んだ茶色い液体が布地そのものを茶色に変えてしまったかのようだった。彼女の聴覚は、お尻から断続的に響く汚いガスの破裂音を聞き続けていた。彼女の嗅覚は、辺り一帯を包む激烈な刺激臭に完全にやられてしまっていた。彼女の触覚は、パンツとタイツの中を駆け巡った水便が冷たくなっていく恐怖にも近い感覚に包まれていた。彼女の味覚を司る口の中は、唾液すら乾いてしまうほどの焦燥に侵され、他の感覚から伝わる本能的な気持ち悪さに吐きそうな感覚を覚えていた。
 お腹を壊して、漏らして、汚れた体のまま野外で下痢便を漏らし続けてしまった少女の、あまりにも悲惨な姿がそこにあった。
(は、早く…………逃げなきゃ…………ここから……早く………………っ!!)
「……………あ…………っ……」
 結希は体を起こそうとしたが、あることに気づいて口元を押さえようとした。ただ、水便の中に浸っていた手は左右両方とも汚れきり、口に触れられる状態ではなかった。結希は涙を溢れさせながら息を呑んだ。
 拭くものがなかった。
 ランドセルは教室で取り落としたままだった。ティッシュもハンカチもその中にある。結希が身につけている衣服の中には、汚れた下半身を拭けるものがなかった。ショックのあまり衝動的に教室を飛び出してしまったのは致命的な失敗だった。
(ど、どうしよう、何か、拭くもの……………………………)
 結希はお腹が弱い上に、トイレに関しては様々な不幸に見舞われている。漏らしながら駆け込んだトイレに紙がなかったことは何度もあった。ポケットティッシュをいくつも持ち歩いていたのに昼過ぎには使い切ってしまったことも多い。そういった時に彼女が使ったのは、漏らしたものの白い部分が残っているパンツや、飛沫が飛び散ったものの外側は汚れていない靴下やタイツだった。
 だが、今結希が穿いているパンツは、漏らし続けた水便によって汚物そのものと化していた。タイツも同じだった。すべて茶色に染まり、拭いてもきれいになるどころか肌を汚すことしかできないだろう。

「えぐっ……………ぐすっ…………」
 泣いて助けを求めたかった。しかし、今の結希は人に見られていい姿ではなかった。とにかくここから逃げないといけない。結希はゆっくりと立ち上がった。
  ビシャビシャビシャビシャッ…………
「――――っっ!!」
 脚を伸ばした瞬間、お尻の周りに溜まっていた茶色い汚水がタイツの中を流れ落ちていく。悲鳴すら上げられない気持ち悪い感覚。水便はタイツの外側ににじみ出し、地面に滝のように降り注いだ。スカートの裾からも途切れずに茶色の水流が流れ落ちていく。早く逃げ出すためにはこのまま走り出すしかなかったが、一歩踏み出した瞬間またタイツの中から水便が溢れ出し、これを脱がずに家まで帰ることはできないと思い知った。

「……………ぅぅっ……………ぐすっ…………うぅぅ…………」
 結希は、涙を流しながら靴を脱ぎパンツとタイツを一緒に下ろした。タイツの中身は完全に茶色になっていて、パンツがどこにあるのかわからない有様だった。大量の水便を受け止め、溢れ出すことができなかった未消化物が大量に残っている。内側も何度も水便が流れ落ち茶色の液体に埋め尽くされていた。水流が途切れないほど大量の汚水がタイツから滴っている。
 このまま持ち帰るのは不可能だった。ただ、こんなものを置きっぱなしにするわけにはいかない。一度家に帰って、ビニール袋か何かを持ってくるしかない。本当は、汚れきったお尻と脚をきれいにしたい。だが、結希にはそのための手段も時間も残されていなかった。
(はやく…………はやくしなきゃ…………)
 結希は意を決して、路地裏を飛び出そうと駆け出した。

「うぅっ……あ、ああっ!!」
  ゴロロロロロロロロログルルルピィィギュルルルルルルルルルッ!!
  ギュルルルゴロゴロロロログルルルルルルルッ!! ゴロッゴロロロロロロロロロッ!!
 しかし、数歩進んだところで、結希はまた腹痛に襲われて立ち止まってしまった。
 次の瞬間には肛門に新たな圧力が押し寄せてくる。脚が震え、結希はその場にしゃがみこんでしまった。

(うそ、また………………だめっ…………!!)
  ビシャッ……!! ジャァァァァァァァァァァァァビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ブジャブシャーーーーーーッ!!
  ブジャッビシャジャアアアアアアアアッ!! ビュビュビシャアアアアッ!! ビュッビシャーーーーーーーーーブビューッ!
  ブピッビュルビュルーーーーーーッブシャァァァァァァァァビュルルルルルルルルルルルッ!! ビシャーーッブシャーーッビチィーーーーーッ!
 結希はしゃがみ切る前に、激しい腹痛と便意で神経が焼ききれそうになりお腹に力を入れてしまった。中腰の姿勢で水状便が斜めに噴出し、脱ぎ捨ててあったタイツに直撃していた。もっとも、すでにタイツだったことすらわからないただの廃棄物でしかなかったのだが、身につけていたものに水便を叩きつけてしまったことは打ち砕かれていた結希の自尊心をさらに深く傷つけた。

「あ…………あぁぁ…………」
 結希が切実に願っていた、一刻も早くここから逃げ出したいという思い。結希の体はそれすらも叶えてくれなかった。
 おしりの双丘は茶色に覆われ、その頂点からは今も茶色い水滴が滴り落ちている。脚も一面の茶色。水便と、ところどころに張り付いた色鮮やかな未消化物。昨晩、両親に心配をかけまいと無理して食べた食事の中身が、腸を駆け抜けて汚物となって結希の下半身をぐちゃぐちゃに汚していた。小学5年生の可愛らしい少女。1週間前には、可憐なドレスを着て、誰よりも上手にピアノを弾いていた少女と同一人物とは信じられないほど、あまりにも凄惨な汚れ方であった。
(私……………私…………どうして…………)
 限りない後悔が結希を襲う。もう、何もかも取り返しがつかなかった。

「う、うぅぅ…………うぁぁぁぁぁぁぁっ…………!!」
  ビュッブシャーーーーッビュルビシャーーーーッ!! ビチビチビチビィーッ!!
  ビュビシャーーーーーーッビシャアアアアアアッジャーーーーーーーッ!! ブジャッビチィーーーッビィィィィッ! ビュビュルルルルルルビシャーーーブシャーーーーーーッ!
  ビュルッビィーーーーーーーーーーーーッブビューーーーッ!! ジャーーーーーーーッビチビチビチジャーーーーーーーッ!! ブシャッビチャビィーーーーーーーッビュルルッ!
  ブパッジャァァァァァァァァァァァブシャーーーーーーーーーーーッ!! ブジャッビシャビシャビシャッジャアアアアアアアアッ!!
 結希の肛門からは、再び凄まじい勢いで水便が吐き出されていた。素足の内側に茶色い飛沫が飛び散る冷たい感覚。おしりが跳ね返ってきた水滴で汚されていく震えるような感覚。そして、肛門を駆け抜け続ける茶色い汚水が粘膜を刺激する熱い感覚。しゃがみこんだことでタイツに水便が直撃はしなくなったが、飛び散る飛沫がその上に降り注いでいた。


「……う……うぅっ……はやくっ…………!!」
 肛門からの噴出が終わった瞬間、結希は震えながら立ち上がった。靴の中を満たした茶色い液体が流動し、結希の素足をぬるついたおぞましい感覚で包む。肛門から水便の雫が滴り続けている。
 結希は怯えながらまた駆け出した。野外で排泄している姿を見られてしまったことが結希の絶望をいっそう強くしていた。
(私………こんな…………)
 金網を閉める時に振り向いて見た汚れは凄まじいものだった。
 壁の下半分を汚した水状便。そこからコンクリートの地面を伝わって直径1m近い巨大な茶色の水たまり。その中心に沈んでいる、タイツだったと言われてもわからない汚れきった布切れと、その中で全面下痢便の色に染まった子供用のパンツ。ティッシュやハンカチなどは一つもない。立ち上がったもののまたもよおして吐き出してしまった、相対的に小さな直径50cmほどの水たまり。その手前にいくつか続く茶色い足跡。汚れ始めた靴で路地裏の奥へ駆け込み、汚れきった靴で路地裏から飛び出した少女の悲しい足跡だった。

(お願い……誰にも見られませんように……!!)
 結希は路地裏から顔だけを出して左右の道路を見渡した。
 人通りはない。車も見えない。
(さ、さっきの人は…………)
 黒い学生服の人影は、見えなかった。
 もう一度左右を見て、通りの角まで見通すが、誰もいない。
(…………だ、だいじょうぶ……なのかな………………?)
 見られてしまった事実はもう消しようがない。しかし、これ以上見られずに済むことは不幸中の幸いともいえる。
(…………いまのうちに…………)
 結希は消耗しきった体に鞭打って駆け出した。両足から、スカートの裾から、いくつもの茶色い雫が滴り落ち、アスファルトの上に小さな痕跡を残していく。汚れたままの肛門とお尻と脚から垂れ流れる水便が体温を奪うのを感じながら、結希は安息の地を目指して必死に駆け続けた。
 神様があまりにも可哀想だと思ったのか、住宅街を駆け抜ける悲惨な格好の少女とすれ違う人がいなかったのがせめてもの慰めだった。下半身を完全に茶色に染め、背中にも自らが壁に叩きつけた水便をなすりつけてしまった少女の姿は、もし誰かに見られたら立ち直れないほど恥ずかしい格好であった。


 ピンポーン
「…………はーい、どなたですか…………!? えっ!?」
 久しぶりに登校する結希を見送った後、家の掃除をしていた母は、インターホンの音を聞いてモニター画面を見た。次の瞬間、顔色を変えて玄関に走り出していた。

「ゆ、結希……!? どうして…………っ……あぁ……!!」
「……………………」
 学校に行ったはずの結希が、玄関の外で声も出せず佇んでいた。
 その姿がおかしいことに気づくのに時間はかからなかった。茶色に染まった下半身。朝寒くないように履いていたタイツがなくなり、両脚を茶色い水状便と未消化物が覆っていた。スカートの中からは1秒間に数個の水滴が垂れ落ち、玄関のタイルを汚していた。スカートのお尻からも水便が滴っていた。真っ白だったスニーカーはあの時のフォーマルシューズと同じように茶色く染まっていた。朝背負っていったランドセルはどこにも見当たらなかった。

「結希…………どうして……なんで、こんな…………こんなことに……………………」
 母はあまりの事態に、何が起きたか考えることすらできなくなっていた。
「ぐすっ…………ごめんっ……なさい…………私…………っ……もう…………学校……………行けない……っ…………」
「だ、大丈夫よ結希、落ち着い……っ!!」
 母は結希を優しく抱きしめようと背中に手を回した。その時、本来感じるはずのない冷たく濡れた感覚を覚えた。
「ごめんなさい…………………私…………また…………トイレっ…………!!」
「結希――」
 母の抱擁を跳ね除けながら、結希は泣きながら消え入るような声でつぶやき、靴を脱ぎ捨てて目の前にあるトイレに飛び込んだ。横倒しになった靴の中から、茶色い液体が玄関の土間に広がっていった。

