雪灯りの道
第1話 遠き日の縁
雪国の空は寒く、暗い。
万人に等しく注ぐはずの陽光を、厚い雲と無数の雪が遮るから。
雪国の夜はさらに寒く、しかし――明るい。
穏やかな月の光と、人の営みの灯が、地に降りた白い雪を輝かせるから。
人はそれを、雪灯りと呼ぶ。
暗く寒い夜を照らすささやかな灯り。
その灯りが照らす道が、暖かな光の待つ未来へ続くことを信じて。
少女は今日も、歩み続ける。
「…………っ………………うぅっ…………」
ギュル……ゴロッ…………グギュルルルルルルッ…………!!
すでに葉を散らした木々に囲まれた木造の校舎。曇り空の下、窓と戸を閉じても冷たい空気は教室の中に染み通ってくる。
4年生の教室の一番前の席に、お腹を両手で抱え込むように前かがみになっている少女がいた。彼女の小さな体の中では、茶色い洪水が出口を求めて唸りを上げている。一瞬でも気を抜いたら漏れ出してしまいそうな便意。
のどかな山間の小学校。その教室で、一人の少女にとって苦しみに満ちた我慢の時間が繰り広げられていた。
「――――っ!! はぁっ、はぁっ…………うぅ……!!」
ゴロロロロロ……………ゴロピィー…………ギュルッ!!
ギュルゴロロロロッ! グギュルルルッ! グゥゥーーーッ!!
何度目かすらわからない便意の波をこらえ切り、わずかに息をつく。肩口で切りそろえたおかっぱの黒髪が揺れ、真っ青な顔には脂汗が流れ落ちる。次の瞬間、サスペンダーの付いた紺色のスカートと白いブラウスに包まれた小さな体がびくりと震えた。赤地に黄色のチェック柄のリボンが胸元でかすかに震え、顎先から汗の雫が弾かれるように落ちる。
何度も何度も押し寄せてきた便意の波は1回ごとに強くなり、今や便意の波の下限ですら気を抜けば一瞬で漏らしてしまうほどの圧力になっている。膝をすり合わせるようにして体を強張らせ、開こうとするおしりの穴を括約筋で押さえつける。
(おなか痛い…………漏れちゃいそう…………!!)
少女――良野ゆかりは、生まれつきお腹が弱かった。それも尋常な弱さではなく、普通の女の子なら一生に一度も経験しないほどの猛烈な下痢が毎日続き、彼女を苦しませ続けている。便所に駆け込んでは水状の下痢便を排泄し、腹痛にあえぎながら苦しみの素を吐き出したと思ったのも束の間、数十分後には新たな便意が押し寄せてくる。一日の排泄回数は30回にもおよび、耐えきれずに漏らしてしまうことも少なくない。
今日も日が昇らないうちに便意に叩き起こされてから家を出るまでに5回、登校後と休み時間に3回、授業中に2回便所に駆け込んでいた。今は10月、秋と呼ばれる季節だが、北海道の10月は冬の始まりというべき気候であった。冷え込んできたせいでお腹の調子が悪くなり、寒い便所にこもることでさらにお腹を下す。彼女のお腹の具合は坂道を転がり落ちるように悪化してきていた。
(もうだめ、お便所行かなきゃ………………でも…………)
授業が終わる時間まであと5分。もういつ漏らしてもおかしくないほどの圧力がおしりの穴に押し寄せている。本来ならもっと早く手を上げて便所に行かせてもらうべきであった。しかし、気の弱い彼女にとって授業中に便所に行くのは何度繰り返しても恥ずかしさ極まることで、幾度も右手を動かしたものの、肩より高く上げようとした瞬間に手が震え、胸元のリボンを握りしめることしかできなくなってしまう。左手は椅子の上と机の上と下腹部とおしりを行ったり来たりしていた。
「……ゆかりちゃん、大丈夫?」
ゆかりの肩の後ろからひそひそ声で声が響いた。小さいながらもよく聞こえる声。
「……!? ……あきちゃん……………………」
座高でも彼女より一回り高い身長、ゆかりと似たおかっぱ髪ながら、肩にかかってふわりと外に膨らんでいる髪型。顔色もよく活発そうな表情。白い長袖シャツと赤いジャンパースカートに身を包んだ、元気一杯な小学生の女の子、という印象の少女が声の主だった。名前は小牧明子、ゆかりの数少ない友人であった。
「…………うん……だ、だいじょうぶ…………」
友人の名前を呼んでから数秒の沈黙の後、ゆかりはわずかに顔を後ろに向け、こくりとうなずきながら消え入りそうな声で答えた。
「でも苦しそうだよ……お便所行かせてもらう? あたしが先生に言おっか?」
大丈夫と言ったゆかりの言葉が強がりであることが明子にはすぐにわかっていた。そのため、畳み掛けるようにゆかりに便所に行くことを促す。
「…………ううん………………あ、あと少しだから…………お願い…………あの、言わないで…………」
ゆかりの声は更に小さく聞き取れないほどであったが、ふるふると首を振る動作から明子はゆかりの意志を感じ取った。
「でも……んー…………わかった。我慢できなくなったらすぐ言ってね」
身を乗り出していた明子が椅子をわずかに引き、授業を受ける体勢に戻る。
「…………ありがとう………………っっ…………!!」
ゆかりはほっと息をついた。しかし次の瞬間、お腹を押さえて上体を倒した。
(……こ、こんどは3時間目終わるまで……がまんしないと…………)
ゴロッギュルルルルピーーーーギュロロロロッ!!
ゆかりが友達から手を差し伸べられたにも関わらず頑なに便所に立つことを拒んだのは、1時間目2時間目とも授業中に皆の前で先生にお便所に行きたいと宣言してしまったからだった。「また下痢かよ」と男子がからかう声が響く中、泣きそうになりながら便所に駆け込み滝のような水状便を吐き出す。ふらつきながら教室に戻ったものの、授業が終わる頃にはまたお腹が痛み始めていて、休み時間にも便所にこもらざるを得なかった。
(あとちょっと…………もうちょっとだけ…………がまんすれば…………)
グピーーーーーーゴロギュルグギュルルルルッ!!
ギュルピィーゴロロロロロロッ! グルルッ!! ギュルルルルルゥッ!!
さらに、授業終了の時間が近づいた今になって便所に行かせてもらったら「あとちょっとなのに我慢できないの」と言われるかもしれず、余計に言い出しにくくなってしまうのだった。
羞恥と葛藤と苦痛と焦燥を抱えながら、彼女は体を震わせて耐え続けていた。
「……っ!!……ぁああ…………っ…………」
ゴロロギュルルルルルゴロゴロゴロッ!! グギュルルルルギューーーーッ!!
腹痛とともに腸内を水分が駆け下っていく感覚が下腹部から伝わってくる。次の瞬間、今までより強力な圧力が彼女のおしりの穴に押し寄せた。疲弊した肛門が膨らみ始める感覚。
ギュルギュルギュルルルッ!! ギュピィィギュルグギュルッ!! ゴログギュルルッ!!
ブピッ…………ブッ…………ブプププブジュッ…………!!
(だ、だめっ…………!!)
おしりの締め付けを上回る圧力が肛門にかかり、限りなく液体に近い気体があふれ始めた。反射的に両手をおしりの下に差し込み、盛り上がった肛門を抑えつける。麻痺した神経を焼き切るかのような強烈な痛み。彼女の小さな体全体が限界を訴えている。もう無理だと叫び続ける本能を、いじらしい理性が必死に上書きする。がまん、がまん、がまん――――――。
「――――――っ!!」
グキュゥゥゥゥゥゥゥゥ…………ゴロッ……………ギュルルグギュゥゥゥゥッ…………!!
ゴロロロロロ………………ギュルッ…………グピィッ…………ギュル…………!!
わずかな気体を放出した後、肛門に押し寄せていた水便はついにその門を開くことができず、腸内に戻っていく。おぞましい感覚とともに、肛門を広げようとし続けていた圧力が弱まった。ゆかりの必死の我慢が実った瞬間だった。
「……じゃあ、ちょっと早いけど今日はここまでにします」
「っ!!」
耳に入っていなかった先生の言葉が届き、涙に滲んでいたゆかりの目が輝いた。
(終わった…………お便所……間に合う…………!!)
「きりーつ、れい!」
彼女の後ろの席から元気な声が響く。今日は明子が日直だった。
「ありがとうございましたー」
起立と礼を周りの子どもたちにやや遅れて行い、ありがとうございましたの声が消えるより早くゆかりは駆け出した。
(…………早く、はやく、はやくっ!!)
グルッ! グピィィグルルルルピィーーーーグギュルッ!!
「ろうかをはしるな」と書いてある板張りの廊下を転びそうになりながら駆け抜ける。求める場所は3学年分の教室の向こう、校舎の端にあった。走っている途中も腸の奥が鳴り、下腹部が痛み、肛門に圧力が押し寄せる。急がなければ漏れる、急ぎすぎて我慢を緩めれば漏れる。いくつもの悲劇の分岐をぎりぎりで回避し、あるいは耐えきりながら、ゆかりは校舎を飛び出した。
「はぁっ…………はぁっ…………っうぅぅぅっ!!……………」
ピィィグルルルルルルルグルルルルルルルピィーーーッ!!
グギュルルグギュルギュルギュルギュルーーーーッ!! ピーーーゴロロロロギュロロロッ!!
トタン屋根の下に板が渡してあるだけの渡り廊下を走り抜ける。急速に頂点に近づいてきた便意に打ち勝つため、右手の指先をおしりに突き刺すように押さえている。「走る」から「歩く」の速度に近づきながら、ゆかりは求めていた便所の入り口に飛び込もうとした。
「う、うぅ…………ううううぅっ…………!!」
ゴロロギュルーーッ! グルルルルッ! ギュルギュルギュルグピィーーーーーッ!!
ゴロゴロゴロゴロゴロッ!! グギュゥゥゥゥゥーーーーーーーッ!!
その瞬間、激しい腹痛が体を貫いた。便所の直前で動けなくなったゆかりを、一瞬遅れて強烈な便意が襲う。肛門が開き始める感覚。押さえる指の下で熱さが広がる感覚。
(だめ…………まだ…………っっ!!)
ビュッ!! …………ブピィ!! ………………ビュジュッ!!
おしりからかすかな音が響く。一瞬遅れて、感覚を失いつつある肛門を包む湿った温かい感触。何百回味わったかわからない、水状の便をちびった感覚だった。
(…………だめ、がまん…………がまん…………っ!!)
グギュゥギュルギュルグギュルウゥゥゥ…………
度重なる汚れで黄ばんだパンツに新しい茶色の染みができてしまったことは疑いない。だが、わずかに出てしまった分の余裕が直腸にできたこともまた事実であった。崩壊しそうになる体勢を立て直し、両手で肛門を押さえつけて必死の我慢を続けながら、一度止まった足をよろけながら踏み出し、便所の中へと踏み込んだ。
(お便所……!!)
正面の手洗い場を見ながら中に入ると、左手に4つの木製の扉があり、右手にモルタルの壁に溝が掘ってある壁式小便器が4つの仕切りとともに見える。個室には「低学年用」「中学年用」「高学年用」「先生・来客用」の札がかかっている。
男女共同の便所。都会の大規模校であれば男女別の水洗便所が当たり前だが、1学年1クラスの定員も埋まらない地方の小規模な小学校では、便所は男女共同のものが1箇所しかないのが普通だった。当然下水道などというものはなく、便器は陶器に穴が開いているだけのくみ取り式である。女子が個室の中で用を足す後ろで、男子が壁に向かって小便を放つ。
1年生からの学校生活ですっかり慣れた光景ではあるが、恥ずかしさを感じないわけではない。特に、ひどい下痢の時は音が響くだけでなく、便槽から立ち上る悪臭とはまた異なる新鮮な刺激臭が辺りに広がることもある。学校の便所で下痢をすることをからかわれたことも多く、そのたびにゆかりの繊細な心は深く切り刻まれ苦しんでいた。
しかし、この便所を使わないという選択肢は、今にも漏れそうな便意に苛まれる彼女には残されていない。
(はやく……!!)
ビュビュッ……!! ブプププブビッ!!
とにかく便所であれば何でもいい。極限まで追い詰められた彼女には羞恥心を感じるゆとりはなかった。汚れ始めているパンツを早く脱がなければならない。
一番近い「低学年用」の個室に飛び込もうとして、一瞬だけ足を止めて隣の「中学年用」の個室の扉を開けた。きしむ木の音が響き、個室の中が彼女の視界に飛び込んでくる。中央に白い和式便器。その底はなく穴の底に汚物が貯まる汲み取り式便所。一瞬遅れて鼻を突くアンモニアの刺激臭が漂ってくる。汲み取りが行われてから時間が経っており、汚物がかなり溜まっている。今日すでに3回この便所に駆け込んでいたゆかりはそのことを熟知している。
「うぅぅ!!」
ビチビュルッ!! ビュッビジュブピィ!! ビピピピジュルッ!!
一段高い板張りの個室に足を踏み入れた瞬間、水便がさらに溢れ出る。横向きの便器の後ろから回り込むように足を踏み出し、一歩ずつ前に出て便器をまたぐ。便器をまたぎ越えた方が早いのは明らかだが、足を滑らせた場合に便槽に落下するおそれがある。実際にゆかりは、乗り越えようとした瞬間に猛烈な腹痛で意識が飛びそうになり、片足を便器の縁から滑らせたことがある。幸いにも転んだだけで便槽に落ちることはなかったが、そのまま立ち上がれず水便を漏らしてしまい、パンツから脚を伝って便槽に液体を垂れ流すこととなった。その痛い経験から安全な動作を心がけているゆかりは、無意識に遠回りの経路を選んでしまった。
(はやく………………もうだめっ………………!!)
お腹を押さえながら左手でスカートをたくし上げると、現れたのは白いパンツ。だが、そのお尻側の下部には、布地の横幅の半分ほどの大きさの茶色い染みが浮かんでいる。ここに至るまでに漏らしてしまった汚水が染み込んだ跡だった。そして、お尻側の一番上のゴムから、肉付きの薄いお尻の局面に沿う形で下の方まですべて、さらに前の方も割れ目が埋まるほどまで、うっすらと黄色から薄茶色に変色しているのが見えた。よく見れば、汚水の濃い染みの回りにも、大きさの異なる薄茶色の輪郭が黄ばみよりも濃く浮かんでいる。パンツ全体が汚れる大量のおもらしを繰り返し、さらに多くの回数ちびって肛門の周りを汚してしまった跡が、ゆかりのパンツには残っていた。
「あ……あぁぁ…………っ……!!」
ビューーーッ!! ブジュブジュブジュゴポッ!! ビチビチブピィィィッ!!
ゆかりが右手をパンツにかけた瞬間、肛門から激しく汚い音が響き、一瞬遅れてパンツが茶色くなる。すでに染み込んだ茶色と、その周りの輪郭が、新しい茶色に飲み込まれる。便器をまたぐ数歩の時間差がパンツの汚れとなって現れていた。
(だめ、はやく、脱がなきゃ…………だめっ……!!)
ゴポブジュブビィィィッ! ブジュルルルルビチプピッ!! ビュッ!!
ビシャァァァァァーーーーーーッ!! ブジュルルブビィーーーーーーーッ!!
ベチャベチャベチャッ!! ボタボタベタビタタタッ………!!
もはや閉じられなくなった肛門を必死にすぼめて被害を最小化しながらパンツを下ろす。前かがみになりながら、かろうじて水便の射線から布地をどけることができた。潰したホースの先端から噴射されるような薄く茶色い水の線がまっすぐに伸び、個室の後ろの壁に直撃する。塗装されていない木製の壁の表面に、茶色の汚れと飛沫が付着し流れ落ちる。
「あ、あっ……だめぇ…………まだ…………!!」
ブピブピブバァァァッ! ビシャビシャビシャブビューッ!
ビチビチブビィィィブジュビシャアアアアアアアッ!! ビュルルルルブピピビシャーーーッ!!
ブバーーーーーッブピビチブジューーーーッ!! ビィィィィッビシャビシャビシャビーーーーーーーーッ!!
まだ出してはだめ。頭ではわかりきっていることに体は応えてくれない。彼女の努力をあざ笑うかのように、閉めようとする肛門を震わせ、凄まじい勢いで水便が飛び散る。おしりが内側から爆発しているかのような噴射。飛び散った飛沫が床を叩き、ゆかりの上履きや靴下にも点々と茶色い汚れを塗りつけていく。
挿絵: 麦茶さん(https://twitter.com/mynameismugicha)
(だめ…………また………………汚して……………………!!)
ビシャビシャビシャブジューーーーーッ!! ビピッビュルルルルルルーーーーッ!!
ビューーーーーッブシャブシャブシャブジューーーーーーッ!!
ブビィブピピピピビチーーーーーブジューーッ!! ビシャジァァァァブシャーーーーーーーッ!!
便器の外に出してしまっていることを自覚しつつも水便を止めることができない。板張りの壁と床に汚水を叩きつけながらも肛門を閉じることができない。みんなが使う便所に消えない汚れを塗りつけながらも、排泄の勢いを弱めることすらできない。パンツを下ろしきってしゃがむだけの1秒の間すら、我慢することができない。
ゆかりの肛門から迸り続けた水便は後ろの壁から壁と床の境目を通って便器の縁にまで達し、わずかな隙間すらなく汚物の痕跡を残していた。水便が直撃した真後ろの壁だけでなく、しゃがむ途中で斜めに飛んだ水便が個室の隅まで届く大きな茶色い水たまりを作っている。粘性がない水便は床板の隙間に流れ込み、周囲よりも早く汚れを流し広げていく。
すでに何度も何度も何度も汚してしまった場所ではあるが、それでも汚していい場所ではなかった。ゆかりの目に悲しみを表す水滴が浮かぶ。
「うぅ………………っ…………!!」
ブジュッビチビチビチッ!! ブピィィィ!! ブジュビジャブシャーーーーーーーーッ!!
ビシャビシャビシャブジュビシャーーーーーーーーーーッ!! ドボッドボボボボボビチャビチャビチャッ!!!
ブピィブジュビシャブシャーーーーードボボボボボビチャビチャバシャバシャバシャッ!!!
ブピブピブピブーーーーーーーッビチチチチチビチビチドボボボボボボボボボォッベチャベチャベチャッ!!
熱くなった肛門の周りがわずかに冷たくなった感触。それは、噴射し続けていた水便が便器の縁に当たって散乱されおしりに跳ね返ってきた感触であった。至近距離で撥水性の陶器に叩きつけられた汚水流が、そのままの勢いで便器と床と上履きと靴下とおしりを汚していく。後ろを見る余裕はなかったが、一瞬生暖かいおぞましい感覚がおしりに生じ、すぐに冷たくなっていったことが肛門が便器を捉えたことを教えてくれた。もう、我慢しなくていい。
すでに全開になっているお尻の穴に無意識に力が入り、腸の奥から汚水が凄まじい勢いで吐き出されていく。おしりの下は漆黒の穴。その底に溜まっている汚物に、ゆかりの肛門から噴射された汚水が叩きつけられる。尿と便の混合物、そして自分が出した水便がかなりの部分を占めている汚物溜まりの水面が波打ち、小さい飛沫が跳ね上がってゆかりのおしりをまた冷たくさせる。
「うぐぅ…………んんっっ…………っぁ!!」
ブシャビュルルビチビチビチビュルビチィードボドボドボドボドボッビチャチャドポドポドポーーーッ!!