「結希……………どうして…………」
 母は指先と長袖のシャツに付着した汚れをまじまじと見た。茶色い液体。それが、結希が漏らしてしまった水状の下痢便であることは明らかだった。しかし、どうしたら背中まで汚れてしまうのか、母にはすぐには想像できなかった。
「うぅっ……………あぁぁ……………あぁぁぁぁぁ………………うぅぅぅぅぅっ!!」
  ゴロギュルグルグウーーーーーーーーーーーーッ!! グピーーゴロゴロロロロロピィーーッ!! グピィィィィグルルルピィーーギュリリグギュルルルルルルッ!!
  ビシャーーーーーーーーッ!! ビシャビシャドボボボボボブビューーーーーーーーーッ!
  ブパッビシャッビシャブシャーーーーーーーーーーーーッ!! ブシャビシャビチビチビチジャアアアアアアッ!!
  ブシャビシャァァァァビュルルルルルルルルルルルルルルビューーーーーーーッ!! ブジャッビィィィィビュルッビシャーーーーーーーーーッ!!
  ビュルッビチィビィーーッ!! ブピッビシャビチッジャーーーーーーッ! ブシャッブシャァァァァァァビュルルルルルルルルルッ!!
 トイレの扉が閉まった次の瞬間、絶望に沈む泣き声と、苦しみに覆われたうめき声と、雷鳴の嵐のようなお腹の音と、滝のような水状便の音が響き渡った。鍵を掛ける音もパンツを下ろす衣擦れの音も聞こえなかった。

「っ!! 結希、まさか……学校で…………!!」
 呆然としていた母は、はっと口に手を当てた。発表会で漏らしたことをクラスメートに知られてしまって、からかわれた――もしかしたら、いじめられたのではないか。恥ずかしがり屋な結希がそんな目に遭ったら、耐えられず学校から逃げ出してしまうかもしれない。そして……そんな状況は強烈な精神的衝撃になる。そのせいで激しくお腹を下して、早く家に帰って一人になりたかったのに、それすらもできずに漏らして、後始末すらできずに…………。
「結希…………ごめんなさい、ごめんなさいっ……!! 無理して学校に行かせなければ……こんなことにならなかったのに…………ごめんなさい…………あぁぁ…………」
 母は後悔のあまり嗚咽を漏らした。結希が学校に行くのを怖がっていたのは知っていたのだ。昨日、明日は学校に行けると言っていたけれど、トイレに駆け込む回数は前日の2倍以上になっていた。無理をして言っていたのはわかっていたのだ。それでも、普通の日常を取り戻してほしいと思って送り出してしまった。
 
 母――真紀は誰よりもわかっていたはずだった。下痢便を漏らしてしまった女の子が小学校でどのように噂され、からかわれ、いじめられるかを。お腹を押さえて祈るように見つめていた時計の針が、あと30分、あと20分、あと10分、あと5分、あと4分、あと3分……その先を思い出すことは25年経った今でも辛すぎてできない。あんな思いは決してさせたくないと思っていたのに、娘にも同じ思いを……もっと辛い思いをさせてしまった。

「うぅぅ……ぐっ……うっ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」
  ゴロロロロゴロロロロロロロギュルルルルルルルルルルギュルーーーーーーーーーーーッ!! ゴロッギュリリッ!!
  ギュルギュルグルルルルッ!! グギュルルゴロゴロギュロロロロロロロッ!!
  ビチビチビチーーーーーーーーーーッビシャビシャアアアアアッ!! ブピッビシャービューーーーーービュルルッ! ビシャビシャーーーーッジャーーーーーーーーーーーードボドボドボッ!!
  ブシャビシャビュルビチャジャーーーーーーッ!! ビュッジャーーーーッ! ブビチッビュリリリリリジュボボボボボボボッ!!
  ビシャビシャビューービチャビシャーーッ! ジャーーーーーーーーーッ!! ビュッビュルルルルルルルルルルルルルルルビュルビィィッブバッ!! ブパッジャーーーーーーーーービチィーーーーーーッブジュグジュグブジュッ!!
  ビジュルルルルルルルッビュッビュビシャァァァァブシャーーッ!! ブシャジャァァビシャァァァァァァァァァビチィーーーーーッジャーーーーーーーーーッドボボボボボッジャーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

「あぁぁぁ…………結希っ…………ごめんなさいっ…………許して…………ごめんなさい……ごめんなさいっ…………うぅぅ…………あぁぁぁぁぁ…………」
 母は、トイレの扉にすがりつくように崩れ落ち、娘への詫びの言葉と悲しい嗚咽とを漏らし続けた。

 寒い冬の日の、月曜日の朝。
 学校では1時間目の授業が始まったばかりの時間だった。

 結希が駆け込んだトイレの扉は、昼になっても開かなかった。



「はぁっ……はぁっ………………お母さん…………私…………出かけてくる…………」
 2時間以上の時間をトイレで過ごした結希は、ふらつきながらトイレの扉を開けて出てくると、泣きそうな表情で待っていた母にそう伝えた。
「結希……どうしたの? 無理しないでゆっくり休んだほうがいいわ」
「…………私…………行かなきゃ…………行かなきゃっ…………!!」
 焦った表情で訴える結希。
「結希、落ち着いて…………どうしたの?」
「お母さん、ごめんなさい、私…………学校……逃げ出しちゃって…………それで、帰りに……我慢できなくて…………外で…………」
 母は今にも飛び出そうとする結希を引き止め、事情を聞いた。想像通りではあったが、改めて本人の口から聞くと、それをしてしまったときの心情が思いやられて可哀想としか言いようがなかった。
「…………そうだったの…………ごめんなさい、もうちょっと休ませてあげれば…………」
「それで、その…………パンツとか…………置いてきちゃって………………取ってこないと…………」
 結希は青ざめた頬を赤く染めながら、自分がやってしまったことを告白した。野外で排泄してしまい、その場に汚れたショーツとタイツを置いてきてしまったことを。
「そう…………大丈夫よ、私が行ってくるから。通学路のどこか?」
「う、ううん…………ちょっと、違う方向で…………や、やっぱり私自分で行ってくる…………」
「無理しないで…………。じゃあ、一緒に行きましょう。その方が早く済むと思うから」
「うん…………ありがとう、お母さん…………」
 母は少しでも結希の体を休ませてやりたいと思いつつも、自分で後始末をしたいという意思を尊重し、一緒に出かけることにした。湯冷めしてはいけないとシャワーは後回しにしたが、少しでもきれいにしてあげようと温めた濡れタオルで下半身を拭ってあげた。用意していた4枚はすぐに茶色に染まってしまい、拭ききるのを諦めてお風呂を汲みながら厚着をして家を出るしかなかった。母は汚れた服を持って帰るための黒いビニール袋と、作業用のプラスチック手袋を持って不安な気持ちで家を後にした。

「このあたり?」
「うん、あの金網のところ……………」
「…………そう…………」
 結希に案内されてたどり着いた路地。金網をくぐる前から、はっきりそれとわかる下痢便の臭いが漂っていた。
「……………………」
(うそ…………こんな…………)
 金網を開けた先の薄暗い路地に広がった光景を目にして、母は言葉を失っていた。
 壁に叩きつけられた下痢便と、それを布で拭い広げたような跡。地面に広がった水状便の海。しりもちをついた箇所とスカートが接していた箇所だけが薄くなっている。パンツとタイツを脱いだ時に流れ落ちた水便が地面で散乱した飛沫。少し離れたところにあるやや小さな茶色い水たまり。茶色い足跡。
 結希がこの空間でやってしまったことの痕跡がありありと残っていた。母はあまりの惨状に言葉を失っていた。
「……………えっ…………うそっ……!?」
「結希……?」
「…………ど、どうして…………!? なくなってる…………!!」
「えっ…………あ…………」
 結希が驚いたのは、ここに残してきたものが見つからなかったからだった。
 パンツとタイツがなくなっていた。
「ど、どうしよう、お母さん…………見られたら…………みんなに知られちゃう…………」
「だ、大丈夫よ結希。親切な人が片付けてくれたのかもしれないし」
「でも、もしあの人が持ってっちゃってたら…………学校とかで見せびらかされちゃったら…………」
「だいじょうぶ。大丈夫よ。……その、あの人って……? もしかして、誰かに…………」
「…………うん…………してるとき……見つかっちゃって…………」
「そ、そうなの!? 大丈夫? 男の人?女の人? 何もされなかった?」
 娘が野外排泄するところを誰かに見られていたという事実を初めて知り母は狼狽せざるをえなかった。背筋の凍るような経験がいくつか脳裏に浮かび上がる。
「う、うん…………道路から見られちゃっただけで、ごめんって言って行っちゃった…………中学生の、男の人…………」
「…………そ、そうだったの……きっと大丈夫よ。悪い人じゃないわ」
「で、でも…………もし、誰かに…………どうしよう、私…………」
「大丈夫よ結希。…………あのね、お母さんも小さい頃汚れたパンツ置いてきちゃったことがあったけど、それでいじめられたりはしなかったから。きっと大丈夫だから心配しないで」
 母は不安に震える結希に自らの経験を語った。もっともその経験は低学年の時であり高学年でやってしまった結希にも通じるかはわからなかった。ただ、名前も書いてあったパンツは誰が持っていったかもわからないまま別に学校で噂にもなっていなかった。結希のパンツは名前も書いていないし、悪用されることはないだろうと考えられた。
「そ、そうなの…………? でも…………」
「大丈夫だから、ね。安心して……」
「うん…………っ…………」
 結希はやっと落ち着いたようだったが、安心した途端体を震わせ、お腹に手を当てた。
「結希、大丈夫? 寒くなっちゃうから家に戻りましょう」
「で、でも…………これ…………掃除しないと…………」
「大丈夫よ。雨か雪が降ったらすぐ流れちゃうし、そうじゃなくても、1週間くらい経ったら目立たなくなるから」
「う、うん…………」
 結希は母に付き添われながら家に戻った。家にたどり着く頃には両手でお腹を抱え込んでおり、玄関を開けると同時にトイレに飛び込んだ。母は大丈夫と励ましてくれたが、排泄を見られてしまったことと、漏らしたパンツとタイツを誰かに持ち去られてしまったことが気になり、これからどうなってしまうのかと胸を焼くような焦燥感が湧き上がり心臓が跳ね続けていた。直後、腸を上から押しつぶすようなすさまじい腹痛が結希を襲い、お腹を抱えて前かがみになった瞬間、消防車の放水のような勢いで水便が肛門から飛び出した。
 心の苦しさがお腹を下らせ、止まらない下痢が心を痛めつける。結希は悲しい円環に囚われ、トイレに座り込んだまま30分以上にわたって涙と水便を流し続けた。トイレから出てきた後、結希は水分を摂ってからシャワーを浴び、ようやく汚れきった下半身を洗うことができた。しかし、体を温めようと追い焚きした湯船に入った瞬間また激しい腹痛に襲われ、お腹を押さえて座り込んだまま動けなくなってしまった。我慢するための精神力を完全に喪失してしまっていた結希は激しすぎる便意に耐えきれず、固形物のない完全な水状便を湯船の中に出してしまった。うっすらと色づいた浴槽のお湯から逃げるように飛び出し、泣きながら母に謝って今度は上半身まで体を洗ってもらうことになった。
 結希のお腹の具合は発表会で漏らしてしまった日に逆戻りし、心にはさらに深い傷が刻まれてしまっていた。