ブシャッビュルビシャアアアアドボボボボボブビィィドボドボドボブーーーーーッ!!!
ビュルルビシャビシャジャーーーーッドボボボッドボボボボボッビチャビチャビチャビチャッ!!
ドボボボボッブシャーーーーーーーーーーッビチビィィィィッドボドボボボボブビィビチビチビチドボボボボボーーーーーッ!!
肛門の破裂音と水便が空気を切り裂く音と汚水が便槽の中に叩きつけられる音。汚さの限界を極めた3種類の音が繰り返し便所の中に響き渡る。
汲み取り式の便所で下痢便を排泄する。その行為を包み隠さず表現する音が、個室の外にまで響き渡る。
猛烈な音を立てて噴射を始めたゆかりのお腹の中には、まだ大量の水便が残されている。腸の奥から水便が駆け下り、汚水を吐き出したばかりの肛門に押し寄せてくる。
ゆかりの排泄は、まだ始まったばかりであった。
「んぅ……ーーっ…………!!」
ゴロゴロゴロギュルルルルルグルルゥゥゥ…………ッ!! ギュルギュルギュルゴロロロロォッ!!
ブシャジャーーーーービビィーーーーーーーーーッ!! ドボドボドボビシャビシャビシャッ!!
ビチビチビチッブシャビジュブビューーーーーーーーーッ!! ドボボボボボドボドボドボッ!!
ビィーーーーーッビシャアアアッドボボボボボブビビビィィィッ!! ドボボブシャーーーーーッビビブビビビッーブビィーーーーーーッ!! ビチャビチャビチャドボボボッ!!
か細い少女の体から生み出される音が便所の中に響き渡る。
腸の奥で液体がうごめく音、水状の下痢便が肛門を震わせる音、茶色の汚水が便槽内の水面に叩きつけられる音。
「くぅっ…………んんっ…………うぅぅぅっ!!」
ギュルゴログギュリギュルゥゥゥゥゥッ!!
ブシャブシャビィィィッ! ドボボドボドボッ!!
ビュルーーッビシャブシャジャーッ!! ビシャビチビチビィーーッ!! ビチャドボボボボボッ!!
ビューーーーーッビシャビシャビシャビュルルルルッ!! ドボボビチビチビチジューーーーーーッドボドボドボドボドボッビチビチビチッ!!
一瞬おしりからの放水が途切れてもすぐに次の水便が噴出する。
我慢に我慢を重ねた末の排泄。ゆかりは今、お腹の中の下痢便を出し切ることしか考えられなくなっていた。
「おいおい、聞いたかよ今のきったねー音!!」
「ビチビチビチだって!!」
「なんかいつもより臭ぇんじゃねえの?」
「……っ……!!」
ビチビュルッ!! ドボビチャッ!!…………ビュッ!! ボチャッ……!!
…………ゴロゴロゴロッ!! ギュルグルルルルッ!! グルルピィィィィッ……!!
足音に続いて聞こえてきた声。その話題が、自分のこと――恥ずかしい下痢便の排泄を指していることはすぐにわかった。慌てておしりの穴を締め、恥ずかしい音を止める。
同級生の男子3人が便所に入ってきたのであった。男女共同の便所で、木の扉一枚隔てた向こうに異性の姿がある。いくら小学生といっても、この状況で下痢便を排泄するのが恥ずかしくないわけがない。ゆかりは力を失いつつある肛門を必死に締めた。しかし、唸り続けるお腹の音は止められず、ただ大きい音が鳴らないよう祈るしかない。
「またかよ、さっきの休み時間もウンコしてたんだろ」
「授業中ずっと我慢してたんだぜきっと」
「終わった瞬間にダッシュだったもんな」
「っ………………ぅ……!!」
グギュルル……グピーーギュルグルルゴロゴロゴロッ!!
ゴロゴロピーーゴロロッ! ギュルピィィィィッ! グギュルルゴロゴロゴロッ!
(お願い…………それ以上言わないで…………!!)
事実であるだけに容赦ない言葉がゆかりの胸を突き刺す。涙が眼尻に浮かぶ。ゆかりはお腹をさすっていた右手を無意識に上げ、胸元のリボンの結び目を握りしめていた。
しかし次の瞬間、激しい腹痛とともに強烈な便意が押し寄せてくる。便器の上にしゃがんでいながら、全力で肛門を閉じなければならない。悲しみの涙と苦しみの涙が混ざり始めた。
「ちょっと漏らしたんじゃねえの?」
「きいてみようぜ」
「おい良野、間に合ったか? それともまた漏らし――」
「ちょっとあんたたち! やめなさいって言ってるでしょ!!」
ゆかりの同級生の女の子が便所の中に顔をのぞかせると、同時によく通る声で叫んだ。授業中にゆかりに声をかけていた、小牧明子であった。男子にも上級生にも物怖じしない強気な性格の彼女はゆかりのお腹の弱さをよく知っており、事あるごとに――すなわち毎日何回も、ゆかりを助けてくれている。
「げ、小牧」
「………………あきちゃん……!! っ…………」
ブジュッ!! ……ボチャ!!…………ブピブジュビュルルルッ!! ドボドボッ!!
その声に安堵した瞬間おしりが緩み、水便が少し零れ落ちてしまった。少し遅れて便槽内で響く水音がゆかりを驚かせ、さらに多くの液体を肛門から飛び出させてしまった。
「何度言ったらわかるのよもう!! 女の子をからかうなんて最低!!」
「う、うるせえな、最低はねえだろ最低は」
「最低よ! ほら、用がないならさっさと出てって!!」
「……………………」
ゴロゴロゴロ…………ギュルッギュルルルルッグピィィィィィィッ…………!!
ピィィグギュルッ! ギュルギュルーーッ!! ギュルルグゥゥゥゥッ!!
幸いにも、明子が男子たちと言い争う声が大きかったため、個室の中で響いた水音はゆかり以外には届かなかったようだ。顔を赤らめながらおしりに力を入れ直し、溢れようとする水便をせき止める。水状の便が腸内から出られず逆流する重苦しい音が、彼女にはいっそう強く伝わってくる。
「用もないのに便所に来ねえよ」
「ションベンくらいゆっくりさせろよまったく」
「ゆっくりさせてほしいのは私達の方なの!! もう、早く済ませて出ていきなさい!!」
「おお、こわ」
「……………………っ…………」
ピーゴロロロロギュルルグギュルルルルッ!! ゴロゴロギュルルルルッ!!
グピィィィグルルギュルルルッ!! ギュルギュルギュルグウゥゥゥゥーーッ!
男子たちが壁に向かって用を足す音が耳に入る。ゆかりはお腹を抱え込みながら必死にお尻の穴を締め続けていた。腸の奥がかき回されるような痛みに意識が乱されていく。
「……ゆかりちゃん、大丈夫?」
個室の外から中に声がかけられる。明子のよく通る声。
「……っ………………ん…………」
それに対してゆかりの返答の声は聞き取れないほど小さかった。もともと声が小さい上に、おしりを締めるのに神経を総動員していて自由に声を出すこともできないためだった。
「まだお腹痛い? その、男子たちの言うことなんか気にしないでいいからね」
「……………う…ん………………でも…………」
ギュルゴロロロロギュルグルピィーーーーッ!! ゴロッゴロゴロゴロッ!
ジュル……ブピッ……!! …………ボチャビチャッ!!
明子は恥ずかしがらず下痢便を出してしまえば、と言っている。しかし、気の弱いゆかりはそうしてまた男子から嘲笑されるのが怖く、おしりの穴を緩める勇気が出せなかった。しかし、緩めなくとも直腸に一杯に詰まった汚水はせき止めきれず、便器の中に少しずつこぼれ落ちてしまう。
「ほら、終わったらさっさと出てくの!!」
明子は用を足し終えて何やら目配せをしている男子たちを追いたてる。彼らはその声に従うように歩き始めた、が。
「わかったよ…………せーの」
「…………?」
「「「やーいゲリピー女!!」」」
明子が警戒するより早く、男子たちが同時に個室の中のゆかりに向かって叫んだ。
「…………っ!!」
ゴロゴロギュルーーーーーーーーーッ!! グルギュルルーーッギュルギュルギュルッ!!
お腹を擦りながら便意をこらえていたゆかりが、はっと顔を上げた。
「……!! なっ、なんてこと言うのこのバカ!!」
「それ逃げろ~!!」
明子が男子を捕まえて引っ叩こうと手を伸ばしたが、3人は一目散に便所から出ていってしまった。
「………………う……うぅ………………うぅぅ…………!!」
ゆかりの目に涙が浮かぶ。
便所の中でお腹の痛みに耐えながら下痢便をこらえ続け、その上心無い言葉を浴びせられたことで、彼女の精神力はついに尽き果ててしまった。恥ずかしさと苦しさが涙となって両目からこぼれ落ちる。
「ゆ、ゆかりちゃん気にしないで!! ほら、あのバカ達は出てったからもう大丈夫!!」
「うぅ…………ぁああ………………うああぁぁぁぁっ!!」
ゴロピィィィィィィィグルルルルルルルルグピィーーッ!
グギュルルルルギュルルルルゴロロロゴロゴロゴログルルルルーーーーッ!!
ゆかりが泣き出すと同時に、腸の奥で内容物を絞り出すような激しい蠕動音が響く。次の瞬間、意識が飛びそうになるほどの圧力がお尻の穴に押し寄せた。
もうだめ。出さなきゃ。出したい。出る。
ゆかりは本能に従って肛門を緩め、同時に痛むお腹に力を入れた。
「んーーーーーーっ!!」
ブシャビュルルルルルルルルルルルビューーーーーーーーーーーーッ!! ドボッドボボボッビシャビチャビチィブビュビチビュルビュルビュルビシャーーーーーーーーーーーーーッ!! ビチャビチャドボビシャビシャァァァァァァァァァァジャアアアアアアアアアアッ!! ドボドボドボブピビチィーーーーーーーッビジャーーーーーーッ!! ドボボッビチャビチャビシャビュルブビィーーーッ!! ビチビチビチドボッドボブシャァァァァァァァァァァァァァブビューーーーーーーッ!!