【Coda】希望の旋律

 5年生の1月19日、ちょうど誕生日と同じ日だったピアノ発表会でのお漏らしは、結希の小学校生活に大きな影を落とした。
 漏らしたことをクラス中に知られてしまった結希はもう学校に行けなくなってしまった。それだけでなく帰り道で漏らした上に野外排泄中の姿を見られてしまったことで家の外に出ることすら怖くなってしまい、2週間の間ずっと家に閉じこもっていた。その後、両親、特に母が必死に先生に掛け合ってくれ、クラスメートに顔を合わさないよう保健室で過ごすことを認めてもらい、そこで自習をして過ごした。自分の足で登下校することもできず母に送り迎えしてもらっていた。漏らしたこととそれを知られてしまったことが完全にトラウマになってしまっており、そのストレスのためお腹の調子はずっと最悪に近い状態だった。家でも学校でも何度も何度もトイレに駆け込んで水状の便を出し続けた。
 結局3学期は一度も教室に入ることができなかった。そして、ピアノ教室にもあの日以来行けなくなってしまった。発表会の演奏を途中で諦めた上に、会場の廊下やトイレをぐちゃぐちゃに汚してしまった結希は、先生に合わせる顔がなかった。そもそも、ピアノを弾こうとすると、どうしてもあの日のことを思い出してお腹が痛くなってしまう。結希は短い練習曲一つすら演奏し終えることができなくなっていた。大好きだったピアノを弾けなくなったことは結希の心を一層沈ませた。
 暖かくなった春休み、家に閉じこもっていたものの体調面では比較的穏やかに過ごすことができた結希は、4月になってやっと教室に戻ることができた。学年も6年生に上がり、お漏らしから3ヶ月以上経っていたためか、クラスメート、特に男子のほとんどはすでに結希のお漏らしへの興味を失っており、前のようにからかわれることはなかった。ただ、時折真琳と目が合うとにやりと笑ったような表情をして、その後ひそひそと他の子達と話しているのがどうしても気になってしまった。自分の名前が誰かの口に上るたびにびくりと震え、あの日のことを噂されているのではないかと怯え続けることになった。もともと友達が少なかった結希に声をかけてくれる人はおらず、孤独な日々が続いた。

 そんなある日のことだった。
「明翠……学園……?」
「そう。結希も聞いたことあるかしら、隣町の私立の学校で、勉強だけじゃなくて文化活動にも力を入れているんですって」
「…………でも………私、もう…………」
 結希はリビングの隅で蓋を閉められたままのピアノを見て視線を落とした。
「大丈夫よ。また弾けるようになるわ。春休みに見学に行った秋月先生のところでもぜひ来てほしいって言ってたじゃない」
 発表会で大失敗をしてしまったみそらピアノ教室に通うのはもう難しいだろうと、母が新しいピアノ教室を探してくれていたのだった。都内まで通わなければならないが、東都芸術大学を卒業しウィーン留学から帰国したプロのピアニストが教師を務める、レベルの高い教室だった。しかし、結希はピアノを弾くこと自体に恐怖を感じるようになってしまい、新しい教室に通う決心ができなかった。
「…………でも…………」
「…………ちょっと遠いけど、これまでと違った友達もできるかもしれないし、それに……」
「…………………」
 結希には母の言おうとすることがわかっていた。ピアノ教室と同じことなのだ。このまま市内の中学校に上がったら同じ小学校のクラスメートがそのまま一緒だが、遠くの私立中学に行けば、辛い思い出のある環境から離れることができる。学校で孤独な毎日を過ごしていた結希にとって、それはささやかな希望になりうるのだった。それに、帰り道で漏らしてしまった時、その姿を見ていた男子生徒は結希の家の近くの中学校の制服を着ていた。同じ学校に入ったらもしかすると顔を合わせてしまうかも知れない。結希にはとても耐えられそうになかった。隣町の私立の学校に通えば、少なくともそのようなことは避けられるはずだった。
 結希は少し考えた後、首を縦に振った。
「……行って……みよう、かな」


 5月のよく晴れた土曜日、結希と母は明翠学園のオープンスクール、学校見学会に来ていた。

「………………」
 学校に入ってすぐのところに、噴水の周りに綺麗に手入れされた花壇が広がる緑豊かな庭園があった。正面に中等部・高等部共用の食堂や大講堂などの施設があり、右手に中等部の校舎、左手に高等部の校舎がある。伝統ある学校との評判通り、新しくはないもののスクールカラーの濃い緑色を基調とした落ち着いた雰囲気の外観と内装であり、結希は好感を持った。
(…………私…………こんな綺麗なところ似合わないかも…………)
 結希はしかし、その美しい校舎に、汚い自分は似合わないのではないかと思ってしまった。結希の心はまだ、お漏らしのトラウマから立ち直っていなかった。結希の服装は長袖のブラウスと緑色のスカートに、白の靴下と黒のローファー。学校から逃げ出した日に汚してしまったスカートはまた買い替えてもらったが、タイツを穿いたまま漏らして下半身をぐちゃぐちゃにしてしまった記憶も辛く、白い靴を発表会場でも路地裏でも茶色に汚してしまったのも思い出したくない光景だった。万が一外でやってしまっても大丈夫な服装と、ポケットの中に2組入れているティッシュとハンカチ。それだけの備えをしても、まだ不安でお腹が痛くなってくる。結希の心はまだ癒えていなかった。

 最初の全体説明が終わると、保護者向けの説明と入学希望者本人向けの説明に分かれる。
「あっ…………」
(ど、どうしよう、誰もいない………次、どこに行けば…………フリー見学って言ってたけど…………)
 全体説明を聞いている間にお腹が痛くなってしまった結希は、トイレに駆け込んで下痢便を出してから指定された待機室に戻ってきた。しかし、そこには誰もいなくなっていた。全体説明ではたくさんの見学者がいたのに、もう誰も残っていなかった。
「………………」
(…………いいかな、一人の方が…………同じ小学校の子がいたら嫌だし……目立たないようにしないと…………)
 結希はそっと荷物を取り、教室の外に出ようとした。

「………………」
(…………あの子も……一人なのかな……)
 結希は教室の外でたたずんでいる少年の姿を目に止めた。廊下の端の方を時折気にしている。結希と同じ130cmくらいの身長。6年生だとしたら、クラスで一番小柄な結希と同じということはかなり背が低いことになる。
(でも、男の子と話すの……怖い…………)
 結希はピアノの発表会で漏らしてしまったことを学校で男子にからかわれたのがショックで、男子の姿を見ると怯えるようになってしまっていた。早退する途中で中学生の男子に野外排泄を見られてしまったことも心の傷になっていた。目の前の少年は威圧感もなく、優しげな雰囲気からはそんなひどいことはしそうになかったが、それでも怖さが拭いきれなかった。

「おまたせ。ごめんね、ちょっとトイレ混んでて遅くなっちゃった」
 少年が見ていた方から長い髪の背の高い女の子が駆けてきて少年と話し始めた。結希はトイレそんなに混んでたかな、と思ったが、ずっと見ていたら変に思われると思って教室の扉の裏に体をひそめた。
「だいじょうぶだよ。どこから見に行くの?」
「あのね、私音楽室見に行きたい。吹奏楽部が有名なんだって」
「いいよ、じゃあそこから行こうか。教室も見たけど、きれいな学校だよね」
「うん。もうちょっと家から近いといいんだけど…………ほら翔くん、早く行こう!」
「わ、ま、待ってよはるちゃん」
 一回り背の高い女の子に手を引かれて走っていく男の子の姿。まるできょうだいのようにも見える組み合わせだったが、そうではなく仲の良い友達のようだった。
(………………)
 一人残された結希は、自分の孤独さを思い知った。もともと人と話すのが得意ではなく友達も少なかったが、その数少ない友達すらも、学校に行けなくなってしまったことで疎遠になってしまった。
(ちょっと寂しいな…………ここに来ても、友達、できないのかな…………)
 教室の入口で立ち止まった彼女は、新しい環境になれば何かが変わるという淡い期待が叶わないことを自覚し、再び落ち込んでいた。

「こんにちは」
「えっ…………!? あ、こ、こんにちはっ…………」
 突然声を掛けられた結希は、驚いて顔を上げた。背の低い結希はいつも友達を少し見上げるような姿勢になるが、反射的にそうすると頭の上に視点が合ってしまった。慌てて少し首を引く。結希とそう変わらない身長の少女だった。襟飾りのついた白いシャツに、薄緑のスカートを身に着け、わずかに灰色がかった髪を左側で片結びにしている。ただ、服装や髪型よりも、明るく弾けるような笑顔が印象的な少女だった。
「今日は、一人で来たの?」
「え…………は、はいっ……………」
 遠慮せず話しかけてくる少女に、結希は戸惑いながら答える。知らない人と話すだけでも緊張してしまう結希だったが、少女の友好的な雰囲気がその緊張を少しずつ解いていった。
「そうなんだ。わたし、同じ小学校の子と一緒に来たんだけど、知り合いの先輩と会って話してたら遅くなっちゃって、置いてかれちゃったみたい。よかったら、一緒に回ろうよ」
「あ…………う、うん……」
 あっという間に、結希は名前も知らない少女と一緒に校内を回ることになってしまった。ただ、嫌な感じはせず、安心できる感覚があった。
「よかった、一人になっちゃって寂しかったの。わたし、大坪七海。あなたは?」
「え、えっと………北野、結希です」
「ゆきちゃん? どういう字を書くの?」
「え、あ…………結ぶに、希望の希で…………」
「すごい、きれいな名前……!」
「あ、ありがとう…………その、あの、大坪、さんは……?」
「わたしは七つの海で七海。七海でいいよ、結希ちゃん」
「あ、…………う、うん……七海……ちゃん……」
「うん、ありがとう! じゃあ、行こうよ」
 お互いの名前を知った七海と結希は、一緒に校舎内を歩き始めた。

 まずは教室を、ということで中等部1年生の教室にやってきた。
「いらっしゃい! ここが1年生の教室ですよ!」
 結希や七海より一回り背が高い制服姿の女子が迎えてくれる。各所に在校生がいて直接話を聞けるのがこのオープンスクールの目玉と言われていた通りだった。
「まあ、小学校とあんまり変わらないけどね」
「そ、そうですね」
「う、うん…………」
「新しくはないけど、伝統ある校舎なんだって。いろいろ見ていってね」
 1年生にそう言われて、二人は教室の机や椅子を見て回った。

「結希ちゃんは、小学校どこ?」
「あ…………わ、私は…………西調布市の、……若葉台……小学校」
 辛い思い出ばかりになってしまった小学校の名前を口にする時に、結希はわずかに言葉をつまらせた。
「わたしは、本宿小学校。ちょっと遠いけど同じ市内なんだね」
「…………そ、そうだね」
「私、ちっちゃいけどこう見えても6年生なんだよ。結希ちゃんも6年?」
「う、うん……」
 電車で一駅違うとはいえ、同じ市内、同じ学年だったことに少し親近感を覚える。だが同時に、何かがひっかかるような……。
「あ……!!」
「? どうしたの、結希ちゃん?」
(発表会の時のあの子……確か、本宿小学校って……どうしよう、もし誰かにしゃべってたら……もしかしたら、七海ちゃんも、あのことを…………)
「あ、あのっ…………」
「なに?」
 結希は、自分のことが噂になっていないか確かめようとした。しかし、どう訊けばいいのか。発表会で漏らしたことを知っているかと聞くわけにはいかない。
「……え、えっと………………な、何でもないの…………ごめんなさい」
 結局、結希はそれ以上探りを入れることはできず黙り込んでしまった。

 教室を後にした二人は、七海の希望で家庭科室にやってきた。
「調理室へようこそ。君たち、料理が好きなの?」
 調理室では男子生徒が迎えてくれた。
「はい!……すごい! こんな大きなオーブンがある!!」
「ほ、ほんとだ…………」
「これだとお菓子も色々作れそう…………わたし、料理部に入ろうって思ってるんです!」
「そうなんだ、歓迎するよ」
「え、先輩も料理部なんですか?」
「うん。男子は僕と後一人くらいだけどね……」
 先輩の男子が鼻をかきながら説明する。料理部は中等部で12名で人数は多くないが、皆かなりの腕前とのことだった。
「…………七海ちゃん、お料理得意なの?」
 充実した調理設備を見て目を輝かせる七海。それを見ている結希も楽しそうな気持ちになってきた。
「うん! お菓子作るのが大好きだけど、料理もいろいろ作るよ。結希ちゃんは、お料理するの?」
「あ……えっと…………す、少しだけだけど…………」
「結希ちゃんお料理上手そうだよね。得意な料理とかある?」
「え、えっと…………お、オムライスとか…………その、私はチキンライスを作って、卵はお母さんが焼いてくれるんだけど…………」
 結希も、料理が得意な母に教えてもらう形でいろいろな料理を覚えている。少し子供っぽい気もするが、一番作るのが好きな料理のことを七海に話した。
「ふうん、いいなあ……お母さんといっしょに作るのって。わたしも卵料理得意なんだよ。調理実習のときはわたしが作ってあげるね!」
「…………あ、ありがとう」
「あ、ごめん、ちょっと気が早かったよね。入試も受けなきゃいけないし……」
「う、ううん……………私も、一緒に……作ってみたい」
 結希は久しぶりに心の中が暖かくなるのを感じた。