ゆかりのか細い体の中で作られた大量の水状便が肛門から吐き出される。凄まじい勢いの水状便の噴射の前には、全開になった肛門の開口幅ですら十分でなかった。細いホースの先から飛び出す水流のように、中心が薄く端部の色が濃い汚水の滝が広がりながら直線を描く。ゆかりのお尻から便槽の中の水面まで一続きに伸びる茶色の滝。
途切れずに続く水便が肛門を震わせ激しい音を立てる。便槽の中に叩きつけられる汚水の音をかき消すほどの音。ジョボジョボ、ドボッという音が目立つはずの汲み取り式便所には似つかわしくない連続した排泄音が響き続ける。
「はぁっ、はぁっ、んうぅっ!!」
ビチビチビチブシャーーーッビィーーーーーーーーーーーッ!!
ジャアッ! ビシャァァァァァァァァァァァァビィィィィッビヂッ!! ブピッブピピピピブシャーーーーーーッ! ブビビビビビブーーーーッ!! ドボドボドボドボッ!
ビチャビュルルルルルルブビューーーーーーーーッ!! ブシャッビチィブシャブシャビシャーーーーーーーーーッ!! ドボボビチャッブビビビビビビブビィィィィブジャーーーーーーッ!!
ビシャジャァァァァァァビュルビュルルジャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! ビィィィィィブシャブシャーーッビィィィッ!! ビチビチビチビチブビィィィィィィ! ビチャビチャドボッ!!
一瞬噴射が途切れたあと、息を整えるより早く始まる新たな水便の噴出。大量に出して噴射が途切れる瞬間には肛門で汚水が弾け、白い便器の縁に十数個の水滴を付ける。わずかに遅れて、着水の音とほぼ同時に便槽内の水面から跳ね上がってきた「おつり」と呼ばれる水滴が、便器の縁やゆかりのお尻に新たな汚れを付着させる。
「ゆかり……ちゃん…………。…………」
あまりにも壮絶な排泄の音が響きわたり、個室の外にいる明子は扉の向こうで苦しむゆかりの姿を思い浮かべながら、彼女の名前を小さな声で呼ぶことしかできなかった。名前を呼んだ後、明子は下を向き、自らのお腹に手を当てた。
「んぅぅっ………………!! くぅっ…………んぐっ…………!!」
グギュゥゥゥピーゴロロロロロッ!! ギュリリリリグルルルゴロゴロゴロゴロッ!!
ビュブシャーーーーーーッビィィィィィィィィィィィッ!! ブシャビィィィィィィィィッ!!
ブジャッビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーブビッビビビドボボボボボッ!!
ブシャビュルビチビチビチビィィィィィッ!! ビシャビシャビチィーーーーーーーーッドボビチャチャチャッ!! ブビィィィィィィッ!!
ビチッブジュビチチチチチジャーーーーーーーーーーーーーービュルッ!! ブパッビチッビチチチチッジャーーーーーーーーーッ!! ブシャーーーーーーーーーーッ!!
肛門で鳴り響く猛烈な噴射音。加速度をつけて汚水が便槽内に叩きつけられる衝撃音。排泄が途切れるたびに飛沫を撒き散らしながら発せられる破裂音。物静かな少女の体からは想像できないほど汚く激しい音が個室の中を満たし続けていた。目を閉じてお腹と肛門の痛みに耐えているゆかりには、自分のおしりの穴を駆け抜ける熱い感覚以外には何も認識できていなかった。
「ふぅっ…………んぅぅ………………うぅぅぅぅ!!」
ギュルルグルルグルルルッ!! グギュルーーーッ!
シャーーーーーーーーーーッビシャビシャビシャブシャァァァーーーーーーーーッ!! ドボドボドボドボ!! ジャァァァーーーーーーッ!!
ブシャビシャビィィィィィビュルーッ!! ビチィーーーーーーーーーーーーーッビュルルルルルルッジャーーッ! ブビィィィ!!
ブシャブシャーーーーッビュルーーーーーーーーーッビチビチビチブビビィィッビチャドボボボボボッブビブビッビチビチビチィィッブーーーーーーーッ!!
茶色の水状便が滝のようにゆかりの肛門から流れ落ちる。少なからぬ量をパンツの中に漏らし、かなりの量を便器の後方の壁と床に叩きつけ、凄まじい量を便器の黒い穴の中に注ぎ込みながらも、まだ下痢の勢いは衰えない。出したそばから腸の奥の水状便が押し寄せてきて直腸を絶え間なく駆け抜けていく。
「うぅ…………うぅぅぅ…………はぁっ…………」
ギュルッ!! ゴロッギュルルギュルゴロロッ! ギュルギュルギュルグゥゥゥゥーーッ!!
ブピブピピィィッ!! ドボドボビチビチビチブバッビィーーーーッジャアアアアーーーーッ!!
ゴロロピィィギュルーーーーッ! ゴログルルゴロゴロゴロギュルッ!!
ブシャブシャビシャァァァーーーードボドボッドボボビュルルルルルビチビチビチシャーーーーーーッ!
水状便の排泄が続く。しかし、肛門から伸びる茶色の奔流が途切れる瞬間が少しずつ現れるようになった。その間もゆかりのお腹はぎゅるぎゅると蠢き新たな汚水を直腸に送り込もうとするが、狂おしい焦燥感を伴う便意からは徐々に解放されつつあった。
「はぁっ…………はぁっ…………」
ゴロロッ! …………ギュルルピィーーーーゴロギュルルルルッ……!!
痛みに閉じていた目を開く。涙に滲んでいた視界の上半分に前方の板張りの壁と床が、下半分に便器の丸みを帯びた金隠しの部分と、その手前にある自分自身の両膝、そしてその間に渡されたパンツが浮かび上がってくる。
パンツの汚れはかなりの範囲に及んでいた。肛門が当たっていた箇所はクロッチ全体に及ぶ水状便の直撃を受けて茶色に染まっていた。さらに、脱いでいる最中にも水便は止まらず、お尻側の中心軸上に直線上の汚れ、さらに上に行くほど数の多い水滴状の茶色い半透明な汚れが飛び散っていて、肛門が急速に力尽きていった様子を物語っていた。さらに、これらの汚水は直撃した箇所だけでなくその周囲にも薄茶色の染みを侵食させており、パンツの汚れを少しずつ広げつつあった。
「くぅっ…………んっ!!」
ビチビチチチビチブジュビィーーーーーーッ!! ドボドボブジューッブビビブシャーーーーーーッ!! ビチャビチャビチャビチャ!!
ブシャッビチィーーーーーーッジャーーーーーーーーーーーーッビシャーーーーーーッ!! ドボッビチャビチャブビブビブーーーッ!!
パンツの汚れを拭う余裕もなく新たな水便を噴射してしまうゆかり。体の小さいゆかりは和式便器にまたがるのに脚を一杯に開かねばならず、お尻が便器の中に埋まるような低い体勢になってしまう。そのため、勢いよく噴射される水便が跳ね返ってきてお尻が汚れる確率も高い。脚が疲れてくるとさらに体が沈みがちになるので、時折脚に力を入れて便器の縁に上履きが当たるまで脚を戻して体勢を立て直している。
以前には足がしびれておしりから便槽の中に落下しそうになってしまい、慌てて両手を広げて耐えきったことがあるが、その時は背中が便器の後ろ側に着いてしまい、そこに出してしまったばかりの水状便でシャツを汚してしまったことがある。下半身を汚すのは日常となってしまっているが、上半身を汚してしまった時の悲痛さは普段の比ではなかった。もう二度と経験したくない。
「あれ、明子おねーちゃん、どうしたの?」
「こっち入る?」
「あ、うん、えーと……」
「……!!」
個室の外から高い声が響く。ゆかりはまた男子に心無い声をかけられるのではないかと体を震わせたが、入ってきたのは低学年の女の子のようだった。その後に聞こえた、明子の珍しく戸惑うような声。
ギュルギュルゴロロギュルルルルッ!! ピーーゴロロロロッ!! グルルギュルギュルギュルッ!!
……ゴロロッ…………ギュルギュルギュルッ…………グルルゥゥゥ………!!
(明子ちゃんも……下痢してたんだ……!!)
自分のお腹の振動とは異なるタイミングで聞こえてきた音は、個室の外の明子のお腹から響いたものだった。ゆかりがいつもひどい下痢なので目立たないが、実は明子もお腹が弱い方で、学校で便所に駆け込むことも少なくない。便所に入ってきたのは、ただゆかりを助けに来ただけではなく、自分も下痢をしていて個室で排泄したかったからだったのだ。
「……ううん、使っていいよ」
「いいの? じゃあ、ゆーちゃんが先に入るね。れいちゃん後でいい?」
「うん、いいよー」
個室の外では、明子が汗の浮かぶ顔に笑みを浮かべて下級生に個室を譲っていた。入ってきたのは1年生ふたりで、短く内側にくるっと跳ねた髪の元気いっぱいな沢部裕子と、胸の高さまである長い髪の、やや落ち着いた雰囲気の野端玲子。小さい学校なので、他学年の子もほとんど知り合いだった。
(どうしよう……早く出ないとあきちゃんが…………でも…………)
ゴロロロロロギュルルゴログギュルルッ!! グウーッ!!
ビチビチビチビィーーーッブピィーーーーーッビシャアアアアアアッ!! ビジャビジャブシャーーーーーッ!! ドボドボドボッ!!