「音楽室もすごいんだよ。吹奏楽用と、声楽用があるんだって」
「………………」
 七海に連れられて音楽室に入ろうとした結希は一瞬足を止めた。上蓋の開いたグランドピアノが、いつでも演奏できる状態でそこにあった。
 この音楽室には上級生が不在だったので、七海は中に入って譜面台やピアノを見ている。結希はピアノが気になりつつも近づけず、入口で立ち尽くしていた。
「あっ、ごめんなさい、席を外していて…………あら、七海ちゃん?」
「あっ、さゆりちゃん…………じゃなかった、雪ヶ谷先輩、こんにちは」
 結希の後ろから音楽室に入ってきた姿を見て、七海は小さくお辞儀をした。二人よりわずかに背が高い、肘の高さまで黒髪を伸ばした少女が、制服に身を包んで立っていた。少し息を乱しているものの、おしとやかなお姉さんという雰囲気を漂わせている。
「もう、そんなにかしこまらないで。さゆりでいいわ。……あら、お友達と一緒なの?」
「うん。若葉台小の、北野結希ちゃん。あっ、ごめん結希ちゃん、話し込んじゃって。わたしと同じ小学校で一つ上の雪ヶ谷さゆりさん。合唱部なんだって」
「中等部1年生の雪ヶ谷さゆりです。よろしくね、北野さん」
「は、はい…………っ…………」
 身長はそれほど変わらないが、かなり落ち着いた雰囲気であり、中学生は1年生でも大人なんだなと思わされた。
 だが、次の瞬間、結希は耳にした名前を思い出してびくりと震えた。
(雪ヶ谷…………さん…………? 七海ちゃんと同じ小学校の……? もしかして、あの時の雪ヶ谷みゆりさんの…………お姉さん!?)
「…………あれ、北野さんってもしかして…………ピアノやっているの?」
「っ!!」
「そうよ、思い出したわ。妹がね、同じ教室にピアノがとっても上手なお姉さんがいるって言ってたの。あの北野さんだったのね。こんな所で会えて嬉しいわ」
(…………そ、そんな……やっぱり……!!)
 妹からピアノのことを聞いていたということは、あの発表会のことも聞いていた可能性が高い。結希は体が震え始めるのを感じていた。
「結希ちゃんピアノ弾けるの? すごいね」
「あ、え…………あの…………」
(うそ…………ど、どうしよう、雪ヶ谷さんが、あの時のこと話してたら…………七海ちゃんにも……!!)
「あ、あのっ……、も、もしかして、みゆりさんからなにか聞いてませんか……!? その、発表会の時のこととか…………」
 結希は慌てて口を開いた。せめて、七海には知られないようにしたい。なんとか取り繕うことができないかと、結希は焦りながら考えていた。
「発表会……? うん、とっても難しい曲を上手に弾いててすごかったって」
「え…………そ、それだけ、ですか…………何かその、……失敗した……こととか…………」
 てっきり知られていたと思ったのに、少し拍子抜けした表情を浮かべる結希。
「そんなの言ってなかったわよ。みゆりもね、北野さんみたいに難しい曲を弾けるようになりたいって言ってたの」
「…………そ、そう……ですか…………………よ、よかった…………」
 結希は、意識が途切れそうなほどの緊張から解放された。みゆりは、あの時のことを誰にも言わないでいてくれたのだ。難しい曲と言っていたから、トイレの中にいてもスピーカーから演奏が聞こえていたはず。その演奏が途中で途切れてしまい、漏らしながらトイレに駆け込んできた結希の姿を目の当たりにしても、そのことを姉にすら言わずにいてくれたのだ。結希はその優しさに感謝した。

「ねえ結希ちゃん、わたし結希ちゃんのピアノ聴いてみたい!」
「え、えっ…………」
「私も聴いてみたいわ。今日は楽器も使っていいことになってるから、ぜひ弾いてもらえないかしら」
 七海とさゆりが、結希をピアノの椅子のところへ連れて行き座らせようとする。結希は戸惑いながらも抵抗できなかった。
「あ、あのっ…………でも…………」
「ね、お願い、結希ちゃん」
「……………………」
 しばらくピアノを弾いていない。1日休んだだけでもうまく弾けなくなった気がするのに、数ヶ月も経ってしまってはどれだけ腕が落ちているかわからない。
 一度は弾けないと言って断ろうとしたが、しかしその言葉を口に出す前に、手が勝手に鍵盤の上に動いていた。
(…………七海ちゃんが、聴きたいって言ってくれるなら…………)
「うん…………弾いて、みます…………」

「…………………っ」
 無意識に両手をGの音に置こうとして、慌てて手を引っ込める。
 あの発表会の日以来、ほとんどピアノに触れることができずにいた。他の曲も弾いておらず、体が覚えているのはあの幻想即興曲の楽譜だったのだ。しかしその曲は、弾き始めることすらできなくなっていた。
(どうしよう、どの曲なら…………)
 今、結希はあの時以来初めて、心からピアノを弾きたいと思っていた。結希は一生懸命、自分が弾ける曲を思い浮かべた。
 他にたくさん練習したのは、1年前の発表会で弾いたバッハのインベンション13番。しかし、あの同じ市民会館の舞台で弾いた時のことを思い出すと、どうしても手が震えて最初の一音を打ち下ろすことができなかった。

「………………」
 結希は、右手の小指をEの白鍵に乗せ、静かに押し下げた。隣のD#、E、D#と流れるように音を奏でる。
 エリーゼのために。
 1年前に練習していたものの、先生からもう少し難しい曲でもできそうだからと助言され、発表会では弾かなかった曲。それでも結希にとっては好きな曲であり、時々練習の合間に弾いていた曲だった。

「…………………………」
 物悲しい印象を秘めた主旋律の繰り返し。
 ヘ長調への転調。軽やかに踊るような旋律が続く。
 静かに元の主旋律に戻る。同じ旋律を、わずかに異なる表情で繰り返す。
 突如始まる左手の同音連打による激しい旋律。
 そしてまた静かに繰り返す主旋律。

「…………っ…………」
 数ヶ月ピアノに触れていなかったブランクは予想以上に大きかった。
 体調が最悪だった発表会の時でさえなかったミスタッチがいくつもあった。曲の表現もとても満足の行くものではなかった。でも、結希は演奏を途中で諦めることはしなかった。
 ピアノを弾くのが、とても楽しかった。

 主旋律がまた繰り返される。
 同じ音程、同じリズム。しかし、この曲が描き出す女性の表情が変わるかのように、繰り返すたびに異なる印象を与える。
 演奏を通して、曲が描こうとする光景を伝える、という結希の長所は、全く錆びついていなかった。

「…………」
 結希の3分間の演奏は、あっという間に終わった。
 顔を上げた結希に、二人だけの、でもとても大きな拍手が降り注いだ。
「すごいよ! とっても上手だった!」
「そうね。みゆりが憧れるのもわかる気がするわ」
「そ、そんな…………」
「それから、ピアノを弾いてる結希ちゃん、とってもきれいだった」
「………………っ……!!」
 七海の言葉は偽らざる本心だった。流れるように美しい曲を奏でる結希の姿は、綺麗という言葉がぴったりであった。しかし結希にとっては、別の意味を持っていた。あの日、綺麗なドレスを着た姿をこれ以上ないほど汚してしまった結希。ピアノを弾く姿を綺麗だと言ってもらえたことは、あの日の悲しい思い出をわずかながら癒やす力があった。
「結希ちゃんのピアノ、また聞きたいな。一緒に、この学校に通えたらいいね」
「……あ…………う、うんっ……私…………私も…………!!」
(うん…………七海ちゃんと一緒の学校に通って、もう一度…………ちゃんと練習したピアノを、聞いてほしい…………)
 悲しみの毎日を送っていた結希の心に、暖かい光が射した。

「じゃあさゆりちゃん、そろそろ失礼します」
「うん、今日は来てくれてありがとう。結希ちゃんも素敵なピアノ聴かせてくれてうれしかったわ。確か、芸術活動は入試の時に評価されるはずだから、願書に書いておくといいわ」
「あ……は、はい…………」
「ねえ、次はどこに行こうか?」
「あ、え、えっと…………」
  ゴロッピーーッ…………グウーーーーッ…………!
「っ……」
(…………ど、どうしよう、こんな時に…………!!)
 七海と一緒に校内を周る間は幸いにも便意を催さなかったが、ピアノを弾く時の緊張が重圧となったのか、結希のお腹は音を立てて下り始めていた。
(…………どうしよう、トイレ、行かなきゃ…………でも、七海ちゃんに…………トイレ行きたいなんて……もし……一緒に行くことに……なったら……!!)
  ギュルルルル…………ゴロロロ……ゴロギュルルル…………!!
 結希は立ち止まったまま迷い続けていた。その間にもお腹が音を立て、お尻に内側から圧力がかかり始めている。
「あっ七海、こんなところにいたの!探したんだよもう!!」
「あ、友美ちゃん、ごめんなさい」
「……!?」
 結希が顔を上げると、紫がかった髪をポニーテールにまとめた女の子が立っていた。制服は着ていないので入学希望者のはずだが、結希や七海よりは一回り背が高い少女だった。
「家庭科室あたりかなと思って探したのに、全然いないんだもん。あれ、この子は?」
「えっとね、北野結希ちゃん。今日はずっといっしょに回ってもらったの。結希ちゃんピアノがとっても上手なんだよ」
「へぇ、そうなんだ…………ねえ七海、聞いてよ。あたしね、とってもいいことがあったんだ。何だかわかる?」
「え……そうだね、友美ちゃんとっても嬉しそうな顔してる。何があったの?」
「よく聞いてくれました。あのね、体育館とか特別教室見る時、すっごくかっこいい子と一緒だったんだよ。キラキラするくらい素敵で、優しくて爽やかな感じで、サッカーやっててスポーツも得意なんだって。あたし絶対ここに入ってあの人と仲良くなりたい!」
「そうなんだ、素敵な人だね……。わたし、応援するよ」
 友美と呼ばれた少女は七海と知り合いらしく、親しげに話している。
(…………そ、そうだ、ここで…………)
「あ、あのっ、私、お邪魔したらいけないので、これで……!!」
 結希は、このタイミングで七海と別れてトイレに駆け込もうと考えていた。
「えっ、気にしないでいいのに。結希ちゃんも一緒に行こうよ」
「え、えっと…………ごめんなさい、ちょ、ちょっとこの後用事が…………」
「あっ、そうなの…………ごめんね引き止めちゃって」
「あ、あのっ…………きょ、今日は、ありがとう…………!!」
 結希はすぐにでもお腹を押さえてトイレに駆け込みたい気持ちを隠して、七海にお礼を言った。どうしてもそうしたかった。
「わたしの方こそありがとう。……わたしね、絶対この明翠学園に入りたいって思ってるの。結希ちゃんと一緒に、ここに通えたら嬉しいな」
「…………う、うんっ……私も…………」
 結希は大きく頷いて、後ろ髪を引かれながら廊下を小走りに駆けていった。

(七海ちゃんごめんなさい…………うぅっ…………お腹が…………!!)
  ギュルルルル…………ゴロゴロゴロッ!! グギュルルルルーーーーーーッ!!
 嘘をついて七海と別れてしまったことを申し訳なく思いながらも、お腹の痛みはもう我慢出来ないほどに強くなっていた。廊下の角を曲がると、結希はお腹を押さえたまますぐ近くにあったトイレに駆け込んだ。一番近い和式の個室に飛び込んで鍵をかける。
「うぅぅ…………!!」
  ゴロッゴロロロロログルルルルルギュルルルッ!! ゴロギュルルッ!
 緑色のスカートの下に手を入れて、パンツを引き下ろしながらしゃがみ込む。

「んっ、ふぅぅっ……!!」
  ギュリリグルルルグルルルグギュルーーーーーッ!!
  ブジュビチビチビチッ!! ビィィィィーーーーーーブジュベチャブジュッ!! ブビビビビッブビッブジュブジュッ!!
  ビチャビチャビチャブーーーーーーッ!! ブジュジュジュッ!! ブジュビジュルルルルルルッ!!
 結希の小さなおしりの中心で液状便が弾け、和式便器の中が一瞬で茶色に染まる。

「うぅぅぅ……っ……!!」
  ビュルルブジュルルビチィィィブジュルーーーーーーーッ!! ブバッブビィィィィィィッ!!
  ビュブブブブブブブブブブブジュルーーーーッビチーーーーーーーーッ!! ブビブピブビィィッ!
  ブピピピッブババブビィィィィィビチーーーーブビブビィィィィッ!! ブジュブピーーーーーーーーーーーーッブバァァァッ!!
 液状の便が肛門で弾けながら便器に叩きつけられる。便器の底を茶色い沼に変えるだけではなく、便器の縁や側面に肛門から弾けた飛沫や、便器の中から跳ね上げた飛沫を飛び散らせ汚していく。
 
「うぅぅぅぅ……んっ……」
  ゴロゴロゴロッグギュルルルルルルルッ!!
  ブビビビビビィッ!! ブジューーーーービチビチビチビチビチッ!! ブジュビチビチブビィィィィィィッ!!
  ブビブビーッブバァッ!! ビュルルルルルブジューーッビチチブバァァァァァァッ!!
  ブジュブピビィーーーーーーッ!! ビュブブブジューーーーーッブバァッ!!
  ビチャブビーーーーーーーーーーーッ!! ブピピピピッビチチチブジューーーーーッ!!
  ビチャッ…………ブピッ……!! ブジュブジュブジュゥゥゥッ…………!!
 かなり液状化した下痢便だったが、思っていたほど腹痛は苦しくなく、一気に出し終えて比較的短時間で排泄を終えることができた。慣れない環境や、久々にピアノを弾いたことで緊張した割には、そこまでひどい下痢ではなかったのが意外だった。もっとも、ひどい下痢でないというのは結希の主観に過ぎず、客観的に見れば相当にお腹を下している状態なのだが。

「…………?」
 結希は、便器に飛び散った汚れを拭こうとして、黄土色の汚れが便器の縁に飛び散っているのに気づいた。今結希が出したばかりの下痢便の色とは異なっており、誰か前に使った人が汚してしまったのかもしれない。汚れというよりは水飛沫のようで、お腹を冷やしてしまった時の結希のように水状の便を出した時の汚れ方だった。結希が自分が汚した部分を拭き取ると、黄土色の汚れもひと拭きで一緒に落ちた。
(もしかして……………で、でも、あんな綺麗な人が、まさか…………そんなわけ、ないよね…………)
 もしかして、さっき急いで音楽室に戻ってきた雪ヶ谷さんがこの個室を使っていたのかもしれないということに思い当たった。しかし、落ち着いた美しい姿や振る舞いからは、このトイレにしゃがんで水状便で便器を汚す姿はとても想像できなかった。

「………………」
 結希はお尻と便器を拭いて、トイレを後にした。
 お腹を下して駆け込んだトイレから出る時、いつもはまた催さないかという不安に苛まれながらドアを開けていた。
 今は、ドアを開けた先に不安はなく、希望が待っているような気がした。

(私も…………この学校に、通えるのかな…………)
 トイレから出ると、廊下には何人もの見学者の姿が見えたが、ついさっき別れたばかりの七海の姿は見えなかった。
 彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。この学校に入りたいと言っていた。人見知りな結希にも優しく接してくれた彼女と同じ学校に入れたら、毎日がきっと楽しくなるだろう。


 日が西に傾きかけたころ、結希は母とともに明翠学園を後にした。
 最初に見た時に綺麗すぎて気後れした学園中央の庭園を通り抜ける時、同じ光景のはずなのに、草木の緑と花々の彩りは結希を拒むのではなく優しく包み込んでくれるように思えた。
 
「…………結希、どうだった? 明翠学園、行ってみたい?」
「………………うん。私…………行きたい」
「…………そう…………そうなの…………来て良かったわね」
 ほとんど迷わずに答えた結希に少し驚きつつ、母はわずかに表情を緩めた。
「あとね、ピアノ……もう一度、がんばってみたい」
「えっ……」
「お勉強もがんばるけど…………秋月先生のピアノ教室、通ってみたい」
「………………結希っ…………!!」
 母は涙が出そうになるほどの喜びを顔に浮かべて、結希の小さな体を抱きしめた。

(私…………)
 明翠学園に入りたい。
 ピアノをもっとうまく弾けるようになりたい。
 そして、七海に再会したら、今度こそ最後まで、演奏を聴いてもらいたい。
 あの日最後まで弾けなかった、大好きだった曲を。

(きっとまた、ここに…………ここで…………)
 学校の門から一歩踏み出した時、結希は立ち止まって振り向いた。
 あの雪の日に止まってしまった時間が、再び流れ始めた。
 最後まで弾けずに白く塗りつぶされた音符が、結希の心の中の楽譜に再び蘇る。
 明るく優しい少女と結んだ絆が、瞳に映る世界を希望の光で彩っていく。
 その音符を自分だけの音で、結希だけの色で描き出す日を夢見て、少女は一歩ずつ歩き始めた。



 ぴーぴーMate Episode 1 -雪色の音符- Fine

 To be continued ...




キャラクター設定

北野 結希 (きたの ゆき)

「うぅ……お腹…………冷やしちゃったかな…………」


 (立ち絵イラスト:ウニ体さん)


11歳 西調布市立若葉台小学校5年1組
身長128.9cm 体重:31.1kg 3サイズ:62-47-65

―――――
基本設定
 大人しく人見知りな性格で、小さい頃から習っているピアノが大好きな少女。

―――――
外見・服装設定
 年齢に比べて小柄で幼げな体型。髪は横結びでピンクのゴムで止めているおり、あまり目立たないが可愛らしい顔立ち。クラスで一番背が低く、胸もぺたんこである。
 服装は私服でも清潔感のある整った服装を好み、緑のプリーツスカートや白の靴下、ローファーを身につけている。パンツは子供用の白いコットンパンツ。春や秋にはセーター、冬にはコートと寒さを和らげる服装にしているが、それでもお腹が冷えてしまうことが多い。

―――――
内面・能力設定
 人見知りな性格で、知らない人と話すのが苦手。学校ではあまり目立たない方だが、よく話す程度の仲の良い友達が何人かいるが、親友と呼べる友達はおらず一人でいることが多い。
 病気がちという程ではないが体が弱く、風邪で寝込んだりすることも多い。そのため体育の授業など運動は苦手。勉強はできないわけではないが得意というほどではない。
 小学校入学前から習っているピアノは非常に上手く、コンテストで入選できるレベルである。ただ、いざ本番を前にすると緊張もあってお腹を下してしまい、実力を出せないことが多い。
 お嬢様と言うほどではないが東京の郊外の戸建てに住む裕福な家庭の一人娘で、両親や祖父母からの愛情を一身に受け、心優しい性格に育っている。主婦の母と一緒に料理やお菓子作りをすることも多い。

―――――
排泄設定
液状便(-85) 大量排泄 冷え冷え(重度) 神経性下痢(重度) おもらし体質(軽度) 腹痛悪化 不運(すべて) 不幸中の幸い

 お腹が弱く、特にお腹を冷やすと激しい腹痛を伴うひどい下痢になってしまう。寒い日は毎日下痢になってしまい、雪が降るような日にはさらにお腹の具合が悪化してしゃーしゃーの水状便になってしまう。夏場でも、冷房でお腹を冷やしたり、プールでお腹を冷やしたりすることが多くかなりの頻度で下痢をしている。
 また、緊張するとお腹を下しやすく、特に人前に出る機会では可哀想なほどひどい下痢になってしまう。そのため、行事や発表会などは毎回下痢を抱えながら臨むことになり散々な結果になってしまったことも少なくない。さらに、長時間トイレに行けない環境でも不安でお腹を下してしまうことが多く、家族旅行で渋滞に巻き込まれた時にはトイレに駆け込むのが間に合わず漏らしてしまったこともある。
 下痢している時は特にお腹の痛みがひどく、ずっと両手でお腹を押さえておかないと痛くて動けないほど。激しい腹痛のため走ったり早く歩いたりすることができず、ふらふらと倒れそうになりながらトイレを目指すものの、便意の高まる速度の方が早くお漏らしに至ってしまうことが多い。トイレでの排泄中も激しい腹痛は続き、ごろごろとお腹を鳴らしながら排泄している。
 激しい腹痛だけでなく、液状の下痢便の量も大量で、パンツから溢れ出すほど大量に漏らしながらトイレに駆け込み、さらに便器の中に大量の下痢便を注ぎ込んでしまうことがある。珍しく間に合った場合でも液状便を飛び散らせながら大量に出してしまい便器の内外を汚しまくってしまうことが多い。
 さらにトイレ関係では何かにつけて運が悪く、やっとたどり着いたトイレが使用中だったり故障中だったりで使えないことが多く、ぎりぎりで間に合ったはずなのに漏らしてしまうことも少なくない。それ以外にも雪道で転んで漏らしてしまったり、食べたものが傷んでいて食中毒で猛烈な下痢に苦しんだり、傘を忘れた日に限って雨が降ってきてずぶ濡れでお腹が冷えてしまうなど様々な不幸が降りかかる可哀想な少女である。
 しかし、不幸中の幸いと言うべきか、漏らしたところを目撃されにくく、特に知り合いにはほとんど見られたことがないという不思議な巡り合わせを有している。そのため、かなりの回数漏らしているにも関わらず学校の授業中や式典などで人前で漏らしたことはない。我慢できなくなって野外排泄することも少なくないが、人が通りかからないとか気づかれそうになっても別の事に気を取られてくれるなどで幸運にも助かってしまう。しかし、いつでも大丈夫というわけではなく、何度も危機一髪で助かるのを繰り返しているうちに徐々に野外排泄を見つかってしまったりお漏らしを見られそうになったりという場面が増えてきて、ついには大失敗に至ってしまう。ただし一度失敗するとまるで不幸をチャージしたかのようにしばらくまた不幸中の幸いが続くため、1-2年に1回大きな悲劇に見舞われるというサイクルになっている。