ビュルッビュビィーーーーーーーッ!! ブシャーーーーーーーーーーーーーーッビュルルルルルルルルルルルドボジャアアアアアアアッ!!
便意を我慢している明子の様子は容易に想像できるが、しかしだからといって個室を明け渡すことはとてもできそうになかった。お腹が鳴るのとお尻が破裂するのはほぼ同時。下りきったお腹の中身をもっとたくさん吐き出さないと、おしりを拭くことすらできない状態にあった。
「あーっ、また汚れてる!!」
「!!」
グルルルグルゴロピィーーギュルッ!! ギュルルルルルッ!!
低学年用の個室に入った裕子が声を上げる。ゆかりはお腹を鳴らしながらびくっと体を震わせた。
「どうしたの?」
「ねえ見て、ほらこことここ、うんちで汚れてる」
「あ、ほんとだ」
「……ぁ…………!!」
(…………さっき……拭ききれなかったところ……!!)
ゆかりは、囁かれる話の内容を聞いて青白い顔をさらに青ざめさせた。2時間目の授業中、限界まで我慢して便所に駆け込んだ彼女は、数歩分だけ距離が近い低学年用の個室に駆け込んだのだった。そして、ぎりぎりパンツは汚さなかったものの、脱ぎかけの状態で噴射が始まってしまい便器の後ろの床を派手に汚してしまっていた。その上、お尻を拭くのに持っていた紙をほとんど使い切ってしまい、派手に汚した箇所は掃除したものの細かい飛沫までは拭ききれなかったのだった。
「壁まで汚れてる」
「ねえ、また良野くんのお姉ちゃんじゃない?」
「あっ、そうだ! さっき授業中にお便所に走ってったからきっとその時だ!」
「こっち使ってもいいけど汚さないでほしいよね」
裕子と玲子は名探偵のごとくあっという間に真実にたどり着いてしまった。全校生徒が顔見知りであるということは、ゆかりがお腹が弱く便所に駆け込んでは水状便を撒き散らしていることも知れ渡っている。
「…………っ…………」
(うぅ…………ごめんなさい………………ごめんなさい…………)
ビチビチビチッ!! ドボボビュルルルルルルルルルルブシャーーッ!!
ドボビチチチビチジャーーーッ!! ブシャッビュルルルルルルルルシャーーーーーーーーーッ!! ドボビシャビチャッ!
ゆかりは再び涙を浮かべながら、それに数百倍する量の液体を肛門から吐き出していた。
「ね、ねえ裕子ちゃん、玲子ちゃん、それ以上言わないで。ゆかりちゃんお腹が痛くて大変なんだから」
「…………!!」
便意に苦しむゆかりの意識を、下級生の子たちを諭してくれる明子の声が引き戻す。
「あ、ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
もともと悪気のあったわけではない二人の1年生は、すぐにゆかりを責めるのをやめて謝った。
「あ、謝らなくてもいいの、わかってくれれば……っ…………」
ギュルギュルギュルッ!! グギュルルルルルルゴロロッ…………!!
しかし明子はゆかりを助けられた喜びを感じる間もなく、腹痛に言葉を遮られた。
(あきちゃん…………)
ビシャビシャビシャブジュッ!! ジューーーーーーーッ!! ドボッドボボボボッ!!
ビチャビィィィッビチビチビチブビィーーーーーブビビビッ! ビシャビュルッ!! ビシャァァビィィィッジャーーーーーーッ!!
本当はすぐにでもこの個室を明け渡して明子の厚意に応えたかった。しかし、下りきっているお腹の具合がそれを許してくれない。せめて、声をかけて感謝の気持を示そうとゆかりは腹痛に耐えながら声を絞り出した。
「あきちゃん、ありがとう…………」
「ゆかりちゃん……気にしないでいいよ。そ、それより、おなかは大丈夫……?」
「…………その、ごめんなさい、わたし………まだ…………」
ふるふるとかすかに首を揺らしながら、ゆかりは答えた。答えた、というには消え入りそうな意思表示だったが、明子には十分に伝わっていた。
「あっ、いいよ、ゆかりちゃんは無理しないで。……あたし、まだ大丈夫だから」
ギュルギュルルルルグピィ…………ゴロロロロロッ…………!!
具合の悪そうなお腹を押さえながら、明子は平静を保った声で応える。
「ごめんなさい…………あ、あの、空いてたらほかのところ、使って……うぅっ!!」
ブシャビシャビシャジャーーーーーーーッ!!ドボドボドボブピッブシャッブビューーーッ!
ブビィーーーーーーブビジュルルルルドボボボボブーーーーーッ!! ブピブピブビブピビィィィィッ!!
自らの声をかき消すかのような激しい音が尻から響く。その音が個室の外にいる友達の便意を刺激することがわかっていながらも、水状便の勢いを弱めることができない。
「…………っ!!」
…………ブッ…………ブピッブピピブーッ!!
個室の外から水っぽい破裂音が響く。明子が腸内の圧力を押さえきれずおならを出してしまった音だった。明子はまだ個室の外にいる玲子から見えないようにおしりを押さえた。数秒の後、何事もなかったかのように裕子がおしっこを始める音が聞こえた。
「…………わ、わたし、こっち使うね!!」
さらに数瞬の後、明子はまだしばらく開かないであろう個室の前を離れ、隣りにある高学年用の個室に向かって踏み出した。
小規模校である幌崎小学校の便所は全校で男女共同の1箇所だけであり、3,4年生の女子は10人程度で「中学年用」の一つの個室を使うことになっているが、我慢できない時は他学年の個室を使ってもいいとされている。もともとは暗黙の合意にすぎなかったが、行列している個室の前でゆかりが漏らしてしまうことが何度もあったため、公式に貼り紙で通知されたのだった。
今は高学年用の個室は空いていて使うことに問題はないが、強気な明子でも上級生の個室を使うのには多少の勇気が必要であった。しかし今はもうそれどころではない。
「う、んっ……!!」
個室に入りながら扉を閉めて鍵をかけて片手でスカートの中の黒いタイツごとパンツを下ろしながら便器をまたぎしゃがみこみ肛門を開く。
ビチッブリリリリリッブビュブバビチャァァァァッ! ドボドボドボドボッ!!
ブリィィィィィィィドボボボッ!! ブリリリリリリッビチャビチャッ!! ブビビチチチチビチーーーーッ! ドボビチビチビチッ!!
ビチブビーーーーーーッブババババブビーーーーッドボッドボボボッ!! ブビブビブビーーーーッビチャビチャドボッ!! ブビーーッビュリリビィーーーッドボボボッブビ!!
ゆかりが隣の部屋で出している水状便よりは形のある、しかしどろどろの下痢便が大量に明子のお尻の穴から便槽に注ぎ込まれる。質量のある下痢便が便槽に叩きつけられ、飛沫が跳ね上がって明子のお尻にも汚れをつける。その飛沫には隣の部屋でゆかりが吐き出したばかりの水状便も混ざっているはずであった。
(あきちゃん……こんなに我慢してたんだ………………ごめんなさい…………)
ゴロッギュルルルルゴログギュルッ! ゴロギュルギュルグピィーーーッ!
シャアアーーーーーーーーーッ!! ドボドボビュルルビシャーーーーーーージャーーーーーーーッ!! ブピッビシャビィィィィィィッドボボボッ!!
ビシャーージャァブビューッ! ビシャビシャビュブシャァァァァァァァァァァビシャーーーーーーッドボドボドボドボ!!
想像以上に下していた明子の排泄音を耳にしてゆかりは、我慢させてしまったこと、そんな状態で助けてもらっていたことを申し訳なく思う。しかし、そう思っている間にも自身の小さなお尻からは病的な水状便が途切れずに噴射され続けている。客観的に見ても下痢の酷さはゆかりの方が圧倒的に上回っており、明子より先に個室に入って排泄を続けていたこと自体は誰にも責められないだろう。
「んぐっ…………んっ…………んぅぅぅっ……!!」
ブバッブビビビッビュリリリリブビーーッ! ビチビチビィィッドボボッブブブーーーーーッ!!
ブピピピピピッビチッビチッビチビチビチッブリリリリリリリッドボボボボッ! ブブッブピビチビィィィッドボビチャベチャ!!
ビチブリィィィィィィブビィーーーーーーーーーーーーーーーーーーッドボッドボボボッドボボボボボ!! ビチチチチチチチチビチィーーーーーッ!!
ビュルルルブビビビビビビビビブリビチーーーーッドボドボッ!! ブビーッベチャドボッブリリリリリリブピィーーーーーーーッ!
明子は大量の下痢便を出し続ける。黄土色の泥状の便が次々と肛門から生み出され勢いよく落下していく。全開にしたお尻の穴は時折息継ぎをするように閉じ、その時に肛門のしわの内外が黄土色に汚染される。そして次の瞬間には、内側が新たな黄土色の半液体で押し流される。
「うぅぅぅ……………ぐぅっ…………うぅぅぅぅっ…………!!」
グピーーーーギュルピィーーゴロロッ! ゴロゴロゴロギュルルグピィーーーッ!
ジャァァビィーーーッビュルビュルーーッブシャーーーーーッドボビシャビシャッ!! ブパッビュシャーーーッビチビチビチシャーーーーーーッ!!
ドボボブジャッビュルルルルルルッブビューーーーーーーーーーッドバドボブビィッ!! ブシャッビュルビシャアアアッドボボボーーーッ!!
ゆかりも明子の激しい排泄に刺激されたのか、水状便をさらに吐き出していく。すでにお漏らしと大量の水便排泄で汚れきったお尻の穴とその周辺は痛みと痒みが混ざった不快感を常にゆかりの神経に送り込み続けていた。そして、その敏感な場所をさらに刺激しながら流れ出る水状便が、体温よりはるかに灼熱した感覚で体を貫く。
「んん…………んっ……!!」
ブジュブジュブジューーーーッドボドボッ!! ビチチチチチブジュビチチブバーーーーーーーーッ!