当日の排泄回数(2019/1/19)
1回目 07:01:15-07:12:31 11m16s 起床直後 自宅2Fトイレ(洋式) 液状便 513g
2回目 07:17:30-07:21:23 3m53s 朝食前 自宅2Fトイレ(洋式) 液状便 286g
3回目 07:53:11-08:02:33 9m22s 朝食後 自宅1Fトイレ(洋式) 液状便 431g
4回目 08:58:32-09:05:16 6m44s ピアノ練習中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 412g
5回目 09:44:12-09:51:25 7m13s ピアノ練習中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 385g
6回目 10:33:25-10:45:31 12m6s ピアノ練習中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 ちびり31+482g
7回目 11:06:53-11:12:13 5m20s ピアノ練習中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 392g
8回目 11:44:31-11:55:16 10m45s 昼食後 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 413g
9回目 12:31:15-12:36:31 5m16s 会場到着直後 市民会館1F客席トイレ個室6(和式) 水状便 382g
10回目 12:52:13-13:06:32 14m19s 開演前 市民会館1F客席トイレ個室3(和式) 水状便 ちびり22+便器外234+482g
11回目 13:12:25-13:17:38 5m13s 開演後 市民会館1F客席トイレ個室1(和式) 水状便 484g
12回目 13:35:12-13:40:32 5m20s 着替え前 市民会館楽屋トイレ個室3(和式) 水状便 562g
13回目 13:49:36-13:55:10 5m34s 着替え中 市民会館楽屋トイレ個室1(和式) 水状便 382g
14回目 14:03:22-14:17:31 14m9s 着替え後 市民会館楽屋トイレ個室1(和式) 水状便 632g
15回目 14:31:20-14:36:31 5m11s 本番前待機中 市民会館楽屋トイレ個室1(和式) 水状便 385g
16回目 14:54:50-15:04:41 9m51s 演奏中断後 市民会館楽屋トイレ前廊下(和式) 水状便 おもらし855g
17回目 15:06:31-15:38:22 31m51s 着替え中 市民会館楽屋トイレ個室1(和式) 水状便 便器外166+622g
18回目 15:48:16-16:02:33 14m17s 帰宅前 市民会館1F客席トイレ個室4(和式) 水状便 415g
19回目 16:24:14-17:55:33 1h31m19s 帰宅直後 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし163+1054g
20回目 18:16:31-18:25:12 8m41s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 421g
21回目 18:27:35-18:38:11 10m36s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 ちびり25+585g
22回目 19:02:13-19:33:55 31m42s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 752g
23回目 20:02:33-20:09:53 7m20s 入浴前 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 453g
24回目 20:25:12-20:30:15 5m3s 入浴中 自宅浴室洗い場(洗い場の床) 水状便 便器外352g
25回目 21:02:12-21:12:51 10m39s 就寝前 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし85+442g
26回目 21:25:13-21:43:16 18m3s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 416g
27回目 22:35:52-22:59:13 23m21s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 662g
28回目 23:48:31-23:59:59 11m28s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 ちびり32+558g

翌日の排泄回数(2019/1/20)
1回目 00:27:52-00:46:34 18m42s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 442g
2回目 01:12:55-01:36:24 23m29s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 355g
3回目 02:21:25-02:35:45 14m20s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 455g
4回目 03:33:22-03:55:26 22m4s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 612g
5回目 04:16:12-04:38:55 22m43s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 463g
6回目 05:15:26-05:28:51 13m25s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし243+524g
7回目 05:35:55-06:21:22 45m27s 後始末中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 便器外121+782g
8回目 06:45:15-07:12:22 27m7s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 452g
9回目 07:45:15-08:16:31 31m16s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 586g
10回目 08:55:21-09:20:12 24m51s 通院準備中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 443g
11回目 09:22:41-09:44:11 21m30s 通院準備中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 390g
12回目 09:50:22-10:05:33 15m11s 通院準備中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 468g
13回目 10:21:13-10:42:42 21m29s 来院直後 救急診療所女子トイレ個室1(和式) 水状便 ちびり25+511g
14回目 10:48:44-10:58:22 9m38s 診察待ち 救急診療所女子トイレ個室1(和式) 水状便 334g
15回目 11:09:12-11:21:21 12m9s 診察中 救急診療所女子トイレ個室1(和式) 水状便 452g
16回目 11:44:22-11:52:32 8m10s 点滴中 救急診療所処置室ベッド脇(椅子型ポータブルトイレ) 水状便 366g
17回目 12:03:12-12:17:13 14m1s 点滴中 救急診療所処置室ベッド脇(椅子型ポータブルトイレ) 水状便 584g
18回目 12:20:33-12:36:13 15m40s 点滴中 救急診療所処置室ベッド脇(椅子型ポータブルトイレ) 水状便 622g
19回目 12:45:12-13:02:21 17m9s 点滴後 救急診療所女子トイレ個室2前(洋式) 水状便 おもらし352+333g
20回目 13:22:12-13:33:25 11m13s 帰宅中 ドラッグストアトイレ(洋式) 水状便 便器外55+451g
21回目 13:42:25-14:02:32 20m7s 帰宅中 自家用車後部座席(紙おむつ)→自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし251+425g
22回目 14:44:22-14:52:22 8m0s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 421g
23回目 15:47:21-15:59:26 12m5s 休息中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし152+361g
24回目 17:22:12-17:49:22 27m10s 休息中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし485+便器外51+442g
25回目 18:02:23-18:09:12 6m49s 入浴中 自宅浴室洗い場(洗い場の床) 水状便 便器外422+0g
26回目 18:44:22-18:59:21 14m59s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 522g
27回目 20:02:12-20:13:15 11m3s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし288+472g
28回目 21:02:44-21:15:21 12m37s 就寝中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし122+551g
29回目 21:51:22-22:21:33 30m11s 就寝中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし331+418g
30回目 22:34:24-22:51:22 16m58s 後始末中 自宅浴室洗い場(洗い場の床) 水状便 便器外515+0g
31回目 23:33:22-23:55:11 21m49s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 670g



第8小節「嘲笑の教室」当日の排泄回数(2019/1/28)
1回目 01:03:15-01:12:11 8m56s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 352g
2回目 01:52:12-01:58:56 6m44s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 331g
3回目 03:15:12-03:28:26 13m14s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 525g
4回目 04:20:51-04:37:12 16m21s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 588g
5回目 05:22:15-05:51:51 29m36s 就寝中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし88+便器外122+770g
6回目 06:31:25-06:45:12 13m47s 起床後 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 484g
7回目 07:00:12-07:10:52 10m40s 起床後 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 441g
8回目 07:33:22-07:45:12 11m50s 朝食中 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 515g
9回目 07:55:15-08:02:32 7m17s 登校前 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 383g
10回目 08:05:12-08:11:41 6m29s 登校前 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 ちびり32+412g
11回目 08:35:15-08:44:25 9m10s 早退中 路地裏(野外) 水状便野外排泄 おもらし351+脱ぎかけ172+650g
12回目 08:57:18-12:41:26 224m8s 早退後 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 便器外132+2252g
13回目 13:32:22-13:37:23 5m1s 入浴中 自宅浴室湯船(湯船の中) 水状便 おもらし332+0g
14回目 13:43:55-13:48:33 4m38s 風呂掃除中 自宅浴室洗い場(洗い場の床) 水状便 便器外258+0g
15回目 13:53:52-14:06:12 12m20s 入浴後 自宅1Fトイレ(洋式) 水状便 523g
16回目 16:03:25-16:25:31 22m6s 休息中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ (洋式) 水状便 おもらし255+688g
17回目 17:31:23-17:48:12 16m49s 休息中 自室(紙おむつ)→自宅2Fトイレ (洋式) 水状便 おもらし553+221g
18回目 18:25:17-18:51:51 26m34s 休息中 自宅2Fトイレ (紙おむつ)(洋式) 水状便 おもらし331+453g
19回目 19:35:25-19:40:25 5m0s 休息中 自室→自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 おもらし256+313g
20回目 20:12:21-20:17:12 4m51s 休息中 自宅2Fトイレ(洋式) 水状便 361g
21回目 21:24:24-21:39:12 14m48s 就寝中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ (洋式) 水状便 おもらし313+483g
22回目 22:31:22-22:39:12 7m50s 就寝中 自室(紙おむつ)→自宅2Fトイレ (洋式) 水状便 おもらし151+381g
23回目 23:21:23-23:49:12 27m49s 就寝中 自室ベッド上(紙おむつ)→自宅2Fトイレ (洋式) 水状便 おもらし451+622g





サブキャラクター設定

山南 綾夏 (やまなみ あやか)
「こんなに練習してるのに……どうして、あの子の方が……」
11歳 西調布市立若葉台小学校5年1組
134.3cm 34.4kg 65-48-66 紫髪三つ編み
ぴーぴー属性:軟便(-55) 神経性下痢(軽度) 長時間排泄 便意突発
 ピアノを習っている結希の同級生。控えめな性格だが嫉妬心が強く、一生懸命練習しているにも関わらず自分よりも遥かに上手な結希に嫉妬している。
 ストレスを感じるといきなり急激な下痢に襲われることがあり、出し切るのにかなりの時間を要してしまう。

三崎 真琳 (みさき まりん)
「ねえ知ってる? あの子遊園地に出かけた時にお漏らししたんだって。もう5年生なのに恥ずかしいよね」
11歳 西調布市立若葉台小学校5年1組
139.4cm 39.3kg 69-51-72 茶色髪ツインテール
ぴーぴー属性:食あたり(重度) 持続性下痢 全量おもらし
 目立ちたがり屋で自分が中心にいないと気がすまない少女。自分より目立つ子や男子に人気がある子を標的にして、恥ずかしい噂を流して追い落とすという陰湿なやり口を用いる。彼女のことをよく思わない者も多いが、自分が標的にされるのを恐れて口をつぐんでしまう子がほとんどである。
 普段はお腹は弱くないが食あたりを起こすと猛烈な下痢が長期間続き、また一度漏らし始めると我慢が効かなくなって全部漏らしてしまう。

笹谷 詩乃 (ささや しの)
「私、図書室で読みたい本があるから…………」
10歳 西調布市立若葉台小学校5年1組
135.3cm 37.0kg 68-51-68 緑髪セミロング
ぴーぴー属性:下痢便(-70) 冷え冷え(軽度) 爆音おなら
 学校で結希と仲が良いおとなしい少女。休み時間はいつも図書室で本を読んでいる。
 お腹はゆるめで、夏場に冷房の効いた図書室にいるとお腹を下してしまい、静かな図書室におならの音を響かせてしまうことがある。

雪ヶ谷 みゆり (ゆきがや みゆり)
「……あ、あの………………な、なんでもないです……っ……」
9歳 西調布市立本宿小学校3年2組
120.6cm 27.8kg 57-45-61 黒髪おかっぱ
ぴーぴー属性:水状便(-100) 超大量排泄 神経性下痢(重度) 食あたり(重度) 脱ぎかけ排泄 我慢強い 腹音 下痢風船
 武家の格式を持つ名家の娘。平均よりもやや小柄で、髪をおかっぱに切りそろえた日本人形のような外見。口数の少ないおとなしい性格。幼少期には琴や三味線などの和楽器を習っていたが、2年前からピアノに興味を持って習うようになり急速に上達している。
 もともとお腹が弱く毎日水状の便を出している上に、緊張すると大幅に下痢が悪化してお腹がぎゅるぎゅると大きな音を立ててしまう。我慢強いため漏らすことは少ないが、限界まで我慢してトイレに駆け込むためしゃがむ途中で出てしまい大量の水状便で個室中を汚してしまうことが多い。大量の水状便を出した後に肛門で水便が風船のように膨らんで弾けることを何度も繰り返す。胃腸が繊細で食あたりしやすく、生の食べ物を食べると何度も大量の水便を排泄して苦しむことになる。

北野 真紀 (きたの まき)
「結希、とっても上手に弾けてたわよ」
36歳 専業主婦
151.2cm 39.3kg 70-50-75 黒髪ミディアムボブ
ぴーぴー属性:下痢便(-75) 神経性下痢(重度) 腹痛悪化 長時間排泄 不運(すべて)
 結希の母。小柄でかなりスリムな体型。
 お腹が弱く、特に緊張やストレスがかかると猛烈にお腹を下す体質で、大学卒業後銀行員として働いていた頃は毎日ひどい下痢に苦しんでいた。銀行系のシステムエンジニアである夫と結婚して家庭に入ってからは比較的体調が落ち着いている。それでもいつも下痢がちで長時間トイレにこもることも多く、我慢しながら下校してきた結希が1階のトイレに駆け込もうとして入れず2階に向かう途中で力尽きるのはよく見られる光景である。
 幼い頃はさらにお腹が弱く毎日下痢していた。小学5年生の時に授業中に猛烈にお腹を下し、必死に我慢したものの授業終了まであと3分というところで力尽きて椅子から滝のように流れ落ちるほど大量の水状便を漏らしてしまい、以後卒業まで毎日のようにいじめを受けストレスでお腹を下し続けていた。別の街の私立中学に入って環境を変えることはできたが、進学校で度々試験があったため今度はプレッシャーでお腹を下し続ける毎日であった。そのため、お腹が弱い結希のことをいつも心配しており、落ち着いた環境で好きなことに打ち込んでほしいと願っている。
 結希が様々な災難に見舞われるのも実は母譲りで、二人一緒にいると相乗効果でより大変な目に遭うことが多い。特に車に乗ると高確率で渋滞に巻き込まれ、電車に乗れば長時間の駅間停止、エレベーターは停電してしまうなどの災難が降りかかり、結希のおもらし頻度増加につながっている。
 結希の発表会でのおもらし後は心労が重なり彼女も毎日下痢に苦しんでいたとか。

サブキャラクター設定(Coda)
(結希6年生時の設定)

大坪 七海 (おおつぼ ななみ)
「放課後遊びに行くの? なら、みんなで一緒に行こうよ!」
11歳 西調布市立本宿小学校6年1組
128.6cm 33.9kg 65-48-67 灰色髪横結び
ぴーぴー属性:軟便(-60) 我慢強い 爆音排泄 乳製品不耐症 薬剤特効 料理上手 不運(付近トイレなし) おもらし時反応(号泣)
 町外れに広大な土地を持つ地元の名士の一人娘。少しおとなしめだが誰にでも優しく接する性格。幼い印象だが整った顔立ちで、勉強や運動も得意で男女問わず人気がある。寂しそうにしている子には積極的に話しかけて皆で仲良くなりたいという博愛精神の持ち主。
 料理やお菓子作りが趣味で腕前は非常に高い。ただ体質的に生の牛乳を受け付けない上にお菓子の材料に使われている牛乳の影響でお腹を壊してしまうこともある。
 軟便体質で一日数回排泄することが多く学校でトイレに行くことも少なくない。排泄時に凄まじく大きな音が出てしまうため、できるだけ人のいないトイレに行こうとする。学校から家までが遠く、給食で牛乳を飲んでお腹を下してしまい帰り道の住宅街で必死に我慢したものの耐えきれなくなり路地裏に駆け込んでしまったことも何度かある。

黒田 友美 (くろだ ともみ)
「まったく、七海ったら誰とでも仲良くなりたがるんだから……」
12歳 西調布市立本宿小学校6年2組
145.3cm 39.3kg 73-52-75 紫髪ポニーテール
ぴーぴー属性:下痢便(-72) 神経性下痢(重度) 激臭排泄 激臭おなら 薬剤耐性 不運(トイレ行列中)
 七海と同じ小学校の友達。もともと人付き合いには積極的ではなかったが、七海に声をかけられたことで仲良くなり友美からは七海が一番の親友だと思っている。そのためか他の子が七海と仲良くしているとつい嫉妬してしまう。身長体重は標準的で、胸も少し膨らんでいてジュニアブラをつけている。
 ストレスが溜まると猛烈な下痢になる体質。腸内環境が荒れていて強烈なにおいのおならや凄まじい臭いの下痢便を出してしまう。また、入ろうとしたトイレが行列していることが多く、限界近いのにさらなる我慢を強いられることがある。

雪ヶ谷 さゆり (ゆきがや さゆり)
「はじめまして。明翠学園中等部1年の、雪ヶ谷さゆりです」
13歳 私立明翠学園中等部1年3組
138.6cm 32.1kg 64-48-67 黒髪ロング
ぴーぴー属性:水状便(-100) 超頻繁排泄 冷え冷え(重度) 食あたり(重度) 脱ぎかけ排泄 我慢強い 爆音排泄 液垂れ
 武家の格式を持つ名家の娘。長く美しい黒髪のおしとやかなお嬢様。日本舞踊を習っており、明翠学園では合唱部に入っている。
 周囲の憧れを集める美少女だが極めてお腹が弱く、頻繁にトイレに駆け込んで水状便を排泄している。そのため体つきは細く胸もぺたんこである。我慢強いため漏らすことは少なく平静を装っていることが多いが、実際には限界ギリギリの我慢を続けており、トイレに駆け込んだもののしゃがむ途中で出てしまい爆音とともに大量の水状便を便器の外に出してしまうことが多い。便器の外だけでなく横に流れ落ちる水便でいつもお尻を汚してしまう。妹と同様胃腸が繊細で食あたりしやすく、傷んだものを食べると文字通り下痢が止まらなくなってしまう。



あとがき

 ウニ体さん(https://x.com/uniunitaitai)とのコラボレーション作品となる「雪色の音符」を完成できました。そもそものきっかけは、ウニ体さんのイラスト
https://www.pixiv.net/artworks/118294642 (うんこを我慢できなかった女の子2)
https://www.pixiv.net/artworks/118629702 (うんこを我慢できなかった女の子5)
の子に一目惚れしてしまったことです。お腹を押さえている様子、漏らした悲しさで止まらない涙、さらに靴までぐちゃぐちゃになるほどの液状便おもらし……とすばらしいイラストで、どんな子なのか気になって設定を問い合わせたら、まだ決まっていないので作っていいとのこと。小説を書けば挿絵も描いていただけるとのことでおもらしシーンを考えたのですが、どんどん設定が膨らんできて書きたいシーンも増えてしまい、気づいたらかなりの大作が出来上がっていた、という次第です。

 本作のメインイベントはピアノ発表会でのドレスを着た少女のおもらしです。当初のイラストからだいぶ飛躍しているように思われますが
・中学生か高校生の設定だけど制服ではない→私服で出歩いておもらしを繰り返している→お腹の具合が悪くても休日に外出しなければいけない用事がある→習い事→ピアノ
・セーターを着ている→寒がりなので冷え冷え属性(重度)
・2回ともお腹を押さえているので腹痛悪化属性
・Pixivでのやっとの思いでたどり着いたトイレが空いてない…という描写から不幸属性
という感じで瞬く間に設定が作られていきました。この過程はキャラ作りの教材になりそうなので後日まとめてみようと思います。
 ウニ体さんからの要望で、あまりお漏らし慣れすると羞恥心が薄れそうなので、衆人環視おもらしは将来のために取っておきたい、ということでおもらしバージンを守りながら話を作ることになりました。そこで、演奏の途中で我慢できなくなって駆け出したのにトイレに間に合わず漏らしてしまう、という可哀想な光景が生まれました。

 結希ちゃんの名前は横結びの髪型が特徴的だから「結」、下痢を暗示する漢字で「希」として読みを「ゆき」にして冷え冷え属性と関連付けました。名字は、あまりアニメキャラ的でなく実際にいそうな女の子なので珍しくない名字でゆきと相性が良さそうな「北野」になりました。
 題名は少し悩んだのですが、雪と音楽をイメージさせる「雪色の音符」で、黒い音符が白く消えるイメージから途中で演奏を中断してしまう悲劇を表現するものとなりました。「雪色の五線譜」の方が語呂は良かったのですが、おもらしシーンの最後の音の描写を書いてみて、直接に結希ちゃんが出している音を表現する「音符」で良かったなと思います。

 だいぶ長くなってしまったのでパートごとに見どころ解説をしてみます。

第1小節 雪の朝
 「いきなりお漏らしシーンを描くよりもきちんとキャラを立てておいた方が感情移入できる」として書き始めたものです。まだお腹が下りきっていなかった段階ですが結希ちゃんのアイデンティティである冷え冷え属性と腹痛悪化属性が伝わればいいなと思います。

第2小節 繰り返す水音
 水状便になったりちびってしまったりして可哀想度が増してくるパートです。トイレの外に人がいるときに恥ずかしがって我慢するのはぴーぴー界隈ではよくある描写ですが、お母さんに心配かけないように我慢するのは珍しいかなあと思います。

第3小節 焦燥の三拍子
 クラスメートの真琳ちゃんと綾夏ちゃんが出てきて、結希ちゃんのメンタルにさらに負荷をかけ始めるパートです。真琳ちゃんはあまり見かけない悪役路線のキャラなので楽しく造形できました。当初予定より真琳ちゃんの悪意がパワーアップしたので引き止められて漏らして個室の壁から床からぴーぴーフルコースで汚しちゃう場面になりました。
 
第4小節 涙の前奏
 ドレス姿で和式トイレにしゃがみ込む結希ちゃん、というのが書きたかったパートです。この光景を描きたいためにちょっと古い市民会館にしてトイレも和式にして……と無理して設定を作りました。もうちょっとドレス本体を汚してあげても良かったかな……。

第5小節 悲劇の即興曲
 「ピアノ発表会でのドレスを着た少女のお漏らし」はいろいろな所で描かれているポピュラーなシチュエーションだと思いますが、具体的な演奏描写を描いたぴーぴー小説はなかったと思うので今回やってみました。筆者は初級止まりでしたが一応ピアノを習っていたのでその頃の音楽知識を思い出して書いています。長年弾いておらずヘ音記号のCの位置も忘れるほどでしたが、この作品を書いてまた弾いてみたいなと思うようになりました。
 結希ちゃんが弾く曲は、短調で美しいメロディ、知名度の高さ、一目で演奏技術の高さがわかるほどの難易度、かつ小学生でもなんとか弾ける曲、ということでわりとすぐにショパンの幻想即興曲に決まりました。私はクラシックはほぼ素人ですがそれでもわかる知名度です。書いている途中はほぼ無限ループで聴いていた感じです。本当は曲の進行の速さと読み進めるペースを一致させてBGMとして流すとちょうどぴったりの場面で演奏が止まるようにしたかったのですが、どうしても後半で我慢描写が増えてしまい読むのが追いつかなくなってしまいました。読みやすいペースで読んでいただければと思います。
 挿絵の場面はドレスのお尻の汚れ方など難しい構図を描いていただきました。水状便が両脚の間から流れ落ちていたりドレスの裾から滴っていたりする「水状便おもらし中」の描写を見事に描いていただき深く感謝しております。(結希ちゃんが何度も使った)便器の内側が汚れている描写も第4小節の光景を想像させてくれて深みが出るようにしていただきました。

第6小節 絶望の後奏
 お漏らしを間接的に目撃した綾夏ちゃんが悪役の真琳ちゃんに話してしまうのを結希ちゃんが聞いてしまい絶望する、という場面です。
 挿絵を書いていただいたら隣の個室が閉まっていたため急遽中にいた子を設定する必要が生じ、目撃したけれど黙っていてくれるみゆりちゃんを登場させたことで上記の二人と対照的な感じになって良かったなと思います。「しゃべらない」という連想からみゆりちゃんは黒髪おかっぱ水状便ぴーぴー少女になりました。

第7小節 失意の夜
 今回一番上手く書けたのはこのパートで、第三者の視点を通すことで結希ちゃんの可哀想さを際立たせるという位置づけです。お母さんが泣き出すところで胸が痛くなる感じになってもらえれば幸いです。

第8小節 嘲笑の教室
 最初は直接結希ちゃんがからかわれることなく、噂を間接的に耳にする程度だったのですが、悪役の真琳ちゃんが好評だったので直接的に精神的ダメージを与える方針になりました。
 排泄シーンは以前から書いてみたかった路地裏での野外排泄(ぴーぴーフルコース)としました。薄暗い路地裏に可愛らしい少女がしゃがみこんでいるという絵的に素晴らしい光景だと思います。結希ちゃんは今後もこの路地裏に頻繁にお世話になる予定です。