ビチビチビチビィーーーーーーッビュリッドポッ!! ビチブバババビュリッビチャビチャビチャァ!!
ビチブババババビチーーーーーッビチャーーーーーーーーーーーーーーッ!! ドボドボドボブビブリィィィブビブリィィィィィィィィィビィーーーーッベチャベチャベチャ!!
ビチビチィィィビュリリリリリリリリリリリドボボボビュリリリリブビューーーーーーーーッ!! ブビブバブビビブビィィッドボドボッ!! ビチビチャァッドボベチャッ!
ブビビビビブーーーーッ!!……………ブピピピピピブビッ………!!
勢いの良い排泄が途切れると、小指の先程度の泥状の汚物が明子の肛門から垂れ下がり、やがて便槽へと落下する。明子はお腹に力を入れ、直腸内に蓄えられた下痢便を外界へ送り出した。泥だらけになったお尻の穴がさらに開き、出始めよりゆるくなった下痢便を勢いよく汚物溜まりに注ぎ込んでいく。先に自由落下した下痢便の小粒を飲み込み、水泥の濁流が便槽の水面を叩いた。
その濁流が流れきると、今度は細かい液体と大量のガスからなる飛沫混じりのおならが肛門で弾けた。
「んっく…………ぐぅぅっ…………うぅぅぅぅ…………!!」
ゴロゴロゴロギュルッ!! ゴロギュルルルルルゴロロロッ!!
ブシャブシャーーーーーーーーーッビュルルルルルルッドポドポ!! ブシャジャーーーーーーーーーービシャーーーーッ!!
ジャァァァァァァビィーーーーーーーーーーッビュルルルルルルドボドボビチィーーーッ!!
ビュルーッビュルルルビューーーーーーッドボベチャッ!! ブピッビジャァァビシャブシャーーーーーーーーッドボボボボボ!!
ゆかりは苦しげなうめき声を喉から、苦しげな唸る音をお腹から出しながら、汚水としか呼びようのない形状の便を注ぎ込んでいく。おしりや便器の縁には無数の茶色い飛沫が飛び散り、いっそうすさまじい汚れ方になりつつあった。
流れ出るのは液体のみであり、固体はもちろん気体すらも入り込む余地がない完全な水状便の排泄が続いている。
「はぁっ…………はぁっ…………!!」
「はぁっ…………はぁっ…………っっ…………!!」
隣同士の個室で、同じタイミングで息をつく二人。しかし、明子のそれがお腹の中の物を出し切った達成感を表していたのに対し、ゆかりのそれは、出しても出しても楽にならない徒労感をにじませていた。
「ふぅぅっ…………」
安堵のため息をつき、スカートのポケットから取り出したちり紙でおしりを拭き始める明子。どろどろの下痢便は肛門に汚れが残りやすく、明子のパンツにはすでにうっすらと茶色い筋がついていた。これ以上汚さないように念入りにお尻を拭っていく。一枚の紙を折って、汚れていない部分を使って何度もいろいろな方向からおしりの穴についた汚れを拭き取る。
学校の便所には用を足した後に拭くための紙が備え付けられておらず、自宅から持ってきたちり紙を使うことになっている。さらにポケットに入る紙の枚数は多くても数枚でしかないので、一度拭いて捨てていたらすぐに足りなくなってしまう。
「ゆかりちゃん、大丈夫……?」
「…………んぅぅっ!!」
ブシャッビュルビシャビシャビュルルルルルルルッ!! ジャーービチビチドボドボドボ!
ビシャーーーーーッビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルッドボボボ!! ビュビシャーーーッジャァァァァブビューッドボドボッ!!
シャーーーーーーーーーーーービシャアアアアアアアッバチャビチャッ!! ビシャビチャビィーーーーーーーーーーーーーッ!!
ドボボブビッ!! ビチッブビビビビビブシャブジューーーッ!! ブビビィッ!! ドボドボビィィィッ!! ブジュブジュブジュブーーーーーーッ!!
明子の問いかけにゆかりは声ではなく音で答えてしまった。まだ止まらない下痢。後から排泄を始めた明子が用を足し終えてお尻を拭き終わろうとしても、ゆかりの腹痛と便意はまだ治まってはくれなかった。
「だ、だいじょうぶ…………もう、そろそろ…………っ…………」
グピーーーーーーグルルルルギュルーーッ! ギュルーーッ…………!
ビチビチビチビュルッブビィッ!! ビュジュブビビビドボドボッ!!
ビィィィィッブジュベチャベチャブジュビィィッ!! ブビューーーーーッビチビチビチドボボボボボブーーーーーーッ!! ブビビビビィィッ!!
ビチャビチャビチャビチャブピビシャーーーーーーーーッ!! ドボドボドボブジュブジュブジュブビビビビッビィィィィッブビィィィーーーーッ!!
全然大丈夫ではなさそうな、そろそろ終わる気配などない猛烈な排泄音が続く。だが、ゆかりはお尻の穴を貫く感覚が変わりつつあるのを感じていた。水状便だけでなく気体が混ざり始めた感覚。腸内の貯水量が枯渇し、排泄が終わり始める時にこのような激しいガス混じりの音となることを彼女はわかっていた。
キーンコーンカーンコーン………
「あっ…………授業始まっちゃった」
紙を3枚使っておしりを拭き終えた明子が個室から出てきた瞬間、4時間目開始のチャイムが鳴り響いた。5分間の休み時間は下痢をしている少女たちには短すぎたのだった。もっとも、おしっこだけなら十分な時間であり、1年生の裕子と玲子はすでに用を済ませて手を洗って教室に戻っていた。
「あきちゃん…………早く、戻ってて……。わたしもすぐに出るから…………」
「ゆかりちゃん、無理しないでゆっくりしてていいよ。先生にはうまく言っとくから」
「で、でも…………んっ……!!」
ピィィィィグルルルルッ!! ゴロロピィーッゴロゴロゴロゴロ!
腰を浮かせかけたゆかりだが、再び襲ってきた腹痛に貫かれて動けなくなってしまう。
「無理しないで、ね? ……あっ、紙は大丈夫? 足りなかったらあたしのあげるよ」
「う、うん…………さっきポケットに入れたから大丈夫…………あっ!!」
ゆかりはポケットの中の布ではない感触を確かめたが、次の瞬間思い出したように声を上げ、後ろを振り返った。
「ゆかりちゃん?」
「………………あ、あの………………ごめんなさい、その……何枚か、もらってもいい……?」
ゆかりの視界に広がっていたのは、壁まで飛び散った水便の汚れ。叩きつけられた場所だけでなく、流れ落ちた軌跡も茶色い汚水の筋となって跡をつけていた。その手前の床も部屋の隅から便器に至るまで大量の水便がぶちまけられており、手持ちの紙を全部使っても足りないことは明らかだった。さらにおしりも拭かなければならず、自分の力ではもうどうしようもない状態であった。
「うん、いいよ。……どうしよう、ちょっと開けてもらってもいい?」
「あ、え、あの………………ご、ごめんなさい、その…………そこに置いてってもらえるといいんだけど……」
「え、でもお便所に置いたら汚いよ」
手渡ししてもらうのが一番いいのはわかっている。おしりを出している姿くらいは明子に見られても恥ずかしくはないが、しかし壁まで水便を飛び散らせてしまった惨状を見られるのはさすがに耐えられない。ゆかりは仕方なく、事情を説明し始めた。
「あ、あぅぅ………………その、えっと………………ちょっと、床を汚しちゃって………………掃除、しないといけなくて…………」
「あ……………ご、ごめん、そうだったんだ…………いいよ、気にしないで。えーと、3枚あるから全部置いてくね。お掃除手伝おうか?」
「…………う、ううん、大丈夫。自分でできるから…………その、授業始まってるから、早く戻らないと」
明子の親切に感謝しつつも、これ以上世話になることは負担になりすぎると思い、ゆかりは厚意を断ってしまった。
「あ、そうだった! じゃあ、あたし先に行くね。無理しないでね、ゆかりちゃん」
「う、うん…………ありがとう…………」
明子が水道で手を洗う音が響く。せめてものお礼の言葉を述べて、ゆかりは明子の軽やかな足音を見送った。
「うぅ………………はやく……しないと………………んぅ!!」
ブシャーーーーーーーーーーッビシャビシャビシャビィィィィィッ!! ブビィィィブジュビィーーーッドボボボボ!!
ビュッビィィィィィィィィッドボオッ! ブピッビチィーーーーーーーーッビュルルルルルッブジューーーーッ!!
ビチビチビチビューーーーッジャーーーーーーーーッドボボブビビビビビッ!!ブーーーーーッ!! ブパッビィッビシャアアアアアアアアアアアアッ!!
肛門の緊張を解くと大量の水便がまた便槽の中に注ぎ込まれる。明子と話している間、下痢便が炸裂しないように我慢していたのだった。それを一気に出し切ろうと、お腹に力を入れていく。授業時間に入り、便所の中にはゆかり以外誰もいない。どれだけ恥ずかしい音を立てようが、誰かに聞かれる心配はない。
「ふぅぅぅっ………………んっ!! んぅぅっ!!」
ピィィィィィィグギュルーーーーッ!! ゴロゴロゴロゴロッ…………!!
ブビビィィィィッッドボボッ!! ブーーーーーーッ!! ビジュビジュブピィィィッ!!
ブジュビチビチブビィィィドボボボボ!! ブジュブジュブジューーーーッ!! ブビビビビビブビブビブビッ!!
ドボボビチャビチャビチャブビビビビ!! ビチビチビチーーーーーッベチャベチャ!! ブビビィィィブシャーーーーッドボッブビビビビビブジュビィーーーーーーーーーッ!!
一杯に開いた肛門から飛沫と泡が噴き出す。痛むお腹をさすりながら必死に排泄を続け、腸内の汚水を絞り出そうとする。徐々に水便が流れ落ちる時間より気体の破裂音が響く時間が長くなり、ようやく排泄が終わりに近づいてきた。
「はぁっ…………うっ…………んぅぅぅ!!」
ブビビビビ!! ブピッ!! ………………ブジュブジュブジュ!!
ブーーーッブピブピブピッ…………!! ブジュルッビチッ…………!! ビチャブーーーブッブプププ…………ブピッ…………!!
ブジュ…………ビチッ…………ブビビッ………………!!
断続的な音、その持続時間が少しずつ短くなり、その周期は徐々に長くなっていく。
「はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………」
ポタッ…………ピチャッ…………
ついには破裂音が止み、お尻から滴り落ちる汚水の雫の音のみが響くようになる。
ようやく、ゆかりは体の中の汚水を吐き出し切ることができたのだった。
「はぁっ…………」
(…………早くしなきゃ…………)
ついに便意との戦いを終えたゆかり。しかし、彼女にまだ安息の時間は訪れない。汚してしまったおしりと下着と床と壁を片付ける必要がある。
お尻の穴は長時間に渡る水便排泄で汚れに汚れていたが、あまりにも下痢がひどすぎて水便の粘性が失われていたため、ほとんどの汚れは流れ落ちている。ただ、おしりの汚れは肛門だけでは済まず、尻たぶ全体に飛び散っている細かい飛沫もある。目視できないので拭き残しが生じやすく、パンツのあらぬ場所に茶色い汚れが付着してしまうことも少なくない。
パンツは、水便の液体そのものはもはや見えず、下着に吸収されてしまっていた。肛門の当たっていた場所から連続的に伸びる茶色い線。股の部分の幅一杯に広がった黄土色の染み。おしりの茶色い線の周りに飛び散った茶色い点とさらにその周囲の染み。本人の主観ではぎりぎり便所に間に合ったつもりなのだが、この汚れを客観的に見れば「漏らした」としか言えないだろう。ゆかり自身も、この下着をこのまま履き直す気にはなれなかった。
水便の射線からパンツを逃がした後、その先にあったのは個室の壁であった。ゆかりの膝と同じ高さに叩きつけられた水便は壁一面に飛び散り、そのままゆかりの体がしゃがみ込むのに合わせて勢いを強めながら着弾点を下へと動かしていった。壁と床の境目を越え、すでに水便が池を作り始めていた床に叩きつけられた汚水は一層汚れを広げ、個室の隅にまで広がり、さらに手前の部分をも汚していった。一番汚れが目立つのは便器の最後部で、弧を描く形状が水便を様々な方向に反射し、汚れを飛び散らせていた。さらに、白い陶器は自身についた汚れも目立たせてしまう。水便が直撃した後方だけでなく、側面、あるいは前面の内側までもおつりとして帰ってきた飛沫が汚していた。
汚れはゆかりの体にも及んでいた。上履きの後ろ側は白い面に多数の茶色い点が染みつき、靴底の赤いゴム地にもよく見るといくつもの茶色が浮かんでいる。靴下にもいくつもの小さな茶色い飛沫が飛び、綿生地に染み込んで周囲に薄い茶色を浮かべている。おしりにも内側から外側まで、便器の底から跳ね返ってきた汚水の雫が飛び散っている。そして、おしりの中心は漏らした水便と肛門から便器に注ぎ込んだ水便で汚れきっている。
「…………………」
見るだけで途方に暮れてしまうようなひどい汚れ。小学生の女の子なら、自分ではどうにもできず大人に助けを求めてもおかしくない状況であった。しかし、ゆかりは現実を直視したまま、こくっとわずかに首を動かして、ポケットのちり紙を手に取った。
「………………つ…………っ……………うぅぅ…………」
四つ折りにした紙でお尻を拭き始めたゆかりは、敏感な器官を刺激してしまい激痛に息を詰まらせた。ちり紙は質も悪く、柔らかいどころかゴワゴワと固く、また吸水性も良くない。そのため一度押し当てただけでは肛門にたっぷりと付いた水便を吸いきってくれず、まだ汚れていない部分を使って何度も肛門に押し当てなければならない。1回目は4枚重ねの紙を貫通して指先に汚水の湿り気が伝わるほどの汚れが紙に移り、2回目はぎりぎり4枚目が汚れるかどうかというところだった。3回目は指先に濡れた感覚はないが紙の内側はくっきりと茶色くなっていた。4回目も同じくらいの汚れがつく。できればおしりを拭くのは1枚で済ませたかったが、汚れきった紙を捨てて2枚目を取らざるを得なかった。
「……………………………んっ…………くっ…………」
今度は紙を肛門に当てず、広げたままおしり全体を先に拭いていく。まず右外側、次に左外側。通常なら汚れるはずがない場所でも、10箇所を超えるおつりの雫が紙に吸い込まれていった。さらに内側を拭くと、飛沫の汚れは30箇所以上にも及び、ちり紙の半分程度は茶色くなっていた。ゆかりは残りの部分を二つ折りにし、肛門に当てる。目を閉じて痛みに耐えながら、ちり紙を前後に動かす。再び激痛が体を貫くが、こうしないと汚れが拭ききれないことはわかっている。事実、拭いた紙には最初と同じくらいの汚れが付いていた。再度紙の汚れていない部分を使って押し当て、擦り付ける。まだ汚れが見える。もう一度。
「…………っ…………ふぅっっ…………」
ゆかりが目を開いたとき、指先が支える紙には汚れが見えなくなっていた。なんとかお尻を拭き終えることができたのだった。持つ場所がなくなった紙を手放し、便槽内に捨てる。
次にやることは、両足の間にかかっている汚れたパンツの処理。しかし、もはや拭いてどうにかなるものではないことは明らかであった。ゆかりは、汚れが脚や靴下につかないよう慎重にパンツを下ろし、便器の横に置いた。普通の女の子ならここまで汚したら捨ててしまってもおかしくないが、ゆかりにとってはまだ汚れとしては軽微な部類に入る。この程度でパンツを捨ててしまっていたら、数日もしないうちに彼女のパンツは一枚残らずなくなってしまうだろう。なんとか再利用できるよう、水道で洗って持ち帰り、また履けるようにしないといけない。
何とか二次被害を避けつつパンツを脱いだゆかりだったが、靴下と上履きも無数の飛沫で汚されていた。新しい紙を取って靴下の汚れを拭くが、すでに茶色が布地に染み込んでいて紙ではどうにもならなかった。上履きはさらに汚れがひどく、特に便器の最後部で大量の汚水が跳ね返ってきていたが、幸いにも生地はビニール製で飛沫は吸収されずに水玉となって残っていた。それらはちり紙でさっと拭くだけで、白い色を取り戻した。
やっと体と衣服をきれいにできたゆかりは、汚してしまった個室の掃除に取り掛かる。
「……………………うぅ…………」
壁の高い位置の汚れを拭き取った時、ゆかりの両目に涙が滲んだ。どうしてこんなところまで汚してしまったのだろう。もう少しだけ我慢できていればこんなことにならなかったのに。授業中に便所に行ってしまえばこんなことにならなかった……かもしれないのに。悔やみながらもゆかりは手を動かした。木目に染み込んでしまって拭き取れない水分は残るが、紙を2枚使って壁の明らかな茶色い箇所は拭き取ることができた。
2時間目に低学年用の個室に駆け込んだ時は、お尻を拭くのに紙をたくさん使ってしまい、床と壁を拭く紙が足りなくなってしまった結果、床と壁に飛び散った飛沫を拭き残してしまった。今も、ゆかりのポケットには紙は残されていない。
「………………あきちゃん、ありがとう…………」
ゆかりはそっと個室の扉を開け、外に置いてあった紙を3枚手に取った。明子が譲ってくれたものだった。これだけあれば床を拭ききることができる。1枚目で汚れが酷い床と壁の境目を念入りに拭き、2枚目で床の汚水が残っている部分を、便器に流し落とすように拭く。3枚目で、細かい飛沫の数々を拭き取って、最後に便器の後方と側面を白い色に戻す。
(あとは……パンツを洗えば………)
ゆかりは、汚れたパンツを手にとって立ち上がった。スカートに包まれた下半身を覆うべき下着は彼女の手の中にあり、股の部分に冷たい風を感じる。彼女は小走りに手洗い場に向かい、蛇口を捻った。
冷たい水が手を濡らし、パンツに付いた茶色い汚れを流し落としていく。だが、木綿の繊維に染み込んだ黄土色の染みは消えてくれない。ゆかりは手が痛むほど強くパンツの生地同士を擦り付け、少しでも汚れを落とそうとする。
「……………………ふぅ……………」
2分ほど経ち、手の感覚が薄れてきたゆかりは水を止めた。苦労の割に、染み込んだ汚れはわずかに薄くなったのみで、ほとんど落ちていない。洗剤を使わずにできるのはここまでのようだった。
パンツを二つ折りにして両端を持ちきゅっと絞る。あとは教室に戻って、ランドセルの中のビニール袋に入れ、替えのパンツに履き替えればよい。
「早くしなきゃ………………っ?」
ギュル…………ゴロギュルゴロロロ………………グギュルルッ!
ゆかりが便所の外へ歩き出そうとした瞬間、一瞬の違和感とともに悲痛な音がゆかりのお腹から響いた。
(な、なんで……………あんなにしたのに…………また…………!?)
ギュルルルルゴロロロロロロゴログルルーーーーーッ!!
ギュルルルルルルピィーッ!! ゴロゴロギュルルルギュルグルルルルルッ!