Coda 希望の旋律
 Codaは「結び」の意味で、楽譜上ではリピートした後To Codaで最終部分に飛んで終わる、という使われ方をします。ウニ体さんより最後は希望のある終わり方がいいとの要望をいただきましたので、ずっと落ち込んだままの毎日を繰り返していた結希ちゃんが希望を得てそこから抜け出すという流れになりました。
 というわけで心優しい七海ちゃんに登場してもらい、結希ちゃんの心の傷を癒やすというのが目的のパートです。結希ちゃんに弾いてもらう曲はいろいろ考えたのですがやはり短調の曲が似合うので、知名度も高い「エリーゼのために」になりました。
 みゆりちゃんと七海ちゃんは同じ小学校にしてあったので、おもらし事件の噂を知られていないエビデンスとしてみゆりちゃんの姉のさゆりちゃんも設定しました。理想的なお嬢様だけど凄まじくお腹が弱いというどこかで聞いたことがあるような設定ですね。


 というわけで気づけば設定あとがきを含めて10万字超。他のぴーぴー小説書きの方々の「描写しないで想像させる」技術に日々感服してはいるのですが、どうしても自分の場合は具体的な排泄描写を見たい!と思ってしまい、蛇足になることがわかっていながらも書いてしまいます。なので今回は実験作と言うよりは、自分の持てる技術をすべて使って結希ちゃんへの愛を表現した、という位置づけにしたいと思います。
 改めましてすばらしい元イラスト、キャラクター原案およびドレスお漏らし挿絵、立ち絵イラストまで提供くださったウニ体さんに心より感謝申し上げます。液状便の流れ方や靴の中までぐちゃぐちゃな汚れ方など可哀想になるほどのおもらし描写は言い尽くせないほど素晴らしく、私だけでなく多くの方から高い評価を得ていると思います。また今回立ち絵も描いていただきました。立ち絵だけでも笑顔にしてあげたいとも思ったのですが、結希ちゃんはお腹を押さえているのがアイデンティティということで意見が一致してしまったのでお腹を押さえて涙を浮かべている立ち絵になりました。トイレに行かせてほしいと訴えているようで非常に可愛くて可哀想な絵になっていると思います。イメージセリフともよく合っています。
 ぜひ立ち絵・挿絵イラストの感想もウニ体さんに送っていただければと思います。

 エンドマークとして出てきた「ぴーぴーMate」ですが、結希ちゃん元イラストは高校生の設定で、ウニ体さんが書かれた大坪七海ちゃんの設定と組み合わせて明翠学園(や通学路の路地裏やピアノ教室に通う電車の中)でのぴーぴーイベントを描くシリーズとして構想しています。今回お預けにしておいた衆人環視おもらしのシチュエーションも考えていますので書くのが楽しみです。他のシリーズと交互に書くことになりますので進みは遅いですが、ぜひ人生最大の恥となるおもらしを魅力的に描いていきたいなと思います。

 PixivでもTwitterでも感想などいただけると創作の励みになりますのでぜひコメントをお寄せください。
 次回作もお楽しみに。

10/14追記
 一度公開した作品の本質に関わることを変更するのは禁じ手なのですが、ぴーぴーMateの今後の展開を考えていったところ本作に伏線を仕込む必要が生じてしまいました。あらかじめこういったことも見越して伏線を敷いておかなかったことは痛恨の思いですが、作者の一時の恥よりは今後面白い展開を用意できることが重要であるとの思いから、内容を変更させていただくこととしました。
 大きな変更は、第8小節でおもらし後野外排泄した結希ちゃんが中学生の男子生徒に見られてしまうことです。あと、Codaで七海の友人である友美の話が、格好いい男の子と出会ったことになっています。この二人の男子については結希の視点からはほとんど描写がありませんが、伏線であることは明らかなので今後どのような形で登場するかご期待いただければと思います。あと、はるかちゃんが明翠学園に転校する伏線として翔太くんと一緒に見学に来ていた涙なしには見られない姿を描写することにしました……。
 シリーズ全体の構想はまだ完成しておらず今後もキャラクターの追加などを「走りながら考える」ことになりますので、こういったこともあるかと思いますが、最後には素晴らしいシリーズになるよう仕上げたいと思っておりますので、応援いただければ幸いです。
 


# 付録1 音楽関連資料・解説

・フリーショパン
幻想即興曲 楽譜
https://freechopin.com/op_66/
楽譜を読める方はぜひ見てみてください。この楽譜を弾けるだけで結希ちゃんが相当な腕前だとわかると思います。私は全く手が出ません。

・羽田健太郎-THE-BEST--10th-memorial-
https://www.amazon.co.jp/%E7%BE%BD%E7%94%B0%E5%81%A5%E5%A4%AA%E9%83%8E-BEST-%EF%BD%9E10th-memorial%EF%BD%9E/dp/B07G28FSSC
劇中の演奏の時間はこちらの羽田健太郎さんの演奏を当てはめています。幻想即興曲の演奏としてはかなりゆっくりなもので、5分37秒かけています。通常は5分ちょうどくらいですが、あまり早く終わると間に合ってしまうので今回は遅めの演奏を選びました。

・幻想即興曲−ショパン【Fantasie Impromptu-Chopin】ピアノ/CANACANA
https://www.youtube.com/watch?v=Ol_ggsZAzU0
運指はこちらを参考にしました。
結希ちゃんは手が小さいので左手1オクターブ届かないため、そこは小学生のコンクールの動画などを参考にしています。さすがにここからリンクするのは避けておきます。

・アウフタクト(Auftakt):小節の途中から始まる作曲手法です。スメタナの「モルダウ」あたりがわかりやすいでしょうか。今回は第1小節の前にいれるアバンタイトルを「Auftakt」としました。雰囲気作りです。

・「ドレミファソラシド」はドイツ語音名で「CDEFGAHC」です。結希ちゃんの本格的なピアノ技術の雰囲気を出すためドイツ語音名にしました(たまたま文中でHは使わなかったので「CDEFGABC」の英語音名とも一致しています)。ピアノ教室ではなく高校の音楽で習ったものですが。

・8度の和音:音程差の表現で、ある音自身を1度として全音(白鍵)1つごとに+1度で表記します。ドから1つ上のドまで両端含めて白鍵8個分なので、1オクターブ上の同じ音を同時に弾くことを8度の和音と呼びます。

・ペダル:ピアノは異なる長さの弦をハンマーで叩いて振動させて音を出していますが、通常はダンパーと呼ばれる柔らかいフェルトが弦に密着していて、鍵盤から指を離せばこのダンパーが振動を減衰させてすぐ音が止まります。足元に3つあるペダルのうち右端のラウドペダルを踏んでいる間はこのダンパーが上がり、音が鳴り続くようになります。前の音を残して次の音が鳴るのでいくつもの音が合わさった和音の響きになります。ずっと残しておくと不協和音になってしまうので、だいたい1小節ごとに一瞬足を離してもう一度踏み直すことになります。これを「踏み替える」と言います。

・アルペジオ:和音を構成する音を一音ずつ低いものから順番に弾いていく演奏法です。結希ちゃんは指が短くて届かないのでペダルで弦を開放して低い音を弾いた後素早く高い音を弾いて擬似的に和音にしています。同時発音数が少なかったファミコン時代の音楽にも使われた技法です。

・ディミヌエンド(dim.):徐々に音を小さくして消え入るようにする演奏指示です。曲の終わりで使われることが多いです。

・リタルダンド(rit.):徐々に遅くする、という演奏指示です。止まるくらい大幅に遅くするものから少し減速する程度まで幅があります。

・リテヌート(riten.):すぐに遅くする、という演奏指示です。私は今まで知りませんでした。

・クレッシェンド(cresc. または<):徐々に強くする、という演奏指示です。逆に弱くするのははデクレッシェンド。

・音の強弱:フォルテシシモ(fff)>フォルテシモ(ff)>フォルテ(f)>メゾフォルテ(mf)>メゾピアノ(mp)>ピアノ(p)>ピアニシモ(pp)>ピアニシシモ(ppp)

・装飾音符:小さい音符で指示された音を早く弾いて親音メインの音符を弾きます。親音を正規のタイミングで弾くか装飾音を正規のタイミングで弾くかの違いがあるそうですが、今回の演奏ではその中間くらいのタイミングになっています。

・トリル:3度高い音を速く交互に弾く奏法です。8分音符のドが32分音符のドレドレになる感じです。

# 付録2 ぴーぴー関連資料・関連作品

「生き恥ドレス」さん
http://dressojosama.moe/
今回ドレスの描写をするのに真っ先に当たったサイトがこちらの生き恥ドレスさんです。「お嬢様羞恥小説FAQ」にスリップやパニエなどのドレスの構造解説が載っていたのを20年前に見た記憶が残っており今回参考にさせていただきました。
また、第4小節のドレス姿で和式トイレにしゃがむ描写は「屈辱の羞恥スパイラル」のオマージュとして書かせていただきました。激しい下痢に苦しむアイドルが本番中にトイレに駆け込むという素晴らしい小説なので未見の方はぜひご覧ください。
生き恥ドレスさんのサイトなしではこの作品は書けなかったと思います。非常に感謝しています。

ENAさん「彼女の音」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13069340
ピアノ少女の下痢といえばこちら、という作品です。ピアノ教室の冷房でお腹を冷やして毎日のようにトイレに駆け込む女の子という非常に魅力的な作品です。二人称描写の情報の出し方が絶妙で、もっと見たいという気持ちを掻き立ててくれます。
自分ではこの機微は真似できそうにないので、三人称の物量と、演奏描写を真正面から描くことで違った路線を目指すことになりました。
清音ちゃんはその後もどこかでお腹を下しているのでしょうか……。

ふらんさん「秘密の後継者」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15201870
フェンスのある路地裏の描写はこちらを参考にしました。「欲望の盗撮カメラ」も含めて路地裏排泄がとても魅力的だったのでぜひ自分でも書きたいと思っていたものです。しかしやはり目撃談形式の魅力には敵わないなあと思います。

Guilty「使用中 -W.C.-」
2000年発売のゲームです。ヒロインが小さい頃に演奏会でおしっこを漏らしたCGがあります。こちらに載ってます。
https://gameomo.net/1119.html
トイレを題材としていておしっこは多かったのですが大はほとんどなかったような気がします。ただ、ピアノ発表会おもらしはいいなあという印象は残っておりいつか書きたいと思っていました。今回書けてよかったです。



更新履歴
2024/7/5 ver1.0
公開しました。

2024/7/11 ver1.1
・誤字を修正しました。
【Coda】濃い緑色を貴重とした→濃い緑色を基調とした

・【Coda】で結希が6年生になっていることがわかりにくかったので明示する表現を追加しました。
*学年も6年生に上がり、お漏らしから3ヶ月以上経っていたためか
*「私、ちっちゃいけどこう見えても6年生なんだよ。結希ちゃんも6年?」
 「う、うん……」
  電車で一駅違うとはいえ、同じ市内、同じ学年だったことに少し親近感を覚える。だが同時に、何かがひっかかるような……。

・サブキャラクター設定(Coda)に(結希6年生時の設定)と追記しました。

・サブキャラクター設定に北野真紀(結希の母)を追加しました。

2024/7/15
・ver2.0 ウニ体さんに第8小節「嘲笑の教室」の挿絵を描いていただきました。挿絵として本文中に挿入し、絵に合わせて描写を修正(おもらし量を大幅に増加)しました。
・ver2.1 お母さんの過去でいい表現を思いついたのでちょっと加筆しました。

2024/7/16
・ver2.2 お母さんのキャラクター設定を加筆しました。また、結希の第8小節「嘲笑の教室」当日排泄回数データを追加しました。

2024/10/14 ver3.0
・今後のシリーズ展開に必要となったため第8小節の内容を変更し、結希がおもらし後野外排泄しているところを目撃されてしまう展開にしました。
・第7小節で母が泣き出す場面の余韻が不足していたので文章を加筆しました。
・Coda冒頭で第8小節の目撃された内容を記述しました。
・今後のシリーズ展開に必要となったため、友美が七海と話す内容を格好いい男子生徒に会ったことに変更しました。
・Codaではるかちゃんと翔太くんにゲスト出演してもらいました。

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