次の瞬間にはゆかりは強烈な腹痛と便意に襲われていた。濡れたままの手でお腹を押さえ、次の瞬間には右手をおしりに回す。しゃがんで排泄を続けて落ち着いていたお腹が、立ってパンツを手洗いする体勢を取ったためにまた下って便意を再発させたのだった。
(ど、どうしよう…………もう、紙が…………で、でも…………)
グウーーーーーーーーーーッギュルルルルルルルグルルルルルルグピィーッ!
ゴロロロロピィィィィィグギュルーーッ!! ゴロッゴロゴロゴロゴロロロローーーッ!!
ゆかりは先ほど紙を使い切ってしまっており、今からまた下痢便を吐き出したらおしりを拭く紙がなくなってしまう。教室に戻ればまだ紙はあるが、急激に便意が高まっている上に先程の排泄で肛門の締め付けが効かなくなっていて、教室まで往復する間我慢できるとは思えなかった。そうして迷っている間にも便意が強くなっていく。
ブチュブピッ!
「も、もうだめっ!!」
肛門で液体混じりのガスが弾けた瞬間、ゆかりはたまらずに元いた個室に駆け込んだ。
慌ただしく便器をまたぎ、スカートをめくりあげながら腰を落とす。パンツに包まれていない股間が便器と同じくらいの高さまで降下してくる。
「んーーーーーーっ!!」
ビュルルルルルルルルビシャァァァァァァブビューーーーーーッ!!
ビシャァァァァァァァァビィィジャーーーーーーッビュルルルルルッドボドボドボッ!!
ビチャブシャァァジャーーーーーーーーーーーーーッ!! ブピッジャーーーーーービィィィィィィィィッドボボッ!!
ビシャビシャビシャジャアアアーーーーーーーッ!! ドボブパッビチャブシャーーーーーッ!! ビュッビュルルルルビチィーーーーーッドボッドボボボボボッ!!
ゆかりが声にならない悲鳴を上げた瞬間、肛門が先程までと同じ大きさに開き、同時に大量の水便が便槽の中へと迸った。便槽に浮かんでいたちり紙が水便に直撃されて沈み、その下にあった先程出したばかりの水便が跳ね上げられた。せっかくきれいにしたゆかりの肛門とおしりは、一瞬にして拭く前と同じ汚れに覆い尽くされてしまった。
「う、うぅ…………うぅっ…………」
ゆかりの目に滲んでいた涙がこぼれ、頬を濡らす。
授業中に限界まで我慢し、漏らしながら必死に被害を食い止めようとし、恥ずかしさと苦痛に苛まれながら下痢便を出し切り、自らの手で粗相の跡を拭い終えたゆかりに待っていたのは、安らぎではなく新たな苦しみだった。ゆかりは、生まれてから今まで何度も何度も思っていた言葉をまた頭に浮かべていた。
(どうして、わたしはこんなにお腹が弱いの……?)
シャーーーーーッビュブシャァァァァァァァァァビュルルルルルルルルルッ!!
ドボボボボブシャッジャーーーーーーーーーージャアアアアアアッビチビチビチビチ!!
その問いに答えはなく、ゆかりのお腹はただ内容物を水状のまま吐き出そうとする。肛門にかかる強烈な圧力に、ゆかりは屈し続けるしかなかった。
「ぐっ…………うぅぅ…………んっ…………」
ゴロッギュルギュルグピィーーッ! ギュルルルルッ!
ブシャッブシャァァァァァァァァァァァァァジャーーーーーーーーーーーーーーーッドボボボッ!! ビュルッブシャーッブシャーーーーーッ!!
ブシャビュビィィィィィィィィィッ!! ドボボボビュルブシャァァビチィーッ! ブシャブシャビシャジャーーッ!!
ブジュッ…………ブビビビビビビビィッ!!
水状便の排泄が続き、破裂音とともに途切れる。先程はガスが混ざる余地なく大量の水便が噴射され続けていたが、今回はさすがに腸内に残っている液体はそこまで多くないようだった。
「くぅ…………んぅぅぅぅっ…………!!」
ギュルルギュルグルル…………ゴロロロロッ…………!!
ビチィーーーーーーーーッ!! ドボドボドボブシャッビュルビシャーーーーーーッ! ビュルブシャーッビチビチビチィーッ!
ブビィッ!! ブーーーーーッ!! …………ブジュブジュブジュッ!!
ビシャアアアアアアアッ!! ビチィーーーーーーーッブビューーーーーーッドボドボブシャーーーーーーーーーーッ!!
ブビビビビッ!! …………ビチッ!! …………ブジュブピッ!! ブーーーッ!!
ブジュ………………ブプ…………ブビッ…………………
ゆかりが何度もお腹に力を入れ、腸内の汚水を絞り出す。激しい破裂音が響き、しかしそれと引き換えにお腹の不快感は徐々に薄らいでいき、ゆかりの腸は短時間で平穏を取り戻した。
「あ…………あぁぁ…………どう……しよう………………」
肛門からぽたぽたと流れ落ちる水便の雫。
お尻に飛び散ったおつりの水滴。
それらを拭うための紙はもう、ゆかりの手にはない。
(…………このまま教室まで戻る……? で、でも、おしりが汚れたままになっちゃう……そのまま座ったらスカートまで…………)
ゆかりは頭の中で善後策を考えていくが、有効な手立てがないことだけがはっきりしていく。
(さっき洗ったパンツでなら拭けるかも…………あれ? ない…………どうしよう、手洗い場に落としてきちゃった…………?)
せっかく思いついた名案も次々と実現不可能の烙印を押されていく。
(拭かないと出られないし…………どうしよう……………もう、手で拭くしか…………? でもそれじゃ、きれいになるどころかよけいに汚れがひろがっちゃう………)
どうしようもない、という結論だけがゆかりの脳裏を埋め尽くし、焦燥と悲痛がゆかりの胸を覆っていく。ゆかりの両手が、助けを求めるかのように胸元のリボンをぎゅっと握りしめる。
「う、うぅ…………うぇぇぇっ…………」
大量の涙が眼尻に潤み、流れ落ちようとしたその瞬間だった。
「ゆかりちゃん……!!」
「…………!! えっ…………!!」
便所の暗い雰囲気に似つかわしくない明るい声がひびき、ゆかりは涙を振り落として顔を上げた。
「あきちゃん!?」
「ゆかりちゃん大丈夫? 紙と着替え、持ってきたよ!」
「あ……………あきちゃん…………あきちゃん……っ……!!」
明子が授業を抜け出して紙と着替えを持ってきてくれたのだった。天恵にも等しい親友の厚意。ゆかりは礼を言おうとしたが、あふれ出る涙のせいで言葉が続かなかった。
「ゆ、ゆかりちゃん、落ち着いて…………」
「あきちゃん………あ、ありがとう………………うぅぅ…………」
ゆかりの眼尻に溜まっていた悲しい涙は、嬉し涙に押し流されていった。
(あきちゃん………………助けてくれて、ありがとう…………)
ゆかりが握りしめていたリボンは、明子からのプレゼントだった。
およそ1ヶ月前、10歳の誕生日のプレゼントとして明子が手渡してくれた、赤と黄色のチェック模様のリボン。ゆかりは、それまで服装でおしゃれをすることがなかった。お漏らしして汚してしまったらと思うと可愛らしい服を着る気持ちにはなれず、いつも同じような地味な格好で過ごしていた。贈られたリボンをつけて、明子に「かわいい!」と言われた時、ゆかりは生まれて初めて「嬉しい恥ずかしさ」を感じたのだった。その瞬間から、このリボンはゆかりの宝物になった。
言葉に出せなかった助けを求める思いが、このリボンを通して明子に届いたのかもしれない、とゆかりは感じていた。
明子から差し入れてもらった紙を使って、ゆかりはおしりを拭いた。肛門の痛みは先程と変わらなかったが、明子の優しさに包まれてゆかりの心は安らいでいた。おしりを拭き終わって初めて、ゆかりは扉を閉めていなかったことに気づいた。
パンツも、ゆかりのランドセルに入っていたものを持ってきてくれていた。理科の実験で移動教室だったので、お便所に行くと行って抜け出してきて、誰にも見られずに持ってきてくれたとのことであった。真っ白、というにはうっすらと茶色の染みが残っているが、それでもきちんと洗濯したきれいなパンツである。ゆかりの下半身を爽やかなぬくもりが包んだ。
さらに、明子はビニール袋まで持ってきてくれていた。ゆかりがおしりを拭いている間に、洗い場に落としてしまっていた黄ばみとにおいの残るパンツを明子は拾い上げ、ビニール袋に入れて口を縛り、ゆかりに渡してくれた。
手洗い場で並んで手を洗いながら、二人は言葉を交わした。
「ゆかりちゃん、もう大丈夫?」
「……うん。……ごめんなさい、わたしのせいで、授業抜けさせちゃって」
ゆかりがこくんと首を縦に動かしてから言葉を続けた。
「気にしないでいいよ。ほら、ゆかりちゃん理科の実験楽しみにしてたでしょ。今日はアルコールランプ使うんだって! さっき準備してたところだから、今なら間に合うよ」
「……う、うんっ…………ありがとう……!!」
明子の楽しそうな声に、ゆかりもつられて笑顔を浮かべた。
「あはは……良かった、ゆかりちゃん元気になって。さ、行こう!!」
「うんっ……!!」
明子がゆかりの手を取り、駆け出していく。一瞬遅れて、ゆかりも走り出す。二人の短い黒髪が後ろに流れ、さらさらと風に揺れる。
「こらーっ、廊下は走っちゃだめでしょ!! 授業中よ!!」
1年生の担任の声が響き、教室の中からくすくすと笑い声が聞こえた。
「はーい、ごめんなさーい!」
「ご、ごめんなさいっ……!!」
悪びれない声と申し訳なさそうな声。
それでも二人は足を止めず、廊下を駆け抜けていった。
その先には、騒がしくも楽しい、ありふれていてもかけがえのない、彼女たちの日常があった。
1969年、10月――